リンの萬屋奮闘記

砂鳥 ケイ

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015:蠅の精霊ベル

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ここは、豪華な屋敷が建ち並ぶ、通称貴族街。

リンの訪れた場所は、ある貴族邸の前だった。
ユーリに案内してもらい、この場所までやって来たのだが・・

「本当に一緒に乗り込んで戦ってくれるとは思わなかったよ!あ、でも私素手だけど大丈夫かなぁ?」
「だから、戦わないって言ったよね?それだと僕達犯罪者で捕まっちゃうからね」
「じゃぁ、一体なんでこの場所に来たの?」

「まぁ、見てて」

そう告げると、いつものようにリンは精霊を呼び出した。

「やあ、久しぶりだね、ベル」
「えっと、お、お久しぶりです・・。御用は何でしょうか?」

現れたのは、蜂の精霊ビーと似たように人型で羽を羽ばたかせて浮遊している精霊だった。
大きさは、子犬程度だろうか。

足首と手首にモフモフそうな綿飴に似た物を身につけている。
頭には、先程から忙しなく動いている触覚が何とも可愛らしい。
また、トマトのような赤い玉がおでこの位置に二つ生えている。
容姿も美人というよりかは、まだ幼さを残している風貌なので、美少女という言葉が当てはまるだろうか。
ちなみに、人見知りが激しく、非常にシャイな性格だった。

彼女の名前は、ベル。
蠅の精霊だ。

頭の赤い物は蠅の目にあたる部分だ。
その目は、超高性能レーダーのような役割をしていて、壁の向こう側はもちろん、熱源感知、動作感知などが可能で、聴覚も非常に優れている。
主に潜入調査にもってこいの能力の持ち主である。

「実はね、あの屋敷の主の秘密を掴んで欲しいんだ」

リンは、前方の豪邸を指差して呟く。

「例えば、何か悪さをしているだとか、人には知られたくない事があるだとか、些細なことでも良いんだ。頼めるかな?」
「は、はい!私頑張ります!じゃ、行ってきます!」

そう言うと一目散に屋敷に向かい飛んでいく。

「あ、まだ話は終わって・・」

「行っちゃいましたね・・」
「うーん、せっかちな部分がたまにキズなんだよね」

「い、今のは一体なんだったんですか・・・」

ユーリは、ベルが飛んで行った方向を眺めて目を見開いている。

「精霊だよ。名前はベル。蠅の精霊だよ。僕は精霊使いなんだ」
「精霊使い・・ですか?聞いたこともないですね・・」
「うーん、僕がいた国だと珍しくはないんだけどね」
「ほ、他にも精霊さんはいるんですか?」

何故だか、ユーリが興奮したようにリンの両肩を掴み揺さぶっていた。

「いるけど、用事がないと呼べないんだよ。ごめんね」

勿論、リンが呼べば精霊は駆けつけてくれるのだが、リン自体、用もないのに呼ぶ様な無粋な真似をしたくないだけだった。

「何か分かれば連絡する」とだけ伝えて、ユーリと別れたリンは、萬屋へと戻って来た。

「ただいま」
「あ、お帰りなさいリンさん」
「・・・」

相変わらず冷たい視線を送ってくるのは、お守りの依頼で面倒を見ていた幼女のシュリだ。

リン自身、特に嫌われる事をした記憶はないのだが、終始睨まれ続けている。

明日は、残っている最後の依頼をこなすつもりにしていた。
ここから、馬車で片道約1週間の距離にあるリンムルという街までの商人の護衛だった。
送り届けるだけなので、帰りは飛んで帰るつもりでいたリンだが、それでも1週間という期間、萬屋を開けてしまう事に躊躇いがあった。

夕食を済ませたリンは、明日の予定をマリーへ告げる。

「マリーさん、一緒に行きませんか?」
「え、私もですか? でもそれですと、2人とも居なくなってしまいますし、その間の萬屋はどうしますか?
「勿論、お休みにするしかありません。だけど、依頼箱を外に設置するつもりですので、帰って来てからそれらの依頼にあたるつもりです」

リンには、考えがあった。
マリーは、生まれてこの方、この国から出た事がないのだそうだ。
以前、そんな話をシンクから聞いていて、外の世界を見て見たいと漏らしていた事があったと言う。

「も、もし本当にご迷惑にならないのでしたら、一緒に行ってもいいですか?」
「迷惑なんてとんでもないよ。じゃ、決まりだね。シュリちゃんのお守りが終わったら出発しよう」
「私も行く」

