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ぼっちの魔王
45話 遺跡の管理人
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「ホント……アンタ、よく悪知恵ばっか働くわね」
「師匠がカツオだからな」
エレベーターが降下する最中、リンの俺を見る目が変わっていた。
具体的に言うと、冷蔵庫にしまっていた納豆と三ヶ月ぶりの再会を果たした時のようなものだ。
元々、発酵していたものがドス黒く死滅している様を彼女は疑似体験によって見ていた。
そうは言っても、リンには前世の記憶がないらしい。
記憶を失っているか、あるいは転生していないのか?
コミュニティにいる連中の大多数は、転生者だからの彼女のような事例は珍しい。
「……っと、着いたようだな」
ガタッ! キーボードを叩いて立ち上がったわけじゃない。
エレベーターが停止し振動したのだ。
扉が徐々に開かれる。そこで俺たちを出迎えてきたのは、巨大な祭祀遺跡だった。
てっきり、鍾乳洞だと思い込んでいた俺たちは度肝を抜かれた。
確かな文明の形跡が、ここには残されていた。それだけで胸の奥に高鳴りを感じていた。
一本路が続く、その先は階段となっていた。
エン・ソフの祠は、この上にある。
ひび割れた階段を俺たちは一歩ずつ、ゆっくりと登っていった。
地底だとは思えないほど、周りは明るかった。
それもそのはず、そもそもここは本物の地底ではなく、ダンジョンの中だ。
星団船という一つ生命が創り出す幻想的なセカイには、俺たちの常識なんてちっぽけなモノは通用しない。
複雑怪奇な構造で、構築されたダンジョン全てを研究し知り尽くそうとしても、人が持つ時間では到底、足りない。
それこそ膨大な年月、悠久の刻を生きる魔王と呼ばれる存在ぐらいしか成し遂げられないだろう。
「泉があるわね……凄い! 水が透き通っていて水面が輝いている」
遺跡の天辺はカルデラのように窪地となり、溜まった地下水により泉ができていた。
神秘的な光景が放つ、神聖なる空気を浴びると思わず浄化されそうになる。
「あっぶねぇー」などと笑いながら、己の汚さに内心では傷ついてしまう。
「まさに、神のおわす場所ね……人が通った形跡はないようだけど」
泉の傍に佇んでいたリンが、しゃがみ込み水面を眺めていた。
水鏡に映る、その顔は酷く疲れ切っているようにも見えた。
「いや、まだ奥に道が続いているぞ」
ここで、しょげていても始まらない。
俺たちの目的は、魔王の本体とシャルの捜索だ。
先にある道は、こことは相反して胸をザワつかせるような気配が漂っている。
魔王の本体は、そこにある。直感のようなものが俺に、そう告げてくる。
『臭う。臭うぞ! そなた、悪しき者の手下ぞな』
いきなり、雅やかな幻聴が襲ってきた。
これから魔王の封印を解かなけばならないのに、しっかりしろ、俺!
『神たる余をシカトするとは、なんたる不届き者! この様な、愚行に走るのは相当な馬鹿か、あるいは図太い精神を持つアスペか、どちらかであろう』
最初、悪の手下って言ったじゃねぇか……。
幻聴は、勝手に盛り上がり、勝手にご立腹になっていた。
まったく、神だの魔王だのとか言う、奴らはどんだけ自己中心的なんだ。
セカイは、お前のために回っているわけじゃねぇーぞ。
話を聞いて貰いたくば、まずその仰々しい態度を改めよ!
俺は心の中で暴言を吐いてやった。
『うっく、そこまで言わなくも良いではないか!? いけずぅ』
しまった、神という設定だった。口には出さなくと、意地汚く心を読んで来やがる。
いくら、イケボで悲観されても野郎に同情するつもりは、一切がっさいない。
さっさと失せろ、今すぐ消えろ……でなけりゃ、上にいるハウスキーパーを連れてくるぞ。
『待たれよ、ソナタ! なにゆえ、余に冷たく当たる? 余が何かしたというのか?』
別に何もしてはいないが……強いてあげるなら、お前は神様じゃねぇーよな?
まったく手入れされていないロン毛は目にするだけで、むさ苦しい。
しかも、一眼レフカメラを首から下げている神様がどこの世界にいるというのだ。
泉のど真ん中で座り込んでいる、その姿はどう見ても入水自殺した霊にしかみえない。
『いや、霊界にも昇級試験というモノがあってだな……余は三万浪の末、神に昇格したのだよ』
マジか……何、その救済システム。というか、何気に霊であったこと認めているぞ。
しかも――――
「苦労人かよ……」堰を切ったように呟く俺を見て、ヤバい奴に接した時の距離感でリンが小首を傾げる。
霊の声は、俺だけにしか聞こえていないようだ。
『だから、霊ではない神だぞ! 少しは敬ったらどうだ!』
たとえばだ……道端で出会った、見ず知らずの大学生に俺は神だから尊敬しろって言われたら、お前はどおぉぉ思うんだぁ? 通報するだろっ? フツ――――に。
『ごもっとも……突然、声をかけて済まぬな。余はヨシユキという、この場に眠るエン・ソフ様に代わって、祭祀遺跡の管理を任されている者だ』
自称神を名乗る男の本名は、わりと普通だった。
「師匠がカツオだからな」
エレベーターが降下する最中、リンの俺を見る目が変わっていた。
具体的に言うと、冷蔵庫にしまっていた納豆と三ヶ月ぶりの再会を果たした時のようなものだ。
元々、発酵していたものがドス黒く死滅している様を彼女は疑似体験によって見ていた。
そうは言っても、リンには前世の記憶がないらしい。
記憶を失っているか、あるいは転生していないのか?
