74 / 106
第074話 麻呂もびっくり
しおりを挟む
個人的に釈然としないまま、町に着いたのでてくてくとダリーヌさん参りに。
お店のドアを開けると珍しく店番ダリーヌさん。
四方山話に花を咲かせる前に、ずっと照準を向けられている蔓草編みの籠を渡す。
かけられていた布を外すと、ふわりと生地の焼けた香ばしい匂いが広がった。
「へぇ。珍しいね」
いつも物珍しいものばかりを持ち込んでいるせいなのか。
ダリーヌさんがきょとんとした表情をしているのが、ちょっと面白い。
差し伸ばされる手にこくりと頷くと、一枚が連れ去られ、はくりという音と共に口中に消える。
さくりっという咀嚼の音。
何の変哲もなかったいつもの空気。
さくさくと咀嚼が進むと思った瞬間、ダリーヌさんの目が見開かれたまま動きを止める。
いや、ぷるぷると全身が痙攣している。
何か、体に合わないものでも入っていたかと慌てようとした瞬間に、猛然と咀嚼が再開される。
ごくりと、嚥下。
その後に、ずいっと再度挿し伸ばされる手。
地獄の底から伸ばされそうな手の様子に恐怖を感じて頷くと、むしりと命ならぬクッキーを一枚奪い取っていく。
再度、口中へ。
今度は探るような感じでの咀嚼。
そして、嚥下。
ぷるぷるする様に次の一枚かと思ったら、がばっと顔が上がる。
「売るんさね!?」
噛みつかれると思わんばかりの勢いに、ぶんぶんと頷きを返すしかなく。
しかも、頷き一つ目の段階で籠は奪われ、ててーっと走り去るダリーヌさんをリサさんと両手で握り合いながら、見送るしかなかったのです。
へたり込みましたよ?
怖いなぁなんて、頂いたお茶とクッキーを楽しみながら待つ事暫し。
いつものようにバタンと勢いよく開かれる扉。
もうね、扉さん頑丈だなと、褒めてあげたい気分になります。
つかつかとカウンター前に歩いてきたダリーヌさん。
どすんとカウンターに革袋では中々あり得ない音を鳴らしながら、置きます。
「売ってやったさね!!」
気持ちの良い、朗らかな表情を浮かべているダリーヌさんの説明では。
今まであり得なかった焼き菓子を手に領主館に駆け込み、裏方と協議。
食べ物なんて中々信用の置きづらい物なのに、料理長とガチでバトって味で黙らせたと。
まぁ、ハンドクリームなんかで信用は稼いでいたので、それもあるのでしょうが。
で、アフターヌーンティーまで居座って、無事財貨をもぎ取って来たと。
猛者だよ、ダリーヌさん。
もうね、甘味の宝箱やーって某食レポの人みたいな売り文句で売ってくるんだから、凄い。
ダリーヌさんの話では、元々上流階級のお茶請けにクッキーは出るそうで。
ただ、中身としては肉のミンチと香辛料を混ぜて焼いた、縄文クッキーみたいな感じだそうなんです。
甘味は別で旬の果物を用意する程度。
干した果物なんて、産地で消費されちゃうので出回る事はおろか、知られる事すらなく。
冬場のこの時期にあんな明確な甘味というのは、中々なんてレベルでなく手に入らないそうで。
と、ここまで話をしていて、改めて考え直す。
過去の日本人だって、果物が生るのを一日千秋の思いで見守り、甘葛の汁を煮詰めるほどに恋い焦がれたのだ。
そりゃ、甘味に飢えるわ、と。
果物の時の反省を生かせてないなと。
はぁぁっと商業的には成功したのに、考え方で失敗したなと自分を攻めつつ。
革袋に手を伸ばすと、ぺちっとダリーヌさんの手に叩かれる。
その目は次もあるんだろうなと雄弁に物語っていたので、うんうんと頷きを返す事によって開放された。
帰り道。
ちょっと慰めてくれる感じのリサさんに申し訳ないなと思いながら考え事。
今回はちょっと目論見から外れた。
というか、自分の考え方のずれに気付いた部分がありまして。
これは、名誉挽回、汚名返上をしないと駄目だなと。
次回まで待って下さい。
本当の、甘味ってやつをお見せしますよ。
そんな気分を抱えながら、沸々闘志を燃やし、村に戻るのでした。
お店のドアを開けると珍しく店番ダリーヌさん。
四方山話に花を咲かせる前に、ずっと照準を向けられている蔓草編みの籠を渡す。
かけられていた布を外すと、ふわりと生地の焼けた香ばしい匂いが広がった。
「へぇ。珍しいね」
いつも物珍しいものばかりを持ち込んでいるせいなのか。
ダリーヌさんがきょとんとした表情をしているのが、ちょっと面白い。
差し伸ばされる手にこくりと頷くと、一枚が連れ去られ、はくりという音と共に口中に消える。
さくりっという咀嚼の音。
何の変哲もなかったいつもの空気。
さくさくと咀嚼が進むと思った瞬間、ダリーヌさんの目が見開かれたまま動きを止める。
いや、ぷるぷると全身が痙攣している。
何か、体に合わないものでも入っていたかと慌てようとした瞬間に、猛然と咀嚼が再開される。
ごくりと、嚥下。
その後に、ずいっと再度挿し伸ばされる手。
地獄の底から伸ばされそうな手の様子に恐怖を感じて頷くと、むしりと命ならぬクッキーを一枚奪い取っていく。
再度、口中へ。
今度は探るような感じでの咀嚼。
そして、嚥下。
ぷるぷるする様に次の一枚かと思ったら、がばっと顔が上がる。
「売るんさね!?」
噛みつかれると思わんばかりの勢いに、ぶんぶんと頷きを返すしかなく。
しかも、頷き一つ目の段階で籠は奪われ、ててーっと走り去るダリーヌさんをリサさんと両手で握り合いながら、見送るしかなかったのです。
へたり込みましたよ?
怖いなぁなんて、頂いたお茶とクッキーを楽しみながら待つ事暫し。
いつものようにバタンと勢いよく開かれる扉。
もうね、扉さん頑丈だなと、褒めてあげたい気分になります。
つかつかとカウンター前に歩いてきたダリーヌさん。
どすんとカウンターに革袋では中々あり得ない音を鳴らしながら、置きます。
「売ってやったさね!!」
気持ちの良い、朗らかな表情を浮かべているダリーヌさんの説明では。
今まであり得なかった焼き菓子を手に領主館に駆け込み、裏方と協議。
食べ物なんて中々信用の置きづらい物なのに、料理長とガチでバトって味で黙らせたと。
まぁ、ハンドクリームなんかで信用は稼いでいたので、それもあるのでしょうが。
で、アフターヌーンティーまで居座って、無事財貨をもぎ取って来たと。
猛者だよ、ダリーヌさん。
もうね、甘味の宝箱やーって某食レポの人みたいな売り文句で売ってくるんだから、凄い。
ダリーヌさんの話では、元々上流階級のお茶請けにクッキーは出るそうで。
ただ、中身としては肉のミンチと香辛料を混ぜて焼いた、縄文クッキーみたいな感じだそうなんです。
甘味は別で旬の果物を用意する程度。
干した果物なんて、産地で消費されちゃうので出回る事はおろか、知られる事すらなく。
冬場のこの時期にあんな明確な甘味というのは、中々なんてレベルでなく手に入らないそうで。
と、ここまで話をしていて、改めて考え直す。
過去の日本人だって、果物が生るのを一日千秋の思いで見守り、甘葛の汁を煮詰めるほどに恋い焦がれたのだ。
そりゃ、甘味に飢えるわ、と。
果物の時の反省を生かせてないなと。
はぁぁっと商業的には成功したのに、考え方で失敗したなと自分を攻めつつ。
革袋に手を伸ばすと、ぺちっとダリーヌさんの手に叩かれる。
その目は次もあるんだろうなと雄弁に物語っていたので、うんうんと頷きを返す事によって開放された。
帰り道。
ちょっと慰めてくれる感じのリサさんに申し訳ないなと思いながら考え事。
今回はちょっと目論見から外れた。
というか、自分の考え方のずれに気付いた部分がありまして。
これは、名誉挽回、汚名返上をしないと駄目だなと。
次回まで待って下さい。
本当の、甘味ってやつをお見せしますよ。
そんな気分を抱えながら、沸々闘志を燃やし、村に戻るのでした。
44
あなたにおすすめの小説
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる