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「事件遭遇12時間前」
しおりを挟む秋晴れというにはまだまだ夏の雲が残る9月21日午前8時、東大阪産業大学キャンパスに一台の赤と銀色のオリジナルカラーリングされたオフロードバイクと大型のワゴン車が入ってきた。
学生会館の前で止まると、6人の学生が部室から荷物をワゴン車に積み込む様子を「ヒーロー部顧問」の助教授「母須野基弘」が見守っている。
20分程でワゴン車の荷室はキャンプ用品と荷物で一杯になった。
副部長役の青田一番が5人のメンバーに声をかけた。
「今から舞鶴の竜宮浜に向けて出発する。バイクで行く大樹は、合流スポットの赤れんが倉庫までは自由行動。万一トラブルがあったら、必ず電話かグループラインにメッセージを入れるように。
出発前にしつこいけど、みんな「忘れもの」はあれへんな!」
「無い無いー!忘れもんなんかした奴は後でしばいたったらええねん!早く出発しよー!れっつらごー!」
と比呂が真っ先に声を上げワゴン車の後部座席に乗り込んだ。太がそれに続く。中央席には美津恵と月子が座り、
「では、先生、よろしくお願いします。」
と一番が助手席に乗り込むと母須野は車をスタートさせ、その横を大樹のオフロードバイクが派手にウイリーして追い抜いていった。
第二京阪から京滋バイパスに入り大山崎ジャンクションから京都縦貫道で丹波まで一気に走った。女子チームの希望で「巫女埴輪」が発見されたことで有名な古墳群の横に立てられた道の駅「味夢の里」で噂のスイーツを買い、ワゴン車は一般国道で舞鶴へ北上した。
車内では、「ヒーロー名しりとり」やヲタクレベルのニッチな「ヒーロークイズ」が行われ盛り上がり、各々が好きな「ヒーローソング」のカラオケなど皆で楽しい時間を過ごした。
午前10時半、ワゴン車が赤れんが倉庫駐車場に到着すると既に赤とシルバーの大樹のバイクは止まっていた。赤れんが倉庫群と反対の自衛隊舞鶴基地側の壁の前でスマホを構えてイージス艦や護衛艦の写真を撮るジーンズベストの男の姿が目に入った比呂は大きな声で
「おーい、おまたせー!みんな着いたでー!」
と大樹に声をかけた。
7人で過去の映画で使われた撮影場所で記念写真を撮ったり、土産物屋を散策したり、クラブのホームページや「X」用に施設が設置したいわゆる「映えスポット」で集合写真を撮っているとあっという間に昼を迎えた。
「じゃあ、今から竜宮浜に場所を移してみんなのお楽しみのバーベキューや。みんなお腹空いてるやろうけど「空腹」は最高の調味料や。もう少し我慢してな!」
と一番が声をかけると「はーい」!と4人が声を上げる中、(ここは「ロジャー!」(注22)やろ!)と比呂だけがデカレンジャー版の返答をしていた。
竜宮浜についていきなりのトラブルが発覚し、比呂は大ピンチに陥った。7人分の「肉」を入れたクーラーボックスが見つからない。大樹と太がテントとタープを貼り、一番がバーベキューコンロの火をおこし、美津恵と月子が野菜のカットに入る中、肉の準備担当だった比呂は焦った。
少しでも肉の鮮度を保つため、ぎりぎりまで冷蔵庫に入れておき、最後にクーラーに入れて持っていくつもりでいたのだが、他のメンバーの荷物運びを手伝っていてすっかり肉の事を忘れてしまっていたことに気がついた。
「比呂先輩、もう炭が「いこった」んで「肉」出してくださーい。もうみんなお腹ペコペコやって言うてますよー!」
と太から声をかけられ、手ぶらで皆が待つバーベキューコンロの前まで行くと、思い切り土下座をした。真っ白な砂におでこと前髪を埋め、
