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第二話 なんでもない日

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あっという間に七月。バイトを始めて2ヶ月くらい経った。結局サークルには入らず、凛、さくらの二人を中心に学校では割と多くの話せる友人ができた。バイト先には年齢層多種多様な人がいて、バイト仲間という間柄でならば十分楽しくやっていけていた。
さて、学校のテスト期間ももうすぐ終わる。第二外国語がここまで辛いとは思わなかった。凛もさくらも別の言語を選んでいたからほぼ自力で勉強をした。その間によく行くカフェを開拓し、店員さんとも少しだけ世間話をするようになった。

「お、終わった……」

そしてついに全てのテストが終了。ようやく夏休みだ。いや、その前に今日はバイトがある。テストの後にバイトを入れるというなんていう合理主義だろう。夏たくさん遊ぶために稼がなくてはならない。そんな意気込みでバイトに向かう。途中で二度ナンパにあったが完全無視。それが都会のマナーだ。
従業員室に入り、着替える。今日はロングだから頑張らないと。帰って髪の毛洗うのめんどくさいなぁ。

「いらっしゃいませ」

自動ドアが開くと熱気が入ってくる。ただでさえテスト終わりで精神的に疲労しているのに、それが尚更就業意欲を削いでくる。

「一名です。二時間でお願いします。」
「かしこまりました。当店ワンオーダーかドリンクバーかお選びいただけます。」
このマニュアルもすっかり言い慣れたものだ。いつかaiが人類の仕事を奪うなんて言われてもう何年経ったか。機械的な作業をする人間は結局変わらず存在しているしまだまだai側も実用段階に至っていない。シンギュラリティ?私には関係ないことだ。

「ワンドリンクバーで」
「えっ?」

思わず聞き返してしまった。どうしたらそんなヒューマンエラーが起こるのか。

「あっ、す、すみません。ワンオーダーで」
「あ、はい、ではお部屋からご注文お願いします」

その男はそのまま無愛想に立ち去った。そして部屋からビールを注文していた。この昼過ぎから一人で飲むのか、元気だなと思った。
なぜかわからないがその日の帰り道、この記憶だけが脳にこびりついて離れなかった。
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