異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
82 / 543

八十二話

しおりを挟む
注意がそれた。
敵を捕らえ、優勢となれば誰だってそうなる。
経験が不足がどうこうの話ではない。

むしろ、相手が人型だった為に惑わされただけの事。

ワイルドハンター、ギデは後にこう語っている。

「魔物は追い詰めらた時、一番の本領を発揮する。その変化を見極める事こそが、生存率を上げる一番の秘訣だ」と。

ブロッサムに揉みくちゃにされているサトラがうめき声を上げていた。
その微かな不協和音にギデオンは気づいた。
これは、苦痛にあえいでいるわけではない。
反撃の一手だ!

「口元を破壊しろ、ブロッサム!! ソイツ、詠唱しているぞ!!」

ギデオンが叫ぶと今度は、魔術師の少女が何かを感知した。
コルト装束の袖下から護符を取り出し構える。
見据えた先には、自然と直立した三叉戟が周囲の光を取り込んでいる。

それが何か、彼らには分からない。
解かるはずもない、過去とともに潰えたはずの古代魔法が現存している事など。

「ぐっ、むん!!」ブロッサムが拳で武神の画面を殴りつけた。
ところが、ベヒモスの仮面に阻まれ部位破壊できない。
いくら強打しても仮面の強度が勝る。
殴った拳の方が傷つき、血が飛び出る。

「間に合わないか……ヘルファイアで相殺そうさいする!」

「ええ、援護は任せてくだしぁ~! 氷装結界」

少女の護符がギデオンとスコルの身体に触れる。
接触した途端、薄膜の防御結界が彼らの身を包む。

蜜酒ミードをスコルに飲ませる。
本来なら、この段階で使用するのは好ましくはない。
一日一口が限界。
しかも、威力の程度によっては一度のヘルファイアで魔力が尽きてしまう。

だからと言って、こちらの力をセーブできるほど生半可な魔力量ではない。
トライデントに蓄積されている魔力は量、質ともにヴォールゾックの魔剣を遥かに上回っている。

トライデントが光を放ち眩い柱となる。
収束した光をまとい、もっとも近場に位置するギデオンたちを標的とした。
大気を震わせる一閃が、無情にも超高速度の滑空砲となる。

対するスコルのヘルファイアは闇魔法ダークフレイムと類似した火炎ブレスだ。
燃やしたモノを着実に焼き尽くすという特性を持っている。
これが勝敗を左右するカギだ。

速射では敵わない。
だったら……本体が飛来している以上、こちらに到達する前にトライデントを何とかすればいい。

スコルの口元から、凝縮されたブレスが放出された。
回転をくわえ束となった炎の柱。
閃光の一撃を破砕する為に立ち向かう黒炎は、光りを浴びることで一際、色彩が増してゆく。
黒と白。
相対的な二つが交わる時、結果は意外なカタチを迎えた。


トライデントが天上に突き刺さった状態で黒く燃え盛っていた。
強烈な二つの力が衝突した勢いで、ギデオンたちは壁際まで押し出されてしまった。
幸い、防御結界のおかげで無傷で済んだ。

が、戦いは継続している。
頭部を失ったゴーレムが、腰に差していた剣を鞘から引き抜いた。
元が石像だ、頭部があろうが感情など読み取れるはずもない。
ただ一つ、今のサトラに関して言えるのは、敵意をあらわにしているという事だ。
自身をこんな無様なカタチにおとしめた彼を、酷く憎んでいる。

真っ向からぶつかり合ってもトライデントは防ぎ切れない。
これが、短時間で導きだしたギデオンの答えだった。
他者に話せば、じゃあ、どうするのだ? と鼻で笑われるかもしれない。

けれど、事実は事実。
しっかりと受け止めた上で、進んでいかなければ、物の見方は変化しない。

ギデオンの考えはよりも敵のを狙う方向にシフトしていた。
相手の弱点は、ずばり長槍であること。
いくら加速しても、槍の重量バランスが偏っていて安定しきれない。
加速すればことさらだ。
外部から少し力を加えるだけで大きく進路がずれる。
それを魔力操作でカバーしても、到底間に合うわけがない。

弧を描いたヘルファイアが側面から雪崩込んでくると、槍は呆気ないほど進路を傾け、現在位置に到達した。
そして、地獄の黒炎がベヒモスの仮面を焼き払っていた。

最初からだ。
彼の真なる狙いは、サトラ本体だった。
大技が一度しか使えないのなら、できるだけ本体を巻き込むように攻撃を繰り出す。
至ってシンプルな攻撃の鉄則。

「なぁ、氷の剣とか作れないか?」ギデオンは少女に尋ねた。

「できますぅ……けど、凍傷が」

「問題ないよ。数秒で終わる」

戸惑いながらも、彼女は氷の剣を生成した。
突き刺さった刃を床から引き抜き、彼は武神と相対した。

「これで、リーチは五分五分だな……」

その気配を察知したサトラは、獣のように飛びかかり刃を振り下ろした。
獲物はすぐそこだ、そう言わんばかりに渾身の一撃を飛ばす。

「やはり、剣術はしっかり習っておくのが正解だな。いくら身体能力が高くても、攻撃した直後に隙を作るようならば、素人を相手にしているのと変わらん」

冷気を帯びた白線が華麗に宙を刻む。
その太刀筋は軽やかで素早い。
時折、光沢を放ち一寸の狂いもなく肘、肩、腰、膝、足を通り抜け過ぎ去ってゆく。
刹那の剣戟。
懐中時計の秒針が一秒だけ進んだ先には、バラバラに崩れ落ちてゆく人形の姿があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

処理中です...