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第二章 高校三年生編
第84話 本宮花音の決意
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「なあ青木」
「ん? どうした?」
朝、一人で席にいた俺に声をかけてきたのは中田だった。
寝坊した虎徹を置いて先に登校した俺は一人だ。若葉は朝練だろう。花音もまだ登校していない。
そんな時に中田は恐る恐るといった様子で、俺の反応を伺っているようだった。
「あのさ、かのんちゃんと付き合ってないんだよな?」
「そうだけど。前も言ったと思うけど、普通に友達」
二年生の年明け辺りで誤解は解いたはずだった。
それでも時折男子から聞かれはするが、中田や山村は他の男子とは違って理解してくれているらしく、聞かれたのはその時以来だ。
「なんかあった?」
「いや、それなら別に。二人が付き合っても応援するけど、ちょっと気になってさ」
「お、おう……」
俺は何故か中田と山村に、花音とのことを応援されている。
今は中田だけだが、何故そうなるのかはわからない。
まあ、悪い感情を持たれていないだけ、気持ちはありがたいとは思っている。
中田はそのことを聞きたかっただけらしく、話を終えるとどこかに行った。
――なんだったんだ?
その理由は意外と早くわかることとなった。
「おい、青木」
昼休みのことだ。
いつものように俺たちは、四人で会話を弾ませていた。
早めに昼食を食べ終えた後、隣のクラスの小林が喧嘩越しの口調で声をかけてきた。
「お前本当はかのんちゃんと付き合ってるんだろ?」
突然のことにその言葉が理解できなかった。
本人を目の前にして聞くようなことでもなく、それに事実無根の話だったからだ。
騒々しかった教室内の注目が集まっているのは、静寂という音で理解した。
俺が呆気に取られていると、黙っているのが気に食わなかったようで小林はさらに突っかかってきた。
「おい、なんとか言えよ」
「いや、すまん。言ってる意味がわからなくて」
「だからさ、付き合ってるんだろって。前付き合ってないって嘘つきやがって」
「……別に嘘じゃないんだけど」
「はあ?」
何故キレるのか。
付き合っていないのは事実だ。
仮に付き合っていたとしても、小林にキレられる理由なんてあるはずもない。
小林が花音のことを好きだというのは知っているが、それが付き合っていたとしても正直に話さなくてはいけない理由にはならないのだ。
確かに嘘をつくのは良くはないかもしれない。
それでも付き合ってるのを隠すなんていうのは、隠す側にも恥ずかしいからや冷やかされたくないという理由もあるのだ。
そういう小さな嘘くらいは、許されてもいいことだろう。
どちらかと言えば本人たちの意向を無視して、無理に問い詰める方が悪とも言える。
それに、そもそも本当に付き合っていないのだ。
ただ、小林もそう問い詰める理由があった。
「昨日、かのんちゃんとデートしてただろ」
そう言われて合点がいった。
ここまで付き合ってると断定してくる理由と、朝に中田に同じことを聞かれた理由を、だ。
正直、俺は今苛立っている。
好きなら好きで構わないが、開口一番に喧嘩腰で話しかけられて気分が良い人がいるはずもない。
いるなら相当心が広い人か、キツい言葉を浴びせられるのが好きな人くらいだろう。
あいにく、俺は普通の男子高校生だ。
「デートっていうかさ、普通に遊んでただけだけど」
「それがデートなんじゃねえの? ってか認めるんだ。やっぱ付き合ってんじゃねえか」
「友達と遊んだらダメなの? なんでそんなこといちいち言われないといけないの? 俺の交友関係に口挟むなよ」
「別にお前のことなんか興味ねえけど、嘘つくからムカつくんだよ」
もうここまで来ると呆れ返ってしまう。
ため息しか出なかった。
同じクラスだった一年生の時から、陽キャを自称するようなウザいやつではあった。
自分から聞いておいて興味がないはあまりにも失礼ではないのか。花音のことを聞きたいのはわかるが、俺が『付き合ってない』と正直に話しているのだから、『教えてくれてありがとう』で済む話じゃないか。
「嘘つくなって言うけど、付き合ってないのに付き合ってるって言って欲しいの? 何が聞きたいわけ?」
「だからさー、付き合ってるなら正直に言えって言ってるの」
全くもって話が噛み合わなければ話が進まない。
多分、どれだけ話してもこの話が延々と続くだけだろう。
最初はオロオロとしていた若葉は小林に言い返そうとしているが、虎徹は首を横に振って止める。
援護しようとしてくれる若葉はありがたいが、何か言えばそれだけ小林がさらにめんどくさくなるだけだ。それに周囲を巻き込んでリンチする形となるため、俺たちが悪く見られてもおかしくはない。
若葉の気持ちもありがたいし、察して止めてくれた虎徹もありがたい。
ただ、これは当人同士でなければ、さらにこじれる話な気がしてならなかった。
この話では外野だが、話の中心である花音は小林を嗜めようとする。
「小林くん。別に青木くんとは付き合ってないよ? だから青木くんを悪く言わないでほしい」
「別に悪く言ってないよ? かのんちゃんは気にしなくていいからさ」
目の前にいるのだ。明らかに俺のことを悪く言っているのは明白だ。
それともなんだ?
