最後の魔女

砂鳥 ケイ

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最後の魔女36 地下ダンジョン

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  幼女もとい妹との同棲生活がスタートして早1週間が経過していた。

 ここは商人たちが行き交う町、交易都市フューゲル。
 人口5万人程度で、元々何もなかった場所から商人たちが寄せ集まり、僅か30年足らずでこの規模になっていた。

「お姉様、何か欲しい物でもあるの?」

 こんな場所に立ち寄ったのだからそう思うのも無理はない。だけど答えは、

「特にない」

 別に欲しい物があって立ち寄った訳じゃない。私の直感が、私の力を必要としてる。この都市に困ってる人がいると伝えていた。

 初めて訪れたのに何故だか知っている気がする。

「はぐれないで」

 まだ早朝にも関わらず、行き交う通行人の数は思ったよりも多い。
 私はともかく低身長で幼女のリグは、簡単に迷子になってしまいそうなレベルだった。身長も低いからはぐれたら探すのは一苦労。悪魔としての力を使えば離れていようがすぐに分かるのだろうけど、今後私の許可なく悪魔の力を使わないように言ってある。
 だって危ないからね。周りも、私も。

 手を繋ぐと、何故だかリグは嬉しそうにニヤニヤしている。ニヤニヤ顔しても気持ち悪がられないのは子供だけの特権だと思う。

「何だいお嬢ちゃんたち。お使いかい? ならちょっと見ていかないか?」

 目的の場所へと向かう道中に呼び止められた。
 見ると、キラキラ光る石を売っているお店の店主だった。
 宝石のような高価な物ではなく、人工的に造られた綺麗な石。安価で、身に付けやすいサイズの物から室内、室外インテリアとして飾るサイズの大きな物まで様々だった。
 一応、見た目子供相手にこんな物を売りつけようと言うのだから、この店主中々にいい性格をしている。

 勿論無視して素通りするつもりで、当然買うつもりなど無かったのだけど、ある事を思いついた私は小さなサイズの石を数点購入し、店を後にした。

 成り行きとは言え、下僕⋯じゃない妹と一緒に旅する仲間が増えた訳だし魔導具作成をするのも悪くない。
 効果は様々で、例えば身を守る物。そう、戦いの補助的な物とかあれば便利かな。
 あ、でも、少なくともリグには必要ない気もする。だって、強いし。盗賊に襲われたりとか誘拐犯に攫われたりだとか絶対にありえない。
 むしろ、リグを選んでしまった事に対して同情すら感じる。
 容姿とは全く別物の中身は悪魔。本当の意味でも悪魔なのだから。
 そういう意味合いで言うなら私も似たようなものかもしれないけど。
 街道を抜け、どんどんと奥の路地へと進んで行く。
 まるで迷路にでも迷い込んでしまったように。

 街道から少し外れただけで、そこは薄暗くジメジメした人の気配をまるで感じない場所へと様変わりしていた。
 近くには人の気配は感じないけど危ない何か別の気配をひしひしと感じる。
 一応下僕でも姉と慕ってくれているのだから、私が前を歩く。
 右へ左へと曲がって行くと、少しだけ開けた場所へと辿り着いた。

 いつの間にか何故だか知らない連中に囲まれてしまった。
 その数5人。
 しかし、敵意は感じない。

「なんだ、こんな所へ来て危ないじゃないか。迷子かい?」

 スキンヘッドの一番強面なおじ様が問い掛ける。
 勿論、迷子では断じてない。この場所へは迷わず進んで来たし、いやそういうことは関係ない。

「何かお困り毎はある?」

 そう、私は私にしか解決出来ない悩みを抱えた人の匂いが分かる。
 それは魔法ではなく、いつの頃からか自然と分かるようになった。
 魔女も何十年と生きていればきっとそういう特殊な能力が身につくのだろうと勝手に解釈した。

 最初は、子供だからと相手にもされなかったけれど、私が熱心にしつこく聞くものだから、とうとう相手が折れた。
 きっと私の熱意が伝わったのだろう。
 その際、隣にいたリグが殺気まがいなものを発していたので周りの人たちがブルブル震えていたような気もするけど、恐らく気のせい。

 最近この交易都市の地下に巨大な空間が発見されたそうな。
 元々何もない荒野だったのは間違いないらしいが、ある時、地下へ降りる縦穴を発見した商人の1人が、入ったっきり二度と戻って来ることはなかった。
 何事かと、その後5人の捜索隊を組んでその商人の行方を追ったが、結局その5人も帰ってくる事はなかった。
 この交易都市の代表は、事を公表し大袈裟にすれば、せっかく30年かけてここまで築き上げて来たこの都市が廃れてしまうと、内々に処理しようと考えた。
 幸い、この都市の利便性もあり、冒険者の往来はかなり多い。
 ある時、この交易都市を訪れたそこそこ名のある冒険者パーティーに極秘裏に依頼を出した。

