14 / 22
番外編(アズリエル視点)
1
しおりを挟む
「お兄様、見て下さい。お花がとても綺麗ですよ」
「そうだな! 天気もいいし、こんな日は外で横になると気持ちいいんだぜ!」
王宮の中央にある庭園を、仲良さそうに散歩している兄妹の姿があった。
あれは、レイか。隣にいるのは自慢の妹君だろうか?
ルクセンブルク王国では珍しい、少し青みを帯びた銀髪に、アメジストを思わせる美しく大きな瞳。花に囲まれて無邪気に微笑む少女はまるで、精霊姫のように可憐で美しい。
初めて彼女を見た時、そのあまりの美しさに私は思わず目を奪われた。
可愛い自慢の妹がいるとは聞いていたが、確かに自慢したくなるのも頷けるほどだった。
「兄上、立ち止まって何をご覧に……?」
その時、弟のジルベールが声をかけてきた。私の視線の先を辿り、ジルベールはニヤリと笑う。
「何でもない。そろそろ時間だし行こうか」
弟に見られていた事が恥ずかしくなって、私は足早に歩きだした。
その数ヵ月後──
「兄上、ご紹介します。こちらは俺の婚約者のフィオラです」
「初めまして、アズリエル様。ロバーツ公爵家のフィオラ・ロバーツと申します」
弟が婚約者だと言って紹介してきたのは、あの時庭園で見かけた美しい少女だった。
「初めまして、フィオラ嬢。ジルベールの兄のアズリエル・ルクセンブルクです」
「アズリエル様、いつも兄と仲良くして下さってありがとうございます」
「こちらこそ、レイスにはいつも助けられているよ。ありがとう」
「挨拶もすんだし! そろそろあっちに行こう。フィオラ」
話を遮るように、ジルベールはフィオラ嬢の腰に手を回して声をかける。
「はい、ジルベール様。それではアズリエル様、失礼致します」
得意気な笑み浮かべて、そのままフィオラ嬢を連れ去った。
心に何とも言えない悔しさが残る。
昔からジルベールは、何かと私に張り合ってくる面があった。王族としてのプライドは誰よりも高かったが、努力する事が苦手なためか、勉学も武芸もいまいちぱっとしなかった。次第に下の弟オリバーにまで抜かれるようになり、遊び呆けるようになっていった。
ジルベールは、お世辞にも女癖が良いとは言えない。可愛い子を見つけると、すぐに声をかけて別室に連れ込もうとする悪い癖がある。
あの時、フィオラ嬢に目を奪われていたのを弟は見ていた。もし自分のせいで、フィオラ嬢が弟の毒牙にはめられてしまったのだとしたら、何とも申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
◇
「どうしたー? エル、剣に迷いがあるように見えるぞ」
雑念を振り払いたい時、私は人目につかない秘密の場所で、よく剣の素振りをしていた。その場所で、このように気さくに話しかけてくるのは一人しかいない。
ロバーツ公爵子息のレイス・ロバーツ。気心の知れた私の友人だ。
「レイか……この前、お前の自慢の妹君フィオラ嬢に会った。弟の婚約者として、紹介されたよ……」
「そうなんだよ! 俺の可愛いフィオがまたあの糞王子の婚約者になるなんて……」
「また……?」
不自然な単語が聞こえて思わず聞き返してしまった。
「あ、いや、違う……とにかく! 何でうちのフィオなんだ? 他にも年の近い令嬢はいるだろう?」
「それは……すまない、レイ。多分私のせいだ」
「それはどういう意味だ?」
「実は数ヵ月前に、お前達が庭園を散歩しているのを見かけたんだ。それで……」
「それで?」
「フィオラ嬢のあまりの美しさに目を奪われていたら、それをジルベールに目撃されていたみたいなんだ」
「うちのフィオは可愛いからな! まぁ、それは仕方ないさ! そっか、でもそれなら、何で婚約者がお前じゃないんだ?」
「私が……?」
「見惚れてたんだろ? なのに、なんであの糞王子なんだ?」
「私への、あてつけ……だろうな、きっと。お世辞にも仲が良いとは言えないからな」
「そんな事に、あの糞王子はフィオを利用したっていうのか?!」
「本当にすまない。私があの時、目を奪われなければ……」
「エル。俺はお前になら、フィオを任せてもいいと思っている」
「い、いきなり何を言い出すのだ?!」
「それくらいお前の事を信用しているって事だよ。それに、フィオがあの馬鹿王子に心を許す確率は0%だから安心していいぞ」
「いや、私は別に、その……っ」
「女に全く興味のなかったお前が目を奪われるなんて、少なからず気があるのは確かだろう?」
「なんというか、その……美しい絵画を前に思わず感銘を受けた時のような感じなのだ。そこにあるだけで目を奪われる。フィオラ嬢の美しさは、そんな感じだった。そのせいで、弟に目をつけられてしまったのが申し訳なく思ってしまったのだよ」
「まぁ、深く気にするな。フィオなら大丈夫だ、俺がついているからな! でもいつか……そうだな、お前の手を借りなければならない時が来るかもしれない。その時は、頼りにしてるからな!」
「ああ、それは勿論。私に出来ることなら何でも力になろう」
他ならない親友の頼みだ。断る理由などない。レイと話して少し気が楽になった。
それから私は、フィオラ嬢の様子を気にかけるようになった。すると見えてきたのはジルベールの酷い態度ばかりだった。
「そうだな! 天気もいいし、こんな日は外で横になると気持ちいいんだぜ!」
王宮の中央にある庭園を、仲良さそうに散歩している兄妹の姿があった。
あれは、レイか。隣にいるのは自慢の妹君だろうか?