事実だから悪口じゃないという理論で、平気で悪口を言うのか?
そもそも事実でもないが。
「付き合ってないけどさ、仮に付き合ってるって言ったとして、それで満足なわけ?」
「は? お前とかのんちゃんが付き合ってるとか許せるわけないだろ?」
むちゃくちゃすぎて、話していると頭が痛くなりそうだ。
学力は俺よりも高い小林だが、頭が悪すぎる。
「結局、なんで言えば満足するの?」
「知るか、自分で考えろ」
もう、意味不明でムカつきすぎて殴り飛ばしてしまいたい。
……もちろんそんなことはしないが。
虎徹も若葉も苛つき始めているのはわかる。
口出ししてさらに状況を悪化させないためにも耐えていた。
二人にも、花音にも迷惑をかけている。
クラスの視線も集めている。
俺は耐えきれなかった。
「ラチがあかん。とりあえず場所を――」
……変えようと思って立ち上がろうとした。
しかし、花音が俺の手を掴んで制止した。
「小林くんさ、それって青木くんに聞かないといけないこと?」
「え、まあ、そっちのがわかりやすいし……」
「私に聞いてもハッキリすることだよね?」
「そうかもだけど、青木の方が……」
「私には、青木くんを責めたいだけにしか見えない」
花音の言う通りだった。
男子同士という点を考えると、小林としては俺の方が話しやすいのかもしれない。
しかし、全くと言っていいほど、一年生の時は関わりがなかった。
当然二年生の時もだ。
どちらかと言えば、花音の方が多く話していた。
それなら、友達の感覚で花音に聞けばいいのだ。
現に前回話しかけて来た時も、俺が話すと文句を言い、花音と話をしようとしていたのだ。
小林はそうやって文句を言うための理由をつけ、ただ俺のことを責めたいがために俺に声をかけて来たのだ。
「小林くんにとってさ、私ってどう見えてるの?」
「え? それは……」
好意を持っているということは、小林にとって公開告白のようなものになる。
ただ、小林は花音に弱いようだ。
そう聞かれれば、答えないわけにはいかなかった。
「……可愛いし、性格も良いし、青木なんかじゃ釣り合わないような――」
「ほら、また青木くんを悪く言ってる」
「っ……! でも、事実じゃんか! 普通の青木が人気者のかのんちゃんと釣り合うわけない!」
「じゃあ、誰なら私と釣り合うの? 私のことを人気者って言うなら、同じくらい人気な男子なら釣り合うの? それって誰? 小林くんなら私と釣り合うわけ?」
「そりゃ、俺だったら……」
「無理。そういうこと言う人、私は好きじゃないから。第一、小林くんって別に人気者じゃないし」
こんなこと言われたら、多分俺は泣いている。
好きな人に面と向かって……、しかも教室内のみんなが見ている中で拒絶されたのだから。
それでも同情はできない。
先に突っかかって来て、ここまで自意識過剰でナルシストな小林の擁護をする気にはなれるはずもなかった。
「それに、性格良いって言ってたけど、別にそんなことないから」
「いやいや、かのんちゃんの性格良いし、完璧だから」
「……誰のこと言ってるの? 完璧って言えるくらい、私のこと知ってるの?」
「……そりゃ知ってるよ。ずっと好きだったし」
自ら公開告白をした小林。
もうヤケになったのかもしれない。
「聞きたいんだけど、小林くんって私に全部見せてくれるの? 嫌なところとか、そういうの私に見せれる?」
「……見せてるけど」
「嘘。私のこと好きって言うならちょっとくらいカッコつけるでしょ? 違う?」
「まあ、ちょっとはあるかも……」
「そうだよね? 私もクラスメイトとかに良い顔したいから、素の自分のことを隠してる。私の嫌なところを知ってるのって、颯太くん……あとは若葉ちゃんと藤川くんと、他に何人かだけだから」
「か、花音……」
「いいよ。もう耐えられないから」
今まで隠していた性格のこと……、そして、俺を名前で呼んでいることを花音は曝け出した。
「私が誰かのことウザいとか、ムカつくとか、そういうこと言ってたら小林くんって受け入れてくれるの?」
「……かのんちゃんはそういうこと言わないじゃん」
「面と向かっては言わないよ? 私だって言われたら傷つくから。でも、嫌なことされたらムカつくし、しつこかったらウザいって思うよ。愚痴だって言う」
ややマイルドには言っているが、事実その通りだ。
花音は無闇に他人の悪口を言わないが、腹を立てることはある。
完璧な美少女というイメージを作り出しているが、花音も人間なのだから。
「颯太くんはそんな私を受け入れてくれたから、友達……親友だと思ってるの。最初が颯太くんだったから私のことも一番わかってくれて、特に仲が良いだけ」
