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三十七話
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地下にある墓地を偶然にも発見した二人。
王族の者でも祀られているのだろうか?
柩はかなり厳重に封をされている。
長いあいだ、信徒として過ごしてきた彼にとって、その場所に土足で踏み入ることはためらいがあった。
彼は強制的に追いやられ、信徒としての立場を捨てる選択をした過去があった。
それでも、この身にしみついた感覚は容易に消え去ることはない。
「柩の状態からして、そんなに古いモノじゃないみたいです。あら? ここに文字が刻まれてますよ」
「メリッサ、君は柩を見ても平気なのか?」
「えっ? 荒らすつもりはないので安心して下さい」
「そうではない。死者の眠りを妨げることに抵抗はないのか?」
「……私は死者の魂が眠っているとは思いません。魂があって人は生まれ変わるなんて、ご都合主義もいいところじゃないですか! 人間、死んだら最期です。哀しいけれど、それは受け入れないと駄目な気がします」
「メリッサ……」
ギデオンにとって彼女の言葉は残酷に響くモノでしかなかった。
彼女は知らない……彼がどれだけの数、命を奪ったのか。
死んだら最期、確かにそうだ。
けれど、その先すら否定されてしまうと人としてのメメントモリまで見失いそうになる。
終わらない悪夢。
とまらない怨嗟の渦。
逃げ場がないのは自業自得……それでも、犯した罪には意味がある。
そう思うことで彼は、心の均衡を保っていた。
クロイツとは反対に彼女は信仰を真っ向から否定した。
その事が、ギデオンにとっては受け入れられない。
「どうかしました?」
「いや、なんでもない」
メリッサとは同じ場所にいながらもどこか隔たりがある。
何かが、彼女の心を狂わせてしまった。
確証はないがギデオンは、そう思わざるを得なかった。
それが女神ミルティナスとは知らずに……。
彼女にも、いつか神の祝福が訪れることを願った。
祈りは、もう潰えていようとも、それぐらいは赦されるはずだ。
この墓地を造った者ように死者を尊ぶ気持ちがあれば……。
ふと、柩の側面に刻まれた文字を目にしてギデオンは言葉を失った。
「あの時の言葉は、そういう意味か……」
「ギデさん?」
「何でもない……もう少し先に進めば、地上に出るはずだ」
祭壇部屋を抜けたその先は、徐々に明るさを増してゆく。
天上から降り注ぐ日の光は壁際の縞模様をいっそう眩く際立たせて、神々しく厳粛な世界を創り上げている。
そこだけ時が止まったままのように静寂が支配している。
その場所こそ、彼らが目指していた金鉱石の採掘場。
孔雀の断崖。
金と岩石がまだら模様に混じり合う岸壁は、まるで孔雀の羽模様のようであり、見た者を気圧させる。
この場所は、その景観にちなんで名付けられた秘境だ。
かつては大勢の鉱夫でにぎわっていた場所も、時代ともに忘れ去られてしまっていた。
金鉱石は確かに希少な素材だ。
しかしながら、ここの金はまばらに混ざっているので、効率よく採取できない。
その上、このジャングルという僻地だ。
採掘したところで運搬が厳しい。
人々はあれこれと議論しつくしたが結果、他所で取りやすい鉱山が発見された。
以降、ここを訪れる者はめっきりとへり、今では封鎖された状態になっている。
「よしっ! 取れたぞ」
「もう、ですか!?」
二人は小型のツルハシで岩肌を砕き、金鉱石を掘り出す。
手先が器用な、ギデオンは容易に取り出してみせた。
メリッサは、どう見ても岩を掘削しているだけだ。
悪戦苦闘している。
見かねたギデオンが手伝い、彼女も何とか目当ての物を手に入れることができた。
ここままで来れば、地上に戻るのはそう難しくはない。
だいぶ、錆びついているが手動式のゴンドラがあった。
