ツンデレヒロインの逆襲

朽木昴

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第3話 生徒会選挙はツンデレで

生徒会選挙はツンデレで 10ページ目

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「みなさま、おはようございます。私が生徒会長へ立候補した西園寺朱音です」

 翌日も遅刻することなく、私は正門で演説していた。

 昨日いた舞星さんの姿が見えないけど、きっと寝坊したのよね。余裕があるからなのかな、ううん、それはどうでもいい。私は私のなすべきことをするだけ。

 そう、私がなすべきことはふたつよ。


 ひとつは、昨日忘れてた奈乃さんお手製の演説内容。

 もうひとつは──魔性の居ぬ間に洗濯作戦。


 洗濯といっても本当にするわけじゃなの。『鬼の居ぬ間に洗濯』を魔性風にしただけ、なんだから。この作戦は、舞星さんの評判を落とすシンプルなもの。

 べ、別に嘘を言うわけじゃないの。ただ、ほんの少し脚色するだけ、なんだから……。

「私は生徒会長にまったく興味がないの」

 えっと、ここで照れる仕草よね。

 はうっ、いきなり照れるって難しいよ。

 落ち着きなさい朱音、まずは顔を赤く染めるの。

 それには、過去の黒歴史を思い出せばいいのよ。

 そう、私の黒歴史──。


 その中で一番重いのを思い浮かべ──甚大な心へのダメージと引き換えに、私は顔を赤く染めることに成功した。


「で、でも、勘違いしないでよねっ。みんなの役に立ちたいって、ほんの少し思ったの。本当にそれだけ、なんだから……」

 うっ、思ったより黒歴史のダメージが大きいよ。あれは忘れたくても、絶対に忘れられないもん。

 コンクールで金賞を取った中学時代。

 もちろん嬉しくてクラスメイトに自慢したのよ。

 でも……受賞したのは同姓同名の別人で、私は学校一のピエロにクラスチェンジしちゃったの。そうよ、たまたま職員室で受賞の話を聞いたけど、実は『ウチの学校にも同じ名前の生徒がいる』というオチだったのよ。


 当時を思い出すと、私の心が闇色に染まっていく。それこそ、ここがデレポイントなのにデレ方を忘れ、歪な表情のデレ顔を披露してしまった。


「で、でも、私が当選したら、ツンデレブームを巻き起こしたいって思っているの。だから、私に投票して欲しいかなっ」

 デレ顔は失敗しちゃったから、ここの涙目は成功させないと。まずは空を見上げて次に目薬を──って、この目薬は色が赤いよ。

 これじゃ血の涙になっちゃうじゃない。確かに心の中では血の涙を流してるけどさ。

 でも違うの、ここで欲しいのは普通の涙目なんだからぁぁぁぁぁぁ。


 心の中で叫び声を上げるも、赤い目薬をさすしかなかった。きっと周りには、赤い涙が光り輝いているように見えてるはず。

 だから、周囲の視線は違和感しか感じられない。

 だって赤い目薬はホラーを演出しているもの。これは大きなマイナスポイントにしかならない。せっかくツンデレで好感度がアップさせたのに、赤い目薬がそれを急降下させたからよ。


 こうなったら、舞星さんを使って再び支持率を上げるしかないね。魔性の力を逆手にとって、舞星さんから支持率を奪うのよ。

 この使命は非常に難易度が高い、エベレストよりも遥かに高いよ。

 でも、ツンデレに不可能の文字は存在しないんだからねっ。
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