百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

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第二章 リーファリアへの道編

053 森の夜と二人の来訪者

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 ――アストラニア王国国境の街リュオルド手前の森 夜

 アストラニア王国の王都アルトヴィアを出て、五日が経った。
 俺は馬車を使わず、自分の足で走ってここまで来た。王都から国境の街リュオルドまでは、馬車でも最短十日かかる道のりだ。それを半分の時間で踏破したのだから、我ながら上出来だろう。明日の昼には街に着けそうだ。

 本当は今日中に着くつもりだったが、思ったより距離があった。買った地図がやや大雑把だったせいだろう。この世界の地図は元の世界の地図のように正確なわけじゃない。暗くなり始めたころ、俺は街道を少し外れた森の中の小さな空き地を見つけ、そこで野営することにした。

 夜が静かに降りて、木々の間を抜ける月明かりが地面を淡く照らしている。
 焚き火がパチ、と音を立ててはぜ、火の粉が小さく舞った。湿った土と木の香りが混ざり、遠くでは小動物の足音がかすかに響く。
 そんな夜気の中、俺はテントの中で薄い布をかけて、マットの上で横になっていた。

 これまで誰かと共に寝ることが多かったせいで、いまだに一人きりの夜には少し落ち着かない。寝返りをうちながら目を閉じていると――〈気配察知〉が二つのヒューマンの反応を捉えた。

 (こんな夜更けに歩いて旅を? それとも野営目的か?)

 様子を見ることにして、寝たふりを続ける。だが、二人はまっすぐ俺のテントへと向かってきた。

 (……やれやれ。盗賊か?)

 面倒な予感を抱いた次の瞬間、テントの隙間から小さな声が響いた。

「闇の女神ネクシアの権能を介して精霊に命ず。対象に抗えぬ睡魔と安眠への渇望を与え、深い眠りへ引きずり込め――第一階梯闇魔法〈熟睡ディープスリープ〉」

 魔法、かけてきたな。
 だが俺は〈全状態異常無効〉持ちだ。まったく効かない。相手がさほど強くないことを察知した俺は、このあとどうするのか様子を見てみようと、そのまま寝たふりを続けることにした。

「へぇ、なかなかいい男じゃない。荷物が少ないし……アイテムボックス持ちかもね。ふふ、いい奴隷になりそうだ」

 気づかれないように、そっとまぶたをわずかに開けた。
 フードを深くかぶった女が一人。二十代後半くらいか。顔立ちは暗くてはっきり見えないが、整っていそうな輪郭。だが、その口元にはどこか邪悪な笑みが浮かんでいた。

 そっと〈鑑定〉を使う。


 ベリンダ ヒューマン 二十八歳
 奴隷商人

 所持スキル:
  生活魔法[3]
  闇魔法[3]
  隷属魔法[5]
  鑑定[3] 


 (奴隷商人、か……)

 そんな人物がこんな森の中にいるとは。ふと、外からもうひとりの声が聞こえた。声からするとこちらも女性のようだ。

「ベリンダ様。〈隷属魔法〉って、相手が拒めば失敗するんじゃ……?」

 最初の〈隷属魔法〉は強制隷属魔法陣の上でないと、相手が拒めば失敗すると俺も聞いたことがある。

「ああ、普通はね。ちょっとした裏技があるのさ。対象が性的に達したあとすぐにかければ成功するんだよ」

 な!? そんな方法があったのか。え? じゃあ、これから行われるのは……。

「さて、こいつのモノを拝見してやろう。お、これはなかなか楽しめそうだぞ」

 俺の服を脱がすベリンダ。ああ、そういう流れね。それなら俺にもやりようがある。

「エリュシア! ちゃんと見張っとくんだよ! あとでアンタにも使わせてやるから、おとなしく待っときな!」

「アタシは遠慮しとくよ……」

「じゃ、早速いただくかね」

 ベリンダが始めたと同時に俺は魔法をかける。

「第六階梯空間魔法〈部分収納パーシャルストレージ〉」

「な、なにっ!? 動けない!?」

 テントの中にいたベリンダと、外で見張っていたもう一人――エリュシアと呼ばれた女を、〈部分収納パーシャルストレージ〉で拘束する。
 念のため、〈空間規制スペースレギュレイション〉で一帯を包み、外に音が漏れないようにした。

「てめえ、起きて――」

「第八階梯性魔法〈強制終了フォースドターミネーション〉」

 会話は後回しだ。
 〈スキル・称号奪取(性)〉でベリンダのスキルを奪う。〈隷属魔法〉だけ俺は持っていなかったので、〈スキル複製(性)〉を繰り返してスキルレベルを上げ、俺の〈隷属魔法〉をレベル9にしてから奪う。

 計二十九回。ベリンダのすべてのスキルを奪取完了。

 〈部分収納パーシャルストレージ〉で拘束したまま、痙攣して動けなくなったベリンダを放置して、次はテントの外にいるエリュシアと呼ばれた女性を確認する。

 ――月光の下、褐色の肌が静かに輝く美人がいた。
 長く白い髪が風に揺れ、そのたびに光を受けてやわらかくきらめく。しなやかで力強い体つきは、戦い慣れた者のものだとすぐにわかる。胸元だけを覆う黒いトップスに、動きやすそうな黒のズボン。両腕には金属の手甲が光り、彼女の強さと気高さを静かに物語っていた。首元には黒いチョーカー。奴隷の印だろう。

