百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

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第三章 エヴァルシア開発編

126 救助と問題

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 俺はエヴァルシアにいるセレナへ〈念話〉を送った。

『セレナ、アレスだ。今、話せるか?』

『ええ、大丈夫よ。何かしら?』

『もう少ししたら、救助者をそちらに転移させる。人数はおよそ千人だ』

『はあ!? 千人って、どこに泊まらせるのよ! そんな数の部屋、ないわよ!』

『ああ、わかっている。とりあえず今夜はテントで過ごしてもらう。エヴァルシア商会と、エルセリオンにいる〈蒼薔薇の刃〉に連絡して、テント、マット、毛布をかき集めてくれ』

『わかったわ! すぐに準備する! 転移させるときは必ず連絡して!』

『ああ、また連絡する』

 よし、エヴァルシアのほうはセレナに任せた。
 俺はマルティナに視線を向けて訊ねる。

「隣の集落って、かなり近かったよな。ここで騒げば、すぐに伝わるか?」

「そうですね。少しでも騒げば、あいつらは飛んでくるでしょう」

 しかし千人か。目立たないように転移させるとなると、一日二百人くらいが限界だろう。最低でも五日はかかる。その間に気づかれる可能性は高い。ならば、いっそ堂々とやったほうがいい。

「一度、相手の戦力を見ておきたい。俺とリディアで偵察に行く。二人は集落のどこかの建物で待っていてくれ。終わり次第、合流する」

 それにロゼリアが応じた。

「わかった。私の家にいる。終わったら来てくれ。ところで、私の家の場所はわかるのか?」

「ああ、〈気配察知〉でロゼリアたちの位置は把握できる。じゃあ、後で会おう」

 ◇

 俺とリディアは透明化し、貴族たちのいる集落へと潜入した。
 そして、すぐに異変に気づく。

 今まさに、複数の女性が集落で一番大きな建物の中で襲われていた。
 次の瞬間、リディアが勝手に透明化を解除する。

「アレスさま、救助してきます!」

「待て! 相手の戦力がまだわからないんだぞ!」

「ですが!」

 俺たちのやり取りに反応したのか、鎧をまとった男が三人、建物の中から姿を現した。

「なんだ、お前ら? ここはモルドレイ様の集落だぞ。……お? いい女を連れてるじゃないか。その女を置いていくなら見逃してやる。男のほうは、とっとと消えろ」

 〈剣術[6]〉程度か。俺たちの相手じゃない。
 俺は〈空間魔法〉で、この場にいる〈気配察知〉に反応するヒューマン全員を囲み、同時に〈熟睡ディープスリープ〉をかけた。

「……よし。動いている奴はいないな」

 前回のダンジョンで手に入れた〈絶対状態異常付与の指輪〉を装備しているおかげで、相手が対策をしていようと〈熟睡ディープスリープ〉は確実に通る。
 それでも未知のスキルや魔道具の存在は否定できない。警戒は常に怠らないようにしている。

「リディア。うまくいったからいいものの、偵察に来て大声を出すな。冷静になれ」

「も、申し訳ありません……」

 おそらく、かつて戦争で彼女たちを守った記憶がよみがえり、感情を抑えきれなかったのだろう。
 普段のリディアなら、もっと落ち着いて行動できていたはずだ。

 結局、ロゼリアたちを呼び寄せ、どこまでが貴族の仲間なのかを確認しながら、貴族とその使用人たちを全員ロープで拘束した。

「アレスさま、こいつらはどうするのですか?」

「貴族の集落は後回しだ。まずは、避難民の集落の人たちをエヴァルシアへ転移させる」

 一人ひとりの身体状況を細かく確認している時間はない。
 過剰かもしれないが、俺は全員に順番に〈完治2エクストラヒール・セカンド〉をかけ、回復が終わった者から転移魔法陣に乗せていった。

 最後に、自力で動けない者のもとを回って同じく治癒を施し、転移させる。
 千人すべての転移が完了したのは、四時間後だった。

「リディアも転移してエヴァルシアに戻り、セレナたちを手伝ってくれ。向こうは、かなり混乱しているはずだ」

「承知しました。アレスさまは?」

「俺は、この集落と貴族の集落にある物をすべて亜空間に収納する。その後、貴族たちを〈念動サイコキネシス〉で浮かせて、ドラゴンになって帰る」

 リディアが転移したのを確認し、俺はここに設置していた転移魔法陣を無効化した。
 ロゼリアたちの集落、そして貴族の集落にあるすべての物資を亜空間へと収める。

「さて……貴族たちを運ぶか」

 貴族とその使用人を合わせて五十一名。そのうち二十名は女性だった。

「この女性たちも、もしかして被害者か……?」

 貴族と行動を共にしていたのは間違いないが、全員が破れた服を無理やり縫い合わせたような格好をしている。
 自然に破れたとは考えにくく、誰かが意図的に裂いたとしか思えなかった。
 今は眠らせている以上、事情聴取は後回しにするしかない。

 ◇

 ドラゴンへと変身し、貴族たちを抱えたままエヴァルシアへ向かう。
 上空に到達すると、地上にはすでに二百張を超えるテントが並んでいた。
 エルマたちが炊き出しをしている様子も見える。

 俺は着陸し、貴族たちを地面に下ろすと、人の姿へ戻った。

「アレス、お疲れ様」

 近くにセレナの姿があった。

「セレナもお疲れ。急に千人も連れてきて、すまなかったな」

「それは……まあいいわ。ただ、相談したいことがあるの。今日の夕食のあと、時間をもらえる?」

「ああ、わかった。それと今から、彼らの集落にあった物を全部テントの近くに出す。自分の荷物を移動するよう、みんなに伝えてくれ。貴族の集落の物は共有空間に入れておくから、後で調べておいてくれるか」

「わかったわ」

「俺は地下に牢屋を追加で作ってくる。こいつらを収容したら、屋敷のリビングに行く」

「了解。そっちは任せるわ」

 俺は地下に十人用の牢屋を五つ追加で作り、男女を分けて貴族たちを収容した。

 その途中でイレーヌが帰還し、状況を見て驚いていた。
 簡単に報告を受けると、人身売買組織の下っ端が待機している拠点までは突き止めたものの、本部と思われる建物や、子供たちが幽閉されている場所はまだ発見できていないという。
 イレーヌは明日も引き続き調査を続けることになった。

 ◇

 なんとか最低限、千人が眠れる環境を整え、食事も行き渡らせることができた。
 俺たちも屋敷で夕食を済ませ、約束通りセレナとの話し合いに入る。

「あのね、アレス。今回助けた千人なんだけど、全部で二百世帯あったの。旧カリスティア王国の避難計画が家族単位だった影響もあって、多くは家族世帯よ。でも……あの貴族たちに家族を殺されて、一人きりになった人もいるわ」

 セレナは一度息を整え、続けた。

「大事な話なんだけど……今の私たちには、千人を養う余裕がないわ。蓄えでしばらくは何とかなるとしても、このままじゃ完全に赤字。いずれ破綻するわ」

 さすがに、いきなり千人は無茶だったか。

「わかった。明日の昼まで、今ある物資と金で持ちこたえてくれ。夜までに追加の食料を手配する。それと――十日後には、千人が一年食えるだけの食料を揃える」

「え!? そんなこと、本当にできるの!?」

「ああ、やる。……あ、リンファ。ちょうどいい。急で悪いが、今日のローテーションをターリアとエリュシアに変更してくれ。明日からの作業に必要なんだ」

「承知しました。すぐに変更します」

 その夜、俺はターリアとエリュシアを相手に、スキルの付与を行った。
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