異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百三十三話

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 ケサランパサランを通じ、ジェイクに一報を入れる。

 話を伝える中「そうか、ラボの方はコチラに任せろ」と即答が返ってきた。
 あまりにも、あっさりとしている言葉に、本当にこれで良いのか? と胸中に不安が過る。

 未だに後ろ髪ひかれる思いではあるも、これ以上は踏みとどまるわけにもいかない。
 意を決したギデオンは、勇士学校から馬を拝借し、郊外に向けて走らせた。

 ジェイクからの情報によると、ナズィールの留置所は街の北部、荒野地帯に位置するという。
 すぐ傍には、サーマリア基地、東方支部が建ち並んでいる。

 当然ながら留置所側にブロッサムとの面会を求めても、応じる可能性は、ほぼゼロだ。
 だからといって、無理やりに忍び込むのはリスクが高過ぎる。
 サーマリア軍のひざ元で騒ぎを起こせば、まず共和国にはいられない。
 そのことを念頭に置いて行動しなければ、これまでことが水泡に帰してしまう。

 色々な手段を模索するも、イマイチ決め手にかける。
 ブロッサムに会う手立てがまったくないわけでもない。
 たった一つ、を通じてなら活路はあるかもしれない。

 馬上のギデオンは首を横に振った。
 それは、あくまで希望的な予測でしかない。
 彼の一存だけで、軍をどうこう言い聞かせることなど、ご都合がすぎる。
 それこそ夢物語でしかない、現実はそこまで甘くはない。

 暗闇の中、馬を走らせる。
 馬は夜行性ではないので時折、睡眠休憩しながら先を目指した。
 どれほどの時間が経過したのか? 懐中時計で確認すると日付が変わる直前だった。

 留置所まではそう距離は遠くない。
 手綱を握りながらギデオンは、夜風に身をあずけていた。

 満天の星空の下、荒野が明るく照らされていた。
 留置所の明りではない。
 野営用テントがズラリと列をなし、設営されていた。
 テント横にかかげらている旗にはナズィール軍のエンブレムが刻まれている。

 その光景を目にした瞬間、マタギが持つ野生の勘が少年に閃きを与えた。

「ぐわっ! アガアガ――――はぁぁああん」

「悪く思わないでくれ。後で返すからな」

 野営地に忍び込むなり、適当な兵士に蜜酒を飲ませる。
 泥酔でいすい状態になったところで軍服を奪い着替える。
 心地よくイビキをかく兵士。
 明日にはきっと自分に何が起きたのか? まったく思い出せなくなっているだろう。

 ここまでは何の問題もなく旨くいった。
 本題はここからだ。この恰好のまま、どうやって留置所に入るかだ。

「こんな所で何をしている!?」

 しばらく、テントの周辺をウロウロしている不意に声をかけられた。
 何事かと慌てて見返すと、何処かで見たことがあるような顔をした若い兵士が立っていた。

「ん? お前……どこかで」

 ギデオンの顔をいぶかしげに見ながら近づいてくる。
 早くも素性がバレてしまった。そう感じたギデオンの表情が強張る。
 男との距離が短くなるにつれ、記憶が甦ってきた。
 むこうも同様に思い出したらしく、二人同時に「「ああっ!!」」と指差していた。

「お前、ワイルドメアー号で向かい座席にいた冒険者だな!!」

「なんだ、金魚のフンか……」

「金魚のフンとは何だ!? 失礼な輩だな!! 俺にはバウル―ゼンという立派な名前があってだな!」

 バン! と手を胸元に叩きつけ兵士はバウル―ゼンと名乗りを上げた。
 この男は、確か冒険者としてマイケルやティムジャンピーとパーティーを組んでいた。
 その中にはアンネリスだったキンバリーもいた。
 まだ記憶に新しいが、あまりにも地味すぎて彼の印象は、ギデオンの中では殆ど消えかけていた。

「どうして、冒険者だったお前が軍にいるんだ?」ギデオンが質問する。

「それは、俺の台詞しょっ。というか、アンタ……名前ぐらい教えてくれよ」

「そう言えば、お前には名乗っていなかったな、ギデだ。わけあって軍に参加している」

「うわっ~、メチャクチャ怪しすぎるしょっ! そもそも、列車の時と態度チガくない?」

「僕は答えたぞ。次はバウルの番じゃないか?」

「いやぁぁ―――、奇遇だな。実は俺もわけあって軍に参加してんだよねぇ~」

 答えた傍からバウルの目は完全に遊泳していた。
 この男は黒だ!! 軍人ではない。
 はっきりと見抜けるほど、動揺が凄まじい。
 無反応のまま、じっと見ていると足下がガタガタと震えていた。

 どういう経緯があったのかは、ギデオンには興味はない。
 なので、言及することもしなかった。
 シオン賢者である疑いも考えられなくもないが……これが全部、演技だとすればとんでもない大物だ。

「一つ聞きたいんだけどよぉ。どうすれば、留置所に入れるんだ?」

 まさかの、同じ疑問がバウルの口をついて出てきた。
 自らの正体を無防備に明かす、この男に限ってシオン賢者であることは、まずない。
 彼の駄目さ加減から、ギデオンは確証を得た。
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