百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

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第三章 エヴァルシア開発編

098 褒賞と二時間の帰還

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「なるほど……だから私、ああなったのね」

 フィリシアさんは、俺が天空人であるがゆえに自分が発情してしまったことを、すんなりと受け入れたようだった。
 俺としては知らずにやってしまったことではあるが、どこか申し訳なさのようなものを覚えてしまった。

「このあと、皆さんはどうされますか? アストラニアに戻るのであれば、お送りしますが」

 せめて帰路だけでもお手伝いしようと、そう切り出したのだが、フィリシアさんは首を傾げて問い返してきた。

「そういえば、アレス君はここまでどうやって来たの?」

「転移魔法陣です」

「じゃあ、私たちもそれで帰るわ」

「残念ですが、国境で正式に手続きをして越境している場合、帰りも同様に国境で手続きをしないといけないんです」

「えー!? また五十日もかけて帰るのー!?」

 そのやり取りに、女王フィオレルが口を挟んできた。

「アレス、まさかこのまま帰るつもりではあるまいな?」

 え?
 普通に帰るつもりだったんだけど。

 そう思った矢先、フィリシアさんが何かに気づいたように声を上げた。

「まさか、叔母様! アレス君と一緒に寝たわけじゃないでしょうね!?」

「そうじゃが? フィリシアには関係なかろう」

「ダメ! アレス君は私のなの!」

 いや、フィリシアさんの所有物になった覚えはない。

 それから女王フィオレルとフィリシアさんは、目の前で激しい口論を始めてしまった。
 しかも――どう考えても、すぐに終わりそうにない。

「じゃあ俺たちは先に帰りますので。話がまとまったら、後日教えてください。皆さん、行きましょう」

 俺が〈緋桜ひざくら守人もりびと〉を連れて部屋を出ようとしたところで、ようやく喧嘩に一区切りがついた。

「叔母様、この続きはまた今度にするわ! 私も帰る!」

「いや、フィリシアには残ってもらう。おぬしの母親が到着するまで引き留めておけと、言われておるのでな」

「な!?」

 即座に王城のメイドたちが動き、フィリシアさんを取り囲んだ。

「フィリシア、部屋を用意してある。ゆっくり寛ぐがよい」

 そう告げられ、フィリシアさんはメイド四人と近衛兵四人に囲まれながら、別室へと連れていかれた。

「あ、アレス君! また会いに来るのよ! 絶対よ!」

 そこまでは聞こえたが、声は次第に遠ざかり、やがて何を言っているのか分からなくなった。

「騒がせてすまなかったな。〈緋桜ひざくら守人もりびと〉の三名も、フィリシアをここまで連れてきてくれたこと、感謝する。謝礼は用意してあるゆえ、後ほど受け取るがよい。アレスに連れて帰ってもらうとよいぞ」

 ……あれ?
 急に俺も帰っていい流れになった?

「それと、アレスじゃが――」

 ん?
 〈緋桜ひざくら守人もりびと〉に俺が同行して帰る以上、引き留める話ではないはずだが。

「これまでのエルフ救出の功績に対し、褒賞を与えようと思う。何か希望はあるか?」

 言われてみれば、完全に無償で正義感だけで動いていた。
 もらえるものは、ありがたくもらっておこう。

「では女王様。もし不要な岩山がありましたら、山ごといただけますか。亜空間に収納して持ち帰ります」

「ふむ。岩山か。我が国では魔法建築が主流ゆえ、確かに使い道はないな。問題あるまい。文官に調査させるゆえ、褒賞として渡す岩山が決まり次第、また来るがよい」

 そう言った女王フィオレルは、目の前にいる俺に〈念話〉を飛ばしてきた。

『アストラニアまで三時間もかからぬのじゃろう? 夜までに一人で城へ来るのじゃ』

『……承知しました』

 なるほど、そういうことか。
 仕方ない。夜にもう一度、転移魔法陣で来るとしよう。

 退出の挨拶を済ませ、部屋を出る直前に俺は言った。

「ああ、すみません。この国にいると、俺、周囲を発情させてしまうので……ここからは“アリス”になりますね」

 そう言って、“アリス”へと姿を変える。

 〈緋桜ひざくら守人もりびと〉のリーダー、アリエルが感心したように呟いた。

「さっきも見たけど……本当に女性になっているのね」

「ええ。この姿なら、エルフの方たちを発情させずに済みます。まずは王都の外に出ましょう」

 部屋を出ると、外で待っていたエルフの文官が、〈緋桜ひざくら守人もりびと〉のリーダーであるアリエルに報奨金を手渡していた。
 金貨が一袋――それなりの額が入っていそうだ。

