リンの萬屋奮闘記

砂鳥 ケイ

文字の大きさ
14 / 19

013:高山都市ビーダルアム

しおりを挟む
馬車を飛ばして3日かかる距離をグリンが飛ばしてくれたおかげで3時間程で到着してしまった。

ビーダルアムは、近場に鉱山が多数存在している鉱山都市として有名だった。
人口は凡そ20万人。

鉱山からもたらされる鉱石で成り立っていると言っても過言ではない。
元は、小さな発掘現場でしかなかったのだが、ここ100年でここまでの変化を遂げていた。

「流石にグリンと一緒に降りると混乱は必至かな」

ビーダルアムより少し離れた場所に降り立った。
「悪いけどここで待っていてくれないかな?」
「主の仰せのままに」
少女の名前はナターシャ。
ナターシャは、移動中もずっと放心状態だった。
驚くのも無理もない。空を飛ぶなんて経験はもちろん初めてなのだろう。

「ナターシャ、大丈夫かい?」
「・・・はい。ずっと心臓がバクバク言ってましたが、少し落ち着きました。それにしてもリンさんは凄い人なんですね・・」
「凄いのは僕じゃなくて、精霊たちだよ。それより病院の場所は分かるかい?」

ナターシャは、首を左右にフリフリしている。

「ならば、誰かに聞かないとね」
辺りはすでに夜の闇に包まれていた。
しかし、大きな都市だけあり、通行人にまばらに歩いている。

通行人に聞いて、何とか問題の病院に辿り着くことができた。
ナターシャが病院の名前を知らないと言った時はどうしようかとリンは困惑していたが、ナターシャの母親らしき人物が3日程前に運ばれた事をたまたま知っている人物だったのだ。

病院に入り、受付の人に事情を説明する。
早く母に会いたい一心で、逆に上手く喋る事が出来ないナターシャに変わってリンが全て説明していた。
既に面会時間は過ぎていたのだが、場合が場合な為に面会の許可が降りた。

折角文字通り超特急で飛んできたのにこんなとこで足止めを食うわけにはいかない。
仮に許可が降りなくても、リンならばどうとでもなると考えていた。

受付の人に病室の前まで案内してもらう。

「僕はここで待っているから」
 しかし、リンのこの言葉はナターシャがリンの袖を掴んで離さなかった事で叶わなかった。

中は個室のようで、部屋の中央にベットが一つあるだけ。
中に入るな否や、ナターシャはリンの袖から手を離し、母親の元に駆け寄り、意識のないその白い手をギュッと握り締めた。
受付の人に話を聞いた限りでは、ナターシャの母親は、鉱山で見つかったとされる珍しい鉱物資源の調査中に急な落盤事故に遭ってしまった。

何とか救出することには成功したが、頭部を強く殴打したらしく、意識がなく、頭部からの出血が酷く状態の回復は見込めないという。

この世界にも回復魔法という物は存在する。
聖職者という、治癒術に特化した魔法を行使する者たちの事だ。
しかし、その数はあまりにも少なく、数ある職業の中で一二を争う程に人数が少ないとさえ言われている。
しかし、治癒術にもレベルというものが存在する。
数値で表すならば1〜10だろうか。
一般的に聖職者の資質ありと言われるのはレベル3以上だと言われている。
レベル1でも取得出来れば、聖職者になる事は可能だが、当然のことながらレベルに応じて治癒術の能力は大きく異なる。

この病院にも3名の聖職者がいるそうだが、一番高い者でもレベル3の治癒術しか使えない為、精々骨まで達していない傷を完治出来る程度だった。
結局の所、外科的措置を施し、時間を掛けてゆっくりと完治を待つしかなかった。

しかし、リンには精霊の力がある。
どんな傷や病気でも一瞬で直してしまう。それこそ病院や聖職者など不要と思える程のものだった。
しかし、大きな力にはその強さに付随して大きな代償がある。

全てを癒す精霊シルティナは、1日1回しか呼ぶ事が出来ない。
しかも一度にこの世界に召喚出来るのは僅か10分だけなのだ。
そして、治癒の程度により術者の魔力を消費する。
シルティナは、治癒術の魔法を行使する為の魔力を持ち合わせておらず、術者の魔力を使わないと治癒術を使う事は出来ない。
いくら防大な魔力を保有しているリンにとっても、一度に何人も治癒術を使う事は出来ない。

