士官学校の爆笑王 ~ヴァイリス英雄譚~

まつおさん

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第二部 第一章「高く付いた指輪」(7)

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『ねぇ、まつおちゃん。本当に船の手配してくれたのぉ? 全然来る気配がないんだケド……』
『あれー、おかしいなぁ。そろそろ来るはずなんだけど……』

 指輪を通して、ジョセフィーヌと会話した。

『ベル、せめてどんな船なのか、特徴を教えてくれないか?』
『えっとね……ぷっ』
『きっと、見ればすぐにわかると思うわよ……ぷぷっ』

 ヴェンツェルの問いに、僕とユキは笑いをこらえきれずに噴き出してしまった。

『おっ、見ろよ、なんかデカい船が見えてきたぜ?』

 花京院が言った。

『い、いや、アレは違うだろ……、さすがにデカすぎ……って、なんだありゃあああ?!』
『えっぐ……、大砲の数えっぐ……』

 ルッ君とミスティ先輩の声。

『お、おい、あれは軍艦じゃないか?! どこの船だ?! ヴァイリス海軍は把握しているのか?!』
『他国の船なら穏やかではないな……。一度祖父殿に確認を……』
『木造なので、ジェルディクの船ではないようですね……』
『海賊ということも考えられる。一応警戒していたほうが良さそうだな』
『えっ? えっ、えっ、えっ?』

 ヴェンツェル、ヒルダ先輩、テレサにオールバックくん、ミヤザワくんの声。

『ヒルダ先輩、くすっ、大丈夫みたいですよ』
『ふむ……、クククッ、卿よ、そういうことか……』
『ああ、そういうことのようだね。……やれやれ、君は相変わらず、派手な男だな』
『……どういうことですの?』

 アリサとジルベール、ギルサナスが最初に気付き、アーデルハイドが尋ねる。

『あの旗をよく見てみるといい』
『『『『『『『『『ええええええええええー!!!』』』』』』』』』

 イグニア南東部の港街、ポートイグニアスに、僕たちの船が接岸する。

 一級品のオーク材で組まれた美しい竜骨に、王侯貴族の船もかくやという豪華な船首楼。
 大きく張り出された純白の三本マスト。
 そんな美しい船に、側面両側で合計100門の魔導カノン砲をびっしりと備えた威容。
 ベルゲングリューン伯爵家の紋章旗である「水晶龍の紋章旗」が大きく掲げられていなければ、今頃ヴァイリスの兵士が沿岸を取り囲んでいてもおかしくないだろう。

 元々はエスパダの大商家の当主であるバルトロメウ・イグレシアス所有の武装商船だったものを、義弟エメリコが強奪し、海賊船として改造したので、美しさと威圧感が絶妙にマッチしていて、たしかにどこかの国の軍艦だと思われるのに十分な雰囲気がある。

 そして、そんな巨大な船の甲板にあふれんばかりに積まれた金銀財宝の山。
 無人島にあった海賊団の根城から、根こそぎ積み上げたものだ。

「やぁやぁ!! 諸君!! ベルゲングリューン海兵団にようこそ!! うわっ」

 冗談のつもりで、仲間たちに向けて手を振りながら舳先へさきに身を乗り出したんだけど、ものすごい人だかりがいて、彼らにアピールするみたいな形になってしまい、大きな歓声が上がった。

「ぎゃはは!! なんだその格好!! まんま海賊じゃねぇか!!」
「そりゃそうだよな、なんつったって、海賊から海賊船ごと奪ったっていうんだからよ!」
「たしかに、どっちが海賊だかわかんないわね……」
「これで安心して船を出せるぜ!! ありがとよ!! 爆笑王!!」
「ウチでのバイト、いい仕事ぶりだったぜ!! 貴族に飽きたらいつでも雇ってやるからなー!!」

(ちょっと待って。……情報早すぎない?)