 その後、私は〈緋桜ひざくら守人もりびと〉の三人を連れて王都セレニアを出て、人目につかない場所まで移動した。
 そこでひとまず、“アレス”の姿に戻る。

 するとアリエルが、少し不安そうに問いかけてきた。

「あ、あの……アレス君。このあと、どうやってアストラニア王国まで帰るの? 私たち、ここまで徒歩で来ちゃったけど……」

「ああ、言っていませんでしたね。俺、ドラゴンに変身できるんです。皆さんを背中に乗せて運びます」

「「「ドラゴン!?」」」

「今から変身しますので、驚かないでくださいね」

 そう告げて、俺はドラゴンへと姿を変えた。
 〈緋桜ひざくら守人もりびと〉の三人は、声こそ出さなかったものの、口を開けたまま呆然とこちらを見つめていた。

『ドラゴンのときは、以前オーク討伐の際にやったように〈念話〉で会話します。落ち着いたら、背中に乗ってください。最初の国境までは三十分ほどです。アストラニア王国までは、二時間ちょっとで着く予定ですよ』

「馬車で五十日かかった道のりが……二時間……」

 やがて落ち着いた三人は、順番に俺の背へと乗り込んだ。

『では、飛びますね』

 ルビナのときに人を乗せた飛び方を学習していたおかげで、滑らかに上昇する。
 徐々に加速し、最高時速およそ千キロで国境へ向かって飛翔した。

「お姉ちゃん! すごいよ! 下を見て! ものすごい速さで飛んでる!」

 意外にも、一番はしゃいでいたのは普段おとなしい三女のセリーナだった。

 残る二人も興奮しつつ、長女アリエルが言う。

「こんな移動手段があったら、流通が大きく変わりそうね」

 それに次女ナディアが続く。

「姉さん、アレス君は転移魔法陣も持ってるのよ。そっちの方が、よほど衝撃的じゃない?」

「確かに……そうなると、既存の馬車輸送と上手く棲み分けしないと、仕事を奪ってしまいそうね」

 なぜか話題は政治的な方向へ向かっていた。
 さすがは元貴族令嬢たち、と言うべきか。

 三十分ほどで、リーファリアとエルセリオンの国境へ到着した。
 〈緋桜ひざくら守人もりびと〉の三人には地上で手続きをしてもらい、俺は透明化したままドラゴンの姿で国境を越え、エルセリオン側で待機する。

 手続きを終えた三人を再び背に乗せ、次はエルセリオンとアストラニアの国境へ。
 一時間ほどで到着し、同様に手続きを済ませると、その三十分後には王都アルトヴィアに到着した。

「本当に……二時間ちょっとで着いたのね……」

 アリエルとナディアは半ば呆然としていた。
 一方、セリーナだけはまだ興奮が冷めない様子で、満面の笑みを浮かべている。

「一応、俺たち《万紫千紅》のメンバーは、今のところ全員同じ屋敷に住んでいるんだけど……どうする? 別に一緒に住まなきゃいけない決まりはないから、別の場所でも構わないけど」

「もちろん、一緒に住むわよ」

 アリエルは即答だった。
 後ろの二人も、揃って頷く。

「じゃあ今日は、屋敷にいる《万紫千紅》のメンバーに紹介して、引っ越しは明日からにしようか」

「わかったわ」

 その後、〈緋桜ひざくら守人もりびと〉の三人を屋敷へ連れて行き、《万紫千紅》のメンバーにこれまでの経緯を説明した。
 そして、〈緋桜ひざくら守人もりびと〉が《万紫千紅》に加入することを正式に伝える。

 ささやかな歓迎パーティのあと、俺は「このあと女王に付き合う必要がある」と告げ、全員から大ブーイングを受けた。
 その後、再びリーファリアへ転移し、女王が満足するまで、しっかりと付き合わされたのだった。
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