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第074話 麻呂もびっくり
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個人的に釈然としないまま、町に着いたのでてくてくとダリーヌさん参りに。
お店のドアを開けると珍しく店番ダリーヌさん。
四方山話に花を咲かせる前に、ずっと照準を向けられている蔓草編みの籠を渡す。
かけられていた布を外すと、ふわりと生地の焼けた香ばしい匂いが広がった。
「へぇ。珍しいね」
いつも物珍しいものばかりを持ち込んでいるせいなのか。
ダリーヌさんがきょとんとした表情をしているのが、ちょっと面白い。
差し伸ばされる手にこくりと頷くと、一枚が連れ去られ、はくりという音と共に口中に消える。
さくりっという咀嚼の音。
何の変哲もなかったいつもの空気。
さくさくと咀嚼が進むと思った瞬間、ダリーヌさんの目が見開かれたまま動きを止める。
いや、ぷるぷると全身が痙攣している。
何か、体に合わないものでも入っていたかと慌てようとした瞬間に、猛然と咀嚼が再開される。
ごくりと、嚥下。
その後に、ずいっと再度挿し伸ばされる手。
地獄の底から伸ばされそうな手の様子に恐怖を感じて頷くと、むしりと命ならぬクッキーを一枚奪い取っていく。
再度、口中へ。
今度は探るような感じでの咀嚼。
そして、嚥下。
ぷるぷるする様に次の一枚かと思ったら、がばっと顔が上がる。
「売るんさね!?」
噛みつかれると思わんばかりの勢いに、ぶんぶんと頷きを返すしかなく。
しかも、頷き一つ目の段階で籠は奪われ、ててーっと走り去るダリーヌさんをリサさんと両手で握り合いながら、見送るしかなかったのです。
へたり込みましたよ?
怖いなぁなんて、頂いたお茶とクッキーを楽しみながら待つ事暫し。
いつものようにバタンと勢いよく開かれる扉。
もうね、扉さん頑丈だなと、褒めてあげたい気分になります。
つかつかとカウンター前に歩いてきたダリーヌさん。
どすんとカウンターに革袋では中々あり得ない音を鳴らしながら、置きます。
「売ってやったさね!!」
気持ちの良い、朗らかな表情を浮かべているダリーヌさんの説明では。
今まであり得なかった焼き菓子を手に領主館に駆け込み、裏方と協議。
食べ物なんて中々信用の置きづらい物なのに、料理長とガチでバトって味で黙らせたと。
まぁ、ハンドクリームなんかで信用は稼いでいたので、それもあるのでしょうが。
で、アフターヌーンティーまで居座って、無事財貨をもぎ取って来たと。
猛者だよ、ダリーヌさん。
もうね、甘味の宝箱やーって某食レポの人みたいな売り文句で売ってくるんだから、凄い。
ダリーヌさんの話では、元々上流階級のお茶請けにクッキーは出るそうで。
ただ、中身としては肉のミンチと香辛料を混ぜて焼いた、縄文クッキーみたいな感じだそうなんです。
甘味は別で旬の果物を用意する程度。
干した果物なんて、産地で消費されちゃうので出回る事はおろか、知られる事すらなく。
冬場のこの時期にあんな明確な甘味というのは、中々なんてレベルでなく手に入らないそうで。
と、ここまで話をしていて、改めて考え直す。
過去の日本人だって、果物が生るのを一日千秋の思いで見守り、甘葛の汁を煮詰めるほどに恋い焦がれたのだ。
そりゃ、甘味に飢えるわ、と。
果物の時の反省を生かせてないなと。
はぁぁっと商業的には成功したのに、考え方で失敗したなと自分を攻めつつ。
革袋に手を伸ばすと、ぺちっとダリーヌさんの手に叩かれる。
その目は次もあるんだろうなと雄弁に物語っていたので、うんうんと頷きを返す事によって開放された。
帰り道。
ちょっと慰めてくれる感じのリサさんに申し訳ないなと思いながら考え事。
今回はちょっと目論見から外れた。
というか、自分の考え方のずれに気付いた部分がありまして。
これは、名誉挽回、汚名返上をしないと駄目だなと。
次回まで待って下さい。
本当の、甘味ってやつをお見せしますよ。
そんな気分を抱えながら、沸々闘志を燃やし、村に戻るのでした。
お店のドアを開けると珍しく店番ダリーヌさん。
四方山話に花を咲かせる前に、ずっと照準を向けられている蔓草編みの籠を渡す。
かけられていた布を外すと、ふわりと生地の焼けた香ばしい匂いが広がった。
「へぇ。珍しいね」
いつも物珍しいものばかりを持ち込んでいるせいなのか。
ダリーヌさんがきょとんとした表情をしているのが、ちょっと面白い。
差し伸ばされる手にこくりと頷くと、一枚が連れ去られ、はくりという音と共に口中に消える。
さくりっという咀嚼の音。
何の変哲もなかったいつもの空気。
さくさくと咀嚼が進むと思った瞬間、ダリーヌさんの目が見開かれたまま動きを止める。
いや、ぷるぷると全身が痙攣している。
何か、体に合わないものでも入っていたかと慌てようとした瞬間に、猛然と咀嚼が再開される。
ごくりと、嚥下。
その後に、ずいっと再度挿し伸ばされる手。
地獄の底から伸ばされそうな手の様子に恐怖を感じて頷くと、むしりと命ならぬクッキーを一枚奪い取っていく。
再度、口中へ。
今度は探るような感じでの咀嚼。
そして、嚥下。
ぷるぷるする様に次の一枚かと思ったら、がばっと顔が上がる。
「売るんさね!?」
噛みつかれると思わんばかりの勢いに、ぶんぶんと頷きを返すしかなく。
しかも、頷き一つ目の段階で籠は奪われ、ててーっと走り去るダリーヌさんをリサさんと両手で握り合いながら、見送るしかなかったのです。
へたり込みましたよ?
怖いなぁなんて、頂いたお茶とクッキーを楽しみながら待つ事暫し。
いつものようにバタンと勢いよく開かれる扉。
もうね、扉さん頑丈だなと、褒めてあげたい気分になります。
つかつかとカウンター前に歩いてきたダリーヌさん。
どすんとカウンターに革袋では中々あり得ない音を鳴らしながら、置きます。
「売ってやったさね!!」
気持ちの良い、朗らかな表情を浮かべているダリーヌさんの説明では。
今まであり得なかった焼き菓子を手に領主館に駆け込み、裏方と協議。
食べ物なんて中々信用の置きづらい物なのに、料理長とガチでバトって味で黙らせたと。
まぁ、ハンドクリームなんかで信用は稼いでいたので、それもあるのでしょうが。
で、アフターヌーンティーまで居座って、無事財貨をもぎ取って来たと。
猛者だよ、ダリーヌさん。
もうね、甘味の宝箱やーって某食レポの人みたいな売り文句で売ってくるんだから、凄い。
ダリーヌさんの話では、元々上流階級のお茶請けにクッキーは出るそうで。
ただ、中身としては肉のミンチと香辛料を混ぜて焼いた、縄文クッキーみたいな感じだそうなんです。
甘味は別で旬の果物を用意する程度。
干した果物なんて、産地で消費されちゃうので出回る事はおろか、知られる事すらなく。
冬場のこの時期にあんな明確な甘味というのは、中々なんてレベルでなく手に入らないそうで。
と、ここまで話をしていて、改めて考え直す。
過去の日本人だって、果物が生るのを一日千秋の思いで見守り、甘葛の汁を煮詰めるほどに恋い焦がれたのだ。
そりゃ、甘味に飢えるわ、と。
果物の時の反省を生かせてないなと。
はぁぁっと商業的には成功したのに、考え方で失敗したなと自分を攻めつつ。
革袋に手を伸ばすと、ぺちっとダリーヌさんの手に叩かれる。
その目は次もあるんだろうなと雄弁に物語っていたので、うんうんと頷きを返す事によって開放された。
帰り道。
ちょっと慰めてくれる感じのリサさんに申し訳ないなと思いながら考え事。
今回はちょっと目論見から外れた。
というか、自分の考え方のずれに気付いた部分がありまして。
これは、名誉挽回、汚名返上をしないと駄目だなと。
次回まで待って下さい。
本当の、甘味ってやつをお見せしますよ。
そんな気分を抱えながら、沸々闘志を燃やし、村に戻るのでした。
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