魔王のパン屋

心絵マシテ

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真夏の夜のテラースコープ

2話

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 その日も客足が多く、クレスたちは対応に追われていた。
 閉店間際になり、ようやく一段落つくと地方へ遠征に出ていたマーガが帰還してきた。

 彼女には、地方の現状を視察しに行ってもらっていた。
 その際に、支援物資として水やパンなどの食料や、薬や冷房呪符などを複数台の馬車に乗るだけ乗せて送った。
 しかしながら、マーガの話よると支援物資はまだまだ不足気味だという。
 各自治体の領主に協力を要請し民に配給しているが、取り合いになるほどの混雑具合だという。

「想定していた以上に深刻な状況だ」

 クレスは休憩室の席に腰を下ろしながら項垂れた。
 これだけ尽力しても、大した成果は出て来ない。
 三魔皇たちを招集したいところだが、彼らも多忙だ。
 クレスの手が回らない部分をカバーして貰っている。

 ガレット卿は国の財政管理。
 ロンパオ老子は外交。
 スターアニスには帝国の動向を監視して貰っている。
 これ以上は負担になる仕事を増やすのも気が引けてならない。

「やはり、パン屋を臨時休業してでも俺たちが支援活動しないとならないな」

 テーブルを囲うように、パンセルヴァンの職人やスタッフが集まっていた。
 ラクースとクーデール以外のメンバーが揃う中、急遽、防災対策会議が始まった。

「小生は、賛同しかねます。
よくやく、お店も順調になってきたのに休業してしまったら、お店のパンを買いに来たお客さんが困りますよー」

 まず最初にクレスの意見に反対したのはミミック族のミミコだった。
 彼女の考えはよく分かる。
 利益云々の話ではなく、客商売をする以上は信用が大事だと言いたいのだろう。

「僕は、店を止めてでも災害対策を講じるべきだと……思う。
これ以上は悪化してしまったら、魔族領の危機だよ」

 遠慮がちに手を挙げたのはグールのクラッドだった。
 今年のゾンマーの危険性をよく知る彼は慎重派だ。
 考えうる最悪の状況をシミュレーションしているそうだ。

 彼に倣い、後輩ちゃんも自分の考えを主張する。

「私も、ゾンマーの問題は放置できないと思います。
支援や救済は当然必要ですが、問題の根幹をどうにかしなければ、被害が増大するの時間の問題だと思います」

「二人の気持ちはよく分かった。
俺も可能な限り問題を解決したいんだけど、対策となる名案が浮かんでこないんだ。
マーガさん、過去のゾンマーではどのような暑さ対策がなされていたんだ?」

 ティーポッドに湯を注いでいる給仕長を呼び、意見を求めた。
 この中でも、一番のしっかり者であるマーガなら何か妙案を閃てくれるとクレスも少し期待してしまう。
 以前はどうしていたのかを知ることにより、解決の糸口が見つかるかもしれない。

「そうですね……雨乞いをしてましたね」

「雨乞い? 魔族でも神頼みをするのか?」

「いえ、直射日光に当たれないゾンビたちが地中から手を出すと自然と雨雲が集まってくるんです。
もちろん、成功する確率は低いですが」

「不吉な物を呼び寄せているような気がしてならないな……」

 想像しただけでもホラーでしかない。
 地面から手が出てくることからして心臓に悪い。
 正直、残念だったがマーガの話は決して無駄ではない。
 今まで国が何一つ対策を練っていなかった事実が明らかになった。

 それこそが難題であり、今回の課題だ。
 解決方法がないのなら、初めから何も手の施しようがない。
 けれど、大勢の国民が苦しんでいるのだ、簡単に割り切って済む話ではない。
 かつての魔王たちも、どうにかできないのかと知恵を絞ったはずだ。
 その証拠にマーガが知っている範囲では対策方法が出て来なかったが、今現在に至るまでの間、魔族たちはゾンマーを乗り切り、種を繁栄させてきた。

 中には今年と同じような灼熱のゾンマーになった年もあっただろう。
 大昔の書物を漁れば、何かが記されているかもしれない。
 一縷いちるの望みに賭けて、クレスは決断した。

「数日間だけ、店のことは皆に任せても良いかい?
後輩ちゃん、君が皆に指示を出してやってくれ。
マーガさん、人手が足りない部分は給仕隊から応援を。
それと、こちらのサポートを頼みます」

「かしこまりました。すぐに手が空いている者を呼び出します」

 テーブル上に紅茶を注いだティ―カップが並べられた。
 人数分が揃うとマーガは軽くお辞儀をして、下がっていった。
 入れ替わるように後輩ちゃんがスゥと起立すると、クレスに対して首を横に振った。
 彼女自身、人に命令することに抵抗があるらしい。
 あまり芳しくない空気が場に漂っていた。

「クレスさん、待って下さい。本気で私に任せるつもりですか?
確かにロイヤルホールディングでの経験はありますが、私にはクレスさんのように、そつなく指示を出せる自信がありません」

「俺は君ならできると思っているよ。
帝都の一流ベーカリーで、職人として活躍してきたんだ。
技術面では、熟練者レベルに達しているはずだ。
それに君は周りをよく見ている。それさえ出来れば、何も怖がる必要はない。
経験こそが、かけがえのない宝だとエドナンさんから教えを受けたじゃないか」

 クレスの説得に躊躇ためらう後輩ちゃんだが、彼女の心は大きな波紋を立てていた。
 あくまでイメージにすぎないが、必死で考え込む姿がこれ以上にない答えとなっていた。
 返事一つですべてが決まってしまうのだ。
 よほど、適当な性格をしていない限り即決などできないだろう。

「そういうことなら、俺ッチの出番だな。店主代理はまっかせなさい!」

「バカなのか、君は……」

 それまで無言を貫いていたランディが、話に割り込んできた。
 頼まれてもいないのに、クレスの代役を務めると言い張る彼を、クラッドが冷めた目で見ていた。
 どうすれば、そこまでプラス思考になれるのか?
 他のメンバーにも分からない。

「誰が馬鹿だって! バカって言ったやつが馬鹿なんだぞ、クラッド」

「子供かよ!
君はいつも何も考えていないけど、物事を言う時ぐらいは少しは考えろよ。
クレス君に代わって店を取り仕切るのは、どう考えても難しいだろう。
彼女が頭を悩ませているというのに、君と来たら安請け合いも良い所だ」

「むむっ、言うだけならタダじゃんかよ。
俺ッチは何も決められないでウダウダしているんなら、取り敢えず行動する。
このクソアチィ、ゾンマーも直接、太陽をぶん殴れば暴走しなくなるかもしれない」

 それは、あまりにも荒唐無稽な話だった。
 理論と理屈を無視してランディはとんでもない解決方法を導き出していた。
 星と戦う。そんな発想は常人ならまず出て来ない。

 太陽をどうにかしようとしても、クレスたちの手が届かない場所にある。
 スケールが大きすぎるせいで動かすことも不可能だ。

 不可能だからこそ、それを逆手にとり挑む意義がある。
 成功率は0だが、マイナスではない。
 0の数値を変動させるには強引にしかない。
 そうすれば8となる。
 あとは増加するように乗算する方法さえ見つかればいい。

 奇しくも、ランディの考え方こそが国難を解決する糸口なりそうだ。
 目を向けると、彼は親指でサムズアップしながら爽やかな笑みを浮かべていた。

「できる範囲でいいから、取り敢えず君に任せてみたい。
想像するのと実際にやってみるとでは確実な違いがあると思うから、皆もホローしてくれるからどうにかなるさ」

「そこまで言うのなら、お引き受けいたします。
なんか……悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しくなってきました。
ランディさんに任せるぐらいなら、私がやった方が良いでしょうし」

 どれだけ素晴らしいアイデアを発言をしても、実利が共わなければ信用に足らない。
 最後までランディが店長代理に任命されることはなかった。
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