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心絵マシテ

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心のティアラ

75話 雨と無知

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 軌跡とは起こすモノではない……。
 犯してくるモノだ。

 小癪こしゃくなことに、急な天候変化により大粒の雨が降り出してきた。
 燃え盛っていた炎が瞬殺されてしまった。
 大自然の恩恵だとボリネシアンズは大喜びしていた。
 火災が鎮火するのと同時に俺の心の炎まで、このクソは消し去ってしまった。

 倒れたままのシャルを抱えながら、火災に巻き込まれなかった家屋へと非難する。
 滝のようなゲリラ豪雨は本物のゲリラと言えようか? ゲリラと称するのであれば、天から水を空爆しているという理屈が通ってしまう。

 そんな下らないことをマイトNO.8が考えていると雨の中で立ち尽くすササブリがいた。

「おーい! そんな場所にいると風を引くぞ!!」老婆心ながら魔王に声をかけた。
 実際、俺の手柄を横からかっさらった豪雨は濡れると言うよりも、マシンガンのような降雨量で地面を打ち付けていた。
 練った小麦粉でも置いておけば、コシのある麺ができるんじゃないと思うほどオラオラオラオラアァァ系だ。

 この時、我々は知らなかった、数秒後に起きるミラクルを。
 自動販売機にどさくさに紛れて入っているアレではない。
 本物の―――『ポイント消費数15,000に到達しました。特典として、光と炎の魔法スターマインを習得します』

「ンンン? ちょっと、まてぃ!! アナウンサーよ、どうして君はそんなに事務方に回っているんだ? もっとさ、こうタイミング的なモンがあるじゃんね。君のやり方は、他人の家の玄関で急にお弁当を広げてしまうことに等しいんだよ! わかるかな?」

『仰ることの意味が分かりません。人外語以外でお願いします』

 おや、外国語と聞き違えたのかなぁ~? 今、何か凄く毒づかれたような気がするんですけど……。

「えっとー、光と闇のRPGだっけ?」

『光と炎の魔法です。スターマインについて調べますか?』

「いや、いいよ。どうせMPが足りなくて使えないから」

 女子アナと会話するだけで何か、どっと疲れて気分が滅入ってきた。
 やっぱ、高嶺の花は俺には手が出せないや。
 冗談言っても笑ってくれないし、 嫌がらせみたいな特典ばかり出すし~。

「知っているかい? MPとはマッスルパワーの略なんだよ! でなければ、何をどうしても数値上がらないなんて理不尽なバグは起こらないのよ」

『可能であれば、生命力を担保にして使用できます』

 の、呪いか? 何かかよ……闇金みたいなことを言い出したぞ、コイツ。
 黙っていれば、俺の命が勝手にチップにされかねないぞ。

「ノーでお願いします」

 俺たちが馬鹿なやり取りをしていても、ササブリは一向にその場を動く気配がなかった。
 驚くことに全身を発光させ、水滴が身体に触れる前に蒸発していた。
 熱したフライパンがわりに、魔王に生卵置いたら目玉焼きになるんじゃないとイケない想像を抱いてしまう。
 その際には俺は丸焼きにされているだろう。
 しかし、水に濡れない身体とは凄く便利な気がする。
 どこかの誰かさんが寄こすモノとは段違いのお得感がする。

 まぁ、システムにそんな愚痴を言っても始まらないか……「って、この雨いつになったら止むんだ?」
 一向に収まらない雨模様に俺は困惑した。
 この雨が自然発生したモノではなく、魔王のスキルブックの特典による効果だと知っているからだ。

『効果持続時間は、一週間です』

 ふぁ!? 頭が真っ白になった……おそらく、この特典は大自然の力を利用した殲滅兵器だ。
 一週間も孤島で大雨が続いたら、川が氾濫し海をの水位が上昇する。
 そんな状態で大波でもくれば、この島にいる人間全員が流されてしまう。

 魔王を退治しに来たというのに、まさか自然現象をどうにかしなければならないとは、本当に厄介なミラクルだ。
 頼れるのはササブリだ。
 アイツをどうにか正気に戻さないとこの雨を消し飛ばすことができない。

「なあ、女子アナさん。エクスサイズのスキルブックの効果を無効にできるアイテムが無いか、調べてくれるか?」

『お答えします。現状、魔王種のスキルブックを無効化できるアイテムは存在しません』

「やっぱり駄目か……なら、特典の雨を止めるようなアイテムは?」

 自分でもかなり無茶を言っていると思う。
 どうにもできない事なんて、世の中にはたくさんある。
 あふれかえりすぎて、それが当たり前になってしまう。俺はそういうのが嫌なんだ。
 駄目だと思っていても、やってみれば見方が変わってくる。
 存外、やれば何とかなるわけだ。
 夏休みの宿題を何一つ、やらずに「忘れた」で済ませてしまった。
 俺が言うんだから間違いない。
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