「号外~、イグニア新聞の号外だよ~!! 今回の見出しは、『爆笑王、今度は海賊団を討伐!!』」

 アルバイトの少年たちが元気よく叫んで、停泊している僕らの船の前にできた人だかりにイグニア新聞の号外を配っていた。

 ……メアリー、仕事早すぎ……。
 
 とりあえず、周囲の観衆の盛り上がりっぷりと、ド派手な船での送迎に苦笑しているみんなに、僕は指輪で通信を送った。

『ちょっと今から、ヴァイリスとエスパダのお役人さんたちに立ち会ってもらって、持ち主が明らかな略奪品を返還するから、みんなはカフェか何かでもうちょっと時間潰しててもらえる?』
『え~、それ返しちゃうの? もったいなくね……』
『ルッ君ったら……、まつおちゃんがタダであげるわけないでしょー? きっと形を変えてそれ以上の見返りをもらうつもりなのヨ!』

 さすがジョセフィーヌ。

 あとは、懸念事項が一点。
 僕はすぐに、ヴェンツェルに魔法伝達テレパシーを送った。

『ヴェンツェル、号外を一部もらってくれる? 急いで内容を確認して、海賊団の正体について触れてないか確認して』
『わかった』

 海賊団の団員は、すべてベルゲングリューン海兵団が「非公式」に引き取っている。
 領海内での海賊行為は、ヴァイリス王国でも南の王国エスパダでも全員処刑は免れないからだ。
 両国家のお役人さんたちが来る前に、情報がどこまで漏れているかを確認する必要がある。

 ん、そういえば、南の王国……。

『あれ、ヴェンツェル、エスパダって民主主義なんだよね?』
『そうだが、どうした?』
『どうして、『王国』ってつくのかなって』
『立憲君主制だからだ。君主権を持つ国王と、国民から選ばれ、国政を担う国家元首がいる』
『ようわからん』
『要するに、議会が国策を決定し、君主たる国王がそれを承認するという形だ』
『……それって、王様必要ないんじゃ……』
『国王は国民から慕われている。その国王が承認したということで、議会も民の支持を得られるんだ。……エスパダの場合は女王だが』
『やっぱりようわからん』

 国民から選ばれた国家元首や議会が支持を得るのに、国民が選んでない女王陛下の人気が必要な意味が全然わからない。

 そう言うと、ヴェンツェルが説明してくれた。

『歴史上、社会制度の変革は、たいてい市民による革命や軍のクーデター、あるいは国王の失墜によって起きるものだ』
『……まぁ、そうだよね』
『だが、エスパダはそうではない。国民からの信望の厚い女王が突然、権利の一部を議会に渡し、民主化を宣言したのだ。なので、女王を慕う声は未だに根強い』
『はぁ、なるほどね……。変わった女王様だね』
『エスパダの社会体制は他国を一歩抜きん出ているが、女王の力が大きいだろうね』
『へぇ~』

 そんな話をしていると、ヴェンツェルから改めて連絡が入った。

『号外を確認した。海賊団について書かれているのは、『最近アドリアナ海域を荒らし回っていた名うての海賊団『薔薇たちの銃弾バレットオブローゼズ』、という表現と、その規模、戦力がいかに大きいかということだけだ。それ以上の掘り下げはない』
『よかった。ありがとう』
『……しかし、君は本当に、この号外に書いてあるようなことをやってのけたのか?』
『号外を読んでないからわかんないけど……。どうせ大げさには書いてあると思うよ。ただ、メアリーにも協力させたから、大筋では間違ってないんじゃないかな』
『ふふ、君のような奴の側にいると、軍師は仕事がなくなるな』

 一番仕事してくれている奴がそんなことを言った。
 
 歴史上の策士や軍師が華麗な計略を駆使しているのは、綿密な情報収集と地道な下準備があってこそなのだということを、ヴェンツェルはいつも身を以て教えてくれる。

 それはそうと、メアリーには早めに釘を刺しておかないと。

『鉄仮面卿。30秒でポートイグニアスの埠頭ふとうまで出頭せよ。30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18……』

「わー!!!! はぁっ、はぁっ、はぁっ!!! 伯! 人使いが荒すぎますよ!!! か、仮面が……、息がっ……、し、死っ……」

 どうせ近くにいるんだろうと思って魔法伝達テレパシーを飛ばしてみたら、黒ずくめのローブを羽織って、慌てたせいで取り付ける時間がなかったのか、仮面を手で押さえながら鉄仮面卿ことメアリーが全速力で走ってきた。

