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「夜ご飯何食べたい?」
「‥‥。」
「ねえ、怒ってんの?」
「いや、怒ってないんですけどお兄様のおっしゃった通りだなあ、と思いまして。」
「はあ?」
電車を降りて徒歩3分の我が家まで歩く道のりがやけに長く感じる。俺の隣を歩く小野さんは、未だに効果音がつきそうな視線で俺を見てくる。
「なんで兄貴?」
「四谷さんと住む前に事前にどんな方かプロフィールを読むんですけど、そこに強引って書いてありました。キャンセルのキャンセルとか確かに強引だな、と思いまして。」
「それは‥‥」
別にそのままでも良かった。小野さんが誰とホテルで生活しようが、それがもし不倫行為になったとしても。でもなぜかわからないけれどなんか、
「俺の中で『こうするべきだ』って思ったことを見ぬふりしたら後悔しそうだったから。」
「ふーん、やっぱりお兄様の言った通りですね。」
「強引って事?」
「いいや、お人好しってところです。」
小野さんは小さく笑うと俺を見た。
「会社には文句言われましたけど、まあいいです。」
「それはごめん。」
「おれはとりあえず住めればいいので。」
「じゃあ住むにあたってルールを決めよう。」
いつもは一人で歩いていたから二人で歩いているのが変な感じがする。隣を見ると、俺より身長の小さい小野さんがいて、長い睫毛が月明かりによって影ができている姿に思わず心臓がどきり、と鳴った。ああやっぱりこの人は綺麗な人間だ。その小野さんはルールという言葉に反応して俺を見上げる。
「ルールってなんですか?」
「1、俺の部屋には入らないでほしい。」
「わかりました。」
「2、俺がやめてと言ったことはすぐやめること。」
「それはおれも同じです。」
「じゃあお互いやめてを2回言わせる前にやめよう。3、もし職場で会っても今後は他人として接すること。」
「どうしてですか?」
「説明がめんどくさいからだよ。俺からは以上だけど小野さんなんかある?」
半分くらいは俺が小野さんに興味を持ちすぎないために考えたルールだ。色々考えたのだが基本俺が部屋で過ごせば小野さんと接触することは少ない。そうすればあのビジュアル爆弾に惹かれずに済むわけだ。
小野さんは、「うーん」と呟くと指で4を作って俺に見せてきた。
「4、家事はおれだけじゃなくて半分は四谷さんもやること。」
「‥‥善処する。」
「5、できるだけ一緒にご飯を食べること。」
「は?え?」
驚く俺に対して小野さんは何か?というような表情だ。いや、困る。なるべく関わらないようにしたいのに。反論の為に口を開けようとしたが、それよりも先に声を出したのは小野さんだった。
「それから6、おれより早く帰ってきてほしい。」
おれより早く帰ってきてほしい?
「えっ、それってどういう‥‥。」
「以上です。後は後々お互い必要に応じてルールを追加していきましょう。」
質問する猶予すら与えられずマンションの下に着いてしまった。俺は初めて駅から徒歩3分のマンションを購入したことを後悔した。そんな小野さんはマンションの下のコンビニを指さす。
「四谷さんはなんか買うものありますか?家にカレー作れる野菜があったので肉なしカレー作ろうと思ったんですけど。」
「カレールーないんだけど。」
「じゃあルーだけ買いましょう。」
「肉も入れてよ。」
適当についでにお酒とかもカゴに突っ込みエントランスに向かう。宅配ボックスにあった段ボールを取り出してエレベーターに乗るとその外箱をじっと小野さんは見つめた。本当にこの人の瞳は綺麗だな、と思う。
「新しいカメラですか?」
「そう。5Dシリーズに新しいのが出たからさ。」
「へえ。おれカメラとか全然わかんないや。」
エレベーターが到着すると、自分の部屋の鍵を取り出した。部屋に向かうまでの吹き抜けから見える大きな木を見て、そういえば小野さんの髪の毛と同じ色だなあ、と思った。
「自分で髪染めたの?」
「ええ、まあ。また近いうちに染めますけど。」
「髪痛むよ!?せっかくふわふわなのに。」
「どんな色に染めても変な目で見られないのは若いうちだけでしょ?だから今後悔ないくらい染めたいんです。」
「大人になったらハゲるよ絶対。はい、入って。」
「お邪魔しまーす。」
また家に小野さんがいる。少し不思議に思いつつもその光景にわくわくしている自分がいた。
