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2章 曖昧な境界線
6話 夜のオフィスへ 2
香取さんの少し後ろについて階段を昇っていると、上から誰かが降りてくる足音が聞こえてきて、顔をふと上げる。
少しずつ見えてきた細く、美しい脚。この脚は……
「ゆり、どこ行くの?」
やっぱり陽子だ。
「オフィスフロアの準備」
「香取さんと二人だけ?」
「うん、手空いてる人がいないみたい」
「そっか、私も手伝うって言いたいけど、データ関連がまったく終わってない。ごめん」
「大丈夫よ。ありがとう」
俯いた陽子の肩を叩く。
「野原さんもあんまり遅くならないようにね。でもデータはしっかりとよろしく!」
「はい。あ、香取さん! 二人きりだからって手は出さないでくださいね」
「あ、ちょっと。草下さんの前で言わないでよ」
突然の陽子の言葉に、香取さんがたじろいでいる。陽子はその人形のような大きな目を細めて、香取さんにからかうような視線を向けていた。
「なんですか? 香取さんは手が早いんですか?」
「いやいやいや」
「どうやら、相当お手が早いらしいですよ」
「それは気をつけないとですね」
「参ったな。さっきの話は冗談でしょ」
私たちのやり取りに、香取さんが困ったように笑って頬を掻く。その姿を可愛いなんて思っていたら、こちらを見た香取さんにふいに優しげな微笑みを向けられて、思わず胸が高鳴った。その顔でその笑い方するの、本当に心臓によくないからやめてほしい。
「あれ、そうなんですか? 香取さんなら本当っぽいですけど」
そんなことを言い残して陽子がその長い髪を揺らしながら、軽やかに降りていく。その姿を見送っていると、香取さんが「行こうか」と言って、私を促した。
そして、笑いながら「さっきね休憩が一緒だったんだ」と話し出す。たまたま休憩が重なった陽子と憲吾と香取さん。香取さんはかっこ良くて大人で女性慣れしているから、女性を誑かしていそうだと憲吾が言ってきたらしい。
(上司になんてことを言うんだ、憲吾。でも——)
確かに、香取さんは女性に慣れている。こうして話していても、一緒に仕事をしていても、いつも心地よくて安心してしまう。一緒に歩いているときには、いつも私の歩幅に自然に合わせてくれて、上司なのに必ずドアを開けてくれる。私が戸惑っていると、背中を優しく押して促してくれる。そして香取さんを見上げると、優しく目を細めて微笑んでくれる。
こんな扱いをされたことなんてないから、なんだかくすぐったい。今日も同じ。人気のない暗いオフィスのドアを開けて、私を促す。香取さんといると、自分が女性なんだって認識させられるみたい。
少しずつ見えてきた細く、美しい脚。この脚は……
「ゆり、どこ行くの?」
やっぱり陽子だ。
「オフィスフロアの準備」
「香取さんと二人だけ?」
「うん、手空いてる人がいないみたい」
「そっか、私も手伝うって言いたいけど、データ関連がまったく終わってない。ごめん」
「大丈夫よ。ありがとう」
俯いた陽子の肩を叩く。
「野原さんもあんまり遅くならないようにね。でもデータはしっかりとよろしく!」
「はい。あ、香取さん! 二人きりだからって手は出さないでくださいね」
「あ、ちょっと。草下さんの前で言わないでよ」
突然の陽子の言葉に、香取さんがたじろいでいる。陽子はその人形のような大きな目を細めて、香取さんにからかうような視線を向けていた。
「なんですか? 香取さんは手が早いんですか?」
「いやいやいや」
「どうやら、相当お手が早いらしいですよ」
「それは気をつけないとですね」
「参ったな。さっきの話は冗談でしょ」
私たちのやり取りに、香取さんが困ったように笑って頬を掻く。その姿を可愛いなんて思っていたら、こちらを見た香取さんにふいに優しげな微笑みを向けられて、思わず胸が高鳴った。その顔でその笑い方するの、本当に心臓によくないからやめてほしい。
「あれ、そうなんですか? 香取さんなら本当っぽいですけど」
そんなことを言い残して陽子がその長い髪を揺らしながら、軽やかに降りていく。その姿を見送っていると、香取さんが「行こうか」と言って、私を促した。
そして、笑いながら「さっきね休憩が一緒だったんだ」と話し出す。たまたま休憩が重なった陽子と憲吾と香取さん。香取さんはかっこ良くて大人で女性慣れしているから、女性を誑かしていそうだと憲吾が言ってきたらしい。
(上司になんてことを言うんだ、憲吾。でも——)
確かに、香取さんは女性に慣れている。こうして話していても、一緒に仕事をしていても、いつも心地よくて安心してしまう。一緒に歩いているときには、いつも私の歩幅に自然に合わせてくれて、上司なのに必ずドアを開けてくれる。私が戸惑っていると、背中を優しく押して促してくれる。そして香取さんを見上げると、優しく目を細めて微笑んでくれる。
こんな扱いをされたことなんてないから、なんだかくすぐったい。今日も同じ。人気のない暗いオフィスのドアを開けて、私を促す。香取さんといると、自分が女性なんだって認識させられるみたい。
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