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第三十章「メイド イン ベルゲングリューン」(3)
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3
「なんで呼んでない人がめちゃくちゃいるの……」
僕が自室からどっさり資料を持って降りると、応接室はちょっとしたホームパーティみたいになっていた。
「お兄様!ご無沙汰してます!」
「クラン城の転送ゲートを使って父上に挨拶に行ってきたら、ユキやアリサたちがついでにリヒタルゼンの露店巡りをしたいと言うのでな。一緒に買い物を終えて戻ってきたところだ」
ゾフィアとテレサが挨拶をして、アリサがにっこり笑って手を振った。
「そうしたらビックリよ!! いつの間にかこんなキレイなメイドさん囲って!!」
「囲うって言うな! 雇ったんだ!」
ビシィっとアサヒを指差すユキに僕は思わずツッコんだ。
当のアサヒはというと……。
「おー、アネゴの得物めっちゃ激マブじゃん!!」
「ふふ、アサヒの拳闘スタイルなら、特殊警棒よりこちらのトンファーの方が向いているのではないか?」
「おおっ、ちょっと触らせてもらっていいか? うおお、なんだこれ!! こんなにくるくる回るのどうやって使うんだよ?」
「アサヒのパンチと同じ要領だ。当てる瞬間に強く握り込むことで、回転が止まり、遠心力がすべて相手のこめかみに集中する。こうだ。ハッ!!」
「うぉぉぉ……、アネゴまじでシビィな……。さすが、ボスが一目置いてるだけのことはあるぜ……」
「アサヒちゃんがさっきから言ってるボスって、ベルのこと?」
「そうそう。やっぱ主従関係ってやつはしっかりしとかねぇと、気合い入んねぇだろ?」
「くすっ。あなたって、面白い子ね」
「メルさんもすげぇ剣の使い手だって聞いてるぜ。後でちょっと見せてくれよ?」
「もちろんいいわよ。あなたの拳闘も見せてね」
(な、なんかめちゃくちゃ溶け込んどる……!! 兄貴、妹の社交スキルを少しは見習え!!)
見たことがないかわいい女の子が他の女子とキャッキャしているのが気になるのか、ルッ君がお菓子を食べながらチラチラ見ている。
ああ、そういう感じは、アサヒにはきっと……。
「んだテメェ、さっきからジロジロ見てんじゃねぇよシャバ僧がぁ!」
「ひぃぃっ」
年下の女の子に因縁をつけられて、ルッ君があわてて僕の方に逃げてきた。
「な、なんなの! あの凶暴な女の子?!」
動揺したルッ君の声が裏返って、ジョセフィーヌみたいな口調になってるのがちょっと面白い。
「なんなのって、うちのメイドだよ。リョーマの妹」
「あんな凶暴なメイドがいるかよ!! えっ? リョーマの妹?! っていうかシャバ僧ってなに?!」
一度に情報を処理しきれない様子で、ルッ君が僕に尋ねてきた。
「シャバいは、『冴えない、ダサい、根性なし』みたいな意味だな。シャバ僧は、『シャバい小僧』の略と考えられる」
ジルベールが応接室のソファで本を読みながら、後ろにいるルッ君に言った。
「お前、なんでそんなこと知ってんの?」
「本で読んだ」
「どんな本読んでんだ……」
ルッ君がジルベールにツッコんでから、急に僕の方をくるっと向き直った。
「するとあれか? 俺はお前んとこの年下の使用人に、小僧呼ばわりされたってことか?」
「おおっとー? これは本人に直接言えなくて親や先生にクレームを言いに来るパターンか?」
「ぐぐっ……」
「ルッ君はそういうとこがシャバ僧なんだよー。ほら、文句があるならアサヒにガツンと言っといでよ」
「い、言えるわけないだろ……」
「シャバ僧だ」
「シャバ僧だな」
僕とジルベールがそう言うと、何かを決心したようにルッ君が水を一杯ゴクゴクと飲み干して、もう一度アサヒの方に向かった。
「おい、あのな!」
「あ、いっけねぇ!!」
「うわっ」
アサヒが急に大きな声を出して振り返ったので、勢い勇んで話しかけたはずのルッ君はめちゃくちゃ動揺した。