「お、俺もどんなかのんちゃんでも受け入れるし!」
「そもそも、私が自分の全部を小林くんに話したいと思うの?」
「話してくれるなら受け入れるし……」
「だから、そもそも話したいと思えるのかって」
そう言われて小林は押し黙った。
それもそうだ。
話したいかどうかなんて、花音本人にしかわからないのだから。
「私にとって、小林は自分を曝け出したいと思える相手じゃないの。わからない?」
依然、小林は黙ったままだ。
小林の考えが変わらないのならば、先ほどの言葉から察するに、『なんで青木は良くて、俺はダメなんだ?』と考えていることだろう。
「まずね、初対面の人に全部を曝け出す人なんてそうそう多くないでしょ? それから人間関係を作っていってから本性を出していくと思うの」
「……うん」
「私は人との心の壁は厚いと思ってる。……理由はあるけど教えないし、教えたくない」
理由は、中学時代の話のことだ。
「全員になんでも話せるわけじゃない。颯太くんとは偶然から始まったの。若葉ちゃんと藤川くんは、颯太くんがキッカケっていうのもあるし、私のミスや偶然もあるけど、私が話したいと思ったから話したの。他の人もそうだけど、私が話したいと思ったから話しただけで、小林はそう思われるような人なの?」
「……青木よりは」
「話したくないのがそういうところって、まだわからない? 言いたくないけど正直に言うと、そういうところウっっっっっザい。人と比べないとダメなの?」
我慢しきれなくなったから花音はついにハッキリと言い切った。
怒らない、誰にでも優しい『かのんちゃん』の姿は、もうそこにはない。
ただの『本宮花音』だ。
俺は興奮する花音を「落ち着いて」と宥める。
すでにオーバーキルだ。
小林は涙目になっている。
女の子に責め立てられたからか、普段は優しい『かのんちゃん』に責められたからか、好きな人に責められたからなのかはわからない。
ただ、普段見せている姿とは違う花音を見て、口を開けながら呆気に取られていた。
「もう一回だけ言うけど、私と颯太くんは付き合ってないよ。ただ、仲が良い親友。だから昨日遊んだのだって、普通に遊んだだけ」
そう言って一度深呼吸をする。
そして、今まで溜まった鬱憤と一緒に言葉を吐き出した。
「私は好きな人もいないし、今は恋愛するつもりもない。高校生だし彼氏は欲しいけど、今はこの四人で一緒にいるのが楽しいから。告白するんなら……本当に好きって言うなら、もっと私のことを知ってからにして」
教室中の注目を集めている中での宣言だ。
少なくとも、迂闊に今の花音に近づく人は減る宣言だった。
「小林くん。好意は嬉しいし、否定はしないよ? でも、何度もしつこくされるのにはウンザリしてるから、もうやめて」
やや攻撃的だった声色も、少しだけ優しいものになっている。
しかし、それ故に逆に怖さが増していた。
ここまで言われてようやく諦めた小林は、落ち込んでいる。
何も言わずに項垂れながら教室から出ていった。
静まり帰っていた教室も、少しずつ騒がしさを取り戻し始める。
そして花音は、申し訳ない様子で俺たちに声をかけた。
「……ごめんね」
「花音が謝ることじゃないよ」
「ううん、今まで隠してきたから。……曖昧にし続けてきたからこうなったんだと思う。だから謝らせて欲しい」
そんな言葉を聞くと、俺は何も言えない。
若葉も虎徹も、言葉が出なかった。
ちょうどチャイムが鳴る。
俺たちは無言のまま、それぞれ席に戻っていった。
「ん? どうした?」
朝、一人で席にいた俺に声をかけてきたのは中田だった。
寝坊した虎徹を置いて先に登校した俺は一人だ。若葉は朝練だろう。花音もまだ登校していない。
そんな時に中田は恐る恐るといった様子で、俺の反応を伺っているようだった。
「あのさ、かのんちゃんと付き合ってないんだよな?」
「そうだけど。前も言ったと思うけど、普通に友達」
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それでも時折男子から聞かれはするが、中田や山村は他の男子とは違って理解してくれているらしく、聞かれたのはその時以来だ。
「なんかあった?」
「いや、それなら別に。二人が付き合っても応援するけど、ちょっと気になってさ」
「お、おう……」
俺は何故か中田と山村に、花音とのことを応援されている。
今は中田だけだが、何故そうなるのかはわからない。
まあ、悪い感情を持たれていないだけ、気持ちはありがたいとは思っている。
中田はそのことを聞きたかっただけらしく、話を終えるとどこかに行った。
――なんだったんだ?
