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百四十話
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脱出した直後、背後から耳が痛くなるほどの爆破音が轟いた。
熱風が肌を撫でる、夜の荒野が昼間のように明るく照らされている。
振り返ると、留置所から火の手が上がっていた。
黒煙に包まれた、この施設の内部で一体、何が起こっているのだろうか?
疑問が生じる前に答えの方からやってきた。
留置所外壁の一部が吹き飛ぶ。
その中から現れたのは、二つの大きな車輪がついた大砲だった。
それは、聖王国出身のギデオンにとっては馴染のない兵器だった。
「アームストロング砲ですな」ブロッサムが呟く。
「あれは、大砲なのか? どうして、あんなモノが留置所から出てくるんだ!? いや……此処からサーマリア軍の基地まではそう遠くない距離だ。おそらく出所はそこか? にしても……」
ギデオンの背筋に悪寒が走った。完全にサーマリア軍を敵に回すこの状況。
それを作れる人間に心当たりがあったからだ。
「無事に脱出できたんだな、兄貴ぃ―――!!」
悪い予感は当たるものだ。
魔導四輪を改良した軍用装甲車にバウルが搭乗していた。
ギデオンたちに気づくなり、窓から身を乗り出して手を振ってきた。
彼が戻ってくるとは、露ほども思わなかったギデオンは額に手をあて、しばらく沈黙していた。
「バウル―ゼン、この爆発はオマエのしわざか? だとしたら、とんでもない事をしてくれたな! 分かっているのか?」
「分かっていないのは兄貴の方じゃん。俺たちは反政府派の人間だ。敵対するサーマリア軍が、不穏な動きを見せれば破壊工作だってやるさ!」
「つまり、テロ行為だと知った上で暴れているのか? ずいぶんと身勝手な組織だな。民間人を巻き込んでまでも為す事に大義はあるのか!?」
「この傀儡国家を正常に戻すには、多少の犠牲は仕方ないことしょっ! 無関係の奴らには悪いけど、あんな所にいるぐらいだ自己責任でどうにかしてくれってカンジよ」
自分と同じ目標、腐敗した国の正常化しようと活動する者。
国は違えど、バウル―ゼンも国を憂いている。
けれど理由は人それぞれだ。道は一本ではない、異なるルートが無数に枝分かれしている。
ギデオンとバウルの決定的な違い。
それは、誰の為の改革なのか? という点に重きを置くとはっきりする。
ギデオンは自ら背負う罪の意識から、人々のために国を変えようとしていた。
それが正しい選択だと、彼自身も言い切ることはできないが、人々を守るために、悪しきモノだけを排除することで解決に導こうとしていた。
対して、バウルの方は自分たちの自由の為に戦う手段に出ていた。目標に到達する為にも犠牲覚悟で政府と抗争している。
どちらも一概には、正解とは言えない。
双方とも理想と現実の合間で大きく揺らいでいることには変わりない。
かと言って不正解と判断するのは愚の骨頂だ。
彼らは、過去の経験を踏まえて進んできた。その歩みまで、否定することは神でもなければ許されない。
「軍が不穏な動きを見せていると言ったな。どういう意味だ?」
「どうもこうも、アイツら内戦を終わらせるつもりはないのよ。マイケルと二人でルーツグウ方面に出張ったけど、酷い有様だった……民は終わらない戦闘に疲弊し、食べる物もろくに手に入らず、やせ衰えてゆく。……にもかかわらず、兵士だけは何も変わらず活き活きとしている。どう見ても、おかしいっしょ!? 日夜、戦っているはずの奴らの方が元気だなんて……」
「それと、留置所襲撃がどう関係するんだ?」
「悪いな、兄貴。同志ではない奴には話せない。とにかく、二人とも乗んなよ。街まで送ってやるからさ」
「ここは彼の御厚意に甘えましょうぞ。このまま走って逃げるのは難しいようですからな」
ブロッサムの言うとおり、留置所を取り巻く炎は早くも鎮火しつつあった。
消火作業が終われば兵士たちも真っ先に追ってくるはずだ。
そうでなくとも、生徒会メンバーに捕まると厄介なことになる。
二人は、装甲車に相乗りさせてもらうことにした。
野営地を避けながら装甲車で移動する。
行きと比べ、断然楽だ。
後部座席に座り込むと、ギデオンを静かに瞳を閉じた。
「兄貴たちは街へ戻ってどうするんだ?」
「キンバリー教諭の遺体を盗んだ奴を特定する。僕なら、それが可能だ」
「本当ですかな!? 我にできることがあったら何なりとお申し付けくだされ」
嬉々するブロッサムの隣で、ギデオンは考え続けていた。
確かに、解決方法はある。
ただ、問題は見つかるかどうかだ。
もし、犯人がナズィール地区から出てしまっていたら、足取りは完全に掴めなくなる。
最早、賭けであり時間との勝負だった。
生徒会の連中がナズィールに戻ってくる前に犯人を見つけ出さなければならない。
ブロッサムの無実を証明するには。
熱風が肌を撫でる、夜の荒野が昼間のように明るく照らされている。
振り返ると、留置所から火の手が上がっていた。
黒煙に包まれた、この施設の内部で一体、何が起こっているのだろうか?