コミュニティにいる連中の大多数は、転生者だからの彼女のような事例は珍しい。
「……っと、着いたようだな」
ガタッ! キーボードを叩いて立ち上がったわけじゃない。
エレベーターが停止し振動したのだ。
扉が徐々に開かれる。そこで俺たちを出迎えてきたのは、巨大な祭祀遺跡だった。
てっきり、鍾乳洞だと思い込んでいた俺たちは度肝を抜かれた。
確かな文明の形跡が、ここには残されていた。それだけで胸の奥に高鳴りを感じていた。
一本路が続く、その先は階段となっていた。
エン・ソフの祠は、この上にある。
ひび割れた階段を俺たちは一歩ずつ、ゆっくりと登っていった。
地底だとは思えないほど、周りは明るかった。
それもそのはず、そもそもここは本物の地底ではなく、ダンジョンの中だ。
星団船という一つ生命が創り出す幻想的なセカイには、俺たちの常識なんてちっぽけなモノは通用しない。
複雑怪奇な構造で、構築されたダンジョン全てを研究し知り尽くそうとしても、人が持つ時間では到底、足りない。
それこそ膨大な年月、悠久の刻を生きる魔王と呼ばれる存在ぐらいしか成し遂げられないだろう。
「泉があるわね……凄い! 水が透き通っていて水面が輝いている」
遺跡の天辺はカルデラのように窪地となり、溜まった地下水により泉ができていた。
神秘的な光景が放つ、神聖なる空気を浴びると思わず浄化されそうになる。
「あっぶねぇー」などと笑いながら、己の汚さに内心では傷ついてしまう。
「まさに、神のおわす場所ね……人が通った形跡はないようだけど」
泉の傍に佇んでいたリンが、しゃがみ込み水面を眺めていた。
水鏡に映る、その顔は酷く疲れ切っているようにも見えた。
「いや、まだ奥に道が続いているぞ」
ここで、しょげていても始まらない。
俺たちの目的は、魔王の本体とシャルの捜索だ。
先にある道は、こことは相反して胸をザワつかせるような気配が漂っている。
魔王の本体は、そこにある。直感のようなものが俺に、そう告げてくる。
『臭う。臭うぞ! そなた、悪しき者の手下ぞな』
いきなり、雅やかな幻聴が襲ってきた。
これから魔王の封印を解かなけばならないのに、しっかりしろ、俺!
『神たる余をシカトするとは、なんたる不届き者! この様な、愚行に走るのは相当な馬鹿か、あるいは図太い精神を持つアスペか、どちらかであろう』
最初、悪の手下って言ったじゃねぇか……。
幻聴は、勝手に盛り上がり、勝手にご立腹になっていた。
まったく、神だの魔王だのとか言う、奴らはどんだけ自己中心的なんだ。
セカイは、お前のために回っているわけじゃねぇーぞ。
話を聞いて貰いたくば、まずその仰々しい態度を改めよ!
俺は心の中で暴言を吐いてやった。
『うっく、そこまで言わなくも良いではないか!? いけずぅ』
しまった、神という設定だった。口には出さなくと、意地汚く心を読んで来やがる。
いくら、イケボで悲観されても野郎に同情するつもりは、一切がっさいない。
さっさと失せろ、今すぐ消えろ……でなけりゃ、上にいるハウスキーパーを連れてくるぞ。
『待たれよ、ソナタ! なにゆえ、余に冷たく当たる? 余が何かしたというのか?』
別に何もしてはいないが……強いてあげるなら、お前は神様じゃねぇーよな?
まったく手入れされていないロン毛は目にするだけで、むさ苦しい。
しかも、一眼レフカメラを首から下げている神様がどこの世界にいるというのだ。
泉のど真ん中で座り込んでいる、その姿はどう見ても入水自殺した霊にしかみえない。
『いや、霊界にも昇級試験というモノがあってだな……余は三万浪の末、神に昇格したのだよ』
マジか……何、その救済システム。というか、何気に霊であったこと認めているぞ。
しかも――――
「苦労人かよ……」堰を切ったように呟く俺を見て、ヤバい奴に接した時の距離感でリンが小首を傾げる。
霊の声は、俺だけにしか聞こえていないようだ。
『だから、霊ではない神だぞ! 少しは敬ったらどうだ!』
たとえばだ……道端で出会った、見ず知らずの大学生に俺は神だから尊敬しろって言われたら、お前はどおぉぉ思うんだぁ? 通報するだろっ? フツ――――に。
『ごもっとも……突然、声をかけて済まぬな。余はヨシユキという、この場に眠るエン・ソフ様に代わって、祭祀遺跡の管理を任されている者だ』
自称神を名乗る男の本名は、わりと普通だった。
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