「新しいお客様がいらっしゃったんだった。気合いの入ったメイドとして、お茶出しぐれぇはキッチリこなさねぇとな。おい、シャバ僧、そこのトレイを厨房に下げてくれ」
「はい」
アサヒに言われて、ルッ君が思わず反射的に使用済みの食器が載ったトレイを持ち上げた。
きっとルッ君のお姉さんのご指導の賜物だろう。
「悪ぃな。後で焼き菓子食わせてやっからよ」
「へへ、ありがとうございます」
ルッ君がへらへらと笑いながらトレイを運んで、途中で自分のヘタレ加減に気付いて無表情になっていくのを、僕とジルベールはこれ以上見ないように顔を背けた。
「すごい人ですね……アサヒさんって」
テレサが言った。
「たぶん、テレサと同い年なんじゃないかな?」
「……メイドっていうのは、いいアイディアよね。私も雇ってもらおうかしら」
「アリサ様、それ、私も思いました!!」
「同級生と同級生の妹を使用人に雇う学生って、どんなだよ……」
「E組生徒の妹をメイドにしておいて、よく言うわよ」
「あ、そうだった」
アリサにツッコまれて、思わず僕は苦笑した。
「でも、アサヒちゃんって、いい子よね。仲良くなれそう」
「アリサも最初あんな感じだったもんね。カフェテラスでこう、『誰も話しかけるんじゃねぇ』みたいな空気出して珈琲飲んで」
「あのね、私は聖女ってだけで、さっきのシャバ僧みたいなのがいっぱい話しかけてくるから、仕方なくああしてたのよ」
「かわいそうだから、君たちまでシャバ僧呼ばわりはやめてあげて……」
本当に使用済の食器が載ったトレイを厨房まで運んでいった級友を思うと、僕は目頭が熱くなった。
「そういえば、最近のアリサはお告げがどうこうって話あんまりしないね」
「神託よ、神託! 飲み屋の占い師みたいな言い方しないでくれる?」
「神託とお告げって、同じ意味じゃないの……」
「同じ意味よ。でも、『お告げがあった』っていうのはうさんくさい祈祷師でも気軽に言ったりするけど、『神託』を受けられるのは聖女だけなのよ」
「ヴァイリス産牛って名乗るのはいいけど、アルミノ牛は勝手に名乗れない、みたいな感じかな」
「……お兄様、神の御言葉をブランド牛で例えるのはいくらなんでも……」
「そのうち天罰が下るわよ」
テレサとアリサにツッコまれた。
「……神託の話をしなくなった話、聞きたい?」
「うん」
アリサが若干言いづらそうにしているのが気になったけど、僕はうなずいた。
「ほとんどが、あなたに関することなのよ」
「へ? 僕?」
「そう。それも、ひどかったの」
「ひどいって、どうひどいの……?」
「今日中に息の根を止めろとか、この日のこの場所で落石があるから、連れて行けとか……」
「神様ひどくない?!」
僕は思わずうめいた。
「僕が何をしたっていうんだ……」
「……それがね、したのよ」
アリサはそう言って、僕のスーツをつんつん、とつまんだ。
「アウローラに憑依させた」
「あ……」
なるほど。
世界を一度滅ぼしかけたという、破壊と混沌の魔女アウローラ。
その力は、神をすら恐れさせるということか。
「学期休暇の時、リヒタルゼンでみんなが買い物をしている間に、ベルはゾフィアとテレサと三人でエレインのお祖母さんのお店に入ったでしょ。そこで、アウローラ装備を手に入れた」
「そうそう。そうだったね」
「あの時はビックリしました。埃だらけで、どれも同じ服に見える中で、お兄様が、まるで最初から決めていたかのようにスタスタって歩いて、『この服に決めた』って……」
当時のことを思い出して、テレサが言った。
「あの時、私は珈琲豆の買い出しに夢中になっていたから気が付かなかったけど、神託でものすごい警告が何度もあったのよ。今すぐあなたを止めないと、世界が崩壊するって」
「まぁ……一歩間違ったらそうだろうなぁ……」
というか、今でもアウローラがその気になったら、僕の身体を使っていつでも世界を崩壊させることぐらい、できそうな気がする。
そんなことには興味なさそうだけど。
『一応言っておくが、私が世界を滅ぼしかけたというのは、時の権力者たちによって歴史が歪曲されて伝わっているだけだからな?』
(わかってるって。本当は宇宙を滅ぼしかけたんでしょ?)