 交易都市地下ダンジョンの探索。及び行方不明の捜索。

 依頼報酬が高額だった為、冒険者パーティは二つ返事でその依頼を引き受けた。

「彼等が地下へ降りてから今日で2日が経過しちまったんだよ」
「あれだぞ嬢ちゃん。この事は内緒に頼むぜ、皆が知ればパニックになっちまうからな」
「うん分かった。その地下への入り口の場所も教えて」
「いやいや嬢ちゃん、まさか入るつもりなのか?」
「うん」
「⋯どうぞ、こちらです」

 あれ、絶対ダメだと言われると思ったのに急に態度が急変した? 目もなんだか虚ろだし。

「リグ、何かした?」
「お姉様に口答えなんて万死に値するわ。だから従順なペットにしてやったの。あ、ご心配無く、その間の記憶はないから」

 可愛い笑顔で何怖い事言ってるの。楽に情報が貰えるのは有り難いけど、こう強引なのはなぁ。
 リグは褒めて褒めて! って顔してるし。
 私の為を思ってしてくれたことだし、無視も可哀想だから取り敢えず頭を撫でる。

 そんなに気持ち良さそうな顔を見るとまた撫でたくなる。

 妹のご機嫌取りも大変ね。姉って大変。
 お姉ちゃんも、そうだったのかな⋯。

 遠くを見つめながら昔の事を思い出す。

 案内された先にあったのは、何の変哲もない古ぼけた井戸だった。
 中を覗くと、下の方に僅かばかりの灯りが見える。

「この中?」
「はい、ここが地下ダンジョン唯一の入り口です」

 元々井戸だったものが、急に水が汲めなくなり、調査してみると中に水がなくなっていたばかりか、空洞になっており、広大な地下空間が広がっていたと言う。

 縄ばしごを降りていくと、すぐに下まで到着した。
 地下の為、灯りはなく、ランプか何かの灯りかと思いきや、岩肌全体が僅かに発光していた。
 よくよく観察すると、岩肌に付着していた苔が微弱な光を発しているのだと言うことが判明した。

 道沿いにどんどんと進んで行く。
 中は迷路になっているのかと思いきや、一本道が続いていた。

「お姉様、この先に何やら生命体の反応があるみたいです」

 リグが感じ取った反応に警戒する。
 勿論私も何かしらの反応を感じ取ってはいたが、警戒する事なく、構わず進んで行く。

 少しだけ開けた空間へと辿り着いた私たちは、1人の人影を見つけた。

 恐らく冒険者|だった(・・・)者の成れの果てだろう。

「ゾンビ?」
「ゾンビだね」
「やっちゃう?」
「許可する」

 リグがサクッと押し潰して先へと進む。

 何故ゾンビになってしまったのかは不明。
 だけど、そうさせた者がいるのは分かった。

 これ以降は警戒⋯することもなく、ズケズケと脚を進める。そんな最中、奥に動く生物を見つけた。

「あれは⋯ヘルハウンドね」

 魔法で底上げされた私の視力は10.0にも達する。
 100m先の人物の目の下のほくろまでバッチリ見通す事が出来る。

 2人めがけて猛スピードで2匹の犬が翔ける。

 リグが前へ出ると、件の漆黒の腕を出現させたかと思えば2匹のヘルハウンド目掛けて掴みかかり、そのまま消し炭にした。

「モンスターがいるって事は、ここは本当にダンジョンの巣窟と化してるのかな?」

 私が険しい顔をするとリグが心配そうに覗き込む。

「あ、大丈夫! お姉様には指一本触れさせないから!」
「この場所、何だと思う?」
「うーん、モンスター蔓延るダンジョンが急に現れることは確かにあると思う」

 え、あるの?
 そもそもダンジョンが何故出現するのかも私はよく分かっていない。

 ダンジョンが出現しだしたのは、ここ50年くらいからである。
 冒険者と呼ばれる者たちと密に関係があり、ダンジョンに篭り、素材、武具を集めたり、経験値を上げて自身のレベルを上げたり、依頼をこなしたりと様々な目的で訪れている。
 ダンジョンの中には、様々なモンスターが蔓延っている。

「恐らくだけど、神が関わっていると思うよ」

 ダンジョンには、マスターが配置されている。
 俗にそれはダンジョンマスターと呼ばれているが、ダンジョンマスターは決まって神格化した存在が務めている。
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