「まだ、動くみたいだ! メリッサ」
こうした設備がまだ生きているという事は、誰かが定期的にここを管理しているのかもしれない。
おそらく、これもエルフたちの仕業なのだろう。
「う~ん。何とか地上に戻れましたねぇ。まだ、時間がありそうですけど……」
地上に出て背伸びをするメリッサ。
その表情には満足のいく仕事をやりきったという自信で満ちていた。
ギデオンはというと……どこか、腑に落ちない様子だ。
「なあ、メリッサ。今回の試験、どう思う?」
「どうって……以外と楽でしたよね」
「いつも、こんな感じか?」
「試験とはいってもセカンダリィですからね、そうシビアではないと思います。 ギデさん、気になることがあるんですか?」
「いや、金鉱石の入手条件がな……僕たちが手に入れた鉱石って高純度の金鉱石とみなされるのか?」
「はっ……言われてみれば! これ、マダラ石です! 金鉱石の一種ではありますが、合金。とてもじゃないですが、純金とは呼べません。ど、どういう事でしょうか? まさか、マダラ石から金だけを精製抽出しろとか? 鍛冶師でもない私たちには無理ですって!」
「落ち着いてくれ。金鉱石をジャングルで入手しろと言っているんだ。ジャングルのどこかにあるはずだ」
「そうだとしても、手掛かりがなければ、どうにもなりません。今から探している時間なんて……」
「メリッサ、君の観察眼なら気づくはずだ。この近くにあるはずだ! 金鉱石に関係する何かが!?」
「ほほう、そこに気づくとは……無能な輩にしてはシャープですな」
密林の中、音も立てず忍び寄る魔の手。
それは突如として現れ、メリッサを襲う。
「や、やめて下さい! カナタさん、こんな事して何になるんですか!?」
「騒ぐな、そして動くな! 貴様もだ、ギデ! もし変な動きを見せたら、この女がどうなるかは分かっておるだろう?」
いつからか? メリッサの背後に弁慶が立っていた。
彼女の首元に脇差の刃がギラつく。
メリッサを盾に取られたギデオンは一転して窮地に追い込まれた。
王族の者でも祀られているのだろうか?
柩はかなり厳重に封をされている。
長いあいだ、信徒として過ごしてきた彼にとって、その場所に土足で踏み入ることはためらいがあった。
彼は強制的に追いやられ、信徒としての立場を捨てる選択をした過去があった。
それでも、この身にしみついた感覚は容易に消え去ることはない。
「柩の状態からして、そんなに古いモノじゃないみたいです。あら? ここに文字が刻まれてますよ」
「メリッサ、君は柩を見ても平気なのか?」
「えっ? 荒らすつもりはないので安心して下さい」
「そうではない。死者の眠りを妨げることに抵抗はないのか?」
「……私は死者の魂が眠っているとは思いません。魂があって人は生まれ変わるなんて、ご都合主義もいいところじゃないですか! 人間、死んだら最期です。哀しいけれど、それは受け入れないと駄目な気がします」
「メリッサ……」
ギデオンにとって彼女の言葉は残酷に響くモノでしかなかった。
彼女は知らない……彼がどれだけの数、命を奪ったのか。
死んだら最期、確かにそうだ。
けれど、その先すら否定されてしまうと人としてのメメントモリまで見失いそうになる。
終わらない悪夢。
とまらない怨嗟の渦。
逃げ場がないのは自業自得……それでも、犯した罪には意味がある。
そう思うことで彼は、心の均衡を保っていた。
クロイツとは反対に彼女は信仰を真っ向から否定した。
その事が、ギデオンにとっては受け入れられない。
「どうかしました?」
「いや、なんでもない」
メリッサとは同じ場所にいながらもどこか隔たりがある。
何かが、彼女の心を狂わせてしまった。
確証はないがギデオンは、そう思わざるを得なかった。
それが女神ミルティナスとは知らずに……。
彼女にも、いつか神の祝福が訪れることを願った。
祈りは、もう潰えていようとも、それぐらいは赦されるはずだ。