『ふふっ、……そのジョークは実に上質だな。満足した』
頭の中でささやいてきたアウローラが満足気に戻っていった。
「ところが、そうはならなかった。ベルとアウローラの相性が良かったというか、良すぎたというか……。で、その途端、今度は神託の内容がひっくり返ったのよ」
「ひっくり返った?」
僕が聞き返すと、アリサが少し言いよどんでから、無表情に言った。
「今夜ベルの寝込みを襲えば確実に子宝が授かるとか、メルは奥手だが油断するなとか、逆にゾフィアは積極的だが安心していい、でも妹の方は厳重に警戒しろとか……」
「は?」
「ア、アリサ様!?」
無表情を装っているけど、アリサの顔が少し赤くなっている。
「いくら神様の言葉だからって、そんな話を四六時中聞かされたら頭おかしくなっちゃうと思わない?! だから、当分の間、ご神託は無視することにしたの!」
「聖女も大変なんだね……」
神様って、もっとこう、抽象的なことを厳かに言うイメージだったけど、言ってること親戚のオバチャンみたいだな……。
僕らがそんなことを話していると、アサヒが来客リストのメモを確認しながらテキパキと周囲を確認していた。
「えっと、ムキムキの男二人とムキムキのオネエはボスのダチだから、他のダチと同じパーティセットでいいとして……。あ、だめだ、ボスによると、ムキムキの片方はバカみたいに食うんだっけか。……安売りのハムでも食わせとくか」
キムと花京院、ジョセフィーヌも来たのか。
キムは何を食っても「うまい」って言うから、そのハムで正解だ。
「片眼鏡の金持ってそうなダンナがギュンター様で、親戚から結婚はまだかとか言われながら仕事してそうな姐さんがソフィア様、丸メガネのハーフエルフのブン屋がメアリー様……」
声がデカいよ!
「様」をつけたら何言ってもいいと思ってるんじゃないだろうか。
そんなことを考えていたら、後ろから僕の肩にぽん、と手が置かれた。
「全員揃ったから、そろそろ話を聞かせてくれないかね?」
「かしこまりました。宰相閣下」
僕は立ち上がって、ヒルダ先輩に目で合図をしてから、ベルゲングリューン城の会議室である円卓の間に向かった。
「なんで呼んでない人がめちゃくちゃいるの……」
僕が自室からどっさり資料を持って降りると、応接室はちょっとしたホームパーティみたいになっていた。
「お兄様!ご無沙汰してます!」
「クラン城の転送ゲートを使って父上に挨拶に行ってきたら、ユキやアリサたちがついでにリヒタルゼンの露店巡りをしたいと言うのでな。一緒に買い物を終えて戻ってきたところだ」
ゾフィアとテレサが挨拶をして、アリサがにっこり笑って手を振った。
「そうしたらビックリよ!! いつの間にかこんなキレイなメイドさん囲って!!」
「囲うって言うな! 雇ったんだ!」
ビシィっとアサヒを指差すユキに僕は思わずツッコんだ。
当のアサヒはというと……。
「おー、アネゴの得物めっちゃ激マブじゃん!!」
「ふふ、アサヒの拳闘スタイルなら、特殊警棒よりこちらのトンファーの方が向いているのではないか?」
「おおっ、ちょっと触らせてもらっていいか? うおお、なんだこれ!! こんなにくるくる回るのどうやって使うんだよ?」
「アサヒのパンチと同じ要領だ。当てる瞬間に強く握り込むことで、回転が止まり、遠心力がすべて相手のこめかみに集中する。こうだ。ハッ!!」
「うぉぉぉ……、アネゴまじでシビィな……。さすが、ボスが一目置いてるだけのことはあるぜ……」
「アサヒちゃんがさっきから言ってるボスって、ベルのこと?」
「そうそう。やっぱ主従関係ってやつはしっかりしとかねぇと、気合い入んねぇだろ?」
「くすっ。あなたって、面白い子ね」
「メルさんもすげぇ剣の使い手だって聞いてるぜ。後でちょっと見せてくれよ?」
「もちろんいいわよ。あなたの拳闘も見せてね」
(な、なんかめちゃくちゃ溶け込んどる……!! 兄貴、妹の社交スキルを少しは見習え!!)
