百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

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第二章 リーファリアへの道編

057 鞘の名匠と波動の女王

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 翌朝。

 朝食前に起きていたルビナと少し話をした。
 彼女はすでに武器と防具の製作を始めており、店には早くもルビナ製の品が並び始めているという。女性の視点でデザインされた装備は特に人気が高く、店頭に並ぶそばから女性冒険者たちが買っていくらしい。

 中でも評判なのがルビナの作る鞘だ。仕上がりは超一級品で、《万紫千紅》のメンバー全員が彼女の鞘やケースを使っているほどだ。それを見た他の冒険者が「どこで買ったの?」と聞いてくることも多く、密かなブームになりつつあるという。

 ドルガンさんは革製品が苦手で扱っていないが、ルビナは革加工が得意分野だ。革鎧も手がけており、こちらも今や大人気らしい。
 俺は旅先で新しい素材を見つけたときに送れるよう、以前セレナに渡したのと同じ金の指輪とマジックバッグをルビナに渡した。ついでに、エリュシアの手甲をルビナ鋼で製作するよう依頼しておいた。

 さらに、柔らかい革が手に入ったら服も作れるかもしれないと言われたので、まだ寝ていたエリュシアを起こし、寝ぼけた彼女を俺が支えながらサイズを測ってもらった。


 朝食後、ルビナはブラスアーム鍛冶工房へ。
 一方、メディアは最近、透明化して城壁を観察し、それを土魔法で再現する練習をしているそうだ。どうやらセレナの所領を城壁で囲む計画らしい。頑張ってもらおう。

 残りの《万紫千紅》メンバーは予定通りダンジョンへ向かった。
 再開地点は地下三十一階。今回は戦力的に見て、明らかに過剰な戦力である。

 前衛:リディア、ジーナ、ティア、エリュシア
 中衛:イレーヌ
 後衛:セレナ、アレス

 今回は前衛が多いため、俺は後衛で魔法支援に回る。
 これまで僧侶として後衛にいたティアは、リディアを見習ってタンクへ転向した。ルビナが作ったトロール革とルビナ鋼のブリガンダインを着込み、ルビナ鋼のラージシールドと戦槌バトルメイスを構えた姿は、立派な前衛戦士そのものだった。

 ダンジョンを進むうちに、全員のスキルがSランク上位であることを改めて実感した。ミノタウロスなど相手にもならない。走り抜けながら倒していく勢いで、わずか二時間足らずでミノタウロスキングを撃破し、地下四十一階に到達した。

 ここからは罠の階層になるが、イレーヌの手際が異常に速い。〈罠探知〉で感知した瞬間に〈空間転移テレポート〉で罠の手前の位置へ移動し、〈罠解除〉を一瞬で終える。まるで無駄に転移しまくっているように見えるほどだった。おかげで立ち止まることなく進行できた。

 地下四十四階からはワイバーン、地下四十五階からはキマイラが出現する。どちらも飛行型の魔物だ。これまでは魔法やクロスボウで対処していたが、今回は違う。
 エリュシアが空を飛べるため、空中戦で直接叩き落としていくのだ。〈飛翔(羽)〉スキルのレベル8に達した彼女は、もはや飛行系魔物の天敵だった。グリフォンの爪による一撃で、空中の敵が次々と切り裂かれていく。

 おかげで戦闘は一気に楽になり、その日のうちに最下層へ到達した。

 ボス部屋の前でテーブルと紅茶を出して一息つく。
 セレナが呆れたように言った。

「空中の敵をエリュシアが全部片づけてくれるから、普段よりずっと速いペースね」

 今回は後衛の俺とセレナの出番はほとんどなかった。
 それでも最速で最下層に着いたのだから、どれだけエリュシアが凄いかがわかる。

「今のスキル構成だと、エリュシアはこのボスのグリフォンの上位互換みたいなもんだからな」

 俺の言葉にイレーヌが笑う。

「じゃあ、エリュシアはグリフォンも楽勝ってこと?」

「まあ、その可能性は高いね」

 ちなみに、途中で拾った〈猛撃の腕輪〉と〈迅疾じんしつの腕輪〉をエリュシアに装備させている。今の彼女はもはや手がつけられない。

「じゃ、行こうか」

 俺の合図とともに扉を開く。
 堂々と構えるグリフォンの姿が現れた。迷宮の支配者にふさわしい威容――その姿に、わずかな緊張が走る。

「ちょっと行ってくる」

 エリュシアが言った瞬間、姿が掻き消えた。

「は? 今の〈空間転移テレポート〉じゃないよね?」
「すごい……グリフォンは?」

 ジーナもセレナも動きを捉えられない。
 次の瞬間、遠くの空中でグリフォンの首が落ちた。エリュシアの動きに反応できたグリフォンが回避するために上空に飛んだが、それに合わせて軌道修正したエリュシアがグリフォンと交差するときに爪で首を斬った。他のメンバーはほとんど見えなかったようだ。取り巻きの魔物も同時に霧散する。

