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六十七話
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「貴様ぁ! またワタシを愚弄する気か!?」
「邪魔だ、どいてろ」
機関室に入るとギデオンはすぐに非常用ブレーキを扱った。
特に機関車の知識が優れているわけでもなく、かと言って勘で操作したわけでもない。
彼には物の名前を知る力があった。
ステータス画面表示は、汎用性に富んだスキルだ。
こうしたピンチ時には、必ず助けになってくれる。
ガュッ! キィキキイイィココオォオ――!! キィイイ――――――コオオオ――ュキィキィ!!!
車輪とレールの合間から甲高い停止音が鳴り響いた。
ゴトンッと車体が前のめりに傾きかける。
慣性力に引っ張られながらもギデオンは列車を降りた。
「ギデオン! まだ、話はおわっつ――――つぅ、つつぅぅぅ」
「さっさと、シルクエッタに治療してもらうんだな。そんな怪我した肩じゃ、剣もろくに振れないだろう……」
「貴様に気を遣われる覚えなど!! んな、何だコレは――――」
「さて、どうしたもんかねぇ」
列車を出た、外の光景は……あまりにも浮世離れしたモノと化していた。
荒地だった、その場所には辺り一面のオレンジ色の花畑が広がっていた。
明るく色づいた小さな花弁は、ひなげしの花にも似ていた。
「この臭いだ。エリエ区で遭遇した男から、この花の香りがした。それにこの景色……人が成せるモノではないな!」
「魔物のしわざだと言うのか? おかしい……おかしいではないか!? 我々の任務は治癒師の護衛だけだったはず……。なのに、怪異に襲われることになるなんて……まさか、共和国軍め! 我々を魔物の囮にでも使ったとでも言うのか!?」
「落ち着け。線路は一つしかないんだ。僕らを囮に使う意味はないだろう……それに、この異常現象はエリエ地区に入った時から続いている」
「つまり、鉄道関係なく我らを襲っている魔物がいるのか!?」
事の流れを取りまとめようする青年をそっちのけで、目を凝らすギデオン。
冒険者たちを乗せた車両から見覚えある人影が見えた。
「あの眼鏡め……」
ティムジャンピーだった。
発狂したままのインセクトテイマーは、肩に赤毛の女を抱えながら謎の逃走をはかろうとしている。
目的も不明、何処に向かおうとしているのかも、皆目見当がつかない。
ただ、気づいた以上は放置するわけにもいかない。
彼の行動を阻止するべく、ギデオンはわき目も振らず疾走した。
ほどなくして、辺りの地面が無数に隆起し始めた。
地面を割るように出てきたのは剣を地に突き立てた墓標だった。
どうして、それらを墓標だと思ったのかギデオンにも分からなかった。
不確かなモノだったが、剣の墓標同士が地を這いながら一ヶ所に集った時、確かな一つカタチのとなった。
墓標は台座だった。
その上に、どこからともなく現れた異形の怪物が鎮座していた。
デカい……人型のミイラでありながら人の五倍ぐらいの体躯をしている。
ほぼ、一糸まとわぬ姿で、頭部は真っ赤な花そのものになっている。
こんな魔物は見た事がない。
本当に魔物なのかも定かではない。
そうは言っても、人とはかけ離れた存在だ。
そして、何よりティムはソイツの方へと引き寄せられるように向かっている。
ギデオンが怪物に接近すると、怪物の背後から奇声を上げる群れが飛び出してきた。
どう見ても、一般人……中には共和国軍の兵士や一緒に列車に乗っていた冒険者の姿も見える。
やはり、彼らは自我を失っていた。
それどころか、手足が折れ曲がりあらぬ角度を向いていても平然としている。
これでは、ゾンビと何ら違いはない。
生きているか、死んでいるのか、いずれにせよ。
人としての心はもう損なわれている。
元に戻す方法があるのかは不明だ。
それはともかく、ミイラの操り人形として行く手を阻むのであれば、彼は容赦なく引き金をひく。
ダダダッ! ダダダン! ダン!
小気味よく短い音を鳴らし、魔獣が弾丸を飛ばす。
肩や脚部を撃ち抜かれ、盲者と化した人々の行動を不能にする。
これで、どうにか進路を確保できる――――などという安易な考えは捨てた方がいい。
群れが尽きることはない。
列を成して、さらに物量で押し寄せてくる。
「このままだとキリがない……魔装砲バハムート形態にシフト! 一点突破で、ここから狙うぞ!!」
地面に片膝をつき、砲身を固定しながらギデオンを狙いをつけた。
狙いは、直線距離300メートル先のミイラの頭部。
前回のように力を一気に解放するのではなく、絞り込んで射程を長くする。
その間の障害物は極力、避けたいところだが一遍にまとめて撃ち抜いても威力が低下することはない。
というよりも、もうそうしなければならない。
人が密集し過ぎている以上は多少の犠牲は払わなければ、この一撃は届かない。
「迷っている時間はない。決めるぞ! 集束速射、グラバスタ―!」
砲身の先端が光輝いた刹那。
一線の砲撃が空を走り抜ける。
時間にしてコンマ一秒もかからない。
視界が光を捉えた時には、黒き光が怪物の頭部を撃ち抜いていた。
台座から崩れ落ちるにその痩せ衰えた身体。
その傍らにはティムの姿が見えた。
「邪魔だ、どいてろ」
機関室に入るとギデオンはすぐに非常用ブレーキを扱った。
特に機関車の知識が優れているわけでもなく、かと言って勘で操作したわけでもない。
彼には物の名前を知る力があった。
ステータス画面表示は、汎用性に富んだスキルだ。
こうしたピンチ時には、必ず助けになってくれる。
ガュッ! キィキキイイィココオォオ――!! キィイイ――――――コオオオ――ュキィキィ!!!
