異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
39 / 545

三十九話

しおりを挟む
スコルの匂いを辿りながら、川沿いを移動する。
やがて、落葉低木が密集した場所に入ると前方からスコルが戻ってきた。

「弁慶は見つかったか?」

主の問いかけにスコルはしょんぼりと首を下げた。
どうやら、取り逃がしたらしい。
「クゥゥン」と鳴く彼の頭をギデオンは優しく撫でてやる。

弁慶の所在、それはギデオンの超嗅覚をもってしてつかめない。
それこそ、弁慶が気配を消すスキルを所持していなければ成せない。
原因の特定もだが、今は相手の居場所を見つけだす方が先決だ。
ギデオンは、手にした棒切れを頭上にかかげた。
メリッサから手渡された、それは弁慶の薙刀、ナギ子の成れの果てだった。

ゴソッ――――

位置は掴めない。
けれど、近場で物音がした。
気配もニオイもしないが着実に忍び寄ってくる。
弁慶は彼のすぐそばにいる。

「ちょわわああっわ!!」

周囲を見渡すギデオンに狙いをつけ、垂直に舞下りてきた大柄。
手元には鋭利な刃が握られている。
神出鬼没な襲撃でも、攻撃時には無防備なる。
そう、この時を待っていた。
ギルドの仲間であったはずの男が、私怨にかりたてられ軽率に動いてくるのを。
彼女、メリッサ・ハウゼンが拳を構えながら待ちわびていた。

「ちょっ! あばばばあばあああ――!!!」

顔面に打ち込まれた右フックが弁慶の顔をいびつに変える。
そのままの勢いで顎骨を粉砕する。
弁慶は、自分でもどうにもできないほど回転加速した後、樹木の幹に背を預ける恰好で停止した。

「ぐ……ぎ…………げざっま――!! 無能、産廃のぶんざぎで――ぜんぱぃに、歯向かおどずるの……かああああああああああああああ」

鼻から吹きだす血を手でおさえながら、弁慶は依然、立ち向かおうとしている。
周囲の景色に溶け込むように彼の身体が消えてゆく。
スキル、
自らの姿を周囲の物と同化させる弁慶が持つこのスキルは、使用者の気配や臭い、魔力までも擬態化させてしまう隠密特化型のスキルである。
それゆえ、一度発動してしまえば探知型のスキルや魔法を使っても探す事は難しい。

それは過去の栄光に追いすがった者の空虚な末路。

弁慶は語る。
自分が三ッ星冒険者だった頃、ギルド内の対人戦では負け知らずと言われていた猛者だと。
今でも、自分に勝てる奴はいないと。
強すぎたせいで、いつしか天狗になってしまっていた。
その代償は高くつき、自分を妬んだ悪者に騙され落ちるところまで蹴落とされたと明かす。

しかし、それらはすべて彼の妄言虚言である。

だからこそ、もう負けられない。
今度こそ自身の絶対を証明してやる!
いかにも大そうな事を豪語するが、実際の彼は惨めなものだった。
三ッ星冒険者に昇級できたのも、彼とパーティーを組んだ仲間のおかげだ。
弁慶自身が仲間の為に自ら進んで貢献こうけんしたことは今まで一度たりともない。
ゆえに、力不足とギルドに判断され降格させられた。
ブラフだらけの男が、かえり咲くには他者の昇級試験の手伝い、ポイント稼ぐしかない。
過去に失った光を取りもどそうと男は躍起になっていた。
なのに――――

「なんななんだぁああ!? お前っはあああ」

ギデオンならまだしも、非力だと思っていたメリッサに一撃でのされてしまった。
無様なほど力任せに脇差を振り回すが、メリッサには当たらない。
右へ、左へ、ふらふらと流れてゆく。
まるで、舞い散る木の葉を追いかけているように彼は、翻弄ほんろうされている。
超絶戯態が機能していない。
不完全な状態で止まったままだ。

身体の限界に気づいた弁慶は、その場で膝を折りへたりこんだ。
降参の意思を示そうとした彼が手を上げようとする。

「へぶっら――!」

それで終わるはずがなかった。
メリッサの鉄拳が弁慶のみぞおちに深く突き刺さる。
どうやら、腹一発みまうのはお約束のようだ。

「ご……ゴメンなさい。も……もう……殴ったりしまぜん~。ゆるぢれええええ!! 反省していまず~、この通り、反省していまずので! ギデ様、メリッサ様。小生未熟者ゆえ何卒、平にご容赦を――――」

大の大人が、泣きわめき赦しをこう。
彼女の拳がよほど効いたらしい。
もう、危害を加える気力もないようだ。

ギデオンは弁慶の上半身を植物の縄で縛り上げ、そこら辺の木の枝に吊るすことにした。
試験は未だ、終了していない。
それまでの間、彼が大人しくしているとは断言できない。
その上、負傷した人間を庇いながらジャングルを移動するのは、極めて難しい。


陽射しがだいぶ西に傾いてきた――――

「そろそろ、金鉱石を見つけに行かねば」と腰を上げる彼よりも先に、メリッサが目を覚ました。

「ううっ……気分が……ギデさん。私、ちょっと顔を洗ってきますね……」

メリッサが近くの川場を指差した。
暖かみがあるオレンジ色の水面に吸い込まれるように、おぼつかない足取りの彼女が向かってゆく。

「ぎ、ギデさ――――ん!! 早く、こっちに来てください」

数分も経たないうちに、川の方からメリッサの呼び声が聞こえる。
急かすような声色に、彼は何か起きたのかと銃を手に取る。

「見てください。コレ、何か分かりますか?」

川から水をすくい上げた、その手には砂利ついていた。

「よーく見てください」

言われたとおりにしてみると、小石と小石の合間に極小の金の粒が見える。

「まさか!」

ギデオンは飛び込むように川へと入り、腕を沈めた。
浅い川底から、引っ張り出したものは、木の実サイズの金塊だった。

「これだ!! ようやく、見つけたぞ。君のおかげだ、メリッサ!」

「えへへ、お役に立てて良かったです」

空に向かって採取した金鉱石をかかげるギデオン。
この時の彼は間違いなく冒険者、ギデになっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

処理中です...