その理由は意外と早くわかることとなった。
「おい、青木」
昼休みのことだ。
いつものように俺たちは、四人で会話を弾ませていた。
早めに昼食を食べ終えた後、隣のクラスの小林が喧嘩越しの口調で声をかけてきた。
「お前本当はかのんちゃんと付き合ってるんだろ?」
突然のことにその言葉が理解できなかった。
本人を目の前にして聞くようなことでもなく、それに事実無根の話だったからだ。
騒々しかった教室内の注目が集まっているのは、静寂という音で理解した。
俺が呆気に取られていると、黙っているのが気に食わなかったようで小林はさらに突っかかってきた。
「おい、なんとか言えよ」
「いや、すまん。言ってる意味がわからなくて」
「だからさ、付き合ってるんだろって。前付き合ってないって嘘つきやがって」
「……別に嘘じゃないんだけど」
「はあ?」
何故キレるのか。
付き合っていないのは事実だ。
仮に付き合っていたとしても、小林にキレられる理由なんてあるはずもない。
小林が花音のことを好きだというのは知っているが、それが付き合っていたとしても正直に話さなくてはいけない理由にはならないのだ。
確かに嘘をつくのは良くはないかもしれない。
それでも付き合ってるのを隠すなんていうのは、隠す側にも恥ずかしいからや冷やかされたくないという理由もあるのだ。
そういう小さな嘘くらいは、許されてもいいことだろう。
どちらかと言えば本人たちの意向を無視して、無理に問い詰める方が悪とも言える。
それに、そもそも本当に付き合っていないのだ。
ただ、小林もそう問い詰める理由があった。
「昨日、かのんちゃんとデートしてただろ」
そう言われて合点がいった。
ここまで付き合ってると断定してくる理由と、朝に中田に同じことを聞かれた理由を、だ。
正直、俺は今苛立っている。
好きなら好きで構わないが、開口一番に喧嘩腰で話しかけられて気分が良い人がいるはずもない。
いるなら相当心が広い人か、キツい言葉を浴びせられるのが好きな人くらいだろう。
あいにく、俺は普通の男子高校生だ。
「デートっていうかさ、普通に遊んでただけだけど」
「それがデートなんじゃねえの? ってか認めるんだ。やっぱ付き合ってんじゃねえか」
「友達と遊んだらダメなの? なんでそんなこといちいち言われないといけないの? 俺の交友関係に口挟むなよ」
「別にお前のことなんか興味ねえけど、嘘つくからムカつくんだよ」
もうここまで来ると呆れ返ってしまう。
ため息しか出なかった。
同じクラスだった一年生の時から、陽キャを自称するようなウザいやつではあった。
自分から聞いておいて興味がないはあまりにも失礼ではないのか。花音のことを聞きたいのはわかるが、俺が『付き合ってない』と正直に話しているのだから、『教えてくれてありがとう』で済む話じゃないか。
「嘘つくなって言うけど、付き合ってないのに付き合ってるって言って欲しいの? 何が聞きたいわけ?」
「だからさー、付き合ってるなら正直に言えって言ってるの」
全くもって話が噛み合わなければ話が進まない。
多分、どれだけ話してもこの話が延々と続くだけだろう。
最初はオロオロとしていた若葉は小林に言い返そうとしているが、虎徹は首を横に振って止める。
援護しようとしてくれる若葉はありがたいが、何か言えばそれだけ小林がさらにめんどくさくなるだけだ。それに周囲を巻き込んでリンチする形となるため、俺たちが悪く見られてもおかしくはない。
若葉の気持ちもありがたいし、察して止めてくれた虎徹もありがたい。
ただ、これは当人同士でなければ、さらにこじれる話な気がしてならなかった。
この話では外野だが、話の中心である花音は小林を嗜めようとする。
「小林くん。別に青木くんとは付き合ってないよ? だから青木くんを悪く言わないでほしい」
「別に悪く言ってないよ? かのんちゃんは気にしなくていいからさ」
目の前にいるのだ。明らかに俺のことを悪く言っているのは明白だ。
それともなんだ?
