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燦々と降り注ぐ陽光が、王立学院の廊下を白く焼き付けている。
その光を避けるように、壁の影を這って歩く影がひとつ。公爵家の長男でありながら、「王国の湿地帯」と渾名される根暗令息、アドリアンであった。
「……ふふ。今日こそ、今日こそは……」
長い前髪の隙間から、アドリアンは爛々と瞳を輝かせる。その視線の先にあるのは、第一王子セシルの背後を歩く、近衛騎士カイルの背中だ。
鎧越しでもわかる。あの堂々とした立ち姿、そして王子に常に寄り添う忠実な様子。あれは間違いなく、騎士としての誇りと責任を深く理解している者だけが持つ「本物の誠実さ」だ。
アドリアンは、悪役としての自覚はあった。
陰気で、社交界でも浮いている。だが、彼には誰にも言えない、そして誰にも理解されないであろう至高の憧れがあった。
彼は、カイルのような、他者を護るために尽くす強さに憧れていた。
それも、ただの強さではない。鍛え上げられ、どんな困難にも立ち向かう精神の強さ、その内面に秘められた揺るぎない信念を、間近で感じ、その一端に触れたいという、ひっそりとした望みである。
「カイル殿……。あの、揺るぎない献身……。一度でいいから、その志の片鱗に触れたい……」
アドリアンの懐には、小さなメモ帳が忍ばせてある。
カイルの行動を観察し、彼の騎士道について書き留めた記録。いつか、少しでも彼に近づくための足がかりになるかもしれない。
「……あ。アドリアン様、またあんなところで……」
「しっ、目を合わせるな。呪われるぞ」
通りすがりの生徒たちが囁き合うが、今の彼には微塵も響かない。
ターゲットであるカイルが、セシル王子と別れて一人になったその瞬間を、彼はじっと待っていた。
しかし。
「おや、アドリアン。そんなところで何をしているんだい?」
鼓膜を震わせたのは、まるでハープの調べのように甘く、そして不吉なまでに明るい声だった。
アドリアンがもっとも苦手とする男――この国の第一王子、セシルがそこに立っていた。
金髪は太陽を反射し、青い瞳は慈愛に満ちている。アドリアンとは対照的な「光」の権化。
「……っ! せ、セシル殿下。……別に、何も。ただの散歩です」
「散歩? 影を伝って、ずっとカイルを見ていたようだけど?」
セシルがふわりと微笑む。だが、その瞳の奥はちっとも笑っていない。
アドリアンは、蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
「君は、僕よりも……あんな無骨なだけの騎士が良いのかい?」
王子の声が、低く、静かな圧を帯びてアドリアンの耳元に届く。
計画は、ここから予想だにしない方向へと転がり始めた。
その光を避けるように、壁の影を這って歩く影がひとつ。公爵家の長男でありながら、「王国の湿地帯」と渾名される根暗令息、アドリアンであった。
「……ふふ。今日こそ、今日こそは……」
長い前髪の隙間から、アドリアンは爛々と瞳を輝かせる。その視線の先にあるのは、第一王子セシルの背後を歩く、近衛騎士カイルの背中だ。
鎧越しでもわかる。あの堂々とした立ち姿、そして王子に常に寄り添う忠実な様子。あれは間違いなく、騎士としての誇りと責任を深く理解している者だけが持つ「本物の誠実さ」だ。
アドリアンは、悪役としての自覚はあった。
陰気で、社交界でも浮いている。だが、彼には誰にも言えない、そして誰にも理解されないであろう至高の憧れがあった。
彼は、カイルのような、他者を護るために尽くす強さに憧れていた。
それも、ただの強さではない。鍛え上げられ、どんな困難にも立ち向かう精神の強さ、その内面に秘められた揺るぎない信念を、間近で感じ、その一端に触れたいという、ひっそりとした望みである。
「カイル殿……。あの、揺るぎない献身……。一度でいいから、その志の片鱗に触れたい……」
アドリアンの懐には、小さなメモ帳が忍ばせてある。
カイルの行動を観察し、彼の騎士道について書き留めた記録。いつか、少しでも彼に近づくための足がかりになるかもしれない。
「……あ。アドリアン様、またあんなところで……」
「しっ、目を合わせるな。呪われるぞ」
通りすがりの生徒たちが囁き合うが、今の彼には微塵も響かない。
ターゲットであるカイルが、セシル王子と別れて一人になったその瞬間を、彼はじっと待っていた。
しかし。
「おや、アドリアン。そんなところで何をしているんだい?」
鼓膜を震わせたのは、まるでハープの調べのように甘く、そして不吉なまでに明るい声だった。
アドリアンがもっとも苦手とする男――この国の第一王子、セシルがそこに立っていた。
金髪は太陽を反射し、青い瞳は慈愛に満ちている。アドリアンとは対照的な「光」の権化。
「……っ! せ、セシル殿下。……別に、何も。ただの散歩です」
「散歩? 影を伝って、ずっとカイルを見ていたようだけど?」
セシルがふわりと微笑む。だが、その瞳の奥はちっとも笑っていない。
アドリアンは、蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
「君は、僕よりも……あんな無骨なだけの騎士が良いのかい?」
王子の声が、低く、静かな圧を帯びてアドリアンの耳元に届く。
計画は、ここから予想だにしない方向へと転がり始めた。
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