声を発したのはシュリだった。

「シュリちゃんは、流石に危険だからダメよ」

マリーがシュリを諭すように頭を撫でる。

その時だった。
シュリから僅かながら魔力のような物が迸る。

次の瞬間、マリーがその場に倒れ込む。
しかし、地面に触れる瞬間にリンが受け止めた。

「怪しいと思っていたんだ。君はいったい何者なんだ」

マリーを抱えて、幼女のシュリから少しだけ距離をとったリン。
すぐにマリーの容態を確認する。

「少し眠って貰っただけよ。まさか、こんな辺境国で萬屋なんてしていたなんてね。驚いたわ」

リンの表情が真剣なものへと変わる。

「誰だ」

幼女は、妖艶な笑みを浮かべている。

「まだ分からないの?」

リンは、目の前の人物が少なくとも、自分の正体を知っている輩である事に、警戒心を持って、いつでも精霊を召喚出来るように身構える。

「そんなに警戒しなくても、別に戦いに来たわけじゃないわ。それに、かつてこの世界の最高戦力とまで言われた貴方に勝負する馬鹿はいないと思うけど?ま、今ではだいぶその力は薄れちゃった見たいだけどね」

「魔族か」
「そうよ。人族の敵よ。だけど、これだけは言っておくわ。今は敵対の意思はないの」
「目的はなんだ」

いつものリンの口調ではない。
表情も険しい。
相手が魔族と聞いて、いつもは緩めている色々なものを引き締め直していた。

「実は貴方を探していたの。正確には強い人物をね」
「それなら、他をあたってくれないか?僕より強い人物など、北の大陸にいくらでもいるだろう」
「だいぶ謙遜してるのね。かつて程の力はないにしても、まだ十分にこの世界では最高レベルだと思うけどね」
「どちらにしても、今の僕じゃ役に立てないだろう」
不死の王ノーライフキングが復活したと言っても?」
「な、そ、それは本当なのか・・?いや、ありえない。あの時確かに葬ったはずだ。復活するにしても早すぎる」
「ええ、どういう訳か復活したのよ。だけど、まだ完全体じゃないわ。今なら少ない戦力でも倒せるはずよ。でも私達だけじゃ、戦力が足らない。だから強者を探していたの」

リンは、不死の王ノーライフキングの恐ろしさを誰よりも理解していた。

何十年も昔、一度だけ対峙した事があったのだ。
リンがまだ精霊術師として北の国で活躍している時に、突如として現れた不死の王ノーライフキング
仲間達と一緒に多大な犠牲を払い、討伐する事に成功した。

不死の王ノーライフキングと呼ばれる所以は、死を与える事が出来ない為だった。

何百年も昔から存在していたと言われ、復活する度にその歴史に大地に大きな爪痕を残し、多大な犠牲を払い、何とか討伐している始末。
しかし、どういう訳か数百年おきに復活してしまう。
故に今まで誰も不死の王ノーライフキングを本当の意味で倒した者はいない。
前回、リン達の活躍により、不死の王ノーライフキングを退けてから40年程しか経過していなかった。

なぜ、こんな短期間で復活を遂げたのかは不明だが、この世界の生き物全ての脅威足り得るほどに強力な力を保有していた。

(まさか、生きているうちにまた不死の王ノーライフキングの名が出てくるとは思わなかったな)

リンは、大きなため息を吐いた。

「でも、尚更なぜ北の国を頼らない?」
「アインベルグ教皇が正式な御触れを出したのよ」
「御触れ?」
「我々は、不死の王ノーライフキング殲滅には関与しないとね」
「何故だ!理解出来ない!この世界全土の危機だと言うのに!」

教皇の話にはまだ続きがあった。

今回、北の国の教皇が殲滅を拒否した理由は二つある。
まず、不死の王ノーライフキングが復活した場所が、北の大陸、北の国から一番離れた、ここ南の大陸だった事が一つ。

そして、40年程前に出現した時は、自らの国のある北の大陸だった事もあり、リン達、屈強な者達の活躍により、どうにか殲滅する事が出来た。
その際、復活直後の力の弱い時を狙い、即時殲滅を掲げた当時の教皇は、殆どが北の国の勢力だけで、殲滅し、また同時に自国だけが多大な犠牲を払ってしまった事に強く責任を感じていたようだ。

結果的に、その早期な判断が功を奏し、容易くはなかったが、文献に残っている歴史上、復活してから最も早く討伐に成功したとして、周りの国からも称賛が浴びせられた。

「故に、まずはその大陸に入る者達で何とかして見せよ」と言うのが、教皇の領分だった。
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