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第一章 高校二年生編
第62話 青木颯太は働けない
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「いらっしゃいませー」
「おう、颯太くん。今日は元気がないなぁ」
バイト中。
片付けをしながら来店した客に挨拶をしていると、近くにいた常連客のおっちゃんがそう声をかけてくる。
「いやー、ちょっと色々ありまして……」
「なんや失恋か? おっちゃんこれでも昔はモテとったから、アドバイスしたるで?」
「そういうのじゃないんで、大丈夫ですー」
ガハハと笑うおっちゃんを上手くかわしながら、俺は「注文取ってきて」と店長に言われ、その席に行く。
「……ご注文は」
「えーっと、私はおすすめでー!」
「……では、生姜焼き定食はいかがでしょうか」
「じゃあ、それで!」
「あ、私は焼き魚定食で」
「私も生姜焼き定食と焼き魚定食と……だし巻き卵とサラダ盛りで!」
――どんだけ食うんだよ。
そうツッコミを入れたいところだが、俺は口をつぐむ。
「あ、私の分は店員さんが奢ってね」
「当店はそんなサービスを承っておりませんコラ」
つい口に出してしまった。
「せんぱーい、あれやってください。萌え萌えキュン的な」
「メイド喫茶でも行ってこい。てか邪魔するなら帰れよ」
どうしてこうなった。
俺がバイトに来たのは六時頃。
花音、双葉、凪沙とゲームをした後、三人はまだ遊ぶと言っており、俺がバイトに行くのを見送った後も家にいた。
そして七時半頃、三人はやってきた。
知り合いにバイトをしているところを見られるのは恥ずかしいこと、この上ないのだ。
「え、えぇと……」
普段は率先して俺をからかってくる花音だが、流石に常識を弁えているようでそんなことはしない。
ただ、二人の行動もいつも通りだ。
初めてくる花音は知らないが、凪沙はもちろんのこと、双葉は何度か来たことがある。
この店の店長と俺も親が知り合い……ということは凪沙のことも知っているわけで、双葉は元々家が近いこともあって顔馴染みだった。
そういう経緯もあり、店が混雑していない時は俺に絡んでいてもとやかく言われない。それどころか許可までしているのだ。
しかし、
「颯太ー、そろそろこっち来てー」
と店長……香苗さんに呼ばれた俺は、注文を取り終えていることもあって厨房に戻った。
「すいません、いつもあいつらが……」
「いいよいいよ。今はそんなに忙しくないからねって言うか、ドンドン絡んでってって言ってるの私だし。そろそろ離れたいかなって思ったから呼んだだけだし」
なんて迷惑な。
「もっと早く呼んでください……」
「見てて面白いし。それにうちは子供いないから、うちに子供いたらあんな感じかなって思っていつも見てる」
事情があって子供のいない香苗さんは、高校生くらいの子供がいてもおかしくない年齢だ。
代わりと言うのか、こうやって学生を見るのが香苗さんにとっての癒しなのかもしれない。
そう思っていたが……、
「配膳とかレジ打ちとかも颯太に頼むからよろしくー」
と笑っている。俺が恥ずかしがっているのを見て喜んでいるだけだ。
――冗談だろ。
全接客を任された俺はげんなりする。
「それで、あの見かけない子は颯太の彼女?」
「なんでそうなるんですか……。クラスメイトで友達ですよ」
「ふーん。最近たまに休みたいって言うから、てっきり彼女なのかと」
「普通に友達です。まあ、詳しい事情は言えないですけど大切な友達なので、休みの時に遊んでいるのは双葉かあの子の時がほとんどですが」
素直に答えた俺が珍しかったのか、香苗さんは目を見開いて驚いている。
「ま、深くは聞かないでおくよ。……でも、大切だと思うなら、その縁は大切にしなよ。大人からのアドバイス。全く来ないとかじゃないなら多少休んでくれても構わないから」
「……ありがとうございます」
香苗さんは冗談めかしながらそう言うと、店の奥に入っていった。
何のことなのかわかってはいないだろう。ただ、俺たちにとっては重要なことなのだと察し、温かい言葉もかけてくれた。
こういうアバウトなところが、俺にとってはありがたかった。
この店、中町食堂は母親の友人……中町香苗さんが経営している店だ。
旦那さんは板前で、共同経営と言った方が正しいだろう。
聞くところによると旦那さんの実家のようだが、寡黙な旦那さんより香苗さんの方が店長に向いているという理由で経営を任されたということらしい。
昼前から深夜まで営業している中町食堂は、定食屋でもあり居酒屋でもある。
駅から徒歩五分のこの店は、昼には主婦や休憩中のサラリーマン、夕方には学生たち、夜には仕事帰りのサラリーマンの憩いの場として地元から愛されていた。
家が遠くの花音は初めて来るらしいが、俺や凪沙はもちろん、双葉、虎徹、若葉、美咲先輩も一度は来たことがあるようだ。
「はい、生姜焼き定食と焼き魚定食」
「わーい」
一度に何度も運べないため三回に分けて運ぶと、三人のテーブルはご飯がいっぱいに並んでいた。
お腹を空かせた双葉が今か今かと待っている圧がすごかった。
「あとこれ、香苗さん……店長からのサービスって」
俺はそう言って大皿に入った枝豆を出すと、三人は「ありがとう(ございます)!」と言う。
そして凪沙は、
「あ、おにい、枝豆あるならとりあえず生で」
と言い始めた。
「未成年には提供しませーん。てか飲んだことないだろ。しかもそれ、入ってすぐいうやつだからな?」
ふざけているのはわかっているが、アルコールに興味があるお年頃なのだ。
俺もこうやって働いて美味しそうに酒を飲んでいるおっちゃんを見ていると興味は湧くが、二十歳を超えてから飲んでこそ美味しいのだと思い、自重している。
「ま、とりあえずゆっくりしてって」
三人は「はーい」と返事をすると、俺は仕事に戻った。
最初に入ってきて三人が座った時、花音と凪沙が並んで双葉が一人という席順に疑問を持っていた。
普通なら以前から関わりのあった花音と双葉……もしくは凪沙と双葉が並ぶと思っていたからだ。
しかし配膳してから、大食いの双葉の前には大量のご飯が並ぶことを思い出し、今になって腑に落ちた俺だった。
「おう、颯太くん。今日は元気がないなぁ」
バイト中。
片付けをしながら来店した客に挨拶をしていると、近くにいた常連客のおっちゃんがそう声をかけてくる。
「いやー、ちょっと色々ありまして……」
「なんや失恋か? おっちゃんこれでも昔はモテとったから、アドバイスしたるで?」
「そういうのじゃないんで、大丈夫ですー」
ガハハと笑うおっちゃんを上手くかわしながら、俺は「注文取ってきて」と店長に言われ、その席に行く。
「……ご注文は」
「えーっと、私はおすすめでー!」
「……では、生姜焼き定食はいかがでしょうか」
「じゃあ、それで!」
「あ、私は焼き魚定食で」
「私も生姜焼き定食と焼き魚定食と……だし巻き卵とサラダ盛りで!」
――どんだけ食うんだよ。
そうツッコミを入れたいところだが、俺は口をつぐむ。
「あ、私の分は店員さんが奢ってね」
「当店はそんなサービスを承っておりませんコラ」
つい口に出してしまった。
「せんぱーい、あれやってください。萌え萌えキュン的な」
「メイド喫茶でも行ってこい。てか邪魔するなら帰れよ」
どうしてこうなった。
俺がバイトに来たのは六時頃。
花音、双葉、凪沙とゲームをした後、三人はまだ遊ぶと言っており、俺がバイトに行くのを見送った後も家にいた。
そして七時半頃、三人はやってきた。
知り合いにバイトをしているところを見られるのは恥ずかしいこと、この上ないのだ。
「え、えぇと……」
普段は率先して俺をからかってくる花音だが、流石に常識を弁えているようでそんなことはしない。
ただ、二人の行動もいつも通りだ。
初めてくる花音は知らないが、凪沙はもちろんのこと、双葉は何度か来たことがある。
この店の店長と俺も親が知り合い……ということは凪沙のことも知っているわけで、双葉は元々家が近いこともあって顔馴染みだった。
そういう経緯もあり、店が混雑していない時は俺に絡んでいてもとやかく言われない。それどころか許可までしているのだ。
