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第二章 高校三年生編
第124.5話 藤川虎徹は過ごしたい
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「まったく……、颯太のやつ気遣いやがって……」
「何か言った?」
「なんでも」
俺のつぶやきはこの人混みでかき消された。
たった三十分とはいえ、二手に分かれるのは不自然すぎる。若葉は気付いていないようだが、颯太の考えはすぐに読めていた。
ただ、そんな気遣いも少しばかり嬉しく思い、俺は颯太に礼のメッセージを送った。
「ねえねえ虎徹」
「ん、なんだ?」
俺は携帯に視線を落としていたが、若葉の声で顔を上げる。
「色々あるけど、どこから回ろっか?」
「そうだな……」
「とりあえず、颯太とかのんちゃんが選びそうなものを選んどく?」
「いや、それなら二人も俺らに合わせようとするだろ。それか、俺らが向こうの選びそうなものを選ぶのを期待して選んでいるか。それなら俺たちが食べたいものと、向こうが食べたそうなものを半々くらいで選んだほうがいいな」
「なるほど!」
適当に考察を言ったが、若葉と二人きりになったことで、完全にゲームをしていることを忘れていた。
俺と若葉、颯太と本宮のチームで五つ買ってきて、いくつ合うのかというゲーム。
恐らく食べ物だろうが、その辺りのルールは適当なため、発案した颯太は俺たちを二人きりにするためにその場で思いついたことを言っただけなのだろう。
しかし、せっかくの機会だ、俺は現状を満喫しておこうと考えた。
わざわざ時間を作ってくれたのに、本当にゲームのことだけを考えるのは颯太の提案を無駄にすることになるのだ。
「虎徹、あれとか良くない?」
「どれ?」
若葉が指差す方に視線を向けるが屋台は多い。
俺は顔を近づけて若葉の指が差す方を向ける。
「ち、ちか……」
「トウモロコシ焼きかぁ……」
俺は若葉の反応をスルーしながらつぶやいた。
反応してしまえば強く意識をしてしまうため、俺も俺で緊張するのだ。
「俺も向こうも選ばなさそうじゃないか?」
「そ、そう? でもかのんちゃん、前の祭りの時に食べ損ねたって言ってたよ」
「だいぶ前だな……」
まだ一カ月は経っていないが、四週間近くは経っている。
友達と遊ぶことに飢えている本宮のことだ、普段は真面目だとは思うが、こういうところは突拍子もない行動をする。
年相応と言うのか、若干幼いくらいに。
「急ぐことはない。とりあえずゆっくり見て回らないか?」
「そうだね……」
俺は気が付いた。
――あ、若葉照れてるな。
いつもの元気がどこに行ったのか、しおらしくなっている。
俺も若葉にペースを乱されていることは自覚しているが、若葉もそれは同じなのだろう。
仕返し……というわけではないが、いつもの元気な若葉とは違う大人しい若葉が見たいとも思ってしまう。
からかって、反応の可愛い若葉を、だ。
「ちょっ、こ、虎徹!?」
「どうした?」
俺は顔が熱くなるのを感じながらも、そっと若葉の手を握る。
「て、てててててって、て」
「何かの効果音か?」
「ちがっ! 手だよ!」
握った手を振り回し、若葉は顔を赤くしている。
いつもは自分からくっついてくるのに、こういう時は弱いのだ。
「ああ、人も多いし、はぐれないようにな」
「え、あ、うん……」
もちろん言葉通りの意味もあるが、今の今まで手を繋いでいなかったのだ。今さら手を繋ぐ必要はない。
それでもパニックになっている若葉は指摘してくることはなかった。
「そうだ、若葉」
「ど、どうしたの?」
「浴衣、似合ってるぞ」
「うひゅ!?」
変な声を出して、若葉の顔は更に赤くなる。
ただ、俺だって恥ずかしいのは恥ずかしい。
恥ずかしいから、『可愛い』とはっきり言えなかったのだ。
物心がついたころには一緒にいて、好きだった。
そんな相手だが、今でもなお新鮮な気持ちでいられる。
若葉と一緒にいることは飽きないのだ。