手を洗った小野さんは早速キッチンに向かい冷蔵庫を開けていた。俺もそれに倣って手を洗うけど、開けたのは段ボールだ。
「ちょっと四谷さん。手伝ってくださいよ。」
「ごめんでも待ちに待った5Dシリーズだから早く開けたい。‥‥うわ、見てよこの最高のボディ!」
「それレンズついてないじゃないですか。」
「当たり前でしょ、デジカメじゃないんだから。」
俺は部屋の片隅にある防湿庫から25mmの単焦点のレンズを取り出す。小野さんもキッチンから移動するとカメラに視線を合わせるようにしゃがみ、じっと見つめていた。
「なんか普通のカメラよりイカついですね。」
「デジカメと一眼レフじゃ全然違うよ。」
「なんですかそれ?えふにーてんはち?」
「f2.8ね。これすごく綺麗に撮れるんだよ。」
ガシャン、とカメラにレンズを装着して電源を入れる。シャッタースピードや感度をいじって小野さんの方にレンズを向けた。
「なんですか?」
綺麗だな、と改めて思った。ファインダー越しに映る小野さんは本当に綺麗で思わず溜息をついてしまった。ビジュアルの爆弾だ。
「おれは全然使い方とかわかんないんですけど、なんかそうやって持ってるの見るとかっこいいですね。」
「もう設定終わったからボタン押すだけだよ。撮る?」
「え?だってまだ四谷さん一度も使ってないでしょ。」
「うん。でもいいよ。」
俺はカメラを小野さんの手に乗せる。
「え、おも。」
「意外と重いよね。」
「いや、四谷さんせっかくなんだから最初に使ってくださいよ!貴重な一枚目撮るのがおれっておかしくないですか!?」
単純に俺が気になってるんだ。その瞳にどんな世界が映し出されるのか。その瞳はファインダーにどんなものを見つけるのか気になるんだ。この人はどんな世界を見ているのだろう?
「‥‥。」
「ねえ、怒ってんの?」
「いや、怒ってないんですけどお兄様のおっしゃった通りだなあ、と思いまして。」
「はあ?」
電車を降りて徒歩3分の我が家まで歩く道のりがやけに長く感じる。俺の隣を歩く小野さんは、未だに効果音がつきそうな視線で俺を見てくる。
「なんで兄貴?」
「四谷さんと住む前に事前にどんな方かプロフィールを読むんですけど、そこに強引って書いてありました。キャンセルのキャンセルとか確かに強引だな、と思いまして。」
「それは‥‥」
別にそのままでも良かった。小野さんが誰とホテルで生活しようが、それがもし不倫行為になったとしても。でもなぜかわからないけれどなんか、
「俺の中で『こうするべきだ』って思ったことを見ぬふりしたら後悔しそうだったから。」
「ふーん、やっぱりお兄様の言った通りですね。」
「強引って事?」
「いいや、お人好しってところです。」
小野さんは小さく笑うと俺を見た。
「会社には文句言われましたけど、まあいいです。」
「それはごめん。」
「おれはとりあえず住めればいいので。」
「じゃあ住むにあたってルールを決めよう。」
いつもは一人で歩いていたから二人で歩いているのが変な感じがする。隣を見ると、俺より身長の小さい小野さんがいて、長い睫毛が月明かりによって影ができている姿に思わず心臓がどきり、と鳴った。ああやっぱりこの人は綺麗な人間だ。その小野さんはルールという言葉に反応して俺を見上げる。
「ルールってなんですか?」
「1、俺の部屋には入らないでほしい。」
「わかりました。」
「2、俺がやめてと言ったことはすぐやめること。」
「それはおれも同じです。」
「じゃあお互いやめてを2回言わせる前にやめよう。3、もし職場で会っても今後は他人として接すること。」
「どうしてですか?」
「説明がめんどくさいからだよ。俺からは以上だけど小野さんなんかある?」
半分くらいは俺が小野さんに興味を持ちすぎないために考えたルールだ。色々考えたのだが基本俺が部屋で過ごせば小野さんと接触することは少ない。そうすればあのビジュアル爆弾に惹かれずに済むわけだ。
小野さんは、「うーん」と呟くと指で4を作って俺に見せてきた。
「4、家事はおれだけじゃなくて半分は四谷さんもやること。」
「‥‥善処する。」
「5、できるだけ一緒にご飯を食べること。」
「は?え?」
驚く俺に対して小野さんは何か?というような表情だ。いや、困る。なるべく関わらないようにしたいのに。反論の為に口を開けようとしたが、それよりも先に声を出したのは小野さんだった。
「それから6、おれより早く帰ってきてほしい。」
おれより早く帰ってきてほしい?
