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四国編

⑫「磐境神明神社《いわさかしんめいじんじゃ》でのお告げ」

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「四国編」

磐境神明神社いわさかしんめいじんじゃでのお告げ」
 午前8時半、誰一人遅れることなくホテルのロビーに集合した。夏子は白いブラウスにミニスカートを組み合わせて気合を入れている。MKが駐車場からバスを正面口に乗りつけると、バスに一番に乗り込み、運転席の後ろの席に陣取り、クーラーボックスとお菓子の入ったバッグを横に置いて皆を迎えた。
「はい、ひまちゃんはミルクティーと飴ちゃんやね。稀世姉さんと三朗兄さんは緑茶とおせんべい…。直さんはどうします?ビールと柿の種にしはりますか?」
と皆にクーラーから飲み物を手渡し、おやつを配り「気の利く女」をMKにアピールした。

 十人が席に着くと「じゃあ、まずは道の駅「うずのくに南あわじ」に向かいますね。」とMKが声をかけスタートした。運転席でヘッドセット型のマイクを着けたMKが「ちょっと淡路島とユダヤについて話させてもらいますね。」と断りを入れて話し始めた。
 2017年5月14日にイスラエルの建国69年祭が淡路島で開催されたとのことだった。「なんで69年って半端な数字なん?」、「どうして淡路島で?」との質問に対して、本来は旧約聖書の中で預言者ダニエルによる、ある新たなイスラエル建国のみことのりが発せられて、69週後にメシアが再降臨するとの予言があったのだが、現実には「メシアの再降臨」は無く、次の解釈として「69年だったのではないか。」と解釈し直したとのことだった。
 淡路で開催された理由としては、1952年にGHQ総司令部のユダヤ教ラビのミルトン・J・ローゼンが再調査の結果、ユダヤ遺跡が淡路島で発見された岩の割れ目を活かした女陰石や全体を覆った岩蓋にはダビデの星に似た図形が刻まれ、青い玉石と八つの小石が見つかった場所だからという。
 それらの発掘物は、旧約聖書の「創成記」による「産めよ増やせよ」という絶対神ヤハウェの神託を意味するこのと解釈された。その後、1996年の再調査で作業にあたった四国剣山顕造学会の井上正氏がダビデの星と鹿の図柄が彫りこまれた二つの指輪を発見する。失われたイスラエル支族の中のナフタリ族が葦船に乗って淡路島に到着したことが、「日本書紀」、「古事記」で言うところの「国生み伝説」であろうとの解釈がなされた。
 女陰が描かれた遺跡や豊穣を願う石、そして指輪により、イスラエルでは淡路島はユダヤと非常に深い関係がある地と考えているところ、「淡路菰江古代ユダヤ遺跡奉賛会」主催で式典が開かれ、伊弉諾神社の宮司の本名孝至氏とエリ・コーヘン元駐日大使も記念公演講師として招かれたという。
 
 その式典で井上氏の所有する指輪と古代ヘブライ語と女陰が刻まれた丸石が公開され、エリ・コーヘン氏も「ガル・ゴデッシュ」を書き込まれた文字を読んでいる。エリ・コーヘン氏は四国にあるアーク伝説の剣山で戦前に憲兵隊が遺物を押収したと呼ばれる現場も訪れるほど日本におけるユダヤ遺跡に興味を示していたという。

 続いて、MKは1897年にスイスのバーゼルで開催された第一回シオニズム会議における賛歌として採用され、非公式ではあるが1948年のイスラエル建国以来、イスラエル国歌として使われている「ハティクヴァ(※英語表記では「Hatikvah」。「希望」を意味する。)」の歌詞を紹介した。
「ハティクヴァの歌詞は、日本語にするとこんな歌詞になります。「心の奥底に秘めた、ユダヤ教徒の魂が切望するは、眼差しの向かう東の地「シオン」。二千年の我らの望み未だ失われず、祖国にて自由を勝ち取らん。シオンの地、そしてエルサレム」となります。ここで言う「東の地「シオン」」を日本ととらえるユダヤ人は実はけっこういるんですよ。」
と話すと、稀世が一番後ろの席からMKに声をかけた。
「日本とユダヤの関係って「都市伝説」みたいなもんやと思ってたけど、そうやって大使館のMK君が話をするとあながちただのうわさ話じゃないような気になるなぁ。」