 僕は鉄仮面卿を促して、乗船させ、後部甲板クォーターデッキにある船長室に案内した。

「ぷはぁっ……、し、死ぬかと思いましたよぉ」

 仮面とローブを憎々しげに船長室のソファに投げ捨てて、それから、今ぞんざいに扱ったソファをびっくりして触った。

「うっわ、海賊さんたちの船長室ってもっと不潔で、酒瓶とか転がってるイメージだったんですけど、めちゃくちゃキレイで豪華じゃないですか?! このソファ、座ってもいいですか?」
「うん、いいよー」
「へへ、やった」

 メアリーがにこにこ笑いながら、ソファにばふっ、と座った。
 小さな眼鏡をかけた緑髪のハーフエルフ。
 こうしているとすごく可愛いんだけど、年齢どころか色々不詳だし、一緒にいると5秒で疲れる。

 船長室はとても広く、上品で高級な調度品や机のある応接室のような作りになっていた。
 おそらく、バルトロメウのセンスなのだろう。
 僕は、マホガニー材で作られた大きな机をへだてた船長用の椅子に座った。

「で、要件なんだけど……」
「えー、早くないですかぁ!? もっとこう、会話のキャッチボールをしましょうよぉ!」
「君が投げてばかりで受け止めきれないよ」
「ほんと、伯ってば、口がお達者で……、む……、『ああ言えばベルゲン』……」
「……マンガのネタ思い付いた、みたいに目を輝かせるな!」

 ほら、もう疲れてきた。

「そうそう、そんなことより、伯!」

 メアリーが、パン、と手を合わせて、ベストの胸ポケットから四角い黒皮の小さなケースを取り出した。

「なにそれ、かっこいいじゃん」
「いいでしょー、これ、名刺入れなんですよー」

 羊皮紙が主流のヴァイリスに名刺という文化はほとんど浸透していない。
 ましてや、名刺入れをいわんや、である。

「伯、こういうの好きでしょー」
「うん、好き」
「ふふ、気に入ると思いました。それで、はいっ、これ!」

 メアリーが立ち上がって、両手で白い名刺を手渡してきたので、僕も思わず両手で名刺を受け取った。

「おかげさまで、我らがイグニア新聞も発行部数がうなぎ上りの右肩上がりになっちゃいまして。羊皮紙ではとてもおっつかないので、ウチの社長が魔導活版印刷の機械とエスパダ産の大量の紙をどーん!と買っちゃいまして! そんなわけで、イグニア新聞も紙媒体になり、こうやってエスパダ様式で紙の名刺をちゃんと作ったんですよぉー!」

 メアリーがそう言って渡した名刺を見てみると……。

 ベルゲングリューン伯直属諜報機関「水晶の目」
 局長 鉄仮面卿

 と書かれてあった……。

「ア、アホか!!」

 僕がもらった名刺を投げると、メアリーのおでこにスカッと命中した。

「あだっ!? あ、ま、間違えました。記者の名刺はこちらです!」
「いやいや、そうじゃなくて、諜報機関の名刺を作るバカがどこにいるんだ! しかも、『水晶の目』ってなんだよ! 名刺の名前が『鉄仮面卿』って、アホすぎるだろう!!」

 こういうツッコミはユキの仕事だと思うんだけど……。

「えー、かっこいいじゃないですかぁ……!! それに、大丈夫です!! 鉄仮面卿の名刺は50部しか刷ってませんから!」
「じゅうぶん多いわ!!」
「まぁ、諜報機関って言っても、私一人なんですけどね……なはは」

