百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

文字の大きさ
40 / 182
第一章 アストラニア王国編

038 新居と罰

しおりを挟む
 ルビナさんがテーブルに腰を下ろすと、その対面にイレーヌが座った。リディアは二人に紅茶を出した後、ルビナさんの斜め後ろに立っていた。

 ――これ、尋問じゃね? と思ったが、誰も口を開かず、しばらく無言の時間が続いた。
 息苦しさが募ったころ、イレーヌが口を開く。

「それで? ルビナはどこに住むつもりなの?」

「あの……王都に着いたばかりで、まだ何も決まっていません……」

「あ、そう」

 質問しておいてその反応は冷たいぞ、イレーヌ。これって俺のせいなんだろうか。

「ご主人様、少しお話がございます」

 リディアはルビナさんの斜め後ろに立ったまま、距離を置いたソファにいる俺に話しかけた。

「あ、ああ。いいよ。何かな?」

 思わず構えるように返事をする。何を言われるのだろう。

「〈迷宮の薔薇〉の三人が、〈百花繚乱〉に合流したいと申しておりまして」

 ん? そんな話、初耳だ。しかも、今その話をするのか。

 よく聞くと、〈迷宮の薔薇〉の三人は今回のダンジョンで自分たちの限界を痛感したらしい。現状のままではこれ以上、Aランクに届かないと考え、〈百花繚乱〉への吸収合併を打診してきたというのだ。だが、俺たちに寄生してAランクになるだけでは意味がないと思うのだが。

「そこで、ご主人様のお返事次第ですぐ動けるように、全員で暮らせる屋敷を見つけておきました。〈迷宮の薔薇〉を吸収合併するかは別として、その屋敷ならルビナさんも一緒に住めます」

 確かに今借りている家は3LDKで、単純に部屋を割り当てたらルビナさんの部屋がない。
 リディアが商業ギルドで聞いたところ、パーティで屋敷を借りることはよくあることらしい。一パーティの最大人数は八名で、それに対応する十人前後が住める冒険者向けの屋敷が居住区に多く存在するという。

「わかった。じゃあ、早速見に行こうか。いいかな?」

「承知しました、ご主人様」

 その気まずい空気から逃げ出すように、俺は答えた。

 ◇

「え!? これって貴族屋敷じゃないの?」

「いえ、こちらは冒険者の方々が住まわれる屋敷でございます」

 商業ギルドの職員に案内された屋敷は、少なくとも俺から見ると貴族の屋敷と見紛うほど立派だった。だが他の面々の反応は冷静だ。

「アンタ、見れば分かるでしょ。貴族の屋敷はもっと絢爛豪華よ」
「ご主人様、さすがにこのような屋敷に貴族は住みません……」
「あたしでも分かるわよ、アレス……」

 上層居住区にある屋敷と比べればかなり劣るらしいが、それでも庭は広く、剣術の素振りや立ち合い稽古が十分できる。馬車が横付けでき、馬用の厩舎まである。
 中に入ると二階建てで部屋数は十一。主寝室は広く、あの十人は寝れそうなベッドすら置けそうだ。一階には応接室らしい一間もある。家具は亜空間に入っているはずだが、なければ買えばいい。
 リビングは広く、キッチンとさらに風呂まである。魔石をセットすればお湯が出る、異世界あるあるの便利な風呂だ。これはかなり良い。

「気に入りました。ここを購入します」

 即決で買ってしまった。ちなみに屋敷は借家ではなく中古物件の購入になる。不要になれば商業ギルドに買い取ってもらうことになるだろう。

 諸手続きを済ませ、職員が帰ったら早速屋敷を空間魔法で囲った。

「〈修復(空間)〉!」

 スキル名をわざわざ口に出す必要はないが、そんな気分だった。『石喰いの巣』で採った石材や木材は山ほどある。屋敷の素材が違うなら、元素まで還元してから利用すればいい。素材に困ることはないだろう。

「ご、ご主人様! 屋敷が新築になりました!」

 ふっふっふ。驚いたか、俺の本気。

「アンタ、たまにはやるじゃない」

 イレーヌはもう少し俺を褒めてもいいと思うぞ。ちなみにお前は俺の奴隷な。

 そこからは前の家からの引っ越し。家の中にあるものを全部亜空間に収納して持ってくるだけだ。

「じゃあ、好きな部屋を選んでいいぞ。俺は二階のいちばん広い部屋な」

 二階奥の広い部屋は手前が執務室、奥が寝室になっていた。とりあえず奥の寝室に、王城からもらってきた十人は寝られそうなベッドを置く。

「でかっ! アンタ、そんなベッド持ってたの?」
「ご主人様、これはかなりいいベッドです」
「あんた、これかなり高級よ?」

「家具は良いものを持っているから、部屋選んでくれたら家具一式置くよ」

 執務室には三人掛けソファを二つ、ローテーブル、本棚、執務机を置くと、屋敷の主人みたいだ。主人なんだけど。しかし、執務らしきことをする予定は今のところない。

 二階の一番奥を俺が使い、その部屋に近い順にイレーヌ、リディア、ルビナさんの部屋となった。各部屋にシングルベッド、タンス、机と椅子を置く。リディアの鎧や盾、武器を置くところが必要かなと思ったが、「アイテムボックスがあるので大丈夫です」と言われた。そういやそうだな。
 イレーヌやリディアは服やドレスなど自分の荷物は自分のアイテムボックスにしまっているので、後の荷物整理はお任せ。ルビナさんはグラナフェルムからの荷物を俺が預かっているので、必要なものだけ出してあげる。荷物が多くて片付けは大変だろう。ルビナさんの部屋に整理棚を追加したら、イレーヌもリディアも欲しがった。二人はアイテムボックスがあるからあまり必要なさそうだが、言われたとおりに出しておいた。
 部屋のカーテンやカーペットも〈修復(空間)〉で新品同様にしてある。替えたいなら自由にしていいと伝えた。

