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2、偽りの夫婦だとバレたら死罪になりそうです

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「王国の太陽、ランス陛下にご挨拶申し上げます。ベルナデッタ・シャドウクロツと申します」
「堅苦しいのはいいよ。ここには今、僕達しか居ないわけだし。それで、二人はどこで知り合ったの?」
「魔法実技の臨時講師として魔法学園に行った時に、俺が一目惚れした」

 正直、私とジルフィード様には接点が皆無だった。無理やり何とか作り出した接点が、魔法学園での関係だった。
 とはいえ、氷の魔王と揶揄されるスーパーエリート魔法使いの臨時講師が学園に来たのは、在学中にほんの一回。流石にこの馴れ初めでは無理があるんじゃないかと思ったけど、それ以外に接点がないのだから仕方ない。

「やだ、ジルったら! 生徒に手を出すなんて教師の風上にもおけないじゃない」

 どうやらランス陛下は茶目っ気いっぱいのお方らしい。

「生徒の間は何も手を出していない」
「ふーん、だから卒業と同時に屋敷に連れてったんだ~」

 ある程度事前に打ち合わせはしていたものの、ランス陛下はまだ疑いの眼差しをこちらへ向けている。
 そりゃそうだよね。普通に考えて、ジルフィード様が七歳も年下の平凡な令嬢に一目惚れする要素がない。

「公爵夫人は、ジルを愛してるの?」
「は、はい。お慕いしております」
「本当にそうかな~表情硬いな~脅されてたりしてない?」
「いえ、そのような事は決して!」
「なんか必死だな~そうだ! 証明してみせてよ」
「証明、ですか?」
「愛し合っている夫婦なら簡単だよね。キスして見せて。略式で済ませちゃうから、結婚式参加出来なかったんだよね。今ここで、誓いのキスをして見せて」

 こ、これが契約の時に仰られていた多少のボディタッチなのね。

「分かった」

 ジルフィード様は迷うことなく身を屈めて私にキスを落とした。私のファーストキスは、国王への証明のために散った。
 これでやっと信じてもらえたと思ったら、ランス陛下はそれでも不満だったらしい。

「そんな子供騙しみたいなやつじゃ認められないよ。我が弟は任務遂行のためなら、如何なる事もやってのけるからねぇ」

 ヤバい、まだ全然疑いが晴れてない。

「人前でするような事ではない。妻が恥ずかしがっているから、ふざけるのはやめてくれ」

 なるほど、恥ずかしがればよいのですね。モジモジ。

「ふざけてないよ。愛する妻になら、潔癖症の君でも出来るでしょう?」

 ジルフィード様って潔癖症だったんだ。確かに家の中でも、常に手袋をしていらっしゃったわね。

「僕は心配しているんだよ。優秀な君の血筋が途絶えてしまったら困るからね。僕が紹介してあげた優秀な魔力を持つ令嬢をことごとく断って選んだ妻が、偽りであっては困るから。もし国王である僕を騙してたら、公爵夫人の死罪は免れないよ」

 死罪?! なんか、恐ろしい言葉が聞こえた。モジモジしてる場合ではない。
 にこやなか笑みを浮かべているけど、ランス陛下の目は笑っていない。どうやら冗談ではないようだと、ピリピリした空気から嫌でも分かる。
 美味しい話には裏がある。まさかここまで重たい裏があったなんて……契約書には書いてなかったじゃん。

「やれば、信じるのか?」
「勿論」

 ジルフィード様の顔色が悪い。潔癖症なら、私に触れる事でさえ本当は嫌で仕方ないのだろう。頬に添えられたジルフィード様の手が震えている。なんか目の前のジルフィード様、今にも吐きそうなんだけど。いくらイケメンでも嫌だよ、もらいゲロなんて。

 本当は使わない方がいいのは分かってる。生前お母さんに、この力の事は秘密にしておくよう言われた。でもここで嘘だとバレてしまったら、殺される上にもらいゲロ! 手段は選んでいられない!

 癒しの力よ、かの者の心を浄化したまえ。あらゆる恐怖や不安を取り除く浄化魔法を、ジルフィード様が私に触れている手から送り込む。

 ジルフィード様が驚いた様子でこちらをご覧になっている。「すまない……」と、私にだけ聞こえる小さな声で仰った後、再び口付けをされた。

 ジルフィード様の舌が口内に入って私の舌に触れた瞬間、私は思い出した。かつて、封印されてしまった力と記憶を。

 ああ、どうしよう。
 血が滾る。
 殴りたい。
 汚い肉を殴り倒したい!
 そこの玉座に座った、汚ならしい肉を!

「ふーん。そこまでやるなら認めてあげるよ」

 つまらなさそうにそう仰ったランス陛下に、私は話しかけた。

「ランス陛下、私からも一つお願いがあるのですが、聞いて頂けませんか?」
「なーに? 言ってごらん」
「一発、殴らせて下さい」
「なんで?」
「ジルフィード様の潔癖症は、そんな簡単に治るものではございません。わざわざ無理をさせてまで、私の愛する旦那様にそんな余興をさせた陛下に少々腹を立てておりまして」

 もっともらしい言い訳を述べて、汚ならしい肉に声をかける。邪気を纏った人間の肉は、私には黒く淀んで見える。早く目の前の汚ならしい肉を、殴らせろ。頭の中はそれでいっぱいだった。

「そう、分かったよ」
「ありがとうございます。それでは遠慮なく……」
「は? ちょっと、何その構えは……!?」

 こちらを見て狼狽えるランス陛下。

「問答無用。散れ、悪肉退散!」

 拳に聖気を込めて、思いっきり顔を殴ってやった。ランス陛下が玉座からふっ飛んで転げ落ちた。

「ふぅ……久しぶりに汚いものを殴ってしまったわ」
「あ、兄上?!」

 心配そうに駆け寄ったジルフィード様に、とりあえず無害だよってアピールしとこ。

「ああ、ご安心下さい。怪我はされていませんよ。殴りながら治しましたので。ついでに、腹黒い心の方も浄化して差し上げました」
「僕が間違っていた。ジル、無理を強いて悪かったね。君達の愛は本物だ。認めよう、君達の結婚を!」

 死罪は免れたけど、ジルフィード様からの説明せよと言わんばかり圧からは、逃れられそうになさそうだ。あーあ、どうしよう。
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