 新聞記者の名刺と、投げ捨てた鉄仮面卿の名刺をあらためて僕に持たせて、メアリーが笑った。

「あ、そうそう、その件でも話があるんだった。入ってー」
「へい、カシラ」

 僕に言われて、船室に入ってきたのは……、例の「ネズミ野郎」だ。

「な、なんすか、この上から下まで海賊の子分みたいな人……」
「上から下まで海賊の子分だった人だよ」

 彼はメアリーに深々と頭を下げた。

「お初にお目にかかりやす。オレはヒューレット・バッカーノと言うもんです。カシラにはそりゃもう、死んでも償いきれねぇようなご迷惑を……」
「ヒュー、それはもういいよ。指輪、キレイに保管してくれていたし、もう許したでしょ」
「カシラ……」
「カシラって……、伯、本当に海賊になっちゃったんですか?!」
「いちいちメモを取るな!」

 僕はあらためて、ネズミ野郎ことヒューレット・バッカーノとの経緯を説明した。

「ほわぁ……、あなた、そんな恐ろしいことをしでかして、よく生きてましたね……」
「僕をなんだと思ってるんだ……」
「いやだって、この人、ものすごい強運の持ち主ですよ! 今のお話を聞いただけでも、メルちゃんに一回、伯に三回は殺される機会がありましたよ……」
「カシラがオレらの船を笑いながら二隻沈めた時に、死を意識しやした。その後、一騎打ちすると言い出した前のカシラが歩く橋を、カシラが笑いながら落とした時にゃ、死を覚悟しやした」
「すっごく面白い!! ぜひ、その話を詳しく……」
「いや、それは後にして……。彼を連れてきたのは、他に理由があるんだ」

 僕は改めて、メアリーに言った。

「ヒューはさ、貴族やら金持ち商人が利用しそうな船に船員として潜り込んで、そこで海賊に手引きする役をしていたわけ。彼が船員たちと打ち解けて、情報を収集する能力が高かったからこそ、薔薇たちの弾丸バレットオブローゼズはこれまで、殺しや略奪をせずに効率的に金品を集め、義賊という体裁を保つことができたわけだ」
「はぁ……なるほど……、有能なスパイというわけですね」
「そう。つまり、鉄仮面卿のお手伝いをしてもらうには適任ってわけ」
「へっ?!」
「おめでとう。諜報機関の人員が増えたね」
「よろしくお願いしやす、あねさん」

 唖然とするメアリーに、ヒューレットが頭を下げた。

「あのままウチの海兵団に入ってもらってもよかったんだけど、ほら、船員たちからすれば、裏切りの張本人だし、海賊たちからすれば彼が指輪をくすねたせいで今回みたいなことになったわけでさ」
「ああ~……そりゃ、居づらいですよね……」
「たぶん、今更そんなこと気にする連中じゃないとは思うんだけど、ヒューはこう見えてすげぇ真面目な人で、めっちゃ気にしてるんだよ」
「そりゃ気にしやす……、顔向けできねぇから、カシラにバッサリ斬ってもらおうと思ってたんですから……」

 ヒューレットが苦笑した。

「そんなわけでやして、……姐さん。せっかくカシラに拾ってもらったこの命、カシラの役に立ちてぇと思ったら、この役目をいただいた次第で。どうか、オレの面倒、見てやっちゃもらえやせんか?」

 そう言って、ヒューレットが膝に手を置いて深々と頭を下げた。

「……その姐さんってのはやめてくださいー。セリカの任侠団体みたいじゃないですか……。我らが『水晶の目』は世を忍ぶ、ベルゲングリューン伯直属の諜報機関です! 私のことは局長、もしくは鉄仮面卿と呼ぶように!」
「へい、局長」
「へい、もダメ! 服装も変装の時以外はスーツでビシっと決めてください! 伯の経費で!」
「はい、局長」
「うーん……、『はい』も違うんですよねぇ……。諜報機関だからもっとこう、『了解しました』とか、『御意』とか、いやーでもぉ、御意は私じゃなくて伯に言う感じだから……」
 
 メアリーが腕を組んで悩み始めた。
 ……とりあえず、ヒューレットの仲間入りは歓迎してくれたようでよかった。
 
 一段落したところで、コンコン、と船長室のドアをノックする音がした。

「どうぞー」
「ハニー、呼んだかい? さっき民衆たちに手を振るキミを見てたらさ、こう、ビビビビッとインスピレーションが浮かんでさ! ちょっと今から僕の新曲を……」
「バル、とりあえず座って。……あと、僕をハニーと呼ぶのはやめろ」