ルクセンブルク王国では珍しい、少し青みを帯びた銀髪に、アメジストを思わせる美しく大きな瞳。花に囲まれて無邪気に微笑む少女はまるで、精霊姫のように可憐で美しい。
初めて彼女を見た時、そのあまりの美しさに私は思わず目を奪われた。
可愛い自慢の妹がいるとは聞いていたが、確かに自慢したくなるのも頷けるほどだった。
「兄上、立ち止まって何をご覧に……?」
その時、弟のジルベールが声をかけてきた。私の視線の先を辿り、ジルベールはニヤリと笑う。
「何でもない。そろそろ時間だし行こうか」
弟に見られていた事が恥ずかしくなって、私は足早に歩きだした。
その数ヵ月後──
「兄上、ご紹介します。こちらは俺の婚約者のフィオラです」
「初めまして、アズリエル様。ロバーツ公爵家のフィオラ・ロバーツと申します」
弟が婚約者だと言って紹介してきたのは、あの時庭園で見かけた美しい少女だった。
「初めまして、フィオラ嬢。ジルベールの兄のアズリエル・ルクセンブルクです」
「アズリエル様、いつも兄と仲良くして下さってありがとうございます」
「こちらこそ、レイスにはいつも助けられているよ。ありがとう」
「挨拶もすんだし! そろそろあっちに行こう。フィオラ」
話を遮るように、ジルベールはフィオラ嬢の腰に手を回して声をかける。
「はい、ジルベール様。それではアズリエル様、失礼致します」
得意気な笑み浮かべて、そのままフィオラ嬢を連れ去った。
心に何とも言えない悔しさが残る。
昔からジルベールは、何かと私に張り合ってくる面があった。王族としてのプライドは誰よりも高かったが、努力する事が苦手なためか、勉学も武芸もいまいちぱっとしなかった。次第に下の弟オリバーにまで抜かれるようになり、遊び呆けるようになっていった。
ジルベールは、お世辞にも女癖が良いとは言えない。可愛い子を見つけると、すぐに声をかけて別室に連れ込もうとする悪い癖がある。
あの時、フィオラ嬢に目を奪われていたのを弟は見ていた。もし自分のせいで、フィオラ嬢が弟の毒牙にはめられてしまったのだとしたら、何とも申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
◇
「どうしたー? エル、剣に迷いがあるように見えるぞ」
雑念を振り払いたい時、私は人目につかない秘密の場所で、よく剣の素振りをしていた。その場所で、このように気さくに話しかけてくるのは一人しかいない。
ロバーツ公爵子息のレイス・ロバーツ。気心の知れた私の友人だ。
「レイか……この前、お前の自慢の妹君フィオラ嬢に会った。弟の婚約者として、紹介されたよ……」
「そうなんだよ! 俺の可愛いフィオがまたあの糞王子の婚約者になるなんて……」
「また……?」
不自然な単語が聞こえて思わず聞き返してしまった。
「あ、いや、違う……とにかく! 何でうちのフィオなんだ? 他にも年の近い令嬢はいるだろう?」
「それは……すまない、レイ。多分私のせいだ」
「それはどういう意味だ?」
「実は数ヵ月前に、お前達が庭園を散歩しているのを見かけたんだ。それで……」
「それで?」
「フィオラ嬢のあまりの美しさに目を奪われていたら、それをジルベールに目撃されていたみたいなんだ」
「うちのフィオは可愛いからな! まぁ、それは仕方ないさ! そっか、でもそれなら、何で婚約者がお前じゃないんだ?」
「私が……?」
「見惚れてたんだろ? なのに、なんであの糞王子なんだ?」
「私への、あてつけ……だろうな、きっと。お世辞にも仲が良いとは言えないからな」
「そんな事に、あの糞王子はフィオを利用したっていうのか?!」
「本当にすまない。私があの時、目を奪われなければ……」
「エル。俺はお前になら、フィオを任せてもいいと思っている」
「い、いきなり何を言い出すのだ?!」
「それくらいお前の事を信用しているって事だよ。それに、フィオがあの馬鹿王子に心を許す確率は0%だから安心していいぞ」
「いや、私は別に、その……っ」
「女に全く興味のなかったお前が目を奪われるなんて、少なからず気があるのは確かだろう?」
「なんというか、その……美しい絵画を前に思わず感銘を受けた時のような感じなのだ。そこにあるだけで目を奪われる。フィオラ嬢の美しさは、そんな感じだった。そのせいで、弟に目をつけられてしまったのが申し訳なく思ってしまったのだよ」
「まぁ、深く気にするな。フィオなら大丈夫だ、俺がついているからな! でもいつか……そうだな、お前の手を借りなければならない時が来るかもしれない。その時は、頼りにしてるからな!」
「ああ、それは勿論。私に出来ることなら何でも力になろう」
他ならない親友の頼みだ。断る理由などない。レイと話して少し気が楽になった。
それから私は、フィオラ嬢の様子を気にかけるようになった。すると見えてきたのはジルベールの酷い態度ばかりだった。
13
あなたにおすすめの小説
助けた青年は私から全てを奪った隣国の王族でした
Karamimi
恋愛
15歳のフローラは、ドミスティナ王国で平和に暮らしていた。そんなフローラは元公爵令嬢。
約9年半前、フェザー公爵に嵌められ国家反逆罪で家族ともども捕まったフローラ。