「あ、アンタ、ベリンダ様に何をした!?」

「まあ、すぐにわかるさ。大人しくしていれば、乱暴はしない」

「……くっ」

 今は八月、真夏の夜だ。独自魔法である第二階梯生活魔法〈虫障壁バグシールド〉は、テントにしかかけていないので、エリュシアも〈部分収納パーシャルストレージ〉で拘束したままテントの中へ運ぶ。
 テントの中を第三階梯生活魔法〈光明ライト〉で明るくし、エリュシアにも〈鑑定〉を使う。


 エリュシア 人造魔人 百二十歳
 従魔

 所持スキル:
  生活魔法[5]
  体術[5]
  身体強化[5]
  気配察知[5] 
  捕食変生


「……人造魔人? しかも従魔、だと?」

 人を奴隷にするのではなく、魔物のように従わせる契約――そんなことがあるのか。
 ベリンダが拘束の中でくぐもった声を出す。

「そいつは“人”じゃないのさ。だから、従魔契約で縛れる」

「解除は?」

「無理だね。従魔は主人が死ねば動けなくなる。運が良ければ、奴隷商館で引き取られて別の主人に付け替えられるだけさ」

 俺は奪ったばかりの〈隷属魔法〉を試す。

「第七階梯隷属魔法〈上書契約リバインド〉」

 通常の奴隷契約なら、これで解除できる。が、エリュシアの従魔契約は主人を変えられるだけだった。仕組みが違うらしい。

 どうしたものかと考えながら、ベリンダを見る。〈光明ライト〉で明るくしたテントの中で見るベリンダ、どこかで見た気がする。どこだっけ……思い出した! 昨日寄った街の冒険者ギルドに貼られていた手配書だ。この辺一帯で強盗を働いている指名手配犯。たしか生死問わずだったか。

 その時、エリュシアが慌てたように声を上げた。

「頼む、ベリンダ様を殺さないでくれ! アタシは……この人に、助けられたんだ!」

「助けられた? 従魔にされているのに?」

 エリュシアはゆっくりと語った。
 元々ヒューマンだったが“魔女化”の影響で人の姿を保てなくなって、森へ逃げ込んだこと。
 そこで、それを治すために“人造魔人”へと改造されたこと。
 しかし、人として生きる場所を失い、百年以上、森の奥でひとり隠れ住んでいたこと。
 ベリンダに見つかり、騙される形で従魔にされたが――孤独から救われたと感じたこと。

「……なるほどな」

 “魔女化”を抑えるために人造魔人化した。
 しかもその手を施したのが――。

「誰に、治してもらった?」

「これ、言っても誰も信じないんだけどさ……《悲しみの魔女》だよ」

「……やっぱり、あの人か」

 《悲しみの魔女》。
 俺を作った存在でもある。あの人、あちこちで“魔女化”を治す人体実験をしているのか……。

「よし、決めた。ベリンダは明日、リュオルドで生きたまま衛兵に引き渡す。エリュシアはこれから俺の従魔だ。いいか?」

「わかった。従う」

 〈上書契約リバインド〉でエリュシアの主人を俺に書き換える。

「それと俺はエリュシアを人として扱いたい。そのために〈ステータス情報改竄〉というスキルを渡したいんだが……このスキルを渡すには性交する必要があるんだ」

「別にそんな嘘をつかなくても、命令すればいいだろ。アタシ、従魔なんだし」

 普通は信じないよな。まあ、それはいいや。

 エリュシアは変わったスキルを持っている。〈捕食変生〉だ。
 〈鑑定〉によると、これは食べた魔物の身体的特徴を魔力で顕現できるというスキルだ。

「そういや、エリュシアはどんな魔物を食べたことがあるんだ?」

 今まで食べたことあるのは、フォレストウルフ、ゴブリン、オークだという。今のところウルフの牙を生やせるだけで、他は何もできない。オークを食べたときに筋肉がついたくらいらしい。

 人造魔人は魔物扱い――もしかしたら、エリュシアは魔物専用のスキルが使えるんじゃないか。試しに一つ渡してみるか。

「よし、じゃあスキルを渡すぞ。こっちのマットに横になって」

 俺は、エリュシアの拘束を解き自由にする。

「いや、横になれと命令されたらするけどさ。それ以上を命令してないぞ」

「ああ、命令する気はない」

「命令しないと抵抗するぞ」

「嫌なら、抵抗してくれて構わない」

 俺は有無を言わさず、エリュシアの服を亜空間へ収納すると、〈バッチ処理〉よる永久脱毛から始める。これは痛みを快楽へ変換しているので、終わった頃には準備も完了している。一石二鳥のスキルだ。

「ああ、顔のところ脱毛するからちょっと動かないでね」

「いや、待て。命令しろ。これ以上したら抵抗するぞ」

「だから嫌なら抵抗していいって」

 そのあともずっと「命令しないなら抵抗するぞ」と言っていたエリュシアは、結局、抵抗しないままスキルを受け取るのだった。
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