この墓地を造った者ように死者を尊ぶ気持ちがあれば……。
ふと、柩の側面に刻まれた文字を目にしてギデオンは言葉を失った。
「あの時の言葉は、そういう意味か……」
「ギデさん?」
「何でもない……もう少し先に進めば、地上に出るはずだ」
祭壇部屋を抜けたその先は、徐々に明るさを増してゆく。
天上から降り注ぐ日の光は壁際の縞模様をいっそう眩く際立たせて、神々しく厳粛な世界を創り上げている。
そこだけ時が止まったままのように静寂が支配している。
その場所こそ、彼らが目指していた金鉱石の採掘場。
孔雀の断崖。
金と岩石がまだら模様に混じり合う岸壁は、まるで孔雀の羽模様のようであり、見た者を気圧させる。
この場所は、その景観にちなんで名付けられた秘境だ。
かつては大勢の鉱夫でにぎわっていた場所も、時代ともに忘れ去られてしまっていた。
金鉱石は確かに希少な素材だ。
しかしながら、ここの金はまばらに混ざっているので、効率よく採取できない。
その上、このジャングルという僻地だ。
採掘したところで運搬が厳しい。
人々はあれこれと議論しつくしたが結果、他所で取りやすい鉱山が発見された。
以降、ここを訪れる者はめっきりとへり、今では封鎖された状態になっている。
「よしっ! 取れたぞ」
「もう、ですか!?」
二人は小型のツルハシで岩肌を砕き、金鉱石を掘り出す。
手先が器用な、ギデオンは容易に取り出してみせた。
メリッサは、どう見ても岩を掘削しているだけだ。
悪戦苦闘している。
見かねたギデオンが手伝い、彼女も何とか目当ての物を手に入れることができた。
ここままで来れば、地上に戻るのはそう難しくはない。
だいぶ、錆びついているが手動式のゴンドラがあった。
「まだ、動くみたいだ! メリッサ」
こうした設備がまだ生きているという事は、誰かが定期的にここを管理しているのかもしれない。
おそらく、これもエルフたちの仕業なのだろう。
「う~ん。何とか地上に戻れましたねぇ。まだ、時間がありそうですけど……」
地上に出て背伸びをするメリッサ。
その表情には満足のいく仕事をやりきったという自信で満ちていた。
ギデオンはというと……どこか、腑に落ちない様子だ。
「なあ、メリッサ。今回の試験、どう思う?」
「どうって……以外と楽でしたよね」
「いつも、こんな感じか?」
「試験とはいってもセカンダリィですからね、そうシビアではないと思います。 ギデさん、気になることがあるんですか?」
「いや、金鉱石の入手条件がな……僕たちが手に入れた鉱石って高純度の金鉱石とみなされるのか?」
「はっ……言われてみれば! これ、マダラ石です! 金鉱石の一種ではありますが、合金。とてもじゃないですが、純金とは呼べません。ど、どういう事でしょうか? まさか、マダラ石から金だけを精製抽出しろとか? 鍛冶師でもない私たちには無理ですって!」
「落ち着いてくれ。金鉱石をジャングルで入手しろと言っているんだ。ジャングルのどこかにあるはずだ」
「そうだとしても、手掛かりがなければ、どうにもなりません。今から探している時間なんて……」
「メリッサ、君の観察眼なら気づくはずだ。この近くにあるはずだ! 金鉱石に関係する何かが!?」
「ほほう、そこに気づくとは……無能な輩にしてはシャープですな」
密林の中、音も立てず忍び寄る魔の手。
それは突如として現れ、メリッサを襲う。
「や、やめて下さい! カナタさん、こんな事して何になるんですか!?」
「騒ぐな、そして動くな! 貴様もだ、ギデ! もし変な動きを見せたら、この女がどうなるかは分かっておるだろう?」
いつからか? メリッサの背後に弁慶が立っていた。
彼女の首元に脇差の刃がギラつく。
メリッサを盾に取られたギデオンは一転して窮地に追い込まれた。
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