しかし、
「颯太ー、そろそろこっち来てー」
と店長……香苗さんに呼ばれた俺は、注文を取り終えていることもあって厨房に戻った。
「すいません、いつもあいつらが……」
「いいよいいよ。今はそんなに忙しくないからねって言うか、ドンドン絡んでってって言ってるの私だし。そろそろ離れたいかなって思ったから呼んだだけだし」
なんて迷惑な。
「もっと早く呼んでください……」
「見てて面白いし。それにうちは子供いないから、うちに子供いたらあんな感じかなって思っていつも見てる」
事情があって子供のいない香苗さんは、高校生くらいの子供がいてもおかしくない年齢だ。
代わりと言うのか、こうやって学生を見るのが香苗さんにとっての癒しなのかもしれない。
そう思っていたが……、
「配膳とかレジ打ちとかも颯太に頼むからよろしくー」
と笑っている。俺が恥ずかしがっているのを見て喜んでいるだけだ。
――冗談だろ。
全接客を任された俺はげんなりする。
「それで、あの見かけない子は颯太の彼女?」
「なんでそうなるんですか……。クラスメイトで友達ですよ」
「ふーん。最近たまに休みたいって言うから、てっきり彼女なのかと」
「普通に友達です。まあ、詳しい事情は言えないですけど大切な友達なので、休みの時に遊んでいるのは双葉かあの子の時がほとんどですが」
素直に答えた俺が珍しかったのか、香苗さんは目を見開いて驚いている。
「ま、深くは聞かないでおくよ。……でも、大切だと思うなら、その縁は大切にしなよ。大人からのアドバイス。全く来ないとかじゃないなら多少休んでくれても構わないから」
「……ありがとうございます」
香苗さんは冗談めかしながらそう言うと、店の奥に入っていった。
何のことなのかわかってはいないだろう。ただ、俺たちにとっては重要なことなのだと察し、温かい言葉もかけてくれた。
こういうアバウトなところが、俺にとってはありがたかった。
この店、中町食堂は母親の友人……中町香苗さんが経営している店だ。
旦那さんは板前で、共同経営と言った方が正しいだろう。
聞くところによると旦那さんの実家のようだが、寡黙な旦那さんより香苗さんの方が店長に向いているという理由で経営を任されたということらしい。
昼前から深夜まで営業している中町食堂は、定食屋でもあり居酒屋でもある。
駅から徒歩五分のこの店は、昼には主婦や休憩中のサラリーマン、夕方には学生たち、夜には仕事帰りのサラリーマンの憩いの場として地元から愛されていた。
家が遠くの花音は初めて来るらしいが、俺や凪沙はもちろん、双葉、虎徹、若葉、美咲先輩も一度は来たことがあるようだ。
「はい、生姜焼き定食と焼き魚定食」
「わーい」
一度に何度も運べないため三回に分けて運ぶと、三人のテーブルはご飯がいっぱいに並んでいた。
お腹を空かせた双葉が今か今かと待っている圧がすごかった。
「あとこれ、香苗さん……店長からのサービスって」
俺はそう言って大皿に入った枝豆を出すと、三人は「ありがとう(ございます)!」と言う。
そして凪沙は、
「あ、おにい、枝豆あるならとりあえず生で」
と言い始めた。
「未成年には提供しませーん。てか飲んだことないだろ。しかもそれ、入ってすぐいうやつだからな?」
ふざけているのはわかっているが、アルコールに興味があるお年頃なのだ。
俺もこうやって働いて美味しそうに酒を飲んでいるおっちゃんを見ていると興味は湧くが、二十歳を超えてから飲んでこそ美味しいのだと思い、自重している。
「ま、とりあえずゆっくりしてって」
三人は「はーい」と返事をすると、俺は仕事に戻った。
最初に入ってきて三人が座った時、花音と凪沙が並んで双葉が一人という席順に疑問を持っていた。
普通なら以前から関わりのあった花音と双葉……もしくは凪沙と双葉が並ぶと思っていたからだ。
しかし配膳してから、大食いの双葉の前には大量のご飯が並ぶことを思い出し、今になって腑に落ちた俺だった。
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