 指を鳴らしてリュートを呼び出そうとするバルトロメウを慌てて止めて、僕はソファの向かいにある豪華な椅子に座らせた。

「ぎゃああああああっ!!!! 超絶イケメン!!!!」

 バルトロメウの顔を見るなり、メアリーがソファーから1メートルぐらい飛び上がった。

「……イケメンに喜ぶリアクション、それじゃなくない?」
「逆です逆!!! わたし、イケメン苦手なんです!! こんな超絶イケメンを見たせいで、ほら、鳥肌が……」

 メアリーがそう言って僕に腕を見せる。
 本当にメアリーの白い肌にぽつぽつと鳥肌ができていた。

「イケメンが苦手って、そんなのあるの?」
「私、ダメなんですよぉ……。伯ぐらいがちょうどいいんです」
「どういう意味だよ……」

 失礼にもほどがある。

「アハハ、愉快なお嬢さんだねぇ~」
「やめて……、その白く輝く歯を、私に見せないで……」

 失礼にもほどがある。

「さて、ここからが本題なんだけど」

 僕はバルトロメウに手のひらを向けた。

「彼はバルトロメウ・イグレシアス。エスパダの豪商の御曹司っていう言い方は、当主だからそぐわないのかな? とにかく、そういう人」
「お金もあって、育ちもよくて、背が高くて、おしゃれで、超絶イケメン……、げろ吐きそうです」
「船長室で吐いたら追い出すからね……」

 本当に具合が悪そうなメアリーに、僕は手短に説明した。
 
 この船が元々彼の所有物であったということ。
 彼の義弟エメリコがそれを強奪し、海賊団を率いていたということ。
 情状酌量の余地があるエメリコと海賊たちの身柄を引き取ったということ。
 でも法に照らし合わせれば、海賊行為はヴァイリスでもエスパダでも処刑は免れないから、彼らの素性は秘匿ひとくしたい。
 
「……えっと、つまり、伯はヴァイリスの上級貴族でありながら、ヴァイリスとエスパダの大国相手にしらばっくれるつもりなんですか?」
「うん、そゆこと」

 僕は即答した。

「そゆことって……、大丈夫なんですか、そんなの」
「さぁ、どうだろうね」

 僕はニヤニヤしながら言った。

「あー、また悪い顔してる!! また何か、どす黒いことを企んでるんですね!!」
「どす黒いって……、いや、これからアルフォンス宰相閣下と、エスパダの大使と会談するんだよ」

 僕はメアリーに言った。

「そこで、万事解決できるといいな、ってね。……そんなわけだから、海賊団の内情に関する情報は、一切の公開禁止」
「うっ……、わ、わかりました……」

 ものすごく酸っぱくて苦いものを口に入れたような顔をして、メアリーが答えた。
 美しいハーフエルフの顔が台無しだ。

「いーや、まだわかってないな……」

 そこそこ長い付き合いになってきたから、わかる。
 メアリーがこういう、「苦渋の決断をしました」みたいな表情をしている時は、まだ別の手を残している時だ。

「『爆笑伯爵ベルゲンくん』の中で匂わせるようなことを書いても、リザーディアンたちが潜っている海に投げ込むからね」
「ぎゃあああああああ、完全にバレてたああああああああ」

 メアリーが頭を両手で押さえながら絶叫した。
 
「さて、それでは新曲いきます。ラララ~、海賊団の首領エメリコさえ臣従させた若き伯爵は~、仲間の元に凱旋がいせんし~♪」
「……僕の話聞いてた? エメリコの名前出しちゃダメなんだってば!!」

 おもむろにリュートをかなで始めたバルトロメウに全力でツッコんだ。

「いやあああっ!! や、やめてぇぇ……!! 超絶イケメンの腰に来る美声と、超絶イケメンのかなでるリュート……、あ、だめ、伯、伯、吐く……」
「だ、誰かそいつをつまみだしてくれ!!」

 ポートイグニアスの港湾に、船長室で僕たちが大騒ぎしている声が響き渡った。
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