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Berry
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(親に着飾られ続けた女性の話)
「まぁ、なんて可愛らしい子なの。真っ赤に熟れた苺みたいに、甘くて愛らしい笑顔をしているわ」
そんな【勝手な妄想】でつけられた名前。それが【ベリー】。
甘い果実のようだと、まだ一言も喋れない頃から勝手なイメージを植えられていた。
ベリー、ベリー、甘ったるい優しい声で語りかけられる。両親は人を慈しむ目で私を自分たちの思うとおりにわたしを愛でていた。
大きくなってからも、私はお人形を扱うかのように可愛がられた。
レースやフリル、リボンをあしらった洋服ばかり着せられる。スカートばかり履かされて、必要な時以外はズボンの着用を許してくれなかった。
ヘッドドレスやコルセットで綺麗に飾り付けられたわたし自身を見て、吐き気が止まらない。
お菓子のような甘ったるい色、生クリームを連想させるかのような白いフリル。
二人がつけた【ベリー】という名前は最早呪いの名だ。その名前の通りに見た目も着飾らなければいけなくなってしまった。
喋り方も、振る舞い方も、食べるものも、教わったものしか許されなかった。
男に媚びるような間延びした喋り方をしなければいけない。
面白くもない時も【癒されるようなほわほわした笑顔】とやらを浮かべなければいけない。
女性が好むような、オシャレなご飯しか食べさせてくれない。
そうやって両親の思うとおりに振る舞った結果、周りからも勝手なイメージを押しつけられるようになってしまった。
ふわふわ、癒し系、天然ちゃん、女の子らしくて可愛い子、甘いもの……特にショートケーキが大好き。
どれもこれも、本当の私を知らない周りの人間が勝手に作り出した偶像に過ぎない。
本当の私は、甘さの欠片もあるような人間じゃない。
小さい頃、父親が冷蔵庫に取っておいた牛丼をこっそり食べて、怒られたことがある。
ただ、怒られてまで食べた甲斐はあった。親に押しつけられたご飯より――ずっと、おいしかった。
わたしは決して草食ではないのだ。
ただそういった肉を殆ど食べずにいるのは、両親や周りからの勝手な期待に応えざるを得ないから。
わたしは、周りが期待するような【甘くて優しいとろけるようなお人形】でいなければならないのだ。
おかげで喋り方や振る舞い方は、もうすっかり定着してしまった。
両親の目を盗み、あちこちの男に身体を売ってまで得てため込んだ資金で……わたしは一人暮らしを始めた。
今の職場の採用もあり、贅沢をしなければわたしは一人でもやっていける。
両親を死にものぐるいで説得したわたしはようやく、自由になれたのだ。……表向きは。
そう、一人暮らしをしてからも、両親のバカ可愛がりは止まらない。
二人が来ることは滅多にないけれど、やたらと物資を送ってくる。
今いるこの部屋は、二人がわたしに買い与えた甘ったるい配色の家具で埋め尽くされている。
わたしは、どこまでも二人のお人形だ。わたしの自由など、あの二人の頭にありはしないのだろう。
そんな【お人形】のわたしにも、自分の自由で好きになったものがある。
先程述べた「肉」 飲み屋街の喧噪、そして――今の職場にいる、若いチーフだ。
どうしてか、わたしは一目で心を奪われてしまったのだ。
理知的で、職場の誰にも優しくて……いつ見ても、優しい微笑みを向けてくれていた。
麗しい見た目も相まって、職場では女性人気が高い。彼氏持ちでありながら、彼を評価する女性さえいる。
そんな女性たちに紛れながらも、わたしは反対に興味のないフリをした。
「あ~、あの先輩ですか~? ん~、別に何とも思いませんね~?」
自分から話は出さない、自分から目も向けない。必要最低限のこと以外は話しかけもしない、不必要に彼を見ることもしない。
周りがきゃーきゃー喚く中、わたしは一切彼を見ないフリをした。
そうしていなければ、わたしはあの女たちと同じ「先輩のファンの一人」になってしまうのだ。
誰かと同化してしまうと、わたしという個人を見てもらえない。わたしはわたしで、一人自由に歩いていなければいけない。
どんどん想いが募って苦しくても、わたしは両親に教わった振る舞いでその心を隠し続けた。
その想いを解放するのは、一人部屋に籠もる時。
職場で自由に呼ばない分、彼の名前を小さな声で飽きるほど呼んで……彼への愛情をひとりぼっちで解放する。
本当は、わたしの名前を呼んで欲しい。他の女の名前なんか呼ぶ隙もないほどに。
両親からつけられた呪いの名も、彼の口から放たれればわたしにとって何より甘い媚薬となることだろう。
彼になら、何をされてもいい。痛いことも苦しいことも、彼からのものなら何より嬉しいものだ。
あの広い胸の中に飛び込んでみたい、許されるならば包まれたい。
けれどわたしの欲はそんなところでは止まらない。際限なく積もる感情は、どこまでもわたしを欲深にしていた。
「……先輩……先輩…………」
叶うなら、わたしは――貴方に抱かれたい。