疑問が生じる前に答えの方からやってきた。
留置所外壁の一部が吹き飛ぶ。
その中から現れたのは、二つの大きな車輪がついた大砲だった。
それは、聖王国出身のギデオンにとっては馴染のない兵器だった。
「アームストロング砲ですな」ブロッサムが呟く。
「あれは、大砲なのか? どうして、あんなモノが留置所から出てくるんだ!? いや……此処からサーマリア軍の基地まではそう遠くない距離だ。おそらく出所はそこか? にしても……」
ギデオンの背筋に悪寒が走った。完全にサーマリア軍を敵に回すこの状況。
それを作れる人間に心当たりがあったからだ。
「無事に脱出できたんだな、兄貴ぃ―――!!」
悪い予感は当たるものだ。
魔導四輪を改良した軍用装甲車にバウルが搭乗していた。
ギデオンたちに気づくなり、窓から身を乗り出して手を振ってきた。
彼が戻ってくるとは、露ほども思わなかったギデオンは額に手をあて、しばらく沈黙していた。
「バウル―ゼン、この爆発はオマエのしわざか? だとしたら、とんでもない事をしてくれたな! 分かっているのか?」
「分かっていないのは兄貴の方じゃん。俺たちは反政府派の人間だ。敵対するサーマリア軍が、不穏な動きを見せれば破壊工作だってやるさ!」
「つまり、テロ行為だと知った上で暴れているのか? ずいぶんと身勝手な組織だな。民間人を巻き込んでまでも為す事に大義はあるのか!?」
「この傀儡国家を正常に戻すには、多少の犠牲は仕方ないことしょっ! 無関係の奴らには悪いけど、あんな所にいるぐらいだ自己責任でどうにかしてくれってカンジよ」
自分と同じ目標、腐敗した国の正常化しようと活動する者。
国は違えど、バウル―ゼンも国を憂いている。
けれど理由は人それぞれだ。道は一本ではない、異なるルートが無数に枝分かれしている。
ギデオンとバウルの決定的な違い。
それは、誰の為の改革なのか? という点に重きを置くとはっきりする。
ギデオンは自ら背負う罪の意識から、人々のために国を変えようとしていた。
それが正しい選択だと、彼自身も言い切ることはできないが、人々を守るために、悪しきモノだけを排除することで解決に導こうとしていた。
対して、バウルの方は自分たちの自由の為に戦う手段に出ていた。目標に到達する為にも犠牲覚悟で政府と抗争している。
どちらも一概には、正解とは言えない。
双方とも理想と現実の合間で大きく揺らいでいることには変わりない。
かと言って不正解と判断するのは愚の骨頂だ。
彼らは、過去の経験を踏まえて進んできた。その歩みまで、否定することは神でもなければ許されない。
「軍が不穏な動きを見せていると言ったな。どういう意味だ?」
「どうもこうも、アイツら内戦を終わらせるつもりはないのよ。マイケルと二人でルーツグウ方面に出張ったけど、酷い有様だった……民は終わらない戦闘に疲弊し、食べる物もろくに手に入らず、やせ衰えてゆく。……にもかかわらず、兵士だけは何も変わらず活き活きとしている。どう見ても、おかしいっしょ!? 日夜、戦っているはずの奴らの方が元気だなんて……」
「それと、留置所襲撃がどう関係するんだ?」
「悪いな、兄貴。同志ではない奴には話せない。とにかく、二人とも乗んなよ。街まで送ってやるからさ」
「ここは彼の御厚意に甘えましょうぞ。このまま走って逃げるのは難しいようですからな」
ブロッサムの言うとおり、留置所を取り巻く炎は早くも鎮火しつつあった。
消火作業が終われば兵士たちも真っ先に追ってくるはずだ。
そうでなくとも、生徒会メンバーに捕まると厄介なことになる。
二人は、装甲車に相乗りさせてもらうことにした。
野営地を避けながら装甲車で移動する。
行きと比べ、断然楽だ。
後部座席に座り込むと、ギデオンを静かに瞳を閉じた。
「兄貴たちは街へ戻ってどうするんだ?」
「キンバリー教諭の遺体を盗んだ奴を特定する。僕なら、それが可能だ」
「本当ですかな!? 我にできることがあったら何なりとお申し付けくだされ」
嬉々するブロッサムの隣で、ギデオンは考え続けていた。
確かに、解決方法はある。
ただ、問題は見つかるかどうかだ。
もし、犯人がナズィール地区から出てしまっていたら、足取りは完全に掴めなくなる。
最早、賭けであり時間との勝負だった。
生徒会の連中がナズィールに戻ってくる前に犯人を見つけ出さなければならない。
ブロッサムの無実を証明するには。
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