見たことがないかわいい女の子が他の女子とキャッキャしているのが気になるのか、ルッ君がお菓子を食べながらチラチラ見ている。
ああ、そういう感じは、アサヒにはきっと……。
「んだテメェ、さっきからジロジロ見てんじゃねぇよシャバ僧がぁ!」
「ひぃぃっ」
年下の女の子に因縁をつけられて、ルッ君があわてて僕の方に逃げてきた。
「な、なんなの! あの凶暴な女の子?!」
動揺したルッ君の声が裏返って、ジョセフィーヌみたいな口調になってるのがちょっと面白い。
「なんなのって、うちのメイドだよ。リョーマの妹」
「あんな凶暴なメイドがいるかよ!! えっ? リョーマの妹?! っていうかシャバ僧ってなに?!」
一度に情報を処理しきれない様子で、ルッ君が僕に尋ねてきた。
「シャバいは、『冴えない、ダサい、根性なし』みたいな意味だな。シャバ僧は、『シャバい小僧』の略と考えられる」
ジルベールが応接室のソファで本を読みながら、後ろにいるルッ君に言った。
「お前、なんでそんなこと知ってんの?」
「本で読んだ」
「どんな本読んでんだ……」
ルッ君がジルベールにツッコんでから、急に僕の方をくるっと向き直った。
「するとあれか? 俺はお前んとこの年下の使用人に、小僧呼ばわりされたってことか?」
「おおっとー? これは本人に直接言えなくて親や先生にクレームを言いに来るパターンか?」
「ぐぐっ……」
「ルッ君はそういうとこがシャバ僧なんだよー。ほら、文句があるならアサヒにガツンと言っといでよ」
「い、言えるわけないだろ……」
「シャバ僧だ」
「シャバ僧だな」
僕とジルベールがそう言うと、何かを決心したようにルッ君が水を一杯ゴクゴクと飲み干して、もう一度アサヒの方に向かった。
「おい、あのな!」
「あ、いっけねぇ!!」
「うわっ」
アサヒが急に大きな声を出して振り返ったので、勢い勇んで話しかけたはずのルッ君はめちゃくちゃ動揺した。
「新しいお客様がいらっしゃったんだった。気合いの入ったメイドとして、お茶出しぐれぇはキッチリこなさねぇとな。おい、シャバ僧、そこのトレイを厨房に下げてくれ」
「はい」
アサヒに言われて、ルッ君が思わず反射的に使用済みの食器が載ったトレイを持ち上げた。
きっとルッ君のお姉さんのご指導の賜物だろう。
「悪ぃな。後で焼き菓子食わせてやっからよ」
「へへ、ありがとうございます」
ルッ君がへらへらと笑いながらトレイを運んで、途中で自分のヘタレ加減に気付いて無表情になっていくのを、僕とジルベールはこれ以上見ないように顔を背けた。
「すごい人ですね……アサヒさんって」
テレサが言った。
「たぶん、テレサと同い年なんじゃないかな?」
「……メイドっていうのは、いいアイディアよね。私も雇ってもらおうかしら」
「アリサ様、それ、私も思いました!!」
「同級生と同級生の妹を使用人に雇う学生って、どんなだよ……」
「E組生徒の妹をメイドにしておいて、よく言うわよ」
「あ、そうだった」
アリサにツッコまれて、思わず僕は苦笑した。
「でも、アサヒちゃんって、いい子よね。仲良くなれそう」
「アリサも最初あんな感じだったもんね。カフェテラスでこう、『誰も話しかけるんじゃねぇ』みたいな空気出して珈琲飲んで」
「あのね、私は聖女ってだけで、さっきのシャバ僧みたいなのがいっぱい話しかけてくるから、仕方なくああしてたのよ」
「かわいそうだから、君たちまでシャバ僧呼ばわりはやめてあげて……」
本当に使用済の食器が載ったトレイを厨房まで運んでいった級友を思うと、僕は目頭が熱くなった。
「そういえば、最近のアリサはお告げがどうこうって話あんまりしないね」
「神託よ、神託! 飲み屋の占い師みたいな言い方しないでくれる?」
「神託とお告げって、同じ意味じゃないの……」
「同じ意味よ。でも、『お告げがあった』っていうのはうさんくさい祈祷師でも気軽に言ったりするけど、『神託』を受けられるのは聖女だけなのよ」
「ヴァイリス産牛って名乗るのはいいけど、アルミノ牛は勝手に名乗れない、みたいな感じかな」
「……お兄様、神の御言葉をブランド牛で例えるのはいくらなんでも……」
