絶対に出てはいけない電話

朽木昴

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鳴り終わらない電話

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 今日からここが新居。
 とは言っても、ボロボロのアパートで家賃も安い。
 立花恭介は荷解きを終えると、夜勤に備えて仮眠を取る事にした。

 目が覚めたのは18時過ぎ。
 いつものように仕事へと出掛けていった。


「今日は疲れたなぁ。さっさと寝るとするかぁ」

 夜勤終わりで疲れており、恭介は朝ごはんを食べるとすぐにベッドの中へ。
 時間は朝の9時、ここから夕方まで寝るのが彼の日課だった。

 ジリリリリリリリリ──。

 突然鳴り響く大きな音。
 時間は11時という昼間であるものの、このうるささに恭介の目が覚めてしまう。

「んだよ、せめて音量ぐらい下げておけよな。今度、大家さんからクレーム入れてもらうか」

 どうせすぐに鳴り止むだろうと、再び眠りにつこうとした。
 が……鳴り止む気配は一向になく、数時間という長い間、大きな音で鳴り続けた。


 この日だけだろうと思って我慢したが、次の日も、また次の日も電話は同じ時間に大きな音で睡眠の邪魔をしてきた。
 さすがに精神的にも限界であったため、恭介は大家さんに電話でクレームを入れる。

『もしもし、この前引っ越してきた立花ですけど、隣の部屋の電話がうるさくて眠れないので、なんとかして欲しいんですけど』

 怒りをぶつけるような口調で大家へと八つ当たりする。
 ところが、大家から返ってきたのは予想外の言葉だった。

『おかしいねぇ、隣は空き部屋になってるんだけど』
『えっ……』

 恭介は言葉を失った。

『でも、その様子じゃ聞き間違いってわけでもなさそうだね。今度、私も立ち会うから確認しようか』

 電話が切れても恭介は固まったまま。
 一体何が起きているのか想像すら出来ず、翌日に大家が来るのを待つしかなかった。


 翌日、11時少し前に大家が恭介の部屋を訪ねてきた。

「ごめんねぇ、一応隣の部屋の合鍵も持ってきたから、原因を突き止めましょうか」
「すみません、俺、夜勤なので昼間眠れないと困るんですよ」

 眠たそうな顔で大家と話していると、あの音が時間を知らせるように聞こえてきた。

「なんだいこの音は……。ちょっと隣の部屋を見てみようか」

 大家と一緒に隣の部屋へ足を踏み入れる恭介。
 だがそこで見たものは──。

「えっ……。何もない……」
「んー、やっぱり物ひとつ置いてないねぇ。この音はどこから聞こえてるんだろ」

 音の発生源を探すふたり。
 シンプルな部屋の作りで、何かを隠せるような場所などない。
 では、この音はどこから聞こえて来るのか……。

「大家さん! 壁の中から聞こえてるみたい」
「うーん、本当だねぇ。工事の人が間違って埋めたのかもしれない。さっそく明日にでも取り出すとするよ」

 この日も騒音に耐えながら、恭介は寝る事にした。


 業者が来たのは11時近く。
 どうやら渋滞で到着が遅れたらしい。

「にわかに信じ難いですけどねぇ。壁の中に電話があるだなんて」

 業者が疑いの眼差しを向けるも、その音は時間通りに爆音を鳴り響かせた。

「確かにこれは……。それじゃさっそく壁を壊しますね」

 脆い作りであったため、壁は滞りなく破壊される。
 すると、隙間に何か黒い物体を見つけた。

「これは……黒電話ですね」
「黒電話?」

 聞いた事のない言葉に思わず聞き返す恭介。
 新しいタイプの電話だと思っていた。

「留守電とか一切なくて、ダイヤルを回して電話をかけるんだよ。今では姿を消したけどね」
「そうなんですか……」

 業者は慎重に壁から黒電話を取り出し、電話線がどこに繋がっているか確認しようとした。

「そんな……。こんな事って……。ありえない、なんでこの黒電話は鳴り続けてるんだ」

 その場にいた全員が固まるのも無理はない。
 電話線は途中で切れているのにも関わらず、いまだ鳴り続けているのだから……。

「な、何が起こってるんだ。誤作動とかなのか?」

 黒電話をよく知らない恭介は、誤作動かと思い受話器へと手を伸ばした。
 そして、そのまま耳に当てると──。

『やっと出てくれたわね。あははははは、ふふふふふふ、きゃははははは』

 身も凍るような声。
 全身に寒気が走り、受話器を落としてしまう。
 そこから聞こえるのは……この世のものとは思えない女性の高笑いであった。

「うわぁぁぁぁぁ」

 叫び声とともに、恭介は電話を切った。
 眠気は一気に覚め、寒気が止まらなくなっていた。

「こんな事って……。これは処分した方がいいですね……」

 一番冷静だった業者が、静かになった黒電話を回収した。


 数日後──。
 黒電話を処分した業者は失踪したと、恭介のもとに大家から連絡があった。

 怖い、あれですべて終わりじゃなかったのか。

 そう思いながら仮眠を取ろうとベッドに潜り込むと──。

「捨てるなんて酷いじゃない。ずっと、ずっと一緒だからね。ふふふふふ……」

 布団の中から乱れた長い黒髪の女性が姿を現す。
 恐怖で言葉が失われ、その後、恭介の姿を見たものは誰もいなかった。
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