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八十二話
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注意がそれた。
敵を捕らえ、優勢となれば誰だってそうなる。
経験が不足がどうこうの話ではない。
むしろ、相手が人型だった為に惑わされただけの事。
ワイルドハンター、ギデは後にこう語っている。
「魔物は追い詰めらた時、一番の本領を発揮する。その変化を見極める事こそが、生存率を上げる一番の秘訣だ」と。
ブロッサムに揉みくちゃにされているサトラが呻き声を上げていた。
その微かな不協和音にギデオンは気づいた。
これは、苦痛に喘いでいるわけではない。
反撃の一手だ!
「口元を破壊しろ、ブロッサム!! ソイツ、詠唱しているぞ!!」
ギデオンが叫ぶと今度は、魔術師の少女が何かを感知した。
コルト装束の袖下から護符を取り出し構える。
見据えた先には、自然と直立した三叉戟が周囲の光を取り込んでいる。
それが何か、彼らには分からない。
解かるはずもない、過去とともに潰えたはずの古代魔法が現存している事など。
「ぐっ、むん!!」ブロッサムが拳で武神の画面を殴りつけた。
ところが、ベヒモスの仮面に阻まれ部位破壊できない。
いくら強打しても仮面の強度が勝る。
殴った拳の方が傷つき、血が飛び出る。
「間に合わないか……ヘルファイアで相殺する!」
「ええ、援護は任せてくだしぁ~! 氷装結界」
少女の護符がギデオンとスコルの身体に触れる。
接触した途端、薄膜の防御結界が彼らの身を包む。
蜜酒をスコルに飲ませる。
本来なら、この段階で使用するのは好ましくはない。
一日一口が限界。
しかも、威力の程度によっては一度のヘルファイアで魔力が尽きてしまう。
だからと言って、こちらの力をセーブできるほど生半可な魔力量ではない。
トライデントに蓄積されている魔力は量、質ともにヴォールゾックの魔剣を遥かに上回っている。
トライデントが光を放ち眩い柱となる。
収束した光をまとい、もっとも近場に位置するギデオンたちを標的とした。
大気を震わせる一閃が、無情にも超高速度の滑空砲となる。
対するスコルのヘルファイアは闇魔法ダークフレイムと類似した火炎ブレスだ。
燃やしたモノを着実に焼き尽くすという特性を持っている。
これが勝敗を左右するカギだ。
速射では敵わない。
だったら……本体が飛来している以上、こちらに到達する前にトライデントを何とかすればいい。
スコルの口元から、凝縮されたブレスが放出された。
回転をくわえ束となった炎の柱。
閃光の一撃を破砕する為に立ち向かう黒炎は、光りを浴びることで一際、色彩が増してゆく。
黒と白。
相対的な二つが交わる時、結果は意外なカタチを迎えた。
トライデントが天上に突き刺さった状態で黒く燃え盛っていた。
強烈な二つの力が衝突した勢いで、ギデオンたちは壁際まで押し出されてしまった。
幸い、防御結界のおかげで無傷で済んだ。
が、戦いは継続している。
頭部を失ったゴーレムが、腰に差していた剣を鞘から引き抜いた。
元が石像だ、頭部があろうが感情など読み取れるはずもない。
ただ一つ、今のサトラに関して言えるのは、敵意をあらわにしているという事だ。
自身をこんな無様なカタチに貶めた彼を、酷く憎んでいる。
真っ向からぶつかり合ってもトライデントは防ぎ切れない。
これが、短時間で導きだしたギデオンの答えだった。
他者に話せば、じゃあ、どうするのだ? と鼻で笑われるかもしれない。
けれど、事実は事実。
しっかりと受け止めた上で、進んでいかなければ、物の見方は変化しない。
ギデオンの考えは対抗策よりも敵の欠点を狙う方向にシフトしていた。
相手の弱点は、ずばり長槍であること。
いくら加速しても、槍の重量バランスが偏っていて安定しきれない。
加速すればことさらだ。
外部から少し力を加えるだけで大きく進路がずれる。
それを魔力操作でカバーしても、到底間に合うわけがない。
弧を描いたヘルファイアが側面から雪崩込んでくると、槍は呆気ないほど進路を傾け、現在位置に到達した。
そして、地獄の黒炎がベヒモスの仮面を焼き払っていた。
最初からだ。
彼の真なる狙いは、サトラ本体だった。
大技が一度しか使えないのなら、できるだけ本体を巻き込むように攻撃を繰り出す。
至ってシンプルな攻撃の鉄則。
「なぁ、氷の剣とか作れないか?」ギデオンは少女に尋ねた。
「できますぅ……けど、凍傷が」
「問題ないよ。数秒で終わる」
戸惑いながらも、彼女は氷の剣を生成した。
突き刺さった刃を床から引き抜き、彼は武神と相対した。
「これで、リーチは五分五分だな……」
その気配を察知したサトラは、獣のように飛びかかり刃を振り下ろした。
獲物はすぐそこだ、そう言わんばかりに渾身の一撃を飛ばす。
「やはり、剣術はしっかり習っておくのが正解だな。いくら身体能力が高くても、攻撃した直後に隙を作るようならば、素人を相手にしているのと変わらん」
冷気を帯びた白線が華麗に宙を刻む。
その太刀筋は軽やかで素早い。
時折、光沢を放ち一寸の狂いもなく肘、肩、腰、膝、足を通り抜け過ぎ去ってゆく。
刹那の剣戟。
懐中時計の秒針が一秒だけ進んだ先には、バラバラに崩れ落ちてゆく人形の姿があった。
敵を捕らえ、優勢となれば誰だってそうなる。
経験が不足がどうこうの話ではない。
むしろ、相手が人型だった為に惑わされただけの事。
ワイルドハンター、ギデは後にこう語っている。
「魔物は追い詰めらた時、一番の本領を発揮する。その変化を見極める事こそが、生存率を上げる一番の秘訣だ」と。
ブロッサムに揉みくちゃにされているサトラが呻き声を上げていた。
その微かな不協和音にギデオンは気づいた。
これは、苦痛に喘いでいるわけではない。
反撃の一手だ!