事実だから悪口じゃないという理論で、平気で悪口を言うのか?
そもそも事実でもないが。
「付き合ってないけどさ、仮に付き合ってるって言ったとして、それで満足なわけ?」
「は? お前とかのんちゃんが付き合ってるとか許せるわけないだろ?」
むちゃくちゃすぎて、話していると頭が痛くなりそうだ。
学力は俺よりも高い小林だが、頭が悪すぎる。
「結局、なんで言えば満足するの?」
「知るか、自分で考えろ」
もう、意味不明でムカつきすぎて殴り飛ばしてしまいたい。
……もちろんそんなことはしないが。
虎徹も若葉も苛つき始めているのはわかる。
口出ししてさらに状況を悪化させないためにも耐えていた。
二人にも、花音にも迷惑をかけている。
クラスの視線も集めている。
俺は耐えきれなかった。
「ラチがあかん。とりあえず場所を――」
……変えようと思って立ち上がろうとした。
しかし、花音が俺の手を掴んで制止した。
「小林くんさ、それって青木くんに聞かないといけないこと?」
「え、まあ、そっちのがわかりやすいし……」
「私に聞いてもハッキリすることだよね?」
「そうかもだけど、青木の方が……」
「私には、青木くんを責めたいだけにしか見えない」
花音の言う通りだった。
男子同士という点を考えると、小林としては俺の方が話しやすいのかもしれない。
しかし、全くと言っていいほど、一年生の時は関わりがなかった。
当然二年生の時もだ。
どちらかと言えば、花音の方が多く話していた。
それなら、友達の感覚で花音に聞けばいいのだ。
現に前回話しかけて来た時も、俺が話すと文句を言い、花音と話をしようとしていたのだ。
小林はそうやって文句を言うための理由をつけ、ただ俺のことを責めたいがために俺に声をかけて来たのだ。
「小林くんにとってさ、私ってどう見えてるの?」
「え? それは……」
好意を持っているということは、小林にとって公開告白のようなものになる。
ただ、小林は花音に弱いようだ。
そう聞かれれば、答えないわけにはいかなかった。
「……可愛いし、性格も良いし、青木なんかじゃ釣り合わないような――」
「ほら、また青木くんを悪く言ってる」
「っ……! でも、事実じゃんか! 普通の青木が人気者のかのんちゃんと釣り合うわけない!」
「じゃあ、誰なら私と釣り合うの? 私のことを人気者って言うなら、同じくらい人気な男子なら釣り合うの? それって誰? 小林くんなら私と釣り合うわけ?」
「そりゃ、俺だったら……」
「無理。そういうこと言う人、私は好きじゃないから。第一、小林くんって別に人気者じゃないし」
こんなこと言われたら、多分俺は泣いている。
好きな人に面と向かって……、しかも教室内のみんなが見ている中で拒絶されたのだから。
それでも同情はできない。
先に突っかかって来て、ここまで自意識過剰でナルシストな小林の擁護をする気にはなれるはずもなかった。
「それに、性格良いって言ってたけど、別にそんなことないから」
「いやいや、かのんちゃんの性格良いし、完璧だから」
「……誰のこと言ってるの? 完璧って言えるくらい、私のこと知ってるの?」
「……そりゃ知ってるよ。ずっと好きだったし」
自ら公開告白をした小林。
もうヤケになったのかもしれない。
「聞きたいんだけど、小林くんって私に全部見せてくれるの? 嫌なところとか、そういうの私に見せれる?」
「……見せてるけど」
「嘘。私のこと好きって言うならちょっとくらいカッコつけるでしょ? 違う?」
「まあ、ちょっとはあるかも……」
「そうだよね? 私もクラスメイトとかに良い顔したいから、素の自分のことを隠してる。私の嫌なところを知ってるのって、颯太くん……あとは若葉ちゃんと藤川くんと、他に何人かだけだから」
「か、花音……」
「いいよ。もう耐えられないから」
今まで隠していた性格のこと……、そして、俺を名前で呼んでいることを花音は曝け出した。
「私が誰かのことウザいとか、ムカつくとか、そういうこと言ってたら小林くんって受け入れてくれるの?」
「……かのんちゃんはそういうこと言わないじゃん」