初デート……になるのかわからないが、俺と若葉はそのまま三十分間、二人きりで祭りを楽しんでいた。
「何か言った?」
「なんでも」
俺のつぶやきはこの人混みでかき消された。
たった三十分とはいえ、二手に分かれるのは不自然すぎる。若葉は気付いていないようだが、颯太の考えはすぐに読めていた。
ただ、そんな気遣いも少しばかり嬉しく思い、俺は颯太に礼のメッセージを送った。
「ねえねえ虎徹」
「ん、なんだ?」
俺は携帯に視線を落としていたが、若葉の声で顔を上げる。
「色々あるけど、どこから回ろっか?」
「そうだな……」
「とりあえず、颯太とかのんちゃんが選びそうなものを選んどく?」
「いや、それなら二人も俺らに合わせようとするだろ。それか、俺らが向こうの選びそうなものを選ぶのを期待して選んでいるか。それなら俺たちが食べたいものと、向こうが食べたそうなものを半々くらいで選んだほうがいいな」
「なるほど!」
適当に考察を言ったが、若葉と二人きりになったことで、完全にゲームをしていることを忘れていた。
俺と若葉、颯太と本宮のチームで五つ買ってきて、いくつ合うのかというゲーム。
恐らく食べ物だろうが、その辺りのルールは適当なため、発案した颯太は俺たちを二人きりにするためにその場で思いついたことを言っただけなのだろう。
しかし、せっかくの機会だ、俺は現状を満喫しておこうと考えた。
わざわざ時間を作ってくれたのに、本当にゲームのことだけを考えるのは颯太の提案を無駄にすることになるのだ。
「虎徹、あれとか良くない?」
「どれ?」
若葉が指差す方に視線を向けるが屋台は多い。
俺は顔を近づけて若葉の指が差す方を向ける。
「ち、ちか……」
「トウモロコシ焼きかぁ……」
俺は若葉の反応をスルーしながらつぶやいた。
反応してしまえば強く意識をしてしまうため、俺も俺で緊張するのだ。
「俺も向こうも選ばなさそうじゃないか?」
「そ、そう? でもかのんちゃん、前の祭りの時に食べ損ねたって言ってたよ」
「だいぶ前だな……」
まだ一カ月は経っていないが、四週間近くは経っている。
友達と遊ぶことに飢えている本宮のことだ、普段は真面目だとは思うが、こういうところは突拍子もない行動をする。
年相応と言うのか、若干幼いくらいに。
「急ぐことはない。とりあえずゆっくり見て回らないか?」
「そうだね……」
俺は気が付いた。
――あ、若葉照れてるな。
いつもの元気がどこに行ったのか、しおらしくなっている。
俺も若葉にペースを乱されていることは自覚しているが、若葉もそれは同じなのだろう。
仕返し……というわけではないが、いつもの元気な若葉とは違う大人しい若葉が見たいとも思ってしまう。
からかって、反応の可愛い若葉を、だ。
「ちょっ、こ、虎徹!?」
「どうした?」
俺は顔が熱くなるのを感じながらも、そっと若葉の手を握る。
「て、てててててって、て」
「何かの効果音か?」
「ちがっ! 手だよ!」
握った手を振り回し、若葉は顔を赤くしている。
いつもは自分からくっついてくるのに、こういう時は弱いのだ。
「ああ、人も多いし、はぐれないようにな」
「え、あ、うん……」
もちろん言葉通りの意味もあるが、今の今まで手を繋いでいなかったのだ。今さら手を繋ぐ必要はない。
それでもパニックになっている若葉は指摘してくることはなかった。
「そうだ、若葉」
「ど、どうしたの?」
「浴衣、似合ってるぞ」
「うひゅ!?」
変な声を出して、若葉の顔は更に赤くなる。
ただ、俺だって恥ずかしいのは恥ずかしい。
恥ずかしいから、『可愛い』とはっきり言えなかったのだ。
物心がついたころには一緒にいて、好きだった。
そんな相手だが、今でもなお新鮮な気持ちでいられる。
若葉と一緒にいることは飽きないのだ。
初デート……になるのかわからないが、俺と若葉はそのまま三十分間、二人きりで祭りを楽しんでいた。
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