「一撃……」

 リディアが呆然と呟いた。

 戻ってきたエリュシアは胸を張る。

「どうよ、アレス。もうこのスピードでも余裕だぞ」

「すごいな。グリフォンをここまで速く倒したのは初めてだ」

 皆から称賛され、エリュシアは照れくさそうに顔を赤らめていた。

「じゃあ、報酬の称号とスキルを受け取りに行こう」

 もちろん今回貰えるのはエリュシアだけだ。これまでその人が望んでいるものや特徴に合ったものが与えられていると思う。そしてエリュシアが貰ったものは――

 称号 :《拳王》 攻撃力、耐久力、敏捷が上昇。状態異常を八割の確率で無効化する。
 スキル:〈波動魔法[1]〉

 〈波動魔法〉!? 波○拳とか撃てるのか? と最初は思ったが、これ、もしかしたらミスリルゴーレムを倒せる魔法なんじゃないか? とにかくスキルレベルを上げないとわからないが、倒せそうだとしても今は行けない。とても行きたいが行けない。

「じゃ、ギルドに報告しにいこうか」

 ◇

「あのう……冒険者登録して二日後にダンジョン踏破って、世界初なんですけど……」

 受付嬢のサフィラさんは、今日も呆れ顔だった。
 普通は一日で地下三十一階から最下層までなんて、到達できない。

 一昨日登録したばかりのエリュシアは、今やギルドの英雄扱いだ。恥ずかしがる彼女の姿がまた謙虚に見えるのか、女性冒険者たちの人気が凄まじい。気づけば囲まれて握手攻めに遭っていた。

『ちょっと! アレス! 助けろ!』

 困っている様子だったので、俺は群衆をかき分けて前に出る。

「ああ、祝ってくれるのはありがたいけど、このあと用事があるから失礼するよ」

 そう言ってエリュシアを抱き上げ、ギルドの外へ走り出た。

「ちょ、抱えるなって!」

「いや、このほうが早いだろ?」

 少し離れたところで彼女を降ろす。他のメンバーも全員ついてきていた。しかし、ふと見るとエリュシアは俯いたまま動かない。

「どうした、エリュシア」

「……あんなに多くの人に祝ってもらったの、百年前にもあったかなって……」

 王都の石畳に、エリュシアの瞳から落ちた涙が染みていく。

「そうよね、そうよねぇ……!」

 いつの間にかそばにいたイレーヌが、エリュシアに抱き着いて号泣していた。いや、エリュシアより泣いたらダメだろ。そういうのを見ると、当人は冷めちゃうんだって。ほら。

 当の本人は苦笑しながらイレーヌを宥め、俺たちは屋敷へ帰ることにした。

 ◇

 その夜はブラックミノタウロスのステーキでエリュシアのAランク昇格を祝った。
 俺は全員分のカクテルを作らされ、エリュシアは初めて飲むカクテルにすっかり夢中になっていた。

「アレスー、もう一杯!」

「いや、今日は〈波動魔法〉のスキル上げがあるんだぞ。これ以上飲んだら寝るって」

「いーじゃん、けちー。あと一杯くらい」

 仕方なく、カクテル風ジュースを渡した。たぶんもう気づかない。


 その夜、俺の部屋にいるのはエリュシアだけ。眠そうな彼女をなんとか起こしてスキル上げを終えると、隣ではすでに熟睡していた。

 〈波動魔法〉のプリセットを確認すると、第八階梯に〈共鳴崩壊レゾナンスクラッシュ〉があった。
 触れた対象の固有振動数に合わせて魔力波を送り、内部から破壊する――そんな恐ろしい魔法だ。ミスリルゴーレムの魔石を砕けるかもしれない。

「ただ、どれも接触型か……」

 遠距離から撃つ通常の魔法と違い、相手に触れて発動するものが多い。近接戦闘職向けの魔法とは珍しい。

 そう考えていると、セレナから〈念話〉が届いた。

『アレス、今、大丈夫?』

『ああ、〈波動魔法〉のスキル上げも終わったから、あとは寝るだけだ』

『その〈波動魔法〉、ちょうだい』

 セレナは新しい魔法が出るたびに欲しがる。どうやら全組み合わせで〈複合魔法〉を試すつもりらしい。
 すでに三千八百二十八通りもあるのに、まだ増やすなんて。

 まあ、渡すだけならすぐだ。

 そう思っていたら、セレナがそっと扉を開けて入ってきた――が、〈気配察知〉持ちが何人もいるこの屋敷では、それは無理があった。
 即座にイレーヌ、リディア、ジーナが感知し、全員が俺の部屋に突入してきた。

 結局、全員を相手する羽目になり……朝までかかった。
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