31 / 122
恋するコペルニクス
31話 君の自由
しおりを挟む
――――騙されたのか?
その一言は言葉にならなかった。
重苦しい風が一帯を激震させていた。
視界から、ササブリの姿がドンドン引き離されてゆく。
彼女が移動しているのではない……俺が宙を飛んでいるからだ。
砕けた石の残片が風に舞う。
生き物のように一ヶ所に集まるとスキルブックから迸る光がそれらを照らした。
クラクラとする輝きに目を細めながら状況を探る。
光の中で、人と酷似するシルエットが浮かんでいる。
翼とクチバシを持った石像の悪魔――ガーゴイルが顕現した。
ガッツが足りない俺は、風のに乗って部屋の天上近くまで浮上してしまった。
同じ景色を眺める者同士、視線が合うとガーゴイルは意気投合したかのように俺に迫ってくる。
強引なのはちょっと……勘弁、願いたい。
言葉が通じれれば意思の疎通もできただろう。
だが、相手は石像……何を言っても通じないし、罵倒しても精神的な苦痛を与えられることはない。
持参した悪魔の槍を構え、俺を串刺しにしようとしている。
いっそのこと、イチキュッパで買えそうな、あの安槍を虫取り網に変えてやりたい。
空中では思うように身動きがとれず、俺は必死で手足をバタつかせる。
こんだけバタバタしたのは、キンダーガトゥーン時代以来だ。
あの頃は、親にお菓子を買って貰いたい一心で、よくスーパーの床を転げ回ったっけ。
おかげで、掃除の手間がはぶけるって、清掃のオバちゃんが喜んでいたなぁ~。
邪悪なババアだったから、菓子は、くんなかったけど。
しまったぁあああ……また、やってしまった。
いささか不謹慎なことを考えてしまうのは悪い癖だ。
やはり、俺は戦闘にむいていない。
基本、緊張感が足りていない。ボス戦の最中、不敵な笑みを浮かべているのは遊び人か、俺ぐらいだ。
キャタピラースライムの時だってそうだ。
皆が見ている手前、平静を装っていたがスライムが水饅頭にしか見えてなかった。
凍らせたら、食べれるんじゃないか考察していた。
例え、今のように槍を投擲されても平気だ。
手持ちのバックラーシールドをフリスビーのように投げつけてやればいい。
飛んできた槍を打ち返すぐらい、俺にだってできる。
「低ランカーをなめんなよ。こちとら、これでずっと食ってきたんだ。生まれたての赤子ような悪魔に楽々のされてたまるかよ!」
「よくぞ、言った! それでこそ、我の主じゃ」
ガントレットごと肥大化した腕がガーゴイルを襲う。
バキバキに肢体を壊されながら、壁に打ちつけられる。
その時点で、もう機能していないは一目瞭然だ。
ササブリの攻撃を見せつられると自身がいかにちっぽけな生き物か……実感してしまう。
百の努力も一の才能には敵わない。
そう、悟ってしまうとやるせない気持ちで一杯だ。
「そら、乗るが良い」
大きな、手のひらが俺をすくってくれた。
しょせん、俺は釈迦でなく魔王の手のひらで踊る、猿にすぎない。
乾いた笑いでダンディズムを気取ろうじゃないか……。
「なにしておる。主の出番はここからじゃろ!? はよっ、抜剣しろ!」
魔王が神に思えた。
ここに来て「出番」というジョーカーを引いてくるとはさすがだ。
俄然、やる気が出てきた……かもしれない。
ガーゴイルの全身が修復し始めていた。
恒例の再生タイムだ。
壱に再生、弐に再生、再生再生再生―――さあ、逝けぃ。
魔王の手を走り抜けた俺は、剣を引き抜き、そのままガーゴイルの頭部に突き立てた。
「のわっ!!」瞬間、電撃が刀身を駆け巡った。
即座に手放したおかげで、ことなきを得た。
けれど、今のヤバかった。少しでもタイミングが遅れていれば、丸焦げになっていたかもしれない。
なんであろうと、トドメを刺す時は油断してはならない。
そう肝に命じた。
『入手ポイント700が入りました』
仕様とはいえ、無機質に喋るスキルブックが怖くなってきた。
とは言え、明るく元気な妹仕様にしたら、いたたまれなくなるのは俺だけなのか?
欲しいのはマインドだけではなく、実体だ。
心も大事だけど、いずれ現物が欲しくなる。
だって、僕らは欲求不満の申し子だから。
「おい! 起きろ。いつまで寝ておるんじゃ」
勝利の余韻に浸っていると、ササブリが吟遊詩人にチョッカイをかけていた。
脇腹を何度か蹴っているが、死出の旅路に行ってしまわないか不安だ。
「そんな、奴はほっとけ。それよりも、俺は賞金首に連れ去られた仲間の安否が心配だ。早く、後を追わないと!」
「我としては、どうしてコヤツが石化しておったのか気になるんじゃが……そう、急くでない。我の力であれば、その賞金首とやらも首だけにすることも可能じゃぞ」
ずいぶん、物騒なことを言いやがる。
俺的には、あの二人を取り返せれば充分なんだが……。
「う~ん……クビ。乳首! お願いデス、見せてクダサイ」
「……俺、男だけど? そういうのが好きなの?」
「WAAAAWOOOOOO――――!! TKO……」
いきなり、目覚めたと思ったら、また失神しやがった。
てぃけぃおぅ? テクニカルノックアウトを知っているという事はコイツも転生した口か?