必死に無実を訴えるフローラの父親だったが、国王はフローラの父親の言葉を一切聞き入れず、両親と兄を処刑。フローラと2歳年上の姉は、国外追放になった。身一つで放り出された幼い姉妹。特に体の弱かった姉は、寒さと飢えに耐えられず命を落とす。
そんな中1人生き残ったフローラは、運よく近くに住む女性の助けを受け、何とか平民として生活していた。
そんなある日、大けがを負った青年を森の中で見つけたフローラ。家に連れて帰りすぐに医者に診せたおかげで、青年は一命を取り留めたのだが…
「どうして俺を助けた!俺はあの場で死にたかったのに!」
そうフローラを怒鳴りつける青年。そんな青年にフローラは
「あなた様がどんな辛い目に合ったのかは分かりません。でも、せっかく助かったこの命、無駄にしてはいけません!」
そう伝え、大けがをしている青年を献身的に看護するのだった。一緒に生活する中で、いつしか2人の間に、恋心が芽生え始めるのだが…
甘く切ない異世界ラブストーリーです。
婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~
岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。
「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」
開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。
気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか
岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。
「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」
ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。
本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。
第一王女アンナは恋人に捨てられて
岡暁舟
恋愛
第一王女アンナは自分を救ってくれたロビンソンに恋をしたが、ロビンソンの幼馴染であるメリーにロビンソンを奪われてしまった。アンナのその後を描いてみます。「愛しているのは王女でなくて幼馴染」のサイドストーリーです。
次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のシャレルは、第二王子のジョーンによって無実の罪で投獄されてしまう。絶望の中彼女を救ってくれたのは、ずっと嫌われていると思っていた相手、婚約者で王太子のダーウィンだった。
逃亡生活を送る中、お互い思い合っていたのにすれ違っていた事に気が付く2人。すれ違った時間を取り戻すかのように、一気に距離を縮めていく。
全てを失い絶望の淵にいたシャレルだったが、ダーウィンとの逃避行の時間は、今まで感じた事のないほど、幸せな時間だった。
新天地マーラル王国で、ダーウィンとの幸せな未来を思い描きながら、逃避行は続く。
そしていよいよ、あと少しでマーラル国というところまで来たある日、彼らの前にジョーンが現れたのだ。
天国から地獄に叩き落されたシャレルは、絶望の中生涯の幕を下ろしたはずだったが…
ひょんなことから、ダーウィンと婚約を結んだ8歳の時に、戻っていた。
2度目の人生は、絶対にダーウィンと幸せになってみせる、そう決意したシャレルだったが、そううまくはいかず、次第に追い詰められていくのだった。
※シャレルとダーウィンが幸せを掴むかでのお話しです。
ご都合主義全開ですが、どうぞよろしくお願いします。
カクヨムでも同時投稿しています。
最強の薬師、婚約破棄される〜王子様の命は私の懐の中〜
岡暁舟
恋愛
代々薬師として王家に仕えてきたボアジエ公爵家。15代当主の長女リンプルもまた、優秀な薬師として主に王子ファンコニーの体調を整えていた。
献身的に仕えてくれるリンプルのことを、ファンコニーは少しずつ好きになっていった。次第に仲を深めていき、ついに、2人は婚約することになった。だがしかし、ある日突然問題が起きた。ファンコニーが突然倒れたのだ。その原因は、リンプルの処方の誤りであると決めつけられ、ファンコニー事故死計画という、突拍子もない疑いをかけられてしまう。
調査の指揮をとったのは、ボアジエ家の政敵であるホフマン公爵家の長女、アンナだった。
「ファンコニー様!今すぐあの女と婚約破棄してください!」
意識の回復したファンコニーに、アンナは詰め寄った。だが、ファンコニーは、本当にリンプルが自分を事故死させようと思ったのか、と疑問を抱き始め、自らの手で検証を始めることにした……。
婚約破棄を宣告した王子は慌てる?~公爵令嬢マリアの思惑~
岡暁舟
恋愛
第一王子ポワソンから不意に婚約破棄を宣告されることになった公爵令嬢のマリア。でも、彼女はなにも心配していなかった。ポワソンの本当の狙いはマリアの属するランドン家を破滅させることだった。
王家に成り代わって社会を牛耳っているランドン家を潰す……でも、マリアはただでは転ばなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる