百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

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第二章 リーファリアへの道編

064 強化された翼と置き去りの翼

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 俺は〈黎花れいかの翼〉の三人を〈念動サイコキネシス〉で浮かせ、エリュシアと一緒にセーフルームへと走った。

 ヒカルは〈催淫〉の影響を受けていないため、本来は浮かせる必要はないが、〈身体強化〉を持たない彼女では俺とエリュシアの速度についてこれない。だから一緒に運ぶことにした。

 ほどなくしてセーフルームへ到着。だが、オークキング戦後のセーフルームにあった“元の世界のラブホのような部屋”はここにはない。
 そこで俺は魔力空間を展開し、一定範囲を囲んで〈空間規制スペースレギュレイション〉を張る。防音と視界遮断を施し、中にマットを敷いてリンファとエルマを横たえた。

「リンファとエルマの〈催淫〉を解消してくる。少しだけ、ここで見張りを頼む」

 俺はエリュシアとヒカルにそう告げ、二人が頷くのを確認してから魔力空間の中へ入った。

***

 頬を赤らめ、目はうつろ。荒い息を繰り返すリンファとエルマは、もはや理性が保てているのか判別できない状態だった。
 すぐに治療に移る。

「せっかくだから、〈スキル複製(性)〉で少しだけ強化しておこう」

 俺はリンファの服をすべて亜空間に収納し、〈洗浄クリーン〉で綺麗にしてから、〈強制終了フォースドターミネーション〉を発動し、〈催淫〉の効果を解除した。


 リンファ ヒューマン 二十六歳
 Cランク冒険者

 所持スキル:
  回復魔法[2]
  生活魔法[4]
  体術[8] ↑UP
  家政[4]
  身体強化[8] ↑UP
  気配察知[2]


 〈体術〉と〈身体強化〉をレベル8に上げておいた。これだけでもSランク相当の力には届く。今後の攻略も格段に楽になるはずだ。
 ついでに〈家政〉を俺のスキルに複製しておく。

 続いて、エルマの番だ。

「そういえば、エルマは十年前はモテモテだったって言っていたな」

 気になった俺は、〈年齢調整エイジシフト〉で彼女を十歳若返らせてみた。二十八歳くらいになるはずだが――

「ああ、たしかにこれはモテモテだったはずだ」

 全体的にふくよかだった体つきは平均的になったが、胸の豊かさはそのまま。胸、腰、尻の曲線が際立つ、少し童顔で可愛らしい二十八歳の女性がそこに横たわっていた。
 リンファのときと同様に服を収納し、〈洗浄クリーン〉で綺麗にしてから〈強制終了フォースドターミネーション〉を発動。〈催淫〉を解除する。


 エルマ ヒューマン 三十八歳
 Cランク冒険者

 所持スキル:
  生活魔法[4]
  火魔法[4]
  水魔法[8] ↑UP
  料理[7]
  裁縫[4]
  饗膳恩寵
  無詠唱 ※NEW


 〈水魔法〉をレベル8に上げ、〈無詠唱〉を付与した。
 魔術師から魔法使いへと進化した彼女は、戦力的にも大きく底上げされた。
 ついでに〈饗膳恩寵〉を俺のスキルに複製しておいた。このスキルは料理に各種バフを付与する優れものだ。〈料理〉レベル7という腕前も含め、彼女は相当な料理人なのだろう。

***

「一応、二人の〈催淫〉は解消したけど、しばらくは動けないと思う。少し休憩しよう」

 魔力空間を出た俺は、魔力空間の防音だけ外し、エリュシアとヒカルにそう告げた。

「あ、あの……私、リンファとエルマの様子を見てきてもいい?」

 ヒカルの申し出に頷く。俺とエリュシアの二人で椅子に腰かけ、紅茶を注いでいたそのとき――

「え!? エルマ! どうしたの!? 若くなってる!」

 魔力空間の中でヒカルたちの声が響いた。……しまった、説明し忘れていたな。

 やがてリンファが頬を赤らめながら出てきて、魔力空間を解いていいと言うので解くと、中ではヒカルとエルマが手鏡をのぞき込んでいた。

「すみません。勝手に見た目を若返らせちゃって。すぐに戻しますね」

 俺が言うと、エルマが慌てて手を振った。

「いや、このままで大丈夫! このままでいいから!」

「でも、そのまま外に出たら結構騒ぎになりますよ?」

「平気! 若返れるなら、それくらい全然許容範囲だよ!」

 よほど嬉しかったのか、エルマは満面の笑みだったので、そのままにしておくことにした。

 するとヒカルが首を傾げる。

「エルマにかけた魔法って、何魔法なの?」

「え? 〈性魔法〉だぞ? もしかして第九階梯と第十階梯は教わってない?」

「第八階梯までしか知らない……」

 なるほど。この国には第九・第十階梯の〈性魔法〉は伝わっていないらしい。
 俺は第九階梯が〈年齢調整エイジシフト〉であることを説明し、

「第十階梯は見てもらったほうが早いかな。見ててね――〈性別変更ジェンダーシフト〉!」

 俺の身体が“アリス”へと変化する。
 普段は〈バッチ処理〉で変身しているので、魔法だけで変わるのは久しぶりだった。
 ぶかぶかの服と落ちそうなズボンを押さえながら、

