百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

文字の大きさ
79 / 182
第二章 リーファリアへの道編

074 巨獣と魅惑の夜

しおりを挟む
 ――エルセリオン地下迷宮・地下四十一階。

「これまでと違って、通路がかなり広いな」

 これまで四、五メートルほどだった通路が、このフロアでは十メートル以上もある。その分、フロア全体も格段に大きくなっているようだ。

 石造りの薄暗い通路を慎重に進むと、前方の影がもぞもぞと動いた。

 その姿は一般的な山羊の比ではなく、体高は三メートルほど。背中の隆起した筋肉が光を受けて鈍く輝き、角は太く鋭くねじれ、岩をも突き破れそうな威圧感を放っていた。四本の蹄は重厚で、踏み込むたびに石床に鈍い響きを残す。

「あれが、グレートゴートか」

 その名の通り、ただの魔物のはずだが、瞳には知性の片鱗が宿っていた。敵意を示すというよりも、慎重にこちらを観察する目は、地下迷宮を生き抜いた猛者のようだ。

 耳をぴくりと動かし、角を振りかざして威嚇する。体躯の割に動きは素早く、筋肉の連動も見事で、次の瞬間には跳躍して攻撃してくる光景が容易に想像できた。

 薄暗い地下四十一階の空気に、ゴートの低いうなり声が響く。鉄の匂いと冷たい石の湿気が混ざる空間に、グレートゴートは溶け込み、獲物を待ち構えていた。

「デカいな。角先まで合わせたら五メートルくらいになるんじゃないか」

 ここまで大きいと、タンクもリディアのような重騎士の装備でないと攻撃を受け止めるのは難しいだろう。ミリアには無理に盾で受けず、避けるか受け流すように伝えた。
 ただ、このパーティには剣の化け物がいる――ヒカルはグレートゴートの突進を軽くかわしつつ、一振りで首を切断していた。……これ、もしかしてヒカルひとりで何とかしてしまいそうだな。


 ――地下四十二階。

 通路の先で、低く唸る地鳴りのような音が響いた。
 ――ここからはグレートゴートに加え、新たな魔物が出現する。

 巨大な猪――ギガントボアは、普通の猪の概念を軽々と超えていた。
 グレートゴートと変わらぬ体躯は灰褐色の毛と筋肉の塊で覆われ、四本の太く短い脚が地面を蹴るたびに振動が伝わる。

 鼻先は湿って光り、立ち上る匂いは地下迷宮特有の湿気と混ざって、野生の獰猛さを感じさせた。獲物を探すように地面を嗅ぎ、時折小さく鼻を鳴らすその音は、威嚇にも好奇心にも似ている。

 そして何より恐ろしいのは、頭部に生えた二本の巨角だ。長さは一メートル以上、先端は鋭く尖り、角度によっては一撃で岩壁を削れそうな迫力を持つ。体を低く構え、角を振り上げる姿は、攻撃態勢というよりも、本能的な支配力の誇示のようだった。

「ギガントボア……こいつもデカいな」

 大きさはグレートゴートとさほど変わらないが、肉が詰まり体重は倍以上ありそうだ。これが一気に突進してきた。

 俺たちは一斉に避ける――

「ふっ」

 気づけばヒカルの剣が一閃していた。これも瞬殺だ。ヒカルは突出して強くなってしまったようだ。
 ただ、同時に数匹出てきた場合でも、リンファもミリアも負けじと倒していた。ヒカルが突出しているが、他のメンバーも苦戦していない様子だ。
 俺もエリュシアも、近づいてきた魔物を普通に倒していた。


 ――地下四十三階。

 ここから急に天井が高くなった。二十メートルはありそうだ。

 しばらく通路を進むと、空気の振動が耳に届いた。
 ――翼の音か。

 暗がりから現れたのは、鋭い爪とくちばしを持つ獰猛な鷲の魔物――バーサークラプター。全長二メートル超、背中の羽は光を受けて黒光りし、鋭利な羽先が小さな石片さえも切り裂けそうな威圧感を放っている。

 鋭く光る目がこちらを捉え、獲物を見定めるように首をゆっくり傾ける。胸元の筋肉は跳躍と高速飛行に耐えるため隆起しており、翼を広げれば五メートルをゆうに超えていた。

 空の魔物と言えばエリュシアだが、ここはエルマがやると言う。

「〈水弾アクアショット〉!」

 杖の宝石の影響で、凄まじい速度で発射される水弾。
 空中のバーサークラプターは避けようとするが、

「え?」

 エルマの放った〈水弾アクアショット〉は追尾して着弾、一撃で倒してしまった。

「すげー! 自動追尾ホーミング!? どうやるのアレ!?」

 俺は大興奮だった。簡易詠唱であんなことができるとは。後で教えてもらおう。


 ――地下四十四階。

 最後に追加される魔物は、細長くうねる巨大な蛇――グレートサーペントだ。
 全長十メートル以上、床を這うたび石の床を揺らすほどの圧迫感を放つ。体表は光沢のある鱗で覆われ、薄暗い階層の光を反射し、不気味に煌めいた。鱗一枚一枚が硬質の鎧のように頑丈で、物理攻撃を受け止める防御力の高さを感じさせる。

 頭部は三角形に尖り、牙は長く湾曲して獲物を逃さない。舌を伸ばし、空気中の匂いを探る動作からも狩猟本能の鋭さが伝わってくる。

 毒や石化攻撃は持たないが、巻きつかれ、締め上げられるだけで全身が複雑骨折必至。
 だが、俺たちからすれば、この程度は首を切ればいいだけの魔物だ。今のメンバーなら何の苦労もなかった。


 その日は地下四十七階まで進み、そのフロアのセーフルームで野営することにした。

 ここまでの宝箱で拾えたものは

 四十一階 聖鋼のロングソード
 四十二階 聖鋼のブレストアーマー
 四十三階 催淫無効の指輪
 四十四階 魔鋼のショートソード
 四十五階 猛撃の腕輪
 四十六階 叡智の腕輪
 四十七階 毒無効の指輪

 聖鋼と魔鋼は、ルビナ鋼より堅いようだ。相談のうえ、装備分配は

 聖鋼のロングソード → ミリア
 聖鋼のブレストアーマー → ミリア
 催淫無効の指輪 → エルマ
 魔鋼のショートソード → リンファ
 猛撃の腕輪 → リンファ
 叡智の腕輪 → エルマ
 毒無効の指輪 → 売却予定

 となった。


 セーフルームで食べる作り置きの料理は、すべてエルマの手作りだ。
 俺はテーブルセットを出して食事場所を準備する。やはりエルマの料理は美味しい。

「この階層は俺やエリュシアがいなくても、四人で全然いけそうだな」

「うん! みんなかなり強くなったよね!」

 そういうヒカルが突出して強くなっているんだけどね。

 食後、俺は隣でエリュシア用の魔物の肉を焼いていた。
 バルログの皮とグレートゴート、ギガントボア、バーサークラプター、グレートサーペントの肉と――

「え? サキュバスも食べるの?」

 これまで食べなかったのに、エリュシアが急に食べると言い出した。

「リディアに『サキュバスは絶対食べろ』って言われた」

 と言うので、仕方なくサキュバスの尻尾先のハート型部分を焼いてみた。これ食えるのか? エリュシアは平然と飲み込んでいた。
 ちなみに、いつの間にかエリュシアはリディアだけを“”付きで呼ぶようになっていた。何があったのかは、知らない。


 今日の夜はエリュシア担当。ようやくいくつかスキルのレベル上げができる。

 テント内で、エリュシアに食べた肉の成果を見せてもらった。

 ◆バルログ――黒い悪魔の羽が生えた。
 ◆グレートゴート――頭に山羊の角が生えた。
 ◆ギガントボア――変化はなかったが、筋肉の質が変わった。
 ◆バーサークラプター――黒光りし鋭利な羽先を持つ鷲の羽が生えた。
 ◆グレートサーペント――変化なし。

 バルログの悪魔の羽は格好良く、一番似合うようだ。
 ギガントボアは見た目の変化はないが、筋肉の質が変わり、力が増して防御力も大幅アップ。普通の刃物なら弾き返せそうだ。

 そして――

 ◆サキュバス――肌は白く髪は黒くなり、筋肉質だった身体は女性的で魅惑的に。細い尻尾が生え、先はハート型、背中にも小さな黒い羽が生えた。

「え? エリュシア、これって弱くなってない?」

「これは戦うためのものじゃない。対アレス用」

 実際食べて変身してみるまで、どうなるのかエリュシアもわからなかったみたいだが、結果的にはこれでいいらしい。
 ――コスプレかよ! リディア、何指示してんだ……グッジョブだが。

 そして、

「リディアさんからやり方を指示してもらったから、今日は任せて」

 そう言うとエリュシアは俺の目の前に立ち、

「アレス様……今夜は私を可愛がって、ね」

 急にかわいい声を出し、セクシーなポーズを取り始める。顔は真っ赤だ。騎士団長の部屋の前で大声を出すより断然恥ずかしいのに、リディアの指示だとやるのか。何があったんだ。

 しかし……やられた。これは止められない。

 そして、サキュバスの特性を顕現したエリュシアは――夜の生活に関して、大幅に強化されていた。
 その夜は捗り、いつもより多くエリュシアのスキルレベルを上げた。


 エリュシア ヒューマン(※人造魔人を改竄中) 二十四歳(※百二十歳を改竄中)
 一般奴隷(※従魔を改竄中)

 所持スキル:
  生活魔法[8]
  空間魔法[8]
  波動魔法[8]
  鞭術[8] ※NEW
  体術[8]
  魔糸操術[8]
  威圧[8]
  身体強化[8]
  気配察知[8]
  気配遮断[8]
  料理[8]
  美容[8]
  技巧(性)[8]
  絶倫[8]
  全スキル経験値アップS
  アイテムボックスS
  ステータス情報改竄
  無詠唱
  強靭
  念話
  魔力常時回復
  捕食変生
  壁面歩行

 所持魔物スキル:
  爪[8]
  牙[8] ↑UP
  毒(牙)[8] ↑UP
  突進(角)[8] 
  岩弾(口)[8]↑UP
  岩皮防御[8]↑UP
  枝の鞭[4]
  根の拘束[4]
  飛翔(羽)[8]
  羽根弾[8]
  風刃(羽)[8]
  飛翔(虫羽)[8]
  魅了の鱗粉(虫羽)[8]
  超再生(魔)[8]
  猛毒霧(魔)[8] 
  麻痺毒霧(魔)[8]
  地鳴り(魔)[6] ※NEW
  咆哮(魔)[6] ※NEW
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした

たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。 だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。 自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。 勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界から元の世界に派遣された僕は他の勇者たちとは別にのんびり暮らします【DNAの改修者ー外伝】

kujibiki
ファンタジー
異世界で第二の人生の大往生を迎えた僕は再びあの場所へ飛ばされていた。 ※これは『DNAの改修者』のアフターストーリーとなります。 『DNAの改修者』を読まなくても大丈夫だとは思いますが、気になる方はご覧ください。 ※表紙は生成AIで作ってみたイメージです。(シャルルが難しい…)

処理中です...