お人形を可愛がる様でもいい、この身体を貴方だけに触れられたい。
わたしは、貴方のためならお人形になっても構わない。
「まぁ、なんて可愛らしい子なの。真っ赤に熟れた苺みたいに、甘くて愛らしい笑顔をしているわ」
そんな【勝手な妄想】でつけられた名前。それが【ベリー】。
甘い果実のようだと、まだ一言も喋れない頃から勝手なイメージを植えられていた。
ベリー、ベリー、甘ったるい優しい声で語りかけられる。両親は人を慈しむ目で私を自分たちの思うとおりにわたしを愛でていた。
大きくなってからも、私はお人形を扱うかのように可愛がられた。
レースやフリル、リボンをあしらった洋服ばかり着せられる。スカートばかり履かされて、必要な時以外はズボンの着用を許してくれなかった。
ヘッドドレスやコルセットで綺麗に飾り付けられたわたし自身を見て、吐き気が止まらない。
お菓子のような甘ったるい色、生クリームを連想させるかのような白いフリル。
二人がつけた【ベリー】という名前は最早呪いの名だ。その名前の通りに見た目も着飾らなければいけなくなってしまった。
喋り方も、振る舞い方も、食べるものも、教わったものしか許されなかった。
男に媚びるような間延びした喋り方をしなければいけない。
面白くもない時も【癒されるようなほわほわした笑顔】とやらを浮かべなければいけない。
女性が好むような、オシャレなご飯しか食べさせてくれない。
そうやって両親の思うとおりに振る舞った結果、周りからも勝手なイメージを押しつけられるようになってしまった。
ふわふわ、癒し系、天然ちゃん、女の子らしくて可愛い子、甘いもの……特にショートケーキが大好き。
どれもこれも、本当の私を知らない周りの人間が勝手に作り出した偶像に過ぎない。
本当の私は、甘さの欠片もあるような人間じゃない。
小さい頃、父親が冷蔵庫に取っておいた牛丼をこっそり食べて、怒られたことがある。
ただ、怒られてまで食べた甲斐はあった。親に押しつけられたご飯より――ずっと、おいしかった。
わたしは決して草食ではないのだ。
ただそういった肉を殆ど食べずにいるのは、両親や周りからの勝手な期待に応えざるを得ないから。
わたしは、周りが期待するような【甘くて優しいとろけるようなお人形】でいなければならないのだ。
おかげで喋り方や振る舞い方は、もうすっかり定着してしまった。
両親の目を盗み、あちこちの男に身体を売ってまで得てため込んだ資金で……わたしは一人暮らしを始めた。
今の職場の採用もあり、贅沢をしなければわたしは一人でもやっていける。
両親を死にものぐるいで説得したわたしはようやく、自由になれたのだ。……表向きは。
そう、一人暮らしをしてからも、両親のバカ可愛がりは止まらない。
二人が来ることは滅多にないけれど、やたらと物資を送ってくる。
今いるこの部屋は、二人がわたしに買い与えた甘ったるい配色の家具で埋め尽くされている。
わたしは、どこまでも二人のお人形だ。わたしの自由など、あの二人の頭にありはしないのだろう。
そんな【お人形】のわたしにも、自分の自由で好きになったものがある。
先程述べた「肉」 飲み屋街の喧噪、そして――今の職場にいる、若いチーフだ。
どうしてか、わたしは一目で心を奪われてしまったのだ。
理知的で、職場の誰にも優しくて……いつ見ても、優しい微笑みを向けてくれていた。
麗しい見た目も相まって、職場では女性人気が高い。彼氏持ちでありながら、彼を評価する女性さえいる。
そんな女性たちに紛れながらも、わたしは反対に興味のないフリをした。
「あ~、あの先輩ですか~? ん~、別に何とも思いませんね~?」
自分から話は出さない、自分から目も向けない。必要最低限のこと以外は話しかけもしない、不必要に彼を見ることもしない。
周りがきゃーきゃー喚く中、わたしは一切彼を見ないフリをした。
そうしていなければ、わたしはあの女たちと同じ「先輩のファンの一人」になってしまうのだ。
誰かと同化してしまうと、わたしという個人を見てもらえない。わたしはわたしで、一人自由に歩いていなければいけない。
どんどん想いが募って苦しくても、わたしは両親に教わった振る舞いでその心を隠し続けた。
その想いを解放するのは、一人部屋に籠もる時。
職場で自由に呼ばない分、彼の名前を小さな声で飽きるほど呼んで……彼への愛情をひとりぼっちで解放する。
本当は、わたしの名前を呼んで欲しい。他の女の名前なんか呼ぶ隙もないほどに。
両親からつけられた呪いの名も、彼の口から放たれればわたしにとって何より甘い媚薬となることだろう。
彼になら、何をされてもいい。痛いことも苦しいことも、彼からのものなら何より嬉しいものだ。
あの広い胸の中に飛び込んでみたい、許されるならば包まれたい。
けれどわたしの欲はそんなところでは止まらない。際限なく積もる感情は、どこまでもわたしを欲深にしていた。
「……先輩……先輩…………」
叶うなら、わたしは――貴方に抱かれたい。
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