車輪とレールの合間から甲高い停止音が鳴り響いた。
ゴトンッと車体が前のめりに傾きかける。
慣性力に引っ張られながらもギデオンは列車を降りた。
「ギデオン! まだ、話はおわっつ――――つぅ、つつぅぅぅ」
「さっさと、シルクエッタに治療してもらうんだな。そんな怪我した肩じゃ、剣もろくに振れないだろう……」
「貴様に気を遣われる覚えなど!! んな、何だコレは――――」
「さて、どうしたもんかねぇ」
列車を出た、外の光景は……あまりにも浮世離れしたモノと化していた。
荒地だった、その場所には辺り一面のオレンジ色の花畑が広がっていた。
明るく色づいた小さな花弁は、ひなげしの花にも似ていた。
「この臭いだ。エリエ区で遭遇した男から、この花の香りがした。それにこの景色……人が成せるモノではないな!」
「魔物のしわざだと言うのか? おかしい……おかしいではないか!? 我々の任務は治癒師の護衛だけだったはず……。なのに、怪異に襲われることになるなんて……まさか、共和国軍め! 我々を魔物の囮にでも使ったとでも言うのか!?」
「落ち着け。線路は一つしかないんだ。僕らを囮に使う意味はないだろう……それに、この異常現象はエリエ地区に入った時から続いている」
「つまり、鉄道関係なく我らを襲っている魔物がいるのか!?」
事の流れを取りまとめようする青年をそっちのけで、目を凝らすギデオン。
冒険者たちを乗せた車両から見覚えある人影が見えた。
「あの眼鏡め……」
ティムジャンピーだった。
発狂したままのインセクトテイマーは、肩に赤毛の女を抱えながら謎の逃走をはかろうとしている。
目的も不明、何処に向かおうとしているのかも、皆目見当がつかない。
ただ、気づいた以上は放置するわけにもいかない。
彼の行動を阻止するべく、ギデオンはわき目も振らず疾走した。
ほどなくして、辺りの地面が無数に隆起し始めた。
地面を割るように出てきたのは剣を地に突き立てた墓標だった。
どうして、それらを墓標だと思ったのかギデオンにも分からなかった。
不確かなモノだったが、剣の墓標同士が地を這いながら一ヶ所に集った時、確かな一つカタチのとなった。
墓標は台座だった。
その上に、どこからともなく現れた異形の怪物が鎮座していた。
デカい……人型のミイラでありながら人の五倍ぐらいの体躯をしている。
ほぼ、一糸まとわぬ姿で、頭部は真っ赤な花そのものになっている。
こんな魔物は見た事がない。
本当に魔物なのかも定かではない。
そうは言っても、人とはかけ離れた存在だ。
そして、何よりティムはソイツの方へと引き寄せられるように向かっている。
ギデオンが怪物に接近すると、怪物の背後から奇声を上げる群れが飛び出してきた。
どう見ても、一般人……中には共和国軍の兵士や一緒に列車に乗っていた冒険者の姿も見える。
やはり、彼らは自我を失っていた。
それどころか、手足が折れ曲がりあらぬ角度を向いていても平然としている。
これでは、ゾンビと何ら違いはない。
生きているか、死んでいるのか、いずれにせよ。
人としての心はもう損なわれている。
元に戻す方法があるのかは不明だ。
それはともかく、ミイラの操り人形として行く手を阻むのであれば、彼は容赦なく引き金をひく。
ダダダッ! ダダダン! ダン!
小気味よく短い音を鳴らし、魔獣が弾丸を飛ばす。
肩や脚部を撃ち抜かれ、盲者と化した人々の行動を不能にする。
これで、どうにか進路を確保できる――――などという安易な考えは捨てた方がいい。
群れが尽きることはない。
列を成して、さらに物量で押し寄せてくる。
「このままだとキリがない……魔装砲バハムート形態にシフト! 一点突破で、ここから狙うぞ!!」
地面に片膝をつき、砲身を固定しながらギデオンを狙いをつけた。
狙いは、直線距離300メートル先のミイラの頭部。
前回のように力を一気に解放するのではなく、絞り込んで射程を長くする。
その間の障害物は極力、避けたいところだが一遍にまとめて撃ち抜いても威力が低下することはない。
というよりも、もうそうしなければならない。
人が密集し過ぎている以上は多少の犠牲は払わなければ、この一撃は届かない。
「迷っている時間はない。決めるぞ! 集束速射、グラバスタ―!」
砲身の先端が光輝いた刹那。
一線の砲撃が空を走り抜ける。
時間にしてコンマ一秒もかからない。
視界が光を捉えた時には、黒き光が怪物の頭部を撃ち抜いていた。
台座から崩れ落ちるにその痩せ衰えた身体。
その傍らにはティムの姿が見えた。
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