暗殺ギルドのリザレクター

心絵マシテ

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黄昏る命

来訪者は珈琲の香りと共に 3

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 強者を前にしてロビンも怯えているのか、全身を震わせていた。
 せめて武者震いだと強がってくれることを期待し「大丈夫か?」と聞いてみた。

「オシッコ漏れそう……」

「そんなに怖がっていたのか?」

「いや、普通にガマンできないだけだ……ちょっくら、行ってくる」

 股間を押さえながら、内股で走ってゆく姿はなんとも情けない。
 裏切られた気分だった。
 まさか、こんな時に限って尿意に負けるなんて緊張感の欠片もない奴だ。
 当てにした僕が馬鹿だった……事前に作戦を練ってどうかしようという僕の目論見は早くも泡と化した。

「彼が戻ってくるまで時間がかかりそうだから、先に君から相手してあげるよ」

 アンゾ本人は親切のつもりかもしれないが非常に迷惑な提案だ。
「嘘だと言ってよ!」と思わず泣き叫びそうになるが、感情を抑え込んだ。
 待ってくれなんて、恥ずかしくて言い出せない。

 しかも、向こうはやる気満々だ。
 ブンブンと杖を振り舞わしてゆく速度が上がり、若干身体が浮遊し始めている。
 武器を振るだけで、飛行できる奴など生まれてこの方一度も見たことなかったのに……。
 この変態は、さりげなく人外の行動を取ってくる。
 ますます、勝てる気がしない……なんとかして、戦線離脱する方法をみつけなければ。

「顔色が悪いようだけど? まさか、の方だなんて言わないよね?」

 無情なまでに釘を打たれてしまった。
 というか、そのセコイ発想にすら至らなかった。

【人には避けられない道がある】

 以前、僕が熱中していたRPGで主人公の親父が言っていた台詞だ。
 自分が世界を救うんだと豪語する主人公。
 その言葉はヘリウムガスより軽かったが、いぶし銀たる親父の台詞は妙に生々しく僕の心に刺さった。
 おそらく、親父は開発スタッフの代弁者であり彼らの苦悩を一身に背負っていたに違いない。
 
 決して適当なこと言っているわけじゃない。
 プレイヤーだからこそ開発者の辛さが分かってしまう。
 反対に開発者はプレイヤーに対してどこまで気づいてくれるか試しているフシさえもある。
 空を切り飛び交うアンゾの連撃のように、ギリギリまで攻めても怯まないか様子をうかがってくる。

「やるねぇ、少ない動きで紙一重で避けるとはね」

 そう彼は感心していたが、僕の思考はゲームのことで一杯だった。
 プレイヤーとプログラマーには共通する点がある。
 そこを通過した時、人はゲーマーとしての新たなるステージ立つことができる。

【どうして、自分はこんなことを必死になってやっているのだろう?】

 自ら好んでやっていたはずなのに、気づけば謎の使命感によって突き動かされている。
 できる、できないの問題ではない。
 できるようにするのだ。
 会社なら社畜、家なら家畜……自身を追い込んでまでも止められない。
 皆が皆、そうであるわけではないけれど、僕のような人間は少なからずいると思う。

 壊れているんだ、チャレンジャーとして。
 自分の弱さを認めたくないんだ、一個人として。

「悪いね、少しだけ動きをくわえるよ」

 直線的だった杖に横の動きが加わってきた。
 XとY、二軸の攻撃により難易度は格段に跳ね上がる。
 反撃なんてできやしない。
 避けるのに全神経を集中してしまっている。
 体力がもたないはずなのに、息が切れてしまっているのに不思議と辛くは感じない。
 気分が高揚し、どんどん楽しくなって仕方がない。
 アンゾの動きにも、だいぶ目が慣れてきた。

「ここまで、見切りが上手くできるとはね。少しばかり、君を侮っていたようだ」

 名誉も栄光も最初から求めていない。
 勝利すらもどうでもいい。
 ただ、負けさえしなければそれでいい。
 僕は何度だって挑戦してやる。
 越えられないと思っていた壁を乗り越えられた時の感動を得るためにも。

「終いだ。これは、かわせないよ」

 杖の軌道が直角を描き変則的な動きに変わった。
 すでに、回避行動を取っていた僕に、そこから体勢を崩す余地はなかった。
 振り落される杖が視界に大きく映っていた。
 クレリックの回避能力では一秒たりとも、もたないと思っていたけど、ここまでアンゾの攻撃に耐えられた。
 それだけで大金星だったと思う。

「よくやった、キッド! 後は俺に任しときぃ」

 ロビンの声がすると同時に三連の矢がアンゾの身体を狙い飛んできた。 
 【グシスナウター】から放たれた速射に、彼も思わず杖を構えて防御に転じた。
 巧みに杖を動かし三本の矢を弾いてゆく。
 しかし、グシスナウターの矢には魔法が込められている。
 矢を破壊しない限り、標的に刺さるまで、ずっと自動追尾してくる。

「へぇー、面倒な物を持っているんだね。
でもさ、ソイツが自分へと有利に働くのかは君次第だよ」

 追ってくる矢を軽々と避けながらアンゾはロビンの方へと近づいてきた。

「撃ち終わるまでは次弾を撃てないよね、それ? なら、とんだ欠陥品だ」

 直前で進路変えロビンからアンゾが離れた。
 背後まで迫っていた矢は、すぐには方向修正が利かない。
 標的を見失ったままロビンに方へと走ってゆく。

「避けろ、ロビン!」

 僕の願いも虚しく三本の矢がグリズリーの巨体に突き刺さった。
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