ドミネーション

ドミネーション

　いつか見ていたあの光景……血が滴って、赤い水溜まりを作る。もう後には戻れないんだ……。

　どうしてこうなった？親は最愛の人を殺した。殺したかったわけではない。ただ、ただ……。道端に小さなオシロイバナがたくさん咲く季節、君のSNSを見る。「別れた」という匂わせストーリーの更新。嫌気が差して待つ、君の帰り。心臓の鼓動だけが速くなっていく……。

　君のためにひいたレールが君をがんじがらめにしてる。君が道を外さないように設置した鎖が君を封じ込める……。いや、そんなのはただの空想で、ただの嘘でしかなくて、本当は「君のため」ではなく、「俺のため」。すべては俺の不安を取り除くためなのに君は俺を不安にさせる。それに気づいた俺はもう耐え切れず、家を出ていた……。

　自分の醜さにほとほといやになった俺は、ふらふら目的もなく歩いていた。あぁ、もういいよ。俺は君が全てだったんだ。君を失った俺は一言、
「あぁ、もう疲れたな。」
そう言って、近くの百均に寄る。切れ味の良さそうな包丁を買って空を見上げる。今ごろ、君は仕事終わりかな……？

　歩いて駅に向かう。人通りの少ない夜のホーム、駅の照明だけがやけに明るい。ここで誰かを道連れにして、楽になろう……。

　そこから数分後、電車がホームに着いて、扉が開く。買った包丁を取り出した時、聞きなじみのある声が聞こえた。君の声だ。俺に気づいた君は一言、
「ごめん。」
その言葉で全てを察した俺は、君を人気のない待合室に誘い、そこで話をした。だが、話の収束がつかなくなり、手に持ってる包丁を何度も振り上げた……。

　俺が我に帰った時にはもう遅かった。君はもう息も意識もなくなっていて、胸には包丁が突き刺さっていた。それが俺の仕業だってことは、すぐに気づいた。血が滴って、赤い水溜まりを作る。生暖かい変な感じがして、手を見る。君の血で濡れていた。

　すべてを理解した俺は、線路に飛び込んだ。もう、先にも何もいいことないから……。もう、後にも戻れないから……。だから、
「さようなら、この世界……。」