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13話
しおりを挟むチュンチュンと鳥が囀ずる音が聞こえる。
ああ、もう朝なのか──と寝惚けた頭の中で呟き、重たい瞼をゆっくりと開いた。
「あっ……」
いつの間に起きていたのだろう。目の前には私を抱きながら瞳を細めている師匠の顔があった。師匠は「おはよう」と優しく囁くと、唇に触れるだけのキスをした。
「んっ、おはよ、う、ございます……」
昨日たっぷり愛し合ったせいで身体が重たくて、声まで掠れている。へにゃりと力のない笑顔を浮かべ、瞼を擦ろうとしたその時だった。
「……え?」
左手の薬指に見覚えのない光があって、思わずぐっと目を凝らした。シルバーのシンプルな指輪に、小さな宝石が埋め込まれている。これは……?
「ナーシャ」
顎を持ち上げられ、師匠と視線が交わる。透き通った瞳に見つめられ、息を呑んだのと同時に、師匠の唇がゆっくりと開いた。
「結婚するぞ。ナーシャ」
「……え?」
「俺の子供を産んでくれ」
真っ直ぐに言葉を告げる師匠に、思わず瞬きを何度も繰り返す。
結婚、子供、結婚──と同じ言葉が頭の中でループし、言葉の意味をやっと理解した刹那、瞳からぶわっと涙が溢れ出した。
「師匠っ!!」
「っ、んんっ!?」
師匠の頬を両手で包み、ちゅううう、と唇に吸い付く。んぱっと音を立てて離すと、不意打ち喰らって目を見開く師匠の顔が見えた──けど、構わずにそのまま頬に顔を擦り寄せた。
「師匠! わたし、絶対師匠のこと幸せにします!」
「……それは俺の台詞だ」
「師匠の子供、産みますね!」
「……ああ」
師匠は柔らかな笑みをこぼすと、私の身体に徐に跨がった。そのまま頬に手を添えられ、溶けてしまいそうな師匠の熱が伝わる。
「ししょ……う……」
愛おしむように私を見つめる師匠に、心臓が切なく疼き出す。師匠は私の前髪をかき上げるようにして撫でると、低く穏やかな声で呟いた。
「……子供。三人は欲しい」
「……ふふっ。頑張ります」
「今からな」
師匠は再び笑みを溢すと、私に顔を近付けた。そんな師匠の後頭部に腕を回し、甘く蕩けるような口づけを受け入れる。
「ん……っ」
ベッドが軋む音と淡い吐息が部屋に響き渡ったのは、それから数分経ってのことで。私達はまた、深く愛し合った。
──それから、時はあっという間に流れていった。
師匠に結婚しようと言われてから、直ぐに師匠の家に行ったものの「どこの娘かも分からないようなやつと結婚させられるか!」と師匠のお父さんに言われてしまい、家の中にすら通して貰えなかった。それから何度も何度もめげずに挨拶に行っているけれど、未だに結婚は認めて貰えていない。
「また来たのか! お前達は!」
今日は既に屋敷の前にお義父さんが立っていた。どこか師匠に似た目付きで険しい表情を浮かべながら、何故か両手いっぱいに袋を持っていた。
私は師匠と顔を見合わせ、愛娘のリーシャを抱えながら恐る恐る近付く。
「お義父さん。あの、今日はお話が……」
「うるさい! 帰れ! 結婚は認めん!」
鼓膜が破れそうな大きな声に、リーシャが腕の中でぐずり始める。慌ててあやそうとしたものの、リーシャは瞳を潤ませて声に出して泣き始めた。
「もういい、ナーシャ。親父に会わすのはリーシャが可哀想だ」
「で、でもっ」
「親父がそう言ってるんだ。今後は挨拶に来るのもやめよう」
師匠は私の肩を抱くと、そのままお義父さんに背を向けて、元来た道を辿ろうとした。然り気無く後ろに視線を向けると、どこか悲しそうな表情を浮かべるお義父さんの顔が。
「ま、待て!」
お義父さんは声を裏返しながら大股で此方に近寄ると、両手に抱えていた袋を私に押し付けるように差し出した。突然の行為に躊躇したものの、リーシャが先に袋の中を覗き込んでいた。
「わぁ! おかしがいっぱい!」
「え……?」
目を輝かせるリーシャの言葉に、恐る恐る袋の中を覗き込む。そこにはたくさんの焼き菓子、玩具、そして子供が読みそうな本──リーシャの為に用意したと思われるものが詰め込まれていた。
「ただの余り物だ! 結婚を認めるかは、また挨拶に来た時に考える!」
お義父さんは俊敏に踵を返すと、足早に屋敷の中に戻っていった。師匠は受け取った袋を覗き、分かりやすく溜め息を吐き出す。
「……こんなもの、従者にでも渡すのを頼めばいいものを」
「なんか師匠にそっくりだね?」
「は?」
主に素直になれないところが──と言いかけた言葉を呑み込み、ふふっと笑いかける。師匠は不満げな表情を浮かべたものの、暫くして私からリーシャを抱き上げた。
「お腹に障るだろう。俺がリーシャを抱いて帰ろう」
「えっ、でも。袋も持って貰ってるのに」
「駄目だ。転けないように俺の腕も掴んでおけ」
有無を言わさない口調で、師匠はリーシャを抱いたまま腕を近付ける。
やっぱりお義父さんにそっくりだなぁ、なんて思いながら、身体を寄り添うにして師匠の腕をそっと掴んだ。
「……お義父さんに二人目のこと話したら、何て言われるかな?」
「さぁな。また持ち帰る袋が増えるだけじゃないか」
「ふふっ、そうだね」
小さな命が宿ったお腹を優しく撫でながら、師匠に微笑みかける。そして師匠の腕を握り直し、並んで歩きながら私達は帰路を辿った。
師匠のお義父さんにやっと家に入れて貰えるようになったのは、私達の間に二人目の子供が生まれてからのことで。それはまた別のお話。
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最高!!
本当にみちょこさんの作品大好きです!!
作品全部読みました!!
これからも頑張ってください!!
応援しています
٩(๑>∀<๑)۶♥Fight♥
如月めぐる様、感想ありがとうございます(^^)
全ての作品を読んでいただけたとのことで、嬉しい気持ちでいっぱいです✨
温かな応援メッセージ、確かに頂きました(`・ω・´)ゞ
本当にありがとうございます💕
ソフィア様、感想ありがとうございます(^^)
師匠とルイスのまさかのぼーいずらぶ(*ノωノ)
ナーシャは学習能力の無さがまた笑
次回、師匠にまた襲い返されます💕
お気に入り登録ありがとうございます(/▽\)♪
応援も心強いです✨
そしてどうかお大事にしてください~😞💦
風邪が早くなおりますように((〃´д`〃))
団長キュンです。
作者様の作品全部好みどストライクでございます(*^^*)
良すぎて、ついつい感想を書いてしまいます…。
毎度毎度感想に返信ありがとうございます😅
結構嬉しいです(笑)
ソフィア様、感想ありがとうございます(^^)
此方の作品にも遊びに来ていただきありがとうございます~(*ノωノ)
いえいえ!
こんな風にたくさん感想を書いていただけて、私は家で小躍りしてしまうくらい嬉しいです~!✨
作品どストライクなんて、嬉しいお言葉です!
ついつい、感想の返信に熱が入ってしまってごめんなさい💦
ソフィア様は、風邪の症状はお変わりないでしょうか?
早く体調が良くなるように祈らせて頂きます🙏