505 / 554
神器争奪編
五百五話
しおりを挟む
魔力と神気の、せめぎ合いに逃げ場を失った波動が天上へと登っていく。
若きハンターと巨神の合間を軸とした一本の力場が生まれようとしていた。
反時計回りに回転する不可視の柱に吸い寄せられるようにして、漂う積雲が集まってゆく。
一つにまとまる雲は、徐々に白の絨毯を広げていく。
雲の切れ目から後光が射した、その瞬間――――
人々は確かに神話の一ページに触れた。
天使が悪神の額に刃を突き立たまま、雄叫びをあげていた。
魔剣の魔力が臨界点を突破していた。
クラウ・ソラス本体のみならず、ギデオンの全身を包み込み大きな翼を描いていた。
人が受け止めるには、桁違いの魔力量だった。
本来ならば、瞬時に肉体が崩壊し消し飛んでしまうはずだが彼の場合は違う。
練功の硬壁により、暴れ狂う魔力を抑えていた。
神気と魔力は互いを打ち消し合うが、練功はその二つと反発し合う性質を持っていた。
それだけでゾルドゥガイオスを仕留めるには、十分な時間稼ぎになった。
アウグスト盾から神気が絶えずほとばしり、防御壁を構築してきた。
あと少しで盾に触れることができる距離でも、創造神の抵抗に阻害され一撃が届かない。
依然、逆風にたたされてはいるものの、ギデオンの方も負けてはいない。
その双肩にかかる重責を誰よりも理解する彼に後退という二文字はない。
最後まで走り抜ける覚悟で刃をかざしながら、着実に神の力を削いでいた。
食いしばった歯茎から血がにじんでくる。
瞳が血走ったまま、悪しき神を捉えていた。
皮膚が裂けて、血液が霧散していく。
どう考えても、このままではギデオンの肉体の方が持たない。
なのに何故か、剣を突き立てる威力が増している。
身体以上に、精神が巨神の本体であるピブロスを遥かに圧倒していた。
屈強なギデオンの執念が最終局面において大きな差を生み出していた。
「ハァァアアアアアア―――――! クラウ・ソラス!」
ガッシと音を立てて神器の盾に、天輪の剣が接触した。
無敵の盾と折れない刃。
双方が破損しなくとも、破壊力自体は武具を介して所持者へと通る。
アウグスト盾の隙間から、金色の光が飛び散っていた。
それは神々が地上で活動するため用いた、仮初めの身体が破損したことを暗示していた。
器がなければ、神々は現世に留まることができない。
光りは少しずつ、宙を彷徨いながら天上の雲の中に溶けていた。
同時に巨神の肉体をカタチ造っていた聖王国の土砂もダイダロシャフトから一気に引き剥がされていく。
莫大な砂塵が西風に誘われながら、元の場所へと還っていく。
骨組みにだけになった、ダイダロシャフトはもはや単なる置物だ。
顔となっていたアウグスト盾が外れると、そこにはピブロスの影も形も残っていなかった。
神気がつきたところに、魔力を浴びて消滅してしまっていた。
これにより、神器争奪戦が開始される前に一柱の脱落が確定した。
巨大鬼神ゾルドゥガイオスを討ち倒したことですべてが万事、解決したかに思えた。
聖王国の壊滅を免れた住人や兵士たちの顔から緊張が取れてきたところで、事態は急展開を迎えた。
「あれは……まさか……メビウスの紋章」
いつしか、空に刻まれていた紋章に気づいたマリー・ヴェンシルが声を震わせていた。
無限を示す記号に酷似した紋章は、先の決戦で行き場を無くした魔力や神気が不要な力場を生み出したことで発生した。
天空に浮かぶ紋様は純粋に空間の歪であり、それが更に進むとクラインの壺と呼ばれる形状に変わっていく。
遥か上空にいたギデオンは地上へと落下するどころか、より高く上昇していた。
力場に近い位置にいたために、彼自身も吸い寄せられてしまっていた。
「クソォォ、なんなんだ? この気流は……身体が言うことを聞かない。
どこまで、飛ばれてしまうんだ、僕は?」
『このままだと、クラインの壺が開いてしまう。
そうなると貴方は戻って来れないでしょう』
自由を奪われ悪戦苦闘するギデオンに念波で語りかけてきたのは、他ならぬマリー・ヴェンシルだった。
この状況が、最悪を引き起こす前兆であると直感がザワついていた。
「戻れない」という彼女の言葉により予感は現実味を帯びてきた。
「なんとかして、解決できないのか?」
「あるわ、一つだけ」
相談を持ち掛けると、意外なほどあっさりと答えが返ってきた。
「だったらその方法を――――「ええっ、そうするしかないようね……」
マリーの姿が一瞬だけ視界に映った。
次の瞬間、ギデオンは地上にいるミチルシィたちのすぐそばに立っていた。
それが魔法による空間転移だということに気づくまで時間はかからなかった。
口元に貼りつく乾いた砂を噛み締めながら、ギデオンは空を見上げた。
「私が、空間の歪みを矯正するわ」
そう呟いたままマリーは、彼と入れ替わり力場に飲まれていった。
何の躊躇いもなく消えゆく魔女の背中が、瞳の中で鮮烈に残っていた。
