宇宙のくじら

桜原コウタ

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第一幕/出立

[家出]第3話‐4

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「全く、なんなんだ!あの若造は!」
ラファエルはイライラしながらデスクを人差し指で叩く。そんなラファエルの様子を艦橋のスタッフ達は不安げな表情で見つめていた。不意に通信用のコール音が鳴る。ラファエルは乱暴に接続ボタンを押下すると、ディスプレイにアキレアが姿を現した。
「こらこら。あまり癇癪を起さないで。」
苦笑いを浮かべつつ‐少しうんざりとした様子で‐アキレアはラファエルを諫める。
「しかし!アイツは民間人の命を危険に晒したのですよ!」
「確かに、彼が少し注意力散漫になっていたことは認めるわ。さっきも言った通り、指示を出した私にも責任はあるだろうし。そこは、ごめんなさい。」
苦笑いを浮かべながらも、アキレアの目が鋭い物に変わった。
「でもね、艦長。貴方も、シャトルを見に行った[パペット]に無人機が迫っていた事に気づいていたでしょう?だったら彼に教えてあげても良かったんじゃない?」
「それは・・・」
ラファエルは苦虫を嚙み潰した表情をする。
「それは、あの若・・・彼がもう把握済みかと思いまして。教える必要は無いかと。」
アキレアは疑いから目を細めた。ラファエルの額に汗がにじみ出る。言った事は全く嘘ではない。アーシムなら気づいているとは本気で思っていた。だが、彼の鼻持ちならない態度から少し痛い目を見ればいいと思ったことも確かだ。
「すみません、ただの言い訳ですね。確かに私からも言うべきでした。」
大人げなかったかとラファエルは反省する。
「まぁ、いいわ。責任を追及したってなにも変わりはしないし。ただ、アーシムは普段はああいうミスはしないタイプなんだけど・・・シャトルに何かあったのかしらね。」
アキレアは小首を傾げながら考える仕草を見せる。
「確かに、不思議なシャトルではありますね。フライトスケジュールにも載っていませんし。」
顎鬚を触りながら同じくラファエルも考える仕草を取る。日本の民間シャトル。こちらのスケジュールが古かったとは思えない。単純にシャトル側の申告漏れというのも考えにくい。では、こちらと同じく誰にも知られず秘密裏に動きたかったのか。まさか・・・。
「お父上からの追手では?」
声を潜めながらラファエル言う。それを聞いたアキレアは難しい顔で首を傾げた。
「それは・・・どうなんでしょう。基本、お父様は他人をあまり危険な事に巻き込まない様にはしているとは思うのだけれど・・・地上の事もあったから完全に無いとは言い切れないわ。」
今でも安全が保障されたとは言いづらい。先程までは民間人と断定して動いていたが・・・どちらにせよ、警戒しておいた方がよさそうだ。
「それとも、彼がどうしても興味をそそるものや、不思議なものでも見た可能性もあるだろうし。それ以上に、ここから先どうするかよね。」
「はい」と、ラファエルは頷く。何とか無人機達は撃退したものも所詮は時間稼ぎで、本格的にこちらを追い詰める為の本隊が来るであろう。宇宙へ上がる申請や手続き、部隊編成等で時間が掛かるとは思うが、無人機撃退の為に使った時間やこれからの事も考えるとなるべく早めにこの宙域から離脱したいところではある。
「デブリとなる無人機は回収。同時にシャトルも[ストレリチア]に乗せるわ。ただ、追手の可能性も考慮して内部の確認は保安部が行いましょう。そして、まだこの宙域に〝対象〟が居るかどうかの確認もお願い。」
[承知いたしました。]
ラファエルは了承する。今出来ること、行わなければいけない事はこのくらいだろう。急いで取り掛からなければ。
「もしシャトルに民間人が乗っていた場合は・・・私が直接謝罪しに行くわ。」
アキレアの言葉を聞き、ラファエルは眉間に皺を寄せる。
「もし御身に何かあれば大変です。ここは艦の代表である私が伺います。」
「いえ、私が行くわ。全ての責任は計画の発案者である私にある。故に私が謝罪するのが道理よ。それに何かあった際には優秀なSPと[No.1]が居るし。」
真剣な眼差し。絶対に自分の意見を曲げないと主張している。
「ラファエル艦長には艦の事に尽力して欲しいの。これは私には出来ない事だから・・・お願い。」
「それもそうか」と、懇願する声にラファエルは微笑みながら息を吐いた。
「分かりました。艦の事は私がやります。その代わりに、SPと[No.1]がついているので大丈夫だと思いますが、御身は大切に。もし、何かあれば気兼ねなく言ってください。」
アキレアの表情が明るい笑顔に変わる。
「ありがとう、艦長!では、艦と事後処理についてお願いね。後、艦内放送で乗組員達に現状を伝えてあげて。ずっと身体を固定されて不安に思っているだろうから。」
「忘れていた」と決まりが悪そうにするラファエル。ここまで緊迫した状況が続いていたから、すっかり頭から離れていた。これでは艦長失格だな。
「・・・分かりました。乗組員には急ぎ伝えます。」
「よし!これで大体は決まったと。では私はこれで、後の事は任せたわね。じゃあね!」
アキレアは両手を打ち、ウィンクしながらディスプレイから消えていった。
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