「性別が変わる魔法です」

 と説明すると、〈黎花れいかの翼〉の三人は目を丸くしていた。

 俺は再び〈性別変更ジェンダーシフト〉をかけ、“アレス”に戻る。

「さて、紅茶でも飲んで落ち着きましょう。そのあと、リンファとエルマのスキルを試してみましょう」

 そう言うとリンファが首を傾げた。

「試す……のですか?」

「ああ。ついでだったので、二人のスキルレベルを少し上げておいたんだ」

 リンファは〈体術〉と〈身体強化〉をレベル8に、エルマは〈水魔法〉をレベル8にして〈無詠唱〉を追加したことを伝えた。

「本当はもっと強くできるんですが、今回は急いでいたので最低限です。それでも戦闘はかなり楽になるはずですよ。あとで試してみましょう」

 リンファはその場で正拳突きや蹴りを試し、エルマは無詠唱で魔法を撃ってみる。

「た、たしかに身体の動きがとてつもなく速くなっています……!」
「ほ、ほんとだ……詠唱なしで魔法が撃てる……!」

 驚く二人の顔がぱっと明るくなる。実際に魔物相手に試したくてうずうずしているようだ。

「では、一つ上のフロアに戻りましょう」

 ここはインキュバスが出る階層だ。また〈催淫〉を食らうと厄介だからな。


 ――地下三十二階。

 ちょうど通路を曲がったところに魔物が二匹いるようだ。

「そこの角を曲がったら二匹いるようなので、試してみてください」

 俺の言葉に、リンファとエルマは勢いよく駆け出した。
 そこにいたのはインプ一匹とリトルデーモン一匹。

「ふっ!」
「〈水弾アクアショット〉!」

 リンファの拳がインプを、エルマの魔法がリトルデーモンを貫く。どちらも一撃で沈んだ。

「す、すごいです! 自分の身体じゃないみたいです!」
「あたしの魔法、一撃で倒せちゃったよ!」

 二人は満面の笑みを浮かべた。だが、その後ろでヒカルの顔は曇っていた。
 ……そうだよな。これでまた、実力差が開いてしまった。
 ヒカルが望むならスキルを渡すのは構わない。けれど――渡し方があれだし、俺から言い出すのも微妙だ。
 ひとまず、彼女が自分から言ってくるまで様子を見ることにした。

 その後、俺たちは地下三十階のワープポータルまで戻り、地上へ帰還。冒険者ギルドへ討伐報告に向かった。

 ◇

 昼過ぎのギルドは人も少ないが、なぜか今まで感じたことのない視線を浴びた。
 俺はエルマの姿で騒ぎになるのかと思っていたが――冷たい。あきらかに蔑むような視線。
 ヒカルは肩をすくめ、リンファとエルマが視線から守るように両脇を固めていた。だがそれでも、視線の矛先はヒカルに向いている。周りはエルマの変化に気づいていないようだった。
 ヒカルはこんな環境で冒険者を続けているのか……。これも、すべてこの国の騎士団長のせいだろう。

 受付嬢は笑顔を浮かべているものの、目だけは冷たい。気のせいではないと思う。
 ひとまずアイアンボアを討伐したことを報告すると、受付嬢は一瞬驚き、〈黎花れいかの翼〉の三人をギルド長室へ案内した。やはりここでも二つ名命名の儀式があるらしい。

 俺とエリュシアはその間に、今日手に入れた魔物素材の半分――〈黎花れいかの翼〉の分――を買取カウンターに出し、処理を済ませた。
 残りの俺たちの分はルビナへ送る。もしルビナが不要な素材があれば、後でここで売ればいい。

 換金が終わるころ、〈黎花れいかの翼〉の三人が戻ってきたが、表情は冴えない。理由を尋ねると――

 リンファの二つ名は《蒼月姫》、エルマの二つ名は《饗宴の賢者》。
 だがヒカルだけは保留になったという。
 冒険者カード自体は三人ともBランクの銀カードに更新されたが、ヒカルの討伐記録とスキル構成ではBランク相当の実力と認められなかったらしい。たしかに、彼女は敵を状態異常にしたものの、一匹も倒していない。

「ヒカル、Aランクになって見返せばいいのです!」
「そうよ! あたしたちが支えるから! 今だけよ、気にしないで!」

 リンファとエルマは明るくヒカルを励ましていた。いい仲間を持ったな、ヒカル。

 しかし……「Aランクになって」か。リンファとエルマを少し強くはしたが……ヒカルを守りながらでは、ダンジョン踏破は厳しいだろう。
 ――どうにかしてやりたいところだ。
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