 中央部の席では「日ユ同祖論ってほんまにあるんか?」と直とまりあが顔を見合わせる。「十分考えられますよ。」と羽藤が二人に割って入った。稀世と三朗も羽藤の話に耳を傾ける。
「例えば九州の島津と四国の長曾我部の先祖はユダヤ由来と言う話もありますし、昔は遠浅の海で人が住めなかった大阪を干拓と治水工事で今の大阪平野を作ったとされる物部氏も縄文時代に鉄器を使ってたことからユダヤ由来と言われることがありますね。出雲地方や越前地方まで西日本では何か所か「鉄文化」と「石文化」が三千年前から伝わったとされるところがあるのも事実ですね。」
「ふーん、面白そうやん。昨晩のなっちゃんの「お告げ」もあることやし、讃岐うどんを食べに行く前に徳島のその場所に行ったらまたなっちゃんがなんかしゃべるかもしれへんな。なんかワクワクしてきたわ。」
と稀世が声をあげると「今から古代ユダヤの謎解きツアーに出発でーす!まずは磐境神明神社にゴー!」と夏子がSNSにアップした。

 道の駅「うずのくに南あわじ」に着くと、夏子と陽菜はお目当ての「淡路島バーガー」を目指して淡路島オニオンキッチンへと急いだ。必然的にMKと舩阪も連れて行かれた。「バーガー」と名はつくが、玉ねぎのカツがメインでご当地バーガーコンテストでワンツーフィニッシュを飾った人気商品を注文した。
 さっぱりとしたオニオンスライス、カリカリのオニオンチップ、酸味の利いたオニオンフォンデュに玉葱の風味が効いたトマトソースと甘く炊かれた淡路牛の組み合わせの「オニオンビーフバーガー」と玉ねぎのカツ、玉ねぎフォンデュ、オニオンチップにざく切り玉葱がふんだんに入った淡路牛乳を使ったグラタンソースに淡路牛とオニオンソテーを煮込んだ肉味噌と淡路鶏をサンドしたオニオングラタンバーガーを受け取ると、鳴門大橋をバックに、夏子と陽菜はふたつのバーガーを交互に持ち替えて写真を撮り「鳴門海峡なうwith淡路島バーガー兄弟」とSNSにアップさせると二人で半分ずつ食べた。「MKはどっち食べるの?」と尋ねる夏子に
「ユダヤ教は乳製品と肉の組み合わせはダメですからホワイトソースとチキンの組み合わせはダメなんで、「オニオンビーフバーガー」一択ですね。」
と付き添っていたMKも初めて食べる淡路島バーガーに舌鼓を打ち、喜んで完食した。
 
 稀世家族は直とまりあと一緒に、太刀魚、生シラス、鰆、鯛にスズキと言う瀬戸内の海産物をふんだんに乗せた「白い海鮮丼」と淡路牛がたっぷりと乗った「淡路牛鉄火丼」を分け合った。「白い海鮮丼」は「さっぱり」と、赤い「淡路牛鉄火丼」は「濃厚」な味わいで朝食を食べ終わって一時間も経っていなかったが、すっとお腹の中に入っていった。
 その後、道の駅「うずのくに南あわじ」の名物の「玉ねぎキャッチャー」に夏子と陽菜は何度も挑戦したがうまくいかず、ひまわりがチャレンジしてゲットした商品を借りて「玉ねぎキャッチャーで淡路島玉ねぎゲットだぜ!」と記念写真を撮りSNSにアップした。
 「はじまりの島」という淡路島での「国生み伝説」をモチーフにしたロールプレイングゲームをダウンロードし、紹介用の立て看板とポスターの前で写真を撮り楽しみ、こども食堂・高齢者サロンと商店街の仲間への土産を買い込み道の駅を後にした。
 
 途中で鳴門の渦潮を見学し四国に上陸した。鳴門の渦潮では、橋の上から海面を見下ろし「きゃー、怖い!足がすくむわ!」と夏子は怖がるふりをしてMKの腕にしがみつく姿を「夏子、それはちょっとあざとすぎるやろ!」と直に突っ込まれつつも、MKの優しいエスコートで満足気に見学コースの先端まで行った。海をバックに夏子とMKのツーショットの写真を何枚も陽菜が撮ってやっていた。常に笑顔で夏子に接するMKの様子を見て「直さん、これは「もしかして」がありえるんとちゃう?」と稀世が言うと「そんな事あるかいな。すぐに化けの皮は剥げるし、頭の上の猫もどっか行きよるわい!」と直が厳しく吐き捨てた。
 