「えっ、それってどういう‥‥。」
「以上です。後は後々お互い必要に応じてルールを追加していきましょう。」
質問する猶予すら与えられずマンションの下に着いてしまった。俺は初めて駅から徒歩3分のマンションを購入したことを後悔した。そんな小野さんはマンションの下のコンビニを指さす。
「四谷さんはなんか買うものありますか?家にカレー作れる野菜があったので肉なしカレー作ろうと思ったんですけど。」
「カレールーないんだけど。」
「じゃあルーだけ買いましょう。」
「肉も入れてよ。」
適当についでにお酒とかもカゴに突っ込みエントランスに向かう。宅配ボックスにあった段ボールを取り出してエレベーターに乗るとその外箱をじっと小野さんは見つめた。本当にこの人の瞳は綺麗だな、と思う。
「新しいカメラですか?」
「そう。5Dシリーズに新しいのが出たからさ。」
「へえ。おれカメラとか全然わかんないや。」
エレベーターが到着すると、自分の部屋の鍵を取り出した。部屋に向かうまでの吹き抜けから見える大きな木を見て、そういえば小野さんの髪の毛と同じ色だなあ、と思った。
「自分で髪染めたの?」
「ええ、まあ。また近いうちに染めますけど。」
「髪痛むよ!?せっかくふわふわなのに。」
「どんな色に染めても変な目で見られないのは若いうちだけでしょ?だから今後悔ないくらい染めたいんです。」
「大人になったらハゲるよ絶対。はい、入って。」
「お邪魔しまーす。」
また家に小野さんがいる。少し不思議に思いつつもその光景にわくわくしている自分がいた。
手を洗った小野さんは早速キッチンに向かい冷蔵庫を開けていた。俺もそれに倣って手を洗うけど、開けたのは段ボールだ。
「ちょっと四谷さん。手伝ってくださいよ。」
「ごめんでも待ちに待った5Dシリーズだから早く開けたい。‥‥うわ、見てよこの最高のボディ!」
「それレンズついてないじゃないですか。」
「当たり前でしょ、デジカメじゃないんだから。」
俺は部屋の片隅にある防湿庫から25mmの単焦点のレンズを取り出す。小野さんもキッチンから移動するとカメラに視線を合わせるようにしゃがみ、じっと見つめていた。
「なんか普通のカメラよりイカついですね。」
「デジカメと一眼レフじゃ全然違うよ。」
「なんですかそれ?えふにーてんはち?」
「f2.8ね。これすごく綺麗に撮れるんだよ。」
ガシャン、とカメラにレンズを装着して電源を入れる。シャッタースピードや感度をいじって小野さんの方にレンズを向けた。
「なんですか?」
綺麗だな、と改めて思った。ファインダー越しに映る小野さんは本当に綺麗で思わず溜息をついてしまった。ビジュアルの爆弾だ。
「おれは全然使い方とかわかんないんですけど、なんかそうやって持ってるの見るとかっこいいですね。」
「もう設定終わったからボタン押すだけだよ。撮る?」
「え?だってまだ四谷さん一度も使ってないでしょ。」
「うん。でもいいよ。」
俺はカメラを小野さんの手に乗せる。
「え、おも。」
「意外と重いよね。」
「いや、四谷さんせっかくなんだから最初に使ってくださいよ!貴重な一枚目撮るのがおれっておかしくないですか!?」
単純に俺が気になってるんだ。その瞳にどんな世界が映し出されるのか。その瞳はファインダーにどんなものを見つけるのか気になるんだ。この人はどんな世界を見ているのだろう?
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