「そのうち天罰が下るわよ」
テレサとアリサにツッコまれた。
「……神託の話をしなくなった話、聞きたい?」
「うん」
アリサが若干言いづらそうにしているのが気になったけど、僕はうなずいた。
「ほとんどが、あなたに関することなのよ」
「へ? 僕?」
「そう。それも、ひどかったの」
「ひどいって、どうひどいの……?」
「今日中に息の根を止めろとか、この日のこの場所で落石があるから、連れて行けとか……」
「神様ひどくない?!」
僕は思わずうめいた。
「僕が何をしたっていうんだ……」
「……それがね、したのよ」
アリサはそう言って、僕のスーツをつんつん、とつまんだ。
「アウローラに憑依させた」
「あ……」
なるほど。
世界を一度滅ぼしかけたという、破壊と混沌の魔女アウローラ。
その力は、神をすら恐れさせるということか。
「学期休暇の時、リヒタルゼンでみんなが買い物をしている間に、ベルはゾフィアとテレサと三人でエレインのお祖母さんのお店に入ったでしょ。そこで、アウローラ装備を手に入れた」
「そうそう。そうだったね」
「あの時はビックリしました。埃だらけで、どれも同じ服に見える中で、お兄様が、まるで最初から決めていたかのようにスタスタって歩いて、『この服に決めた』って……」
当時のことを思い出して、テレサが言った。
「あの時、私は珈琲豆の買い出しに夢中になっていたから気が付かなかったけど、神託でものすごい警告が何度もあったのよ。今すぐあなたを止めないと、世界が崩壊するって」
「まぁ……一歩間違ったらそうだろうなぁ……」
というか、今でもアウローラがその気になったら、僕の身体を使っていつでも世界を崩壊させることぐらい、できそうな気がする。
そんなことには興味なさそうだけど。
『一応言っておくが、私が世界を滅ぼしかけたというのは、時の権力者たちによって歴史が歪曲されて伝わっているだけだからな?』
(わかってるって。本当は宇宙を滅ぼしかけたんでしょ?)
『ふふっ、……そのジョークは実に上質だな。満足した』
頭の中でささやいてきたアウローラが満足気に戻っていった。
「ところが、そうはならなかった。ベルとアウローラの相性が良かったというか、良すぎたというか……。で、その途端、今度は神託の内容がひっくり返ったのよ」
「ひっくり返った?」
僕が聞き返すと、アリサが少し言いよどんでから、無表情に言った。
「今夜ベルの寝込みを襲えば確実に子宝が授かるとか、メルは奥手だが油断するなとか、逆にゾフィアは積極的だが安心していい、でも妹の方は厳重に警戒しろとか……」
「は?」
「ア、アリサ様!?」
無表情を装っているけど、アリサの顔が少し赤くなっている。
「いくら神様の言葉だからって、そんな話を四六時中聞かされたら頭おかしくなっちゃうと思わない?! だから、当分の間、ご神託は無視することにしたの!」
「聖女も大変なんだね……」
神様って、もっとこう、抽象的なことを厳かに言うイメージだったけど、言ってること親戚のオバチャンみたいだな……。
僕らがそんなことを話していると、アサヒが来客リストのメモを確認しながらテキパキと周囲を確認していた。
「えっと、ムキムキの男二人とムキムキのオネエはボスのダチだから、他のダチと同じパーティセットでいいとして……。あ、だめだ、ボスによると、ムキムキの片方はバカみたいに食うんだっけか。……安売りのハムでも食わせとくか」
キムと花京院、ジョセフィーヌも来たのか。
キムは何を食っても「うまい」って言うから、そのハムで正解だ。
「片眼鏡の金持ってそうなダンナがギュンター様で、親戚から結婚はまだかとか言われながら仕事してそうな姐さんがソフィア様、丸メガネのハーフエルフのブン屋がメアリー様……」
声がデカいよ!
「様」をつけたら何言ってもいいと思ってるんじゃないだろうか。
そんなことを考えていたら、後ろから僕の肩にぽん、と手が置かれた。
「全員揃ったから、そろそろ話を聞かせてくれないかね?」
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