異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
168 / 547

百六十八話

しおりを挟む
 砂塵をまき散らし、ゴーレムが沈んでゆく。
 一時の静寂に包まれた中、地に倒れ沈黙するバミューダの姿があった。

「来たか……」
 ファルゴが振り返ると、ひょろ長く人並みサイズまで縮小した自身の悪意がフラフラとやってきた。
 黒炎に身を焦がしながらも、主の元へと戻ろうと本能だけで動いている。

「ふん、ずんぶんとコテンパンにやられたようだな。マッチ棒みたいになりやがって…………まぁ、いい。戻れ!」

 ファルゴが手をかざすと炎ごとダイダラボッチが吸収されてゆく。
 何事もなかったような面持ちで、若干離れた通路先を眺める。
 期待に応えるかのように、半壊した建屋の合間から二つの足音が近づいてくる。

 噴き出した蒸気の向こうからギデオンとクォリスが現れた。
 強敵を視認したファルゴはに握った拳をバキバキと鳴らしながら、口角を吊り上げる。
 待ちに待った瞬間が、じきに訪れる。
 遊園地のアトラクションを待っていた子供のように瞳を輝かせ勢いづく。

 それは、ギデオンの方でも変わらない。
 越えなければならない壁としてファルゴがいた。
 ガルベナールの野望を打ち砕き、極悪非道の所業を世に明かすには、この男を倒さないといけない。
 いくら、ガルベナールの悪事を表沙汰にしようとも、ファルゴが事実をウヤムヤにすれば全部なかったことにされてしまう。
 多大な影響力を持つ存在に敗北を叩き込まなければならない。
 それこそが、ファルゴという暴走機関から力を奪い去る唯一の方法だ。

「クォリス、少し離れていてくれ……戦いが始まる」

「うん……気をつけて」

 クォリスが離れるのと同時に、両者間で開幕のパーミッショントランスが炸裂した。
 互いに間合いを詰めたために行き違いとなりながらも、銃と拳が火を噴き激突する。

「ちっ、気に食わねぇ。俺の技を、完全に使いこなしてやがる……認めたくねぇが、テメェの戦闘センスは一級品だ。だがよぉ、魔法適性面では恵まれなかったようだな。パーミッショントランスのように無属性の魔力操作ならともかく、テメェ自身の攻撃には属性がまったく付与されていねぇーよな」

「今日は、ずんぶんとお喋りなんだな……お前の言う通り、僕は属性魔法が使えない。その代わり、この相棒が魔力弾を放って弱点を補ってくれている。それで、問題はない」

 銃をかかげ語るギデオンを見て、ファルゴが地面にツバを吐き捨てた。
 拳に溢れんばかりのプラーナをのせながら、あからさまな不満をぶちまけるようにして殴りかかってきた。

「ギガノレイダァ―――!!」
 闘気が実寸よりも肥大化した拳を作り出す。
 見かけだけではない。
 高純度の集積した生命エネルギーが、膨大な質量に変換されギデオンを抹殺しようとする。
 地面を撃ち抜くと、一瞬にして陥没し窪地が出来上がった。
 被弾はまぬがれても、威力は災害クラス、破壊力だけでも狂気じみている。
 全身を打ちつける衝撃をこらえながら、ギデオンは歯を食いしばる。
 少しでも気を抜けば、どこまでも吹き飛ばされて肉塊になってしまいそうだ。

「うおおおおおおおららあああ――――」
 反撃となる銃撃が暴君を打ちのめす、バハムートから回転を加えた魔力弾が乱射される。
 まるで、マシンガンのように掃射音がとめどなく響き続ける。

「んな、豆鉄砲で! 俺を止められると思うなぁぁあ――よ」

「ぐがっ!!」
 ダイノハンマーが腹部を突きあげる。
 経験したことのない衝撃に、苦痛の声すらまともに出てこない。
 身体を折り曲げながら、ギデオンはその場で胃液を吐き出した。
 地べたに、うずくまる彼にファルゴが問う。

「ギデだったか? テメェ、本気で言ってんのか?」

「なっ――んのことだ……」

「さっきの話だ。何が問題ねぇんだよ? 魔法が使えなくても構わないなんて、つまらねえことをほざきやがって。テメェのそれは怠慢だ。不得意なことから目をそむけて自身の可能性をみすみす、捨ててやがる。最初に言ったよなぁ? 俺にテメェの極限を見せてみろって。有り余る才能も使わねぇのならないのと一緒だ」

「かくいう……お前はどうなんだ? 偉そうに講釈ばかり立ててくるけど、必死になって何かを成し遂げようとしたことはあるのか……?」

「俺だぁ? 俺がテメェらと同格なわけがないだろう。生まれたときから人よりも才覚が上回っていたんだ。いくら手を抜いてやっても負けやしねぇ。鬱憤うっぷんが常につきまとっている感覚が分かるか!? わかりゃしねぇだろう……それもこれもテメェらが弱すぎるせいだ! もっと、本気でかかってこい。でなければ、俺を倒すことなど夢のまた夢だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...