様々な疑問を抱きつつ、俺は部屋を後にした。
その一言は言葉にならなかった。
重苦しい風が一帯を激震させていた。
視界から、ササブリの姿がドンドン引き離されてゆく。
彼女が移動しているのではない……俺が宙を飛んでいるからだ。
砕けた石の残片が風に舞う。
生き物のように一ヶ所に集まるとスキルブックから迸る光がそれらを照らした。
クラクラとする輝きに目を細めながら状況を探る。
光の中で、人と酷似するシルエットが浮かんでいる。
翼とクチバシを持った石像の悪魔――ガーゴイルが顕現した。
ガッツが足りない俺は、風のに乗って部屋の天上近くまで浮上してしまった。
同じ景色を眺める者同士、視線が合うとガーゴイルは意気投合したかのように俺に迫ってくる。
強引なのはちょっと……勘弁、願いたい。
言葉が通じれれば意思の疎通もできただろう。
だが、相手は石像……何を言っても通じないし、罵倒しても精神的な苦痛を与えられることはない。
持参した悪魔の槍を構え、俺を串刺しにしようとしている。
いっそのこと、イチキュッパで買えそうな、あの安槍を虫取り網に変えてやりたい。
空中では思うように身動きがとれず、俺は必死で手足をバタつかせる。
こんだけバタバタしたのは、キンダーガトゥーン時代以来だ。
あの頃は、親にお菓子を買って貰いたい一心で、よくスーパーの床を転げ回ったっけ。
おかげで、掃除の手間がはぶけるって、清掃のオバちゃんが喜んでいたなぁ~。
邪悪なババアだったから、菓子は、くんなかったけど。
しまったぁあああ……また、やってしまった。
いささか不謹慎なことを考えてしまうのは悪い癖だ。
やはり、俺は戦闘にむいていない。
基本、緊張感が足りていない。ボス戦の最中、不敵な笑みを浮かべているのは遊び人か、俺ぐらいだ。
キャタピラースライムの時だってそうだ。
皆が見ている手前、平静を装っていたがスライムが水饅頭にしか見えてなかった。
凍らせたら、食べれるんじゃないか考察していた。
例え、今のように槍を投擲されても平気だ。
手持ちのバックラーシールドをフリスビーのように投げつけてやればいい。
飛んできた槍を打ち返すぐらい、俺にだってできる。
「低ランカーをなめんなよ。こちとら、これでずっと食ってきたんだ。生まれたての赤子ような悪魔に楽々のされてたまるかよ!」
「よくぞ、言った! それでこそ、我の主じゃ」
ガントレットごと肥大化した腕がガーゴイルを襲う。
バキバキに肢体を壊されながら、壁に打ちつけられる。
その時点で、もう機能していないは一目瞭然だ。
ササブリの攻撃を見せつられると自身がいかにちっぽけな生き物か……実感してしまう。
百の努力も一の才能には敵わない。
そう、悟ってしまうとやるせない気持ちで一杯だ。
「そら、乗るが良い」
大きな、手のひらが俺をすくってくれた。
しょせん、俺は釈迦でなく魔王の手のひらで踊る、猿にすぎない。
乾いた笑いでダンディズムを気取ろうじゃないか……。
「なにしておる。主の出番はここからじゃろ!? はよっ、抜剣しろ!」
魔王が神に思えた。
ここに来て「出番」というジョーカーを引いてくるとはさすがだ。
俄然、やる気が出てきた……かもしれない。
ガーゴイルの全身が修復し始めていた。
恒例の再生タイムだ。
壱に再生、弐に再生、再生再生再生―――さあ、逝けぃ。
魔王の手を走り抜けた俺は、剣を引き抜き、そのままガーゴイルの頭部に突き立てた。
「のわっ!!」瞬間、電撃が刀身を駆け巡った。
即座に手放したおかげで、ことなきを得た。
けれど、今のヤバかった。少しでもタイミングが遅れていれば、丸焦げになっていたかもしれない。
なんであろうと、トドメを刺す時は油断してはならない。
そう肝に命じた。
『入手ポイント700が入りました』
仕様とはいえ、無機質に喋るスキルブックが怖くなってきた。
とは言え、明るく元気な妹仕様にしたら、いたたまれなくなるのは俺だけなのか?
欲しいのはマインドだけではなく、実体だ。
心も大事だけど、いずれ現物が欲しくなる。
だって、僕らは欲求不満の申し子だから。
「おい! 起きろ。いつまで寝ておるんじゃ」
勝利の余韻に浸っていると、ササブリが吟遊詩人にチョッカイをかけていた。
脇腹を何度か蹴っているが、死出の旅路に行ってしまわないか不安だ。
「そんな、奴はほっとけ。それよりも、俺は賞金首に連れ去られた仲間の安否が心配だ。早く、後を追わないと!」
「我としては、どうしてコヤツが石化しておったのか気になるんじゃが……そう、急くでない。我の力であれば、その賞金首とやらも首だけにすることも可能じゃぞ」
ずいぶん、物騒なことを言いやがる。
俺的には、あの二人を取り返せれば充分なんだが……。
「う~ん……クビ。乳首! お願いデス、見せてクダサイ」
「……俺、男だけど? そういうのが好きなの?」
「WAAAAWOOOOOO――――!! TKO……」
いきなり、目覚めたと思ったら、また失神しやがった。
てぃけぃおぅ? テクニカルノックアウトを知っているという事はコイツも転生した口か?
様々な疑問を抱きつつ、俺は部屋を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる