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第1章 残党と怪しい動き

第1話 作戦会議

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「これより、作戦会議を始める」

 シダの合図で、少しざわついていた会議室が一瞬で静かになった。

「今回の任務は昨年征服した国、リヴェリーの残党の鎮圧だ。敵の位置はリヴェリーの王城。そこに1週間後、夜襲を仕掛ける!」

 ざわざわ……

「参謀長!   どうして一年経ったこのタイミングで仕掛けるのですか?もっと早めに片付けてしまえば、民への被害もなかったかもしれないのに……」

 シダが任務の確認・敵の位置・作戦実行日時を伝えると、少しざわついた後1人の兵士がシダに質問をした。


「いい質問だ。どうして一年経ったこのタイミングで? と言う質問だったな。リヴェリーとの対戦で受けたこちらの被害を覚えているか?」

「はい。兵士の1/8が戦死、更に半分近い兵士が負傷しました」

「そうだ。戦力ではこちらが圧倒的に優勢だったが、戦争とは防衛線の方が自陣で戦える分有利なんだ。だからこちらにも大きな被害がでた。そんな状態で散り散りになった敵の残党を探しながら倒そうとすれば更に大きな被害がでていただろう。だから敢えて一年おき、残党が一点に集まるのを待ったんだ」

「なるほど。そうだったんですね。話の途中に割り込んでしまい申し訳ありませんでした」

 シダは、学校の先生が生徒に自分で問題を解けるように誘導するのと同じ方法で理由に答えた。こう言ったやり方を取ることで、ただ教えるよりも人はより成長してくれる。会議に参加している時点で、なんらかの才能を認められ幹部になっているものであるがゆえに、その人材の育成もシダは視野に入れているようだ。
 基本的に敵の城を落とすためには敵勢力の3倍は必要だと言われている。それだけ敵陣で戦うと言うのは不利な状況なのだ。最善の策だったと言えるだろう。
 兵士はシダの解説を聞き、納得したようだった。

「それでは、改めて本題の作戦の説明に入る。今回は4つの小・中隊を作り行動してもらう。この図面を見てくれ。昨年攻めた際の記憶を元に俺が作った城の断面図だ」

 シダは自作の図面を部屋の中央にある丸テーブルに広げながら作戦の説明を始めた。

「A隊はクリスパード隊長、B隊はアソート、C隊はアド、そしてD隊は俺が指揮を執る。A隊とB隊は正門から入り、A隊は中央の階段を上がり正面突破!   B隊は東に旋回し、東側の階段を上がってくれ。おそらく逃げ道を作ろうと敵の1/4ほどはそちらに向かうはずだ。C隊は裏門から潜入してもらう」

 シダは先ほど広げた城の断面図を使いながらまずA~C隊がどこから攻め入るのかを説明した。

「中央は敵が多くいることが予想されるため、進行が遅くなるだろう。だがそれでいい。まずは敵を中央の階段以外の道へそらすのが目標だ。逃げてきた敵をB隊とC隊は倒して、この最上階の中央エリアで合流してくれ。A隊はB隊とC隊が中央エリアに来る間に敵を倒して同じく中央エリアで合流。逃げ場を失った残党のリーダーを討つ!!」

 さらにシダは突入後の動きを細かく言い、リーダーを討つまでの流れを説明した。

「D隊は城の周りを徘徊している残党の処理と……考えにくいが一応一年経っている。新しく逃げ道を作っている可能性もあるので、敵が城から逃げてきた時に備え、外で待ち構える」

 最後に自分の指揮する部隊の動きを説明し一通りの説明を終えた。

「以上だ。何か質問・意見のある奴はいないか?」

 シダは自分の説明に不足点が無いかをみんなに確認したが、作戦がしっかりし過ぎていて誰も何も言えないという顔をしている。

「西側の階段は大丈夫なのか?   いくら中央エリアから遠いとはいえ、100%使わないと言う保証はないだろう……」

 唯一クリスがもう一つの経路の西側階段に気付き、作戦にミスがないのかを確認する。

「さすが隊長!   よく見ている。だが大丈夫だ!   西側階段は一年前の攻撃の時に壊しておいた。一年くらいじゃ直せないくらいには壊してある。言ったろ!   あの時すでに残党処理の作戦は立ててたって!」

 シダは安心しろと言うふうに、西側階段が使えない事を伝え、ドヤ顔をして見せた。クリスももう何も言うことはないようだ。

「他に何かある奴はいないか?」
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「よし。これで作戦会議を終了する。明日は午前四時にここを出発し、リヴェリーに向かう。それぞれ準備をしておいてくれ。では解散!!」

 あれから四、五分移動時の話などをし、他に出た数件の質問・意見に答え、その後、もうない事を確認したシダは、作戦会議を終わらせた。

 ガシッ
「今回も頼むぜ~隊長さん!」

「あ~わかったから離せっ」

 会議室から出たクリスを、シダが後ろから無理やり肩を組んでじゃれついている。

「あの~、あの2人ってどうしてあんなに仲がいいんですか?」

「ん?   あぁ。お前は新入りだから知らないのか。たしかに階級がクリス隊長より下のシダ参謀長があんな風に肩を組みに行くのは不思議に思うよな。……あの2人は、オリバム様が昔攻め落とした村から誘拐してきた者たちなんだ」

「え?   攻め落としてきた村から誘拐?   そんな……2人はオリバム様を恨んではいないのでしょうか」

「さぁな。そんな事聞いたら殺されそうで聞けねぇよ。ただ1つ言えるのは、2人とも戦闘センスは抜群ってことだ。特にクリス隊長は1人で1万人分の勢力に相当するらしい。旧国王軍を倒し、新国家を立ち上げる際に2人は大きく活躍したことで隊長と参謀長に昇進したんだ。前に、今までにどんな訓練をさせられたのかを聞いた度胸のあるやつがいてな、そいつが聞いた話によると……4つ聞いただけで吐きそうになったらしい」

「聞いただけでですか⁈」

「あぁ。2人で助け合いながらここまできたんだ!   と笑顔で話してくれたらしい」


 シダとクリスがじゃれついている姿を見て疑問に思った新入り下っ端兵士が先輩下っ端兵士に質問をした。先輩下っ端兵士は仕方ないなと言うふうに答えてくれた。

「それであんなに仲がいいんですねー」

「だが、そんなクリス隊長やシダ参謀長ですら、オリバム様には絶対逆らわねぇ」

「国王は一体どんな化け物なんだ……」

 新入り下っ端兵士は2人の過去を知り、納得したようだ。先輩下っ端兵士が、そんな2人でも国王には敵わないのだと追加で告げると、新入り下っ端兵士はそれを聞き、怪物のような姿の国王を想像しながら独り言を呟くのだった。
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