百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

文字の大きさ
60 / 182
第二章 リーファリアへの道編

055 宿の夜と空の彼方

しおりを挟む
「エリュシア、野営と宿、どっちがいい?」

「アタシは……宿に泊まってみたい」

 エリュシアは宿に泊まったことがないという。
 ベリンダは常に野営だったらしい。――強盗で指名手配されていたなら、まあそうなるか。
 というわけで、一度リュオルドへ戻って宿をとることにした。

 宿の食事はまあまあだったが、エリュシアは感動したように目を輝かせながら食べていた。
 よほどまともな食事をしてこなかったのだろう。
 食事をとりながら、昨晩も少し聞いた“人造魔人になった経緯”を改めて尋ねた。

 ――エリュシアは『ゼフィランテス帝国』の田舎の村の農家に生まれた。
 生まれながらに莫大な魔力を持っていたが、あまりに田舎だったため、覚えられた魔法は〈生活魔法〉のみ。結局、その魔力を活かす場もなく育ったという。

 二十二歳のとき、突如“魔女化”を発症した。
 腕や足に黒い斑点が浮かび、それがただれて水泡を生み、やがて破れて膿を流す――焼けるような痛みに耐えながら、彼女は周囲の嫌悪の目にもさらされた。
 限界を迎えたエリュシアは森に入り、ひっそりと死のうとしていた。
 そのとき出会ったのが、《悲しみの魔女》だった。

 《悲しみの魔女》は言った。

 「魔女化を治療できるが、人ではなくなる。それでもいいか?」

 エリュシアは、このまま死ぬくらいならと頷いた。
 魔女は彼女の魂をケルベロスの魔石に移し、それを身体に埋め込んだ。
 結果、魔女化の症状は消えたが、存在としては“魔物”と分類されるようになってしまった。
 見た目はヒューマンと変わらないが、鑑定されれば一発でバレる。
 以来、百年以上、森に隠れて生きてきたらしい。

 〈捕食変生〉というスキルはケルベロス固有のものだと、《悲しみの魔女》が教えてくれたという。
 《悲しみの魔女》は俺以外でもこういった魔女化治療の実験を行っているようだ。

「なるほどな……」

「自分で話してても信じがたいけど、アレスは信じてくれるんだな」

「そりゃ、俺も《悲しみの魔女》に会ったことがあるからね」

「えっ!? 本当か? いつ?」

 ――しまった。《悲しみの魔女》に会った話、誰にもしていないんだった。

「あー、そのへんはまた今度話すよ。とりあえず俺が《悲しみの魔女》に会ったってことは、内緒で頼む」

 《悲しみの魔女》の話は“天空人”と繋がっている。
 エルフ以外にはまだ話せない内容だ。もう少し天空人について情報を集める必要があるな。


 夜。
 エリュシアは“俺の奴隷”扱いだから、当然部屋は同室だ。

「アレス……やっぱり恥ずかしいから、命令してくれると助かる」

 昨晩、“命令しろ”と言っていたのは、こういう意味か。

「命令はしない」

「くっ……アレス、アタシが恥ずかしがるのがそんなに楽しいのか!」

 赤くなって頬をふくらませるエリュシア。強そうなのに、やっぱり可愛い。

「実は昨晩のことは、エリュシア自身は半分も覚えてないんだ。記憶を戻してるから」

 昨晩渡したスキルは、半分以上レベル8スキルの複製だった。
 そのとき〈脳状態復元ブレインリストア〉をかけている。エリュシアが覚えているのはレベルのないスキルと〈超再生(魔)[5]〉を複製したときだけだ。

「え? どういうこと?」

「今回はスキルレベル上げも伴う。本番は今からだ。昨晩より……たぶん凄い」

 レベル7相当の快楽倍率1440倍――スキル一つをレベル8にするなら、それを7回繰り返す必要がある。予定ではレベル8にするスキルが五つある。1440倍だけで三十五回だ。

「昨晩でも相当だったぞ!? 嘘だろ……」

 困惑するエリュシアの服を亜空間に収納し、そのままベッドへと運ぶ。

「ま、待て! 心の準備が――」

「大丈夫。すぐに慣れるよ」


 ――翌朝。
 エリュシアに追加・強化したスキルは以下の通り。

  空間魔法[8] ※NEW
  爪[8] ※NEW
  飛翔(羽)[8] ※NEW
  羽根弾[8] ※NEW
  風刃(羽)[8] ※NEW
  超再生(魔)[8] ↑UP