 鳴門市に入ると吉野川沿いに一路、美馬市穴吹町口山を目指した。カーナビが示すルートを淡々と走ると、「目的地到着です」のコールがかかり、駐車場にバスを入れた。夏子が窓から外を見回し、
「MKここで合ってるん?なんか全然、普通の神社やで?それも白人神社って書いてあるし…。」
と呟いた。MKはカーナビを確認し、エンジンを切り夏子に言った。
「まあ、とりあえず降りて見てみましょう。」

 陽菜が「白人神社」をググると1596年から1614年の間に阿波藩家老で後に淡路城主となる稲田修理亮が建てたと出ていた。
「MK君、1956年から1614年っていったら日本では安土桃山時代が終わって江戸時代が始まる時期やから、古代ユダヤは関係ないんとちゃの?」
と陽菜が問いかけると、少し困った顔になった。木造の本殿で皆で手を合わせ、裏に回ってみようともしたが、裏手に何かある様子もない。
「しゃあないやん。まあ、予定通り高松に行って讃岐うどんと鶏の一本揚げとぺえすけ鍋を食べろっていう神様のお告げっちゅうことやろ。無いもん探して時間食うより、美味しいもん食う方がええやん。次に行こ行こ!」
と稀世が言い、白人神社を後にして駐車場に戻った。

 相変わらず、稀世たちのマイクロバスが一台止まっているだけで、他には誰もいないので尋ねようもない。真夏の日差しが照りつける中、ぞろぞろと乗り込もうとすると、ひまわりが一人で駐車場の奥に走り出した。「ひまちゃん、どこに行くの?」と稀世が追いかけると、両サイドに背丈ほどの草木が生え埋められるように細い急な上り階段が目に入った。
「みんなー、なんかこっちに階段があるで!草ぼうぼうやけど、上に続いてるみたいやねんけど上がってみる?」
稀世が声をかけると、MK達も小走りでやってきて、階段の上を見上げて言った。
「あー、これは気がつかなかったですねぇ…。磐境神明神社って、江戸時代まで草木に覆い隠されて見つからなかった神社だと聞いてましたから、この上に隠されてるのかもしれないですね。上がってみましょう!」

 急勾配の石の階段を草をかき分けて上がっていくだけで汗が噴き出て止まらない。小柄なひまわりが先頭をきって階段を一段一段しっかりと踏みしめて上がっていく。稀世と三朗と直がそれに続く。
 まりあと羽藤が三朗の背を追いかけ、陽菜と舩阪が手をつないで上がっていく。階段半ばで夏子は息が切れ、「あかん、もう無理…」と両膝に両手をつきゼイゼイと呼吸を乱して立ち止まった。「なっちゃん、手を引きましょうか?」とMKが夏子のいる段まで下りてきて左手を差し出した。(きゃー、MKが王子様に見えるわ…。手を引かれて階段を上がっていけるんやったら、何が何でも登り切らなあかんよな。)夏子は、右手を差し出すと、MKはしっかりと握り斜め上に引き上げるように力を貸してくれると同時に、藪を右手で跳ね除けながら「なっちゃん、無理せずゆっくりと呼吸を整えながら上がりましょう。」、「もう半分まで来ましたよ。」、「あと三分の一です。」、「なっちゃんがんばって!」と優しく声をかけてくれるので、何とか階段の最終地点が見えてきた。
 
 階段を登りきると、頂上は開けており、神明神社の説明版があった。説明版によると、1779年に芝かりの際に発見されたもので、南北7メートル、東西22メートルの石積みの異形の祠であり、北辺に5か所の祠があると書かれていた。
 滝のように汗が流れる夏子にMKは「お疲れ様でしたね。」とハンカチとミネラルウォーターを差し出してくれた。山頂の風が頬を撫で、MKが出してくれた水が喉に心地よい。「ありがとう。MKは大丈夫?」と尋ねると、「僕は大丈夫です。水はそのままなっちゃんが持っていてくれていいですよ。」と言われ、二度目の間接キスはならなかった。
 二口目の水を飲んでいると、稀世の声が奥から響いた、
「なっちゃん、MK君こっち来てや!昨晩なっちゃんが神様が憑りついて描いた図の通りの祠が五つあるで!方角的にも北向きやから、MK君が調べてくれた分析と一緒やねん。なっちゃんはほんまにこの場所来たことあれへんねんやなぁ?」

