○ンデレの恋愛事情

朽木昴

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幼なじみへの想い

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「きょーすけ! べ、別にアンタのタメじゃないんだけどさっ、お昼のお弁当……あげるわよ。か、勘違いしないでよねっ、寝ぼけて二食分作っちゃっただけ、なんだから……」
「ありがとう、志帆。いつも助かってるよ」
「ば、ばかっ、ホントに間違えただけなのっ! だから、捨ててくれてもいいんだからねっ」

 ここ一週間くらい前から、志帆は恭介のためにお昼のお弁当を作っている。
 毎朝このやりとりでお弁当を渡すのが志帆の日課。

 気持ちを直接伝えられず、かといって何もしないということは出来なかった。悩み抜いた末に出した結論が、お弁当を作って食べてもらう、というベターな方法だ。

 学校で渡す勇気はなく、しかも茶化されるのが目に見える。そこで志帆が考えたのは、登校前の恭介の家で渡すという方法。これなら、誰にもみられなくて済むからだ。

 毎日恭介の家に通わないといけないが、実はこのふたりは幼なじみ。
 家もすぐ隣なので、志帆が負担になることはなかった。

「捨てるなんて僕には出来ないし、ちゃんと、今日も美味しく食べさせてもらうね」
「ふ、ふんっ、味に期待なんてしないでよねっ。そ、それじゃ、私は先に学校に行くね」

 いくら幼なじみとはいえ、恥ずかしくて一緒に学校なんていけない。
 本音は一緒に行きたいのだが、志帆にそんなこと言える勇気などなかった。


 ──学校終わりの恭介の家で。
「志帆、今日のお弁当、今までで一番美味しかったよ」
「そ、そう、あんな適当なお弁当で満足するなんて、舌がおかしいんじゃない?」

 恭介の両親が仕事で帰って来られないので、今日は志帆が夕食の準備をしている。
 これは今回に限った話ではなく、恭介がひとりのときは志帆が毎回押しかけて、夕食を作ってくれた。

「ははは、そういう事にしておくよ。それにしても、いつもありがとう、ホント感謝してるよ」
「べ、別に感謝されたくて作ってるだけじゃないし、そう、家庭科の練習よ、本当にそれだけ、なんだから」

 ほんのり頬を染める志帆。
 素直になれないが、実は恭介のために家でかなり努力していた。

「ところで、きょーすけ、今日のお昼なんだけど……一緒にいた女の人は誰?」

 志帆の声が1オクターブ下がり、背後からどことなく黒いオーラが吹き出し始める。

「えっ、お昼? あの子は友達だよ、ただの友達」
「ふぅ~ん、友達、ね。あんなデレ笑顔、私の前じゃ見せたことないのに」
「そんなことないと思うけど──って、どうしてその事を知ってるの?」
「きょーすけ、女には秘密があるんだよ、そう、秘密がね。だから、私以外の女とデレデレするの禁止ね」
「別にいいけど……。でも、今度あの子と買い物に行く約束しちゃったんだけど」

 恭介の放った言葉で、志帆の手がピタリと止まった。
 そして、包丁を手に持ったまま振り向くと、恭介にこう言い放ったのだ。

「へぇ~、そっかぁ、約束したんだ。私に内緒で……。そうそう、今日の料理に使うダシは特別なモノにしよう。だから、私にその子の住所教えてくれない? 今から取ってくるからね」

 冗談には聞こえない──その瞳はくすみきっており、口元には不敵な笑みを浮かべる。
 背筋がゾッとした恭介は志帆を止めるため、その子との約束を断ると約束した。

 その後はお風呂で汗を流してから、志帆と一緒に夕食を食べ始める。
 ただ──味噌汁の味は恭介が今までに味わったことのないモノであった。
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みんなの感想(1件)

美杉。節約令嬢、書籍化進行中

ダシwww
ジャンルホラーでも良さげですね(>_<)

朽木昴
2022.08.29 朽木昴

ホラーにしようか迷いましたね。
でも、9割恋愛系なので恋愛を選びました。

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