「あとはリビングと応接室か」

 三人に自室の整理を任せ、俺は一階のリビングへ向かった。十人が住む前提のリビングは広く、キッチン近くに十人掛けのテーブルと椅子を置き、少し離してソファとローテーブルを配置してもまだ余裕がある。応接室にもローテーブルとソファを置いたが、やはり少し殺風景だ。

 キッチンに調理道具を出していると、イレーヌとリディアが一階へ下りてきた。

「やっぱり殺風景ね。屋敷を見回って足りないものを買いに行っていいかしら?」

「そうだね。イレーヌとリディアに任せるよ」

「お任せください、ご主人様」

 イレーヌはデザインセンスがある。リディアは元貴族の娘だ。二人が屋敷を見て回っている間、俺は外の厩舎や庭、道路に面した石壁の修復をして回った。屋敷の裏手には小さな畑や薬草園まであり、今のところ使わないが綺麗に整えておく。

 屋敷に戻ると、リビングではイレーヌとリディア、それにルビナさんが紅茶を飲みながら談笑していた。あれ、いつの間にそんなに仲良くなったのか。ぎくしゃくしているよりずっといいが。

「あ、アレス。地下室もあったわよ。倉庫みたいな場所。そこも修復しておいて」

 なんで奴隷のイレーヌが命令口調なのか分からないが、もはやそれが日常になっていて、今さら突っ込む気にもならない。

「ご主人様。これから私とイレーヌとルビナさんの三人で、足りないものを買いに行きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ああ、構わないよ。気を付けて行ってきて」

 ふとルビナさんを見ると、自然な笑顔でイレーヌと話している。ああ、仲良くなれたのかな。

 三人を見送った後、俺は地下室を含め屋敷の基礎部分を完全に修復した。建物の地下まで修復が必要だったことに気付けたのは収穫だった。
 時間が余ったので、三人が帰るまでに夕飯とアイテムボックスに入れておく料理の作り置きを作って待つことにした。

 しばらくして三人が戻ってきた。

「ただいま、アレス。いろいろ買ってきたわよ」

 イレーヌがリビングに置いていた十人掛けのテーブルと椅子をどかせと言うので亜空間にしまうと、

「でかっ! なんだこのテーブル! 二十人用くらいじゃないの?」

「こういうのは大きい方が便利よ。大人数で会議する時にも使えるでしょ」

 いや、まだ〈迷宮の薔薇〉の件は保留中で、〈百花繚乱〉は三名パーティなんだけど……。

「あと椅子と、魔道具ランプも買ってきたわ。部屋用と廊下用と卓上用と」

 確かにランプがなければ夜は真っ暗だ。全部屋分買ってきたのか。後で設置しよう。
 他にもローテーブルと、それを囲む三人掛けソファを四つ。今は四人しかいないのに、増員前提で家具を買ってきているな。

「ご主人様。私は大陸地図を買ってきました」

 リディアが取り出したのは壁に貼る大きな大陸地図。これを一枚貼るだけで冒険者の屋敷らしくなる。
 他にも壁飾りをいくつか買ってきたようだ。

「ルビナさんは何か買ってきたの?」

「あたしはこれを」

 取り出したのは壁掛け式の武器ラックだった。おお、これも冒険者屋敷らしい雰囲気になる。

「まだ飾る武器がないんだけどね。飾れるような武器を作れるよう頑張るよ。ダンジョンで拾った戦利品を飾ってもいいしね」

 いいね、わくわくしてきた。
 三人は買ってきた物をこれから設置して回るらしい。だがその前に、イレーヌが言った。

「あ、それとねアレス。後日、リビングにバーカウンターを作る工事が入るからよろしくね」

「はあ!? 誰が使うんだよそれ!」

「みんなでカクテルとか飲んだら楽しいでしょ」

「へ? 誰かカクテル作れるの?」

 当然、イレーヌを見るが作れる気配はない。リディアとルビナさんを見ると、二人とも目線を逸らす。え、もしかして三人の間ですでに話が済んでいるのか。

「そう言うと思って買ってきたわよ。はい、これ」

 渡されたのは『おいしいカクテルの作り方』という本だった。

「カクテル用のお酒も何本か買ってきたから、練習するのよ」

 マジか。俺が作るのか。そういや〈氷魔法〉で氷を作れるのは俺だけだな。
 カクテル作りは〈料理〉に入りますか? 入るならスキルレベル9が効くんだが――いや、そうじゃなくて! なんで命令……でもカクテル作りは興味あったりする。わかったよ。俺が作るよ。

 三人が買ってきたものを設置し、一息ついたところで夕飯を振る舞う。
 その後、「何かカクテル作れ」というので、本を見ながらカクテルをいくつか作って振る舞うと、なかなか好評だった。ほどよく酔った三人は風呂はいいと言うので、〈洗浄クリーン〉で全員綺麗にしてやった。


 そして――夜。

 イレーヌとリディアが揃って俺のベッドにやってきて、

「ご主人様。“浮気”の罰として、これから一週間、私たち二人に〈絶倫[8]〉を与えてください」

 全然許されていなかった俺。その夜のリディアはそれはそれは激しく、イレーヌが少しひいていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした

たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。 だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。 自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。 勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

処理中です...