 夏子とMKが屋根のない石積みの部屋に入ると、MKの顔色が変わった。
「本当になっちゃんが描いた図と同じだ。祠の配置や向こうの山が完全に一致している。こんなことが…。それにこの構造物はまさに「幕屋」そのものだ…。」
と呟くとスマホを取り出し、夏子の描いた図の写真と見える景観を何度も見比べた。羽藤が独自の解説を加えた。
 昭和11年から13年に高根正教の剣山のアーク捜索で何がしらの発見物があった話が記録されている。現在の剣山ロープウェイ山頂駅から少し奥に入ったところに「鶴岩」と「亀岩」という岩があり、今でも採掘跡は確認することができるとのことだった。諸説あるが、2メートルを超える鏡のようなものが数点見つかって、憲兵隊が回収したとの記録があるらしい。欧米との関係悪化の中、他国の神にまつわるものが「神州日本」から出てくることが、当時の軍部や政府にとって「不都合である」という事がその理由であろうとのことだったが、実際のところははっきりとした公式な発表は無かったそうだ。
 昨晩の夏子の「お告げ」では、剣山のアークの発掘現場から早々にアーク本体と三種の神器はここ神明神社に移送され、後に淡路島に渡ったこととなっている。戦後のGHQの大規模捜査でもエリ・コーヘン氏の再訪問でも決定的な発見物は無かったとされている。羽藤の説明を皆、不思議な気持ち半分、昨晩の夏子の行動、言動に一致する部分を認めざるを得ないところ半分で聞いている。そんな中、ひまわりが中央の石の祠に飴玉を供え手を合わせている。
「夏子、ここで指輪をぎゅっと握って「口寄せ」やってみたら?」
とまりあが興味深げに夏子に言った。
「うん、何か感じるものがある。試してみるわな。」
とブラウスの上から胸のネックレスにぶら下がる指輪を右手で握り目を閉じた。
「ぶわっ」とつむじ風が巻き起こった。MKと陽菜がスマホのムービーを回しだした。

 つむじ風の中で夏子の髪が逆立った。それまでうるさいくらいに泣いていた蝉しぐれが一瞬にして収まり静寂に包まれた。
「二千七百年前…、確かにアークはこの地に来た。阿波忌部あわいんべの力を借り、高天原の兵の追撃を避け、かろうじてアークと三種の神器は接収を逃れ鶴と亀に見送られ再び東へと移動した。この地に新たな幕屋を石で築きここに隠した。しかし、ここも安息の地ではなかった。この地から渦巻く海を渡り淡路へ…。そこにも高天原の者がやってきた。彼らの手の届かぬ地へ…。シナイ山を目指し、淡路から再度船に乗り物部もののべ越前忌部えちぜんいんべの力を借り、時の朝廷の手の届かぬところへ移動することとなった。」
と何かに憑かれたように夏子が別人の声で語り続ける。
 途中の風景描写は鹿児島の桜島をほうふつとさせる風景から、日南海岸を北上し、今の大分から四国の佐田岬へと葦船で渡り、剣山の山頂まで数十人が交代で神輿のような構造物を担ぎ、数多くの宝物を背負った従者がそれに続いた。鶴の形に似た岩と亀の形に似た岩を目印とし、その下に一度はアークを隠した事が語られると、誰も知らない儀式について事詳細に夏子は語った。MKと羽藤だけが頷いて聞いている。

 羽藤が現在の鶴岩と亀岩の画像をスマホで夏子に見せると、亀岩はまさにそれであると断言した。鶴岩には頭と顔があったと答えた。おそらく、風化して崩れ落ちたか、何者かによって破壊されたのだろう。
 剣山から神明神社へ、そして淡路島へ渡ったところで、引継ぎの儀式で阿波忌部の長と物部・越前忌部の長たちとその証として指輪をその場の祭殿に埋めたシーンが語られた。明らかに「ナフタリ」、「ゼブルン」といった失われた支族名が数回出てきた。
 淡路を出た一行は、島の最北端から現在の大阪北港あたりに到着し、淀川と思われる川を物部の護衛の下、移動する風景が述べられ、後に海を思わせるものに沿って北へと向かう情景は、琵琶湖に沿ってアークが移動したであろうことを想像させた。
 移動の行程を語り、次の安息地として「神社」、「鹿」、「呪術者」、「六芒星」、「はた…」」と呟いたところで夏子が倒れ込んだ。
 さっと、MKが飛び出し夏子を抱きとめた。



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