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第一章 高校二年生編

第23話 かのんちゃんは選びたい!

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「さて、次に行きますか」

 そう言ったのは花音。
 いつもよりテンションの高い花音は、自分の服を買ったことでさらにテンションが上がっていた。
 早く次の場所に行きたいとうずうずしている。

「次はどこに行くの?」

 花音の服選びは一時間と少しかかり、時刻は三時半。
 どこにでも行けるが、選択肢が広い分わからない。
 ただ、映画のように長時間となれば微妙な時間のため、ないだろうと考えている。

「次はね……青木くんの服選びだよ!」

 そう言って、今出た向かいの服屋を花音は指差す。

「どうかな?」

「いいよ。……と言うか、せっかくだから俺も選んで欲しい」

「もちろんそのつもりだよ」

 俺の服を選ぶつもりだったから、代わりに花音の服を俺に選ばせたのだろうか。
 俺は了承したが、花音は少し驚いた顔をしている。

「でも意外。正直ちょっと嫌がられるかと思ってた」

「そうかな? なんで?」

「だって、私の服を選ぶ時もそうだったけど、あんまり服に興味なさそうだし」

 俺は服にはあまり興味がない。
 それは事実だ。

 しかし俺も男子高校生。
 カッコつけたい気持ちもあるが、センスが気持ちに追いついていなかった。
 そのため、センスのある花音が選んでくれるいうのはありがたいことでもあった。

「さっきもセンスないって自分で言ってたけど、俺って基本白と黒の服しか着ないから。かのんちゃんなら俺に合いそうな服を選んでくれそうだし」

 俺がそう言うと、花音は俺の服をまじまじと見た。

 新調したコート以外はモノクロだ。
 中のシャツは白で、パーカーとスキニーパンツは黒。暗い雰囲気にはなるが、大外れはしない『無難』な服装をしていた。
 コート以外は元々持っていた服で、これ以外の服も紺のジーンズ以外はほとんどが白か黒だ。
 様々な色の服を組み合わせることは俺には難易度が高いため、無難な服を選ぶ傾向にあった。

「ふーん……」

 花音は視線を上下させると、納得するかのように何度か頷く。

「元々色々と考えて候補はあったけど、青木くんに合いそうなのあるからとりあえず行こっか」

 話しているのはまだ店の前だ。

 まずは現物を見るべく、花音に促されて俺は店内に入っていった。



「……どう?」

 花音に渡された二着のうち、一着目を着て俺は試着室から出て反応を伺う。

「似合ってるね」

 率直に褒められてむずがゆい。
 モノクロを選ぶことが多かったのは無難な服装が安心できて好きだからという理由もあるが、それ以外は似合わないと思っていたからだ。

 ただ、花音が選んだのはいたってシンプルな服で、青みのある緑のパーカーだ。
 それ以外は今着ているままで、パーカーの下からは白のシャツが見えており、黒のスキニーパンツを履いていた。
 パーカー一つでも印象は違うものだ。

「青木くんは自分でどう思うの?」

「どうだろ? 慣れてないけど、嫌ではないかな?」

 白と黒と紺色のジーンズ以外は冒険した気分になるほど、他の色を着用しない。
 鏡で見た自分の姿は、案外悪くないと思っていた。

「青木くんって、シンプルな服が好きなのかなって思ってたから、あんまり派手すぎないのにしてみたんだ」

 花音は服の組み合わせだけでなく、俺に合ったもの、俺の好きなものまで考慮してくれている。

「次もシンプルで、さっきの私のじゃないけど、ちょっと大人っぽいの意識してみたよ」

 そう言われた俺は、もう一着の方に着替える。
 黒のスキニーパンツはそのままだが、上の服は変わっている。
 それでもパーカーと上着という点は変わらなかった。

 白のパーカーとグレーのジャケット。
 ジャケットはあまり羽織らないが、それだけで大人になった気分だ。
 俺が試着室から出ると、花音は嬉しそうな反応をする。

「やっぱり思った通り。良いと思うよ」

 花音は親指を立てながらそう言った。
 かっちりとし過ぎないようにパーカーがあり、カジュアルになり過ぎないようにジャケットが引き締めてくれている。

 ほとんどモノクロと代わりないが、グレーが入るだけで印象が全く違う。

「よし、買ってくる」

 花音のお墨付きもいただいたのだ、自分のステップアップとしても試しに買ってみても良いだろう。
 この機会に買わなければ、俺は一生白と黒とたまに紺の世界だけで生きていきそうだ。

 着替え直すために試着室のカーテンを閉めようとすると、花音は慌ててそれを止めに入る。

「そんなに即決してよかったの?」

 自信のある様子で服を渡してきたが、あっさりと買うことを決めた俺に思わず驚いている様子だ。

「俺も良いと思ったし、かのんちゃんが選んでくれた服だし、せっかくだから買いたい」

 無理をしているわけではない。
 納得がいったから買うのだ。

「こういうの欲しいと思ってたんだ」

「……それなら良いんだけど」

 花音の服は花音自身が頼んだことだが、俺の服は花音の方から選ぶと言ったこともあり、花音にとっては押しつけているような気持ちがあるのかもしれない。
 自分の服を買ったテンションでそのまま服屋に来たはいいものの、いざ買うとなって躊躇している。
 そう直感した俺は、一つの提案をした。

「また今度さ、今日買った服で遊びに行こうよ」

 この服を着て遊びたい。
 お互いが選んだ服を着てだ。
 言葉にしてみると、まるで本当のデートみたいだと思ったが、その言葉に花音の表情は明るくなる。

「ま、まあ、青木くんがそう言うなら良いんだけど?」

 テンプレのツンデレのような発言だが、どことなく嬉しそうな表情を花音は浮かべていた。
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