若きハンターと巨神の合間を軸とした一本の力場が生まれようとしていた。
反時計回りに回転する不可視の柱に吸い寄せられるようにして、漂う積雲が集まってゆく。
一つにまとまる雲は、徐々に白の絨毯を広げていく。
雲の切れ目から後光が射した、その瞬間――――
人々は確かに神話の一ページに触れた。
天使が悪神の額に刃を突き立たまま、雄叫びをあげていた。
魔剣の魔力が臨界点を突破していた。
クラウ・ソラス本体のみならず、ギデオンの全身を包み込み大きな翼を描いていた。
人が受け止めるには、桁違いの魔力量だった。
本来ならば、瞬時に肉体が崩壊し消し飛んでしまうはずだが彼の場合は違う。
練功の硬壁により、暴れ狂う魔力を抑えていた。
神気と魔力は互いを打ち消し合うが、練功はその二つと反発し合う性質を持っていた。
それだけでゾルドゥガイオスを仕留めるには、十分な時間稼ぎになった。
アウグスト盾から神気が絶えずほとばしり、防御壁を構築してきた。
あと少しで盾に触れることができる距離でも、創造神の抵抗に阻害され一撃が届かない。
依然、逆風にたたされてはいるものの、ギデオンの方も負けてはいない。
その双肩にかかる重責を誰よりも理解する彼に後退という二文字はない。
最後まで走り抜ける覚悟で刃をかざしながら、着実に神の力を削いでいた。
食いしばった歯茎から血がにじんでくる。
瞳が血走ったまま、悪しき神を捉えていた。
皮膚が裂けて、血液が霧散していく。
どう考えても、このままではギデオンの肉体の方が持たない。
なのに何故か、剣を突き立てる威力が増している。
身体以上に、精神が巨神の本体であるピブロスを遥かに圧倒していた。
屈強なギデオンの執念が最終局面において大きな差を生み出していた。
「ハァァアアアアアア―――――! クラウ・ソラス!」
ガッシと音を立てて神器の盾に、天輪の剣が接触した。
無敵の盾と折れない刃。
双方が破損しなくとも、破壊力自体は武具を介して所持者へと通る。
アウグスト盾の隙間から、金色の光が飛び散っていた。
それは神々が地上で活動するため用いた、仮初めの身体が破損したことを暗示していた。
器がなければ、神々は現世に留まることができない。
光りは少しずつ、宙を彷徨いながら天上の雲の中に溶けていた。
同時に巨神の肉体をカタチ造っていた聖王国の土砂もダイダロシャフトから一気に引き剥がされていく。
莫大な砂塵が西風に誘われながら、元の場所へと還っていく。
骨組みにだけになった、ダイダロシャフトはもはや単なる置物だ。
顔となっていたアウグスト盾が外れると、そこにはピブロスの影も形も残っていなかった。
神気がつきたところに、魔力を浴びて消滅してしまっていた。
これにより、神器争奪戦が開始される前に一柱の脱落が確定した。
巨大鬼神ゾルドゥガイオスを討ち倒したことですべてが万事、解決したかに思えた。
聖王国の壊滅を免れた住人や兵士たちの顔から緊張が取れてきたところで、事態は急展開を迎えた。
「あれは……まさか……メビウスの紋章」
いつしか、空に刻まれていた紋章に気づいたマリー・ヴェンシルが声を震わせていた。
無限を示す記号に酷似した紋章は、先の決戦で行き場を無くした魔力や神気が不要な力場を生み出したことで発生した。
天空に浮かぶ紋様は純粋に空間の歪であり、それが更に進むとクラインの壺と呼ばれる形状に変わっていく。
遥か上空にいたギデオンは地上へと落下するどころか、より高く上昇していた。
力場に近い位置にいたために、彼自身も吸い寄せられてしまっていた。
「クソォォ、なんなんだ? この気流は……身体が言うことを聞かない。
どこまで、飛ばれてしまうんだ、僕は?」
『このままだと、クラインの壺が開いてしまう。
そうなると貴方は戻って来れないでしょう』
自由を奪われ悪戦苦闘するギデオンに念波で語りかけてきたのは、他ならぬマリー・ヴェンシルだった。
この状況が、最悪を引き起こす前兆であると直感がザワついていた。
「戻れない」という彼女の言葉により予感は現実味を帯びてきた。
「なんとかして、解決できないのか?」
「あるわ、一つだけ」
相談を持ち掛けると、意外なほどあっさりと答えが返ってきた。
「だったらその方法を――――「ええっ、そうするしかないようね……」
マリーの姿が一瞬だけ視界に映った。
次の瞬間、ギデオンは地上にいるミチルシィたちのすぐそばに立っていた。
それが魔法による空間転移だということに気づくまで時間はかからなかった。
口元に貼りつく乾いた砂を噛み締めながら、ギデオンは空を見上げた。
「私が、空間の歪みを矯正するわ」
そう呟いたままマリーは、彼と入れ替わり力場に飲まれていった。
何の躊躇いもなく消えゆく魔女の背中が、瞳の中で鮮烈に残っていた。
0
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる