RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

文字の大きさ
52 / 74
難攻不落のサクリファイス

商売魂

しおりを挟む
「ゴメン! 私、観光にきたわけじゃなんだ。サクリファイス城塞跡にはちょっとした用事があって……」

用事――何かと言い訳するのには役立つ、馴染み単語だ。この言い回しを思いついた人間は超絶天才だと思う。
散々、思考をこねくり回しても、これ以上の返答は私には無理だ。
馬鹿正直に、サクリファイスに入り込みますなんてバーナードにだって言っていない。
というか、ぜってぇー言えない。
敵陣だと考えていたサクリファイスが観光名所になっているなんて普通は想像しないよ!
しかも川岸に沿って鉄柵が設けられているし、これ絶対立ち入り禁止、入場不可の奴だ。
この子に悪いけど、今回は縁がなかったという事で――

「そんなに気になさらないで下さい。私の方も強引に誘ってしまってスミマセン!」

あたふたしながら、両手を振る彼女の仕草が妙に愛らしく感じた。
もし、私に妹がいたらあんな感じの子がいいなぁーとついつい頬を緩ませてしまう。

「ちなみにですが、お姉さん。ボディガード要りませんか? 実はですね、というチケットを当方で用意してまして――」

背負っていたバッグを下ろし女の子は中身を漁りだした。
なにやら、為政者いせいしゃみたいな発言を聞いたような気もするが、彼女の言うチケットは当然、別物。
痴漢に襲われ困窮していた、か弱き乙女に救いの手を差し伸べようといった魂胆なんだろう。
気持ちは有り難いけど、女の子の細い腕を見る限り腕っぷしに自信があるようには思えないし、この辺りの情報を尋ねようとしても今は、あのがいる。

「え――っと……」

「はい? あっ! そうでしたね、まだ名乗ってませんでした。私、ラターン商会のトルテ・タタンっていいます。以後、お見知りおきを~」

「月舘……姓だとややこしいか。魔導士の萌知です、宜しくね」

「おっ。お姉さん! なんですか!? 魔術師じゃなくて!?」

「ん? そうだけど……?」

トルテと名乗った女の子が唐突に騒ぎ出したので、私の方も泡を食う羽目になった。
あああ、この感覚――アレだ! レアモンスターに遭遇した時の、はしゃぎっぷりだね。
折々ちょくちょく、気にはなっていたけどジップ村でも魔術師の話題は尽きないのに、魔導士関連はそんなに話されていない印象だった。
もしかしなくても、激レアな職業クラスなのでは――

「お姉さんはこの国の出身じゃありませんよね? 悪い事は言いません。ここでは人前で魔導士を名乗らない方がいいです。魔術師は国家資格として認めてられていますが、魔導士は……つまり、その」

「忌み嫌われているのかな? 非合法とか裏稼業とかって感じで……」

「いやっ、それは人それぞれなんですけど……この国で魔導士とは恐れの象徴。地方ならともかく、帝都では特に取り締まりが厳しいんです、名乗ると罰せられるぐらいに」

「どうして、そこまでするの?」

「あくまで噂なんですが、魔導士の魔法はすると言われています。その過程で魔導士から魔男ウォーロック魔女ウイッチを輩出したという記録が古代の文献に記述されているそうです」

気づけば手に嫌な汗が滲んでいた。
あわよくば、モリスンの情報が得られるかもしれないなんて目論むも、それどころではなくなってしまった。
トルテ、彼女が悪いわけではない……むしろ、親切心で話してくれたおかげで助かったぐらいだ。
それでも、魔女と聞くと嫌でも暴虐無人のアイツを思い出してしまう。
せっかく考えないようにしようと決めたのに……。
勿論もちろん、善意を持つ魔女だっているかもしれない。
けれど、それはこの隠世の世界では共有できる認識なのか? 怪しい。
少なくとも、トルテの言い方だと魔女は危険な存在だと言っているようなものだ。
それに進化する魔法とは何なのだろうか? 知らない。
師匠からも一度たりとして聞かされていない。
魔法を超越した先にある魔法――その話が真実なら魔法使いとして断然、知りたい。
識ることが本能だと言ってもいい! 未知なる力と聞いたら、惹かれるに決まっているじゃないか!!

「……どうかしました?」

「あっ! ツレと待ち合わせしていたんだ。忠告ありがとーね、トルテちゃん。またねー」

絶妙なタイミングを見計らい離脱する私。逃げるなら論点がズレた時が狙いだ!
彼女の話は興味深くまだまだ聞き続けていたい。
そう、それこそが罠。
よくよく思い浮かべれば、彼女はだと発言していた。
つまり、この話自体の信憑性を裏付ける証拠はないってこと。
それを鵜のみにするのは危険だ。
あのままだと、あの娘のペースにのせられ外堀から固められて抜け出せなくなる。
本当、年齢に似合わず商売上手だ。


川沿いにある茶屋。
待ち合わせしていた場所に向かうと、すぐ傍の柵の前にバーナードが突っ立っていた。
彼は川を眺めながら、何やら物思いにふけっている。
出会って間もない間柄なんだけど、意外な一面もあるのだなと驚いた。
あまりにシリアスな雰囲気をかもし出しているので、ついつい私の悪戯心が触発されてしまう。
忍び寄って背後から、いきなし声をかけたら猫は、一体どんな反応をするのだろうか?

「遅かったな。道草を食うのもほどほどにしておけよ」

「ぬわっ!! バーナード気づいていたの!? というか、本当に草食ってた人の言葉は重みがあるね!」

「うっさいわ! 俺を驚かせたければ気配を消す練習をしろ」

「忍者みたいなことを言われてもね……ここで何をしていたの? 何やら考え込んでいたようだけど」

「対岸を見てみな」

厚手のグローブが指し示す席に、巨影が浮かび上がっていた。
違う、これは影ではなく黒塗りの外壁。
天に向かってそびえる、長い鋼鉄板が円を描くように列を作り城塞周囲を囲っている。
これが、サクリファイス城塞遺跡。
あの壁の向こう側には、かつて城塞都市と呼ばれた文明の遺産が手つかずのまま眠っているという。

「これまた、想像してよりもケタ違いのスケールだよね……土地面積でも孤島ぐらいの広さはあるよ」

「ああ、なんせ難攻不落の城塞都市と言われていた場所だからな。さすがに規模がデカいな」

「ところで、知り合いの占星術師には会えたの?」

「そう! それだ。いいか、落ち着いてきけよ。どうやら、アイツは城塞の中に忍び込んじまったらしい」

「城塞の中って……立ち入り禁止区域だよね? 一体、何の為に!?」

「それはそうなんだが……あの中にはな――。こうなれば、別の占星術師を探したほうがいいぜ」」

何とも歯切れ悪い。
どうやら、バーナードには余程隠し通したい事柄があるようだ。
代わりを探すのは私としても構わない。
ただ、そう都合良く、すぐに見つかるだろうか?
正直な話、かなり困難だと思う。
どうせ、元から城塞の中へと侵入するつもりだったのだ。
ここいらで適当な理由をつけて単独行動に戻ればいい。

「左様ですか! ならば、とっておきの遺跡侵入経路をご案内できますが」

「うおっい! 何だ、このガキは!? いつから、ここにいたんだ?」

「お姉さんとずっと一緒でしたよ~白猫さん」

「ト、トルテちゃん!?」

「あっ、私の事はトルテと呼んでもらっても構いませんよ~」

まったく、もって気づかなかった。
屈託なく笑う彼女は何を考えたのか、密かに私の後について来たようだ。
同様、バーナードも彼女を存在を察知できていなかったらしく素で距離を取り身構える始末だった。

「草団子やるから帰れ。どういう意図か知らんが、これ以上、俺たちに付きまとうな」

「ちょっと、言い方!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...