坂木兄弟が家にやってきました。

風見鶏ーKazamidoriー

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坂木兄弟が家にやってきました。

エピローグ

*****

「母さん遅くなるってさ」

 ひそやかなデートを終え、電車を降りた俺たちは顔を見合わせた。スマートフォンを確認したユウマはマミさんの帰りが遅くなることを伝えてきた。早く帰宅する予定だった彼女は残業で遅くなり夕食を作れなくなったようだ。冷蔵庫にお惣菜があるものの、こういう日は弁当や外食もめずらしくない。

「ざる蕎麦とか鍋焼きうどんで良かったら作るけど? 玉子あったっけ?」
「久しぶりにうどんもいいね、材料買いにスーパーへ寄ろうか」
「ソウマにも連絡しとく」

 ソウマにも連絡すると返信があり店のまえで待っていた。ソウマが率先して持ったカゴには餅アイスやサラダチキンも追加される。お菓子を多めに買って帰り、俺が鍋焼きうどんを煮込むあいだ、ユウマとソウマは掃除と洗濯を終わらせる。ソウマは半熟の玉子と野菜をたっぷり入れて煮込んだうどんが気に入り、カレーのレパートリーに代わり時々出てくるようになった。



「ソウマ、勝手にチャンネル変えるなって」
「……」

 リビングでは俺とソウマのリモコン争奪戦が発生していた。スポーツチャンネルへ切り替えたヤツは腕の長さにまかせてリモコンを上へをあげる。俺がソウマの腕へよじ登っていたら、真剣にスマートフォンの画面を見るユウマが視界へ入った。

「ユウマはさっきから何見てるんだ?」
「これ? かわいいかえでのすがたを撮ってる」
「そんな動画どうするつもりだ!? スマホよこせ、消してやる!!」

 ユウマへ跳びかかるとヤツも俺の届かない位置へ腕を持ち上げる。ユウマへよじ登りやっとのことでスマホを奪った。終始ニコニコしている彼を後目に画像を確認すると俺の部屋の写真まであった。

「いつ部屋へ!? あっ、こんなものまで!?」

 ミズキから借りた本が写っていた。ドアが開けっぱなしだったから俺がいると思って覗いたらしい、枕元へ置いた本はスナップ写真みたいに撮影されている。表紙はポップなイラストでユウマが興味を示しそうにないライトノベル、なぜ写真へ撮ったのだろう。俺はゴクリと喉を鳴らした。

「ユウマ、まさか……読んでないよな?」
「さあ、読んだら不味まずいことでもあるの? なんの本?」
「べ、べつにフツーの本だよ」
「楓、またエロ本か?」
「ちがうって!!」

 年下のソウマにまで冷やかされた。ユウマは意地悪な笑みをうかべるだけで真相はわからない、ぜったいに俺の反応を弄んでいる。俺がユウマに翻弄されてるうちにリモコンをせしめたソウマが寄りかかってきた。圧しつぶされてくやしい俺は明日から腕立てすると心に誓った。



 ふと大事なことを思いだした。

「そういえば苗字って変わるのかな? どっちの姓になるんだろう、ユウマ聞いてる?」
「俺たちが鷹野たかのに変わる。色々なところへ届け出しないといけないからややこしいけどね。いまは変更の手つづき中さ」
坂木さかきって苗字、好きだったのに……」
「俺も養子縁組ようしえんぐみせずに坂木のままでいいと思ってた。でも楓といっしょになった時におなじ姓を名乗れるから変える」
「楓、俺も同じだぞ。鷹野ソウマだ」

 ユウマはくすぐったくなるような言葉を吐く。彼は法律について教えてくれたけど難しすぎて説明の半分は耳をすり抜けてしまった。ユウマとソウマは坂木兄弟ではなくなり、これからは俺が加わって鷹野3兄弟、学校でも呼び方が変わるから大変だろうが彼らは笑っていた。



 買ってきたお菓子をひろげ、3人でくつろいでいたらマミさんが帰宅した。もちろんマミさんと父のぶんも夕食を用意していた。1人用土鍋へ材料をいれて煮込むだけ、お手軽に作れる。

「楓くん、当番でもないのに夕食作ってもらって――――」
「ユウマとソウマも手伝ったから手間はかかってないよ。それよりもおかえり母さん、仕事おつかれさま」

 マミさんの動きが止まりこちらを見た。彼女の顔はみるみるうちに赤くなった。

「おかえり母さん、せっかく出迎えたのにただいまって言わないの? あと楓は俺のだから」
「マミ、鍋を温めていいか?」
「たっ、ただいま、ありがと……ソウマはちゃんと母さんって呼びなさい!!」

 俺に『母さん』と呼ばれて不意をつかれたマミさんへ兄弟が追い打ちをかける。ユウマは俺が恥ずかしくなるような主張を付けくわえ、ソウマは覚えたての煮込みうどんを作るため台所へ消えた。マミさんはうろたえていたが、しばらくして嬉しそうにはにかんだ。



「はぁ~やっぱりマミさんに追いつけなかった。ただいま、いい匂いがするね」
「おかえり父さん、今日は鍋焼きうどんだよ。父さんもすぐ食べる?」
「匂いでお腹が減ってきたから、食べようかな」

 タイミングよく父も帰宅した。父の鍋焼きうどんを作りに俺もソウマのいる台所へ走った。台所は湯気がたち、美味しそうな匂いが充満する。家族のそろったダイニングは今日も賑やかだ。


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