「面と向かっては言わないよ? 私だって言われたら傷つくから。でも、嫌なことされたらムカつくし、しつこかったらウザいって思うよ。愚痴だって言う」
ややマイルドには言っているが、事実その通りだ。
花音は無闇に他人の悪口を言わないが、腹を立てることはある。
完璧な美少女というイメージを作り出しているが、花音も人間なのだから。
「颯太くんはそんな私を受け入れてくれたから、友達……親友だと思ってるの。最初が颯太くんだったから私のことも一番わかってくれて、特に仲が良いだけ」
「お、俺もどんなかのんちゃんでも受け入れるし!」
「そもそも、私が自分の全部を小林くんに話したいと思うの?」
「話してくれるなら受け入れるし……」
「だから、そもそも話したいと思えるのかって」
そう言われて小林は押し黙った。
それもそうだ。
話したいかどうかなんて、花音本人にしかわからないのだから。
「私にとって、小林は自分を曝け出したいと思える相手じゃないの。わからない?」
依然、小林は黙ったままだ。
小林の考えが変わらないのならば、先ほどの言葉から察するに、『なんで青木は良くて、俺はダメなんだ?』と考えていることだろう。
「まずね、初対面の人に全部を曝け出す人なんてそうそう多くないでしょ? それから人間関係を作っていってから本性を出していくと思うの」
「……うん」
「私は人との心の壁は厚いと思ってる。……理由はあるけど教えないし、教えたくない」
理由は、中学時代の話のことだ。
「全員になんでも話せるわけじゃない。颯太くんとは偶然から始まったの。若葉ちゃんと藤川くんは、颯太くんがキッカケっていうのもあるし、私のミスや偶然もあるけど、私が話したいと思ったから話したの。他の人もそうだけど、私が話したいと思ったから話しただけで、小林はそう思われるような人なの?」
「……青木よりは」
「話したくないのがそういうところって、まだわからない? 言いたくないけど正直に言うと、そういうところウっっっっっザい。人と比べないとダメなの?」
我慢しきれなくなったから花音はついにハッキリと言い切った。
怒らない、誰にでも優しい『かのんちゃん』の姿は、もうそこにはない。
ただの『本宮花音』だ。
俺は興奮する花音を「落ち着いて」と宥める。
すでにオーバーキルだ。
小林は涙目になっている。
女の子に責め立てられたからか、普段は優しい『かのんちゃん』に責められたからか、好きな人に責められたからなのかはわからない。
ただ、普段見せている姿とは違う花音を見て、口を開けながら呆気に取られていた。
「もう一回だけ言うけど、私と颯太くんは付き合ってないよ。ただ、仲が良い親友。だから昨日遊んだのだって、普通に遊んだだけ」
そう言って一度深呼吸をする。
そして、今まで溜まった鬱憤と一緒に言葉を吐き出した。
「私は好きな人もいないし、今は恋愛するつもりもない。高校生だし彼氏は欲しいけど、今はこの四人で一緒にいるのが楽しいから。告白するんなら……本当に好きって言うなら、もっと私のことを知ってからにして」
教室中の注目を集めている中での宣言だ。
少なくとも、迂闊に今の花音に近づく人は減る宣言だった。
「小林くん。好意は嬉しいし、否定はしないよ? でも、何度もしつこくされるのにはウンザリしてるから、もうやめて」
やや攻撃的だった声色も、少しだけ優しいものになっている。
しかし、それ故に逆に怖さが増していた。
ここまで言われてようやく諦めた小林は、落ち込んでいる。
何も言わずに項垂れながら教室から出ていった。
静まり帰っていた教室も、少しずつ騒がしさを取り戻し始める。
そして花音は、申し訳ない様子で俺たちに声をかけた。
「……ごめんね」
「花音が謝ることじゃないよ」
「ううん、今まで隠してきたから。……曖昧にし続けてきたからこうなったんだと思う。だから謝らせて欲しい」
そんな言葉を聞くと、俺は何も言えない。
若葉も虎徹も、言葉が出なかった。
ちょうどチャイムが鳴る。
俺たちは無言のまま、それぞれ席に戻っていった。
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