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第4話 傲慢なアイドル

アイドルの罠 その三

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「ここが私の家よ。荷物は適当に置いてちょうだい」
「お、お邪魔します」

 女子の家には慣れているはずだが、一人暮らしは初めてで直哉は緊張し心臓の鼓動が少し早くなっていた。

 大きく息を吸い込み、深呼吸し葵の暮らしている部屋へ足を踏み入れたのだ。

「それじゃ、カレーライスお願いね。私、シャワー浴びてさっぱりしてくるから」

 葵はそう告げると、一人脱衣所へ向かっていったのだ。脱衣所で服を一枚ずつ脱ぎ、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

(後は・・・・・・直哉君を呼び出して、売れっ子アイドルのあられない姿を見られたとすれば・・・・・・。うん、あの女の弱みであるあの男を利用出来るわね)

 直哉は嵌めようと画策し、直哉にバスタオルを取ってきて貰う予定であった。

 しかし、そこには大誤算があり、それは葵にとって全くもって想定外であったのだ。準備万端で直哉に声を掛けようと、大きく息を吸い込むと、小さな黒い物体が視界を横切っていったのだ。

「きゃあああああああ」

 思わず悲鳴を上げそのまま脱衣所を出ると、調理をしている直哉に抱きついたのだ。涙目になりながら、直哉にしがみつくと震えた声で助けを求めたのだった。

「な、直哉君・・・・・・。あいつが・・・・・・あいつが出たの。何とかしてえええええ」
「あいつ・・・・・・?何が出たんですか?」
「あいつよ、Gよ!あれだけはダメなのぉぉぉぉ」

 直哉がそいつを処理する為、振り向くとそこには白い下着姿の葵が涙を浮かべていたのだ。

 一瞬その姿を見ると、すぐに目を背けて照れながら葵に優しく話をしたのだった。

「おの・・・・・・退治するのはいいんですけど・・・・・・、その・・・・・・何か着てくれませんか?その姿ですと目のやり場に困るので・・・・・・」

 直哉に言われ、自分の姿を改めて見直すと・・・・・・何も羽織っておらず下着姿のまま直哉に抱きついている事に気がついたのだ。

 葵の想定では、『脱衣所に入ってきた直哉に、バスタオルを巻いた姿を見られる』はずだった。

 それが、下着姿で泣きながら直哉に抱きついてしまうという、全く想定外の自分の行動に思考が崩壊してしまった。

 直哉がバスタオルを掛けてあげると、赤面しながらうつむき黙ってしまう。ひとまず、脱衣所にいるGを処理した直哉はもう安心だと優しく葵に伝えたのだった。

「ほ、本当に・・・・・・本当に大丈夫なのよね?嘘じゃないわよね?」
「大丈夫ですって。ちゃんと処理しましたから、安心してシャワー浴びてきて下さい」
「うぅ・・・・・・。嘘だったら・・・・・・絶対許さないからねっ」

 葵は足早に脱衣所に戻ると、慎重に周囲を見回し居ない事がわかるとシャワーを浴びる為に風呂場に入ったのだった。

 シャワーから戻ると、テーブルにはカレーライスが用意されており、直哉は使った調理器具を洗っていた。

 そんな直哉を見ると、再び恥ずかしさが葵を襲い静かに席に着いたのだった。
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