しかし、リンにはそんな事は関係なかった。
ナターシャは背後で眩い光を出を感じると、その目に涙を浮かべクシャクシャになっている顔を後ろに向ける。
ナターシャのすぐ後ろにいたのは、例えるならば天使だった。

「天使・・さま・・?」

リンが呼び出した精霊は、もちろん癒しの精霊シルティナだった。

リンが何も発さずともシルティナは救うべき人を理解していた。
ご主人様がいて、前には泣き崩れる少女。そしてその少女の前には、ベットに横たわる女性。

シルティナが、ナターシャの横に立つと、ナターシャに向かい天使のような微笑みを向けて頭を優しく撫でる。
そして女性の方へ視線を戻すと、両手を合わせて祈るようなポーズを取った。

するとどうだろうか。

ナターシャの母親が白くて優しい光に包まれたのだ。
それでいてどこか温かさまで感じる。
眩しいはずなのに、ナターシャは目をパッと見開き、まるでその光景を一瞬たりとも見逃さないと言わんばかりだった。

段々とナターシャの母親を包んでいた光が収まり、やがて消えた。
シルティナは、リンの方へ振り返ると仰々しくお辞儀をした。

「ありがとうシルティナ」

リンの言葉を聞き、再び天使の微笑みを見せると、精霊界へと戻っていった。

何かを言いたそうにしているナターシャ。
しかし、背後に動く気配を感じて、すぐに視線を母親へと向けた。

目が開いていたのだ。
状況の回復は見込めないと言われてから僅か15分後の出来事だった。
ナターシャは、一時止まっていた涙が、また滝のように流れ出す。

その光景にほっこりしながらも、リンは物音を立てないように病室を後にする。


「待たせちゃってごめんね」
「主、先程の娘の姿が見えないようだが?」
「ああ、ナターシャなら、ここへ母親に逢いに来たんだ。僕は送り届けただけさ」
「ならば行くとしよう」

リンはグリンに跨ると、スメラーク目指して飛び立つのだった。

「流石にマリーさんはもう寝てるかな」

行きは3時間を費やしたが、帰りはなんと2時間で戻ってくる事が出来た。
同乗者がいた為、グリンにある程度セーブして飛行してもらっていたからなのだが、リン一人の場合はまさに全速力だった。
上空に法定速度規制があれば、間違いなく捕まっていたいただろう。
いや、捕まる事なく逃げきれていただろうか?

「お帰りなさいリンさん」

時刻は闇夜と静寂に包まれた深夜3時過ぎ。にも関わらずマリーは起きていた。

「マリーさん、ただいま。まさか起きているとは思いませんでしたよ」
「リンさん一人頑張っているんですもの、私一人寝ているなんて出来ませんよ」

マリーは、昼間にリンに言われた事を何度も考えていた。

''仕事を終えて帰って来た時にそれを出迎えてくれる人がいるのっていいものですよ''

「ご飯の用意は出来ていますよ。食べられます?それともお疲れでしょうからお休みされます?」
「実は腹ペコだったんです」
「あはは、じゃ、コートはこちらに。後、明日は昼からの営業にさせて貰いましょう。入り口に貼紙しておきますね」

リアじゅう爆発しろ!という声が聞こえてきそうが、少なくともリンにはこれっぽっちもマリーに対して恋愛めいた感情は抱いていない。むしろ娘という感覚の方が近いのかもしれない。

マリーに関しては言うまでもないが・・

「いえ、僕は大丈夫ですから通常通りに9時から・・」
「絶対駄目です!」
「ひっ」

あまりのマリーの気迫に、リンは思わず悲鳴めいた声を発してしまった。

「ちゃんと寝ないと仕事に支障が出ます。万全の状態じゃないと困難な局面に陥った時に本来の力が発揮出来ずにまさかなんて事態が起こらないとも限らないんです!リンさんにもしもの事があったらと思うと、心配で心配で、待っている方の身も考えて下さい!だから、明日の営業は正午からです!」

坦々と発せられるマリーの言葉にリンはただただ頷くしかなかった。

この光景だけ見れば、姉さん女房と言えるだろう。

リンは、思った。

(マリーさんにはなるべく逆らわないようにしよう)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

処理中です...