 〈空間魔法〉は飛行中の空気抵抗を軽減するため、〈空架障壁スペースシールド〉と組み合わせて使えるようにした。また、〈空間転移テレポート〉も戦闘中に有効だ。今後、他の近接職メンバーにも渡しておこう。
 〈爪〉・〈飛翔(羽)〉・〈羽根弾〉・〈風刃(羽)〉は、アストラニア王国の王都にある王城の地下迷宮・地下五十階のボス“グリフォン”のスキルだ。レベル8まで上げているので、あのグリフォンより速く飛べるかもしれない。
 〈超再生(魔)〉はトロール由来のスキルだ。レベル8なら、ほとんどの傷は瞬時に回復するだろう。

 ちなみに最初にスキルを渡した日に、エリュシアには〈絶倫[8]〉も付与していたのだが……最後はへろへろだった。
 もしかしてイレーヌ並みに弱いのかもしれない。


 朝、起きてきたエリュシアは妙に平然を装っていた。
 顔は真っ赤だが、目は絶妙に俺と合わない。
 ――“なんてことなかった”風を装いたいらしい。やっぱり可愛い。

「そういえばアレス。他にも魔物のスキル、持ってないの?」

「あるにはあるけど……使いづらいのが多いんだよ」

 石化は素材を台無しにするし、炎は冒険者にはご法度。
 牙は噛みつかないといけないし、嘴の攻撃は見た目がアレだしな。
 今はグリフォンとトロールのスキルで十分だ。
 今後、新しいスキルを手に入れたら、その都度検討しよう。


 宿の“まあまあ”な朝食を済ませ、街の外へ出る。
 エリュシアに渡したスキルの実戦テストだ。

「アレス! もう試していい?」

「まだ街に近いって。もう少し我慢」

 エリュシアは飛びたくてうずうずしている。
 どうやら“飛べる”確信があるらしい。
 しばらく走って、街が見えなくなるほど離れた森に着いた。

「まだ? アレス!」

「焦るな。まずは〈爪〉からだ。この木を〈爪〉で攻撃してみて」

 エリュシアは無言で指先を鋭い鷲の爪に変化させ、目の前の木を軽く薙いで、すぐにこちらに振り返る。
 ――次の瞬間、背後で木が真っ二つに倒れた。

「おお、すごいな。普通の剣より切れるんじゃないか?」

「アタシはそーゆーのどーでもいいから、飛びたいの!」

「はいはい、順番にね」

 はやるエリュシアを宥めつつ、他のスキルも試す。
 〈羽根弾〉は白い羽をマシンガンのように射出し、しばらくすると羽根が再生した。
 〈風刃(羽)〉は羽ばたきと同時に無数の風の刃を放つ。範囲攻撃としても優秀だ。

「もういいだろ、アレス!」

 とうとうエリュシアがキレてきたので、飛行許可を出す。

「いいけど、最初はゆっくりな。高く上がりすぎると気圧差でやられるかもしれん」

「わかった。じゃ、行ってくる!」

 そう言って、エリュシアは背中に白い鷲の翼を展開し――
 次の瞬間、姿が掻き消えた。

「……速っ!?」

 空を見上げると、凄まじい速度で飛び回るエリュシアの姿が。
 “飛べた感動”より、“言ったそばから全力かよ”という呆れの方が勝つ。

『アレス! 目が開けてられない!』

 飛行中のエリュシアから〈念話〉が届く。
 あの速度なら、風圧で当然だ。

『もっとスピード落とせ。あと対策を教えるから、ゆっくり降りてこい。地面に激突とかすんなよ』

『わ、わかった!』

 ようやく減速して降りてきたエリュシアに、俺は〈空架障壁スペースシールド〉の使い方を教える。
 空気の流れを受け流すよう、流線形にシールドを展開する方法だ。
 実演して見せると、エリュシアもすぐにコツをつかみ、同じように再現した。

「もう一回、行ってくる!」

 再び空へ。今度はさっきよりもさらに速い。
 あれ、何キロ出ているんだ……? 車どころじゃないぞ。

『アレスー! これ、すごい気持ちいい! 飛んでみる?』

『どうやって? 俺、羽ないけど?』

『アタシが抱えるし!』

 俺は自分に〈重量軽減ウェイトリリーフ〉をかけ、軽くなってエリュシアに抱えられる。

「じゃ、飛ぶね!」

 次の瞬間、景色が弾けるように流れた。
 ――元の世界の新幹線よりも速い。もはや風景が流線形に歪んで見える。

「このまま王都まで飛べるか?」

「え? いいけど、アレス、国境を越えるんじゃなかったのか?」

「ああ、そのつもりだったが予定変更だ。このスピードで飛べるなら、一度王都に戻ろう」

 エリュシアを仲間に紹介し、冒険者ランクも上げておきたい。

 俺たちは念のため透明化をかけて、王都アルトヴィアへと飛んだ。
 俺が六日かけた旅路を、エリュシアは――わずか一時間で駆け抜けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした

たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。 だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。 自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。 勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...