「口元を破壊しろ、ブロッサム!! ソイツ、詠唱しているぞ!!」
ギデオンが叫ぶと今度は、魔術師の少女が何かを感知した。
コルト装束の袖下から護符を取り出し構える。
見据えた先には、自然と直立した三叉戟が周囲の光を取り込んでいる。
それが何か、彼らには分からない。
解かるはずもない、過去とともに潰えたはずの古代魔法が現存している事など。
「ぐっ、むん!!」ブロッサムが拳で武神の画面を殴りつけた。
ところが、ベヒモスの仮面に阻まれ部位破壊できない。
いくら強打しても仮面の強度が勝る。
殴った拳の方が傷つき、血が飛び出る。
「間に合わないか……ヘルファイアで相殺する!」
「ええ、援護は任せてくだしぁ~! 氷装結界」
少女の護符がギデオンとスコルの身体に触れる。
接触した途端、薄膜の防御結界が彼らの身を包む。
蜜酒をスコルに飲ませる。
本来なら、この段階で使用するのは好ましくはない。
一日一口が限界。
しかも、威力の程度によっては一度のヘルファイアで魔力が尽きてしまう。
だからと言って、こちらの力をセーブできるほど生半可な魔力量ではない。
トライデントに蓄積されている魔力は量、質ともにヴォールゾックの魔剣を遥かに上回っている。
トライデントが光を放ち眩い柱となる。
収束した光をまとい、もっとも近場に位置するギデオンたちを標的とした。
大気を震わせる一閃が、無情にも超高速度の滑空砲となる。
対するスコルのヘルファイアは闇魔法ダークフレイムと類似した火炎ブレスだ。
燃やしたモノを着実に焼き尽くすという特性を持っている。
これが勝敗を左右するカギだ。
速射では敵わない。
だったら……本体が飛来している以上、こちらに到達する前にトライデントを何とかすればいい。
スコルの口元から、凝縮されたブレスが放出された。
回転をくわえ束となった炎の柱。
閃光の一撃を破砕する為に立ち向かう黒炎は、光りを浴びることで一際、色彩が増してゆく。
黒と白。
相対的な二つが交わる時、結果は意外なカタチを迎えた。
トライデントが天上に突き刺さった状態で黒く燃え盛っていた。
強烈な二つの力が衝突した勢いで、ギデオンたちは壁際まで押し出されてしまった。
幸い、防御結界のおかげで無傷で済んだ。
が、戦いは継続している。
頭部を失ったゴーレムが、腰に差していた剣を鞘から引き抜いた。
元が石像だ、頭部があろうが感情など読み取れるはずもない。
ただ一つ、今のサトラに関して言えるのは、敵意をあらわにしているという事だ。
自身をこんな無様なカタチに貶めた彼を、酷く憎んでいる。
真っ向からぶつかり合ってもトライデントは防ぎ切れない。
これが、短時間で導きだしたギデオンの答えだった。
他者に話せば、じゃあ、どうするのだ? と鼻で笑われるかもしれない。
けれど、事実は事実。
しっかりと受け止めた上で、進んでいかなければ、物の見方は変化しない。
ギデオンの考えは対抗策よりも敵の欠点を狙う方向にシフトしていた。
相手の弱点は、ずばり長槍であること。
いくら加速しても、槍の重量バランスが偏っていて安定しきれない。
加速すればことさらだ。
外部から少し力を加えるだけで大きく進路がずれる。
それを魔力操作でカバーしても、到底間に合うわけがない。
弧を描いたヘルファイアが側面から雪崩込んでくると、槍は呆気ないほど進路を傾け、現在位置に到達した。
そして、地獄の黒炎がベヒモスの仮面を焼き払っていた。
最初からだ。
彼の真なる狙いは、サトラ本体だった。
大技が一度しか使えないのなら、できるだけ本体を巻き込むように攻撃を繰り出す。
至ってシンプルな攻撃の鉄則。
「なぁ、氷の剣とか作れないか?」ギデオンは少女に尋ねた。
「できますぅ……けど、凍傷が」
「問題ないよ。数秒で終わる」
戸惑いながらも、彼女は氷の剣を生成した。
突き刺さった刃を床から引き抜き、彼は武神と相対した。
「これで、リーチは五分五分だな……」
その気配を察知したサトラは、獣のように飛びかかり刃を振り下ろした。
獲物はすぐそこだ、そう言わんばかりに渾身の一撃を飛ばす。
「やはり、剣術はしっかり習っておくのが正解だな。いくら身体能力が高くても、攻撃した直後に隙を作るようならば、素人を相手にしているのと変わらん」
冷気を帯びた白線が華麗に宙を刻む。
その太刀筋は軽やかで素早い。
時折、光沢を放ち一寸の狂いもなく肘、肩、腰、膝、足を通り抜け過ぎ去ってゆく。
刹那の剣戟。
懐中時計の秒針が一秒だけ進んだ先には、バラバラに崩れ落ちてゆく人形の姿があった。
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