「ごめんなさい!肉全部、部室の冷蔵庫に忘れて来てしまいました!焼くなり煮るなりしてください!」
と大声で謝った。
「えーっ!」
6人は驚きの声を上げた。
「比呂ちゃん、今のほんまか?冗談やったら洒落になれへんで!」
「ぎょへー、野菜だけのバーベキューになってまうの?がびーん!」
美津恵と月子がその場でへたり込んだ。皆の視線が比呂に食い込む。
「まあ、無いもんは無いでしゃあないやん。釣竿も持って来てることですし、魚はここで調達したらええじゃないですか。一番先輩が「キス」や「アジ」、うまくいったら「カレイ」が釣れるって言うてたやないですか。」
太が比呂を庇うと、一番が残念そうに言った。
「今日の満潮は16時58分…。晩飯はみんなで魚釣って焼いたり、魚ちり鍋したり干物づくりをしようと思ってたんやけど、今、12時半。干潮の10時26分からまだ2時間や。とても浜からでは釣りはできへんわ…。」
重い空気が一面を覆う中、大樹が電動コンプレッサーとゴムボートを持ってきて言った。
「比呂ちゃん、窮地に陥ったときこそ頑張るんが「ヒーロー」やろ!浜から釣られへんねやったら、ボート出してみんなの食材ゲットしに行こうや。いつまでもしょぼくれて土下座してんと元気出してや。一番先輩はここら辺の釣り場スポット知ってはるんでしょ?」
優しくフォローしてくれる大樹の言葉に砂まみれの顔を上げ、半泣きの顔で一番の顔を見上げた。
「しゃあないな。昼飯は90分延期。俺と大樹とこの「バカ」でこの先のアンジャ島の先で釣ってくるわ。それまでの間、飲み物とおやつに用意してたスイカやプリンでも食べて待っててくれな。」
というと、ボムボートを膨らませ始めた。
5分後、パンパンに膨らんだゴムボートを遠浅の浜に浮かべ比呂、一番、大樹の三人は北東に見える「アンジャ島」と呼ばれる小高い半島に向けてオールを漕ぎだした。
400メートル先の小幡漁港を横目に更に200メートル進み、「アンジャ島」北の釣りスポットに到着した。一番は3本の竿の仕掛けをセッティングし比呂には、
「北向きに投げろ。投げたらおもりが沈むのを少し待ってゆっくりと引き上げるんや。餌の「イソメ」は自分でつけられるか?」
と動く餌虫のケースを見せた。
(ゲロゲロ、私の苦手な「うにょうにょ系」や!けど…。今回のトラブルの「責」は全て私にあるんやし、浜でお腹を空かせて待ってる仲間の為にもリーダーの私がやらんわけにはいけへんやろ!)と覚悟を決めて餌虫をつまんだ。
一番は、「絶対無理!餌はつけて。」と言われると思っていたが、思い切り嫌な顔をしつつ虫をつまむ比呂に少し感心して、針への餌のつけ方を丁寧に教えた。
その次に投げ方とリールの巻き取り方を説明した。比呂の「第1投」は綺麗な放物線を描き20メートル先の波間に着水し、仕掛けは沈んでいった。
舞鶴を襲う「震度6弱」の巨大地震まであと1時間だった。
(注22)「ロジャー」
先述の「特捜戦隊デカレンジャー」の中での「宇宙警察地球署」の「了解」の意を示す掛け声。
ポージングは通常の「敬礼」でなく「宇宙戦艦ヤマト」方式で右腕を胸の前で横にするところがかっこいい。
諸説あるがテレビ朝日の製作スタッフに外国人がいて「日本の「ヒーロー」は「ラジャー」と発音するが、実際には「ロジャー」という発音が正しいと推したことによるらしい。
確かに「デカレンジャー」が公開された当初は、「違和感」の指摘も多かったが、20年経った今、「デカレンジャー」での返